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国際地域学部国際観光学科卒業論文(2013 年 12 月提出用)要旨
指導教員:須賀忠芳准教授
「まち歩き観光」における意義とその課題~群馬県甘楽郡甘楽町を題材に~
1820100176
山下晃平
<論文構成>
本論文は次の 5 章から構成されている。
第1章
「まち歩き観光」の現状と課題
第2章
「まち歩き観光」の事例から見るその利点と課題
第1節
「長崎さるく博」と作られたイメージ
第2節
地域文化を伝える「まち歩き観光」
第3節
事例から見る「まち歩き観光」の利点と課題
第3章
群馬県甘楽郡甘楽町の概要と観光政策
第1節
甘楽町の歴史的背景
第2節
甘楽町の観光政策の現状と課題
第4章
甘楽町の「まち歩き観光」とその可能性
第1節
「生きたまち」を見せるための地域主体性
第2節
多様化する要求のもとで目指すべき観光
第5章
甘楽町の「まち歩き観光」の在り方
<要約>
1.はじめに
近年、今まで観光の主流となっていたマス・ツーリズムは衰退している。その代わりに、
観光客の要求が多様化し、小規模なグループで行う観光が主流となりつつある。観光客の
要求が多様化する中、地域にある歴史・文化などの地域性や住民の暮らしが営まれる生活
空間触れたいと願う観光客が増えている。このようなスモール・ツーリズム的な要求に対
応した観光形態として「まち歩き観光」が注目され始めた。そして、2004 年から 2006 年
にかけて長崎で「長崎さるく博」というまち歩きイベントが開催され、それが大きな 経済
効果を生み出したほか、観光まちづくり・地域づくりの観点からみて大きな効果を生み出
したことで、
「まち歩き観光」は全国的に注目され全国各地で実施されるようになった。群
馬県甘楽郡甘楽町もその 1 例であり、本稿では事例から「まち歩き観光」の利点・課題点
を見つけ出し、甘楽町は今後どのように「まち歩き観光」を展開していくべきなのかを考
察する。
2.調査結果及び考察
「まち歩き観光」の事例として大きな成果を収めた「長崎さるく博」と群馬県の NPO 法
人が主催する地域の伝承を題材にした「羊太夫伝説の地めぐりバスツアー」を取り上げた。
「長崎さるく博」では、地域住民が「まち歩き」コースの設定やガイドに主体的に取り組
み、地域の歴史・生活・文化を振り返り地域の魅力に気づき、
「まち」そのものを観光資源
として捉えたことで、地域に対する誇りの芽生えにつながり地域として持続可能なものに
なった。また、観光客は自らの地域に誇りを感じ生き生きとした住民と触れ合い 「生きた
まち」を目にすることで、リピーターや新規顧客の獲得を促し、観光としても持続可能な
ものになった。しかし、長崎の「まち」は負のイメージを隠し、
「まち」を偏ったものにし
ていることが課題として挙げられる。一方、
「羊太夫伝説の地めぐりバスツアー」は観光客
が地域の伝承について深く理解できる「まち歩き観光」になっており、
「まち」をそのまま
観光客に伝えることができる。また、参加者のほとんどが地域住民であり、地域住民が地
域の歴史を振り返るきっかけを作っている。
甘楽町は地域にあるものを使って地域づくりと観光まちづくりが結びつくような姿勢で
観光政策に取り組んでいる。具体的には外部の講師を招いて、ワークショップを開き、道
の駅の拡大や道路の整備といったハード面における設備や近隣地域との連携が進んでおり、
また、ガイドによる「まち歩き観光」にも力を入れている。しかし、現在の甘楽町の観光
政策には 3 つの課題点があり、1 つ目は、
「長崎さるく博」にみられるような地域住民全体
が観光に参加しているわけではなく、甘楽町観光案内の会や商工会のメンバーといった一
部の住民しか関わっていないこと。2 つ目は、甘楽町の歴史は古く、その歴史は古代まで
さかのぼっており伝説や史跡が多く残っているのだが、
「まち歩き」のコースが少なく観光
客に偏った「まち」しか伝えていないこと。3 つ目はどのような客層に向けて観光政策に
取り組んでいるのかが不明確ということが挙げられる。以上の課題を解決し、住民が自ら
地域を作り、それを甘楽町が支えていけるような観光政策を行わなければ、甘楽町の観光
は成長し続けることはできず持続可能な観光は成立しないだろう。
甘楽町は「まち歩き観光」を推進していく中で、
「まち」そのものを観光資源として捉え、
地域住民の主体的な活動を促していくべきだ。地域で生活を営んでいるのは地域住民であ
り、その地域住民が自らの地域に対する誇りを持ち地域を良くしていくために行動しなけ
れば、本当の意味での地域の発展は不可能である。
「生きたまち」を見せるための「まち歩
き観光」は地域住民が参加しやすく、その主体は地域住民なのだ。