病み上がり景気に追加緩和の蓋然性

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
Japan Economic Pulse Co., Ltd.
病み上がり景気に追加緩和の蓋然性
企業の設備投資と賃上げに不可欠なデフレ脱却
内閣府が 16 日発表した 14 年 10-12 月期 GDP 成
長率は、前期比年率 2.2%と事前予想 3.8%を 1%以
上も下回る病み上がり脆弱景気を象徴する名実とも
に「期待外れ」の数字となった。特に、個人消費は
未だ昨春の消費税引き上げ駆け込み需要の反動減か
ら抜け出せぬ停滞を示す。設備投資の先行きも下方
修正される等内需の弱さが明示され、喧伝される追
加緩和「無用論」とは逆にアベノミクス「一の矢」
QQE(量的質的緩和)第 3 弾の蓋然性が高まった。
10-12 月期実質 GDP 下振れで追加緩和期待
ある官邸関係筋は、「10-12 月期 GDP 成長率が前
期比年率 2.2%と事前予想を大幅に下回る『期待外
れ』の数字となって、日銀の追加緩和 QQE 第 3 弾
の蓋然性が高まった」と打ち明ける。
昨秋、消費税 10%延期を逸早く唱えた安倍首相の
経済ブレーン本田内閣官房参与が 2 月 14 日、
「物価
目標の達成時期が遅れても構わない」
、「夏ごろまで
は追加緩和の公算非常に小さい」と発言し、週明け
16 日セアニア市場で円相場は一時 1 ドル=118.11
円まで円高が進んだ。
118 円近辺では相応な Bid(買い)が入ったため
週末引けレベルの円安水準に戻したものの、最近、
円相場が 1 ドル=120 円に接近すると「円安弊害論」
の抬頭とともに日銀の追加緩和「無用論」めいた発
言が政府高官から飛び出し日経平均の上値抑制要因
となっている。
先週 12 日の欧州外為市場で一部通信社が報じた
「日銀の追加緩和は日本経済にとって逆効果との見
方が日銀内に浮上」との報道もそうした「円安弊害
論」から派生した円安牽制とされ、円相場は呆気な
く 1 ドル=119 円を割り込んだ。
だが、「期待外れ」の 10-12 月期 GDP 成長率が、
日銀の追加緩和の蓋然性を高める結果となったよう
だ。確かに、10-12 月期 GDP は 3 四半期ぶりのプ
ラス成長で着地して曲がりなりにも景気先行きに光
明が灯った。ガソリン価格急落で家計の実質購買力
が増し、駆け込み需要の反動も収束しつつある。昨
年 12 月の政労使会議で賃上げに向けた合意文書が
取り交わされ、4 月春闘ベアは確実視されるから先
行き景気回復の加速条件が整いつつあるとの楽観論
もある。
最大の失望は GDP から在庫を除いた実質最終需
要の伸びが目立って回復しなかったことにある。昨
春 4 月の消費税増税による 2 期連続マイナス成長の
後だけに消費回復が主導する格好で 10-12 月期に一
時的とはいえ景気回復の加速が期待されていただけ
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2015/2/18
に、確かに 2.2%の成長率に留まったことへの失望
感は大きい。
民間消費の伸びは前期比 0.3%と緩慢な伸びに止
まり、住宅投資は前期比-1.2%と 3 四半期連続で低
下、民間設備投資は 0.1%とほとんど回復しなかっ
た。これら計数は 10-12 月期の月次指標の不冴え感
が予め示唆したように景気回復ペースよりも顕著に
弱いものであった。
とりわけ、10-12 月期 GDP は実質賃金の大幅減
少はじめ消費が昨年 4 月消費税率引き上げに伴う駆
け込み需要の反動減の継続を明示した。さらに、
「住
宅投資中心に駆け込み需要の反動減は深刻な状態に
あり個人消費の回復が極めて鈍いことが証明され
た」
(同米系証券幹部)。
また、消費の停滞が設備投資の伸び悩みに繋がり、
設備投資の 14 年 7-9 月期の見通しが小幅ながら下
方修正された。
設備投資の回復こそ 1-3 月期に持ち越された可能
性があるが、消費と住宅投資については 1-3 月期も
目に見えた回復基調を辿る可能性は低そうだ。消費
の回復は 4 月春闘でのベアを待たなければならない
可能性が一段と高まった。
一段の賃金引き上げによる実質賃金の上昇を待ち
ながら、消費の自律回復を探る段階が続き、完全な
景気復調までの歩みが「牛歩」となりかねない。
確かに、原油安の日本経済へのメリットは 8 兆円
規模が想定され、現状の円安ではうち 6.5 兆円が輸
出企業の収益増など企業の内部蓄積となる。だが、
こうしたメリットを企業が設備投資などに積極的に
使うかどうか先行き不透明感が強い。
こうした集めの内部留保が設備投資や賃上げに向
かうには、コーポレートガバナンスの強化とともに
日銀の追加緩和によるデフレ完全脱却の企業マイン
ド転換後押しが必要視される。
世界経済減速とドル高による米景気回復脆弱性
しかも、2016 年には日銀の未曽有の量的緩和は
「出口」を模索せざるを得ず、2017 年 4 月には 10%
消費税再増税が控える。
アベノミクスの使命は、積極的な量的緩和により
企図する名目成長の上昇を続け、GDP 成長率が長期
金利を上回ることで資産価格の上昇を支援、
「資産効
果」による実体経済の好循環を誘うことで財政再建
も果たさねばならない。
「20017 年 10 月に延期された消費増税が、その
時点では景気が良くないとまずい」
(米系証券幹部)
。
出口戦略に失敗するとインフレ率、国債金利の急上
昇となるから失敗は許されない。リフレ派は景気が
回復すれば税収が増え財政問題は改善するとみるが、
それほど楽観はできない。
「財政赤字問題の解決のためにも日本経済には基
本的にはインフレが必要だが、原油急落や円安一服
により 3 月下旬に発表される 2 月分の消費者物価指
数の伸び率が、状況次第でマイナス圏への再突入が
懸念される」(同証券幹部)
。
このためには 2015-16 年にかけて国内経済の好循
環、つまり企業業績の回復継続、賃金上昇、消費の
拡大、売上・利益拡大の好循環が強化される必要が
ある。
「それには 2015 年の実質成長率の 2.0%台乗せが
不可欠であり、15 年中の追加緩和の蓋然性が高い」
(官邸関係筋)
。
さらに、昨年 12 月の全国消費者物価上昇率は前
年同月比で消費増税分を除くと 0.5%に沈んでいる。
昨年 5 月には 1.4%まで駆け上がったが、急激に低
下している。主因は他ならぬ原油急落だが、円高に
なればアベノミクスの脱デフレ戦略は元の木阿弥だ。
デフレ脱却を使命として 2013 年 4 月総裁就任
早々に放たった黒田バズーカ砲により市場は激震、
円相場はつるべ落としの急落となり日本株は急騰し
た。アベノミクス「一の矢」は見事に的を射ぬき、
染付いたデフレマインドを拭い経済界の空気を変え
たが、2 年を経て再び物価伸びマイナスとなれば、
リフレ派の日銀正副総裁への批判は免れない。
一方、米商務省が 1 月末発表した米国 GDP(速
報値)も前期比年率 2.6%と予想比下振れ、7-9 月期
の同 5%から大幅に減速した。約 7 割を占める個人
消 費 こ そ 原 油 安に よ る ガソ リ ン 価 格 下 落を 受 け
4.3%と前期を上回る伸びを示したが、企業の設備投
資が大幅に鈍化、ドル高や世界経済の低迷に輸出が
減速した。
とりわけ、設備投資が前期の 8.9%から 1.9%に急
低下し、12 月の製造業受注や耐久財受注の鈍化を裏
付けた。米設備投資の急減は、原油急落に伴うエネ
ルギー関連設備の急減に依るところが大きい。オイ
ル・メジャーや鉱山メジャーは資源価格の下落から
すでに設備投資の抑制を発表している。特に、エネ
ルギー開発の中心地であるテキサスの景況感は悪化
の一途にあり、ダラス連銀経済報告でも景気減速が
鮮明となっている。
米 GDP の純輸出の寄与度は-1.02%と前期の
+0.78%から急低下し、成長率を押し下げる要因と
なっている。世界経済の鈍化が、米国の輸出減少と
なって表出していることは言を待たない。12 月の米
貿易収支が如実にそうした事情を物語る。輸入が前
月比+2.2%の 2414 億ドルと過去最高となったのに
対し、輸出は同 0.8%と停滞を余儀なくされている。
結果、466 億ドルの赤字と前月比 17.1%増と膨張し
て久しい。
確かに、米雇用情勢は改善しており、年央にも失
業率は 5%水準の完全失業率へ低下し、年央の利上
げの蓋然性が高まりつつあるが、欧州経済や中国な
ど新興国経済がもたつき、ECB はデフレ深化阻止で
3 月以降、ソブリン QE(量的緩和)をスタートさ
せればますますユーロ安・ドル高となって米輸出は
ドル高の打撃を受ける。米景気回復への楽観論が剥
落すれば「円安弊害論」や日銀の追加緩和「無用論」
など言っていられない。
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