原 著 小児期に糖尿病を発症した青年の 「糖尿病をもちながら成長する体験」 ― 幼児期に発症した小児糖尿病キャンプ参加者の体験 ― 中 村 伸 枝(千葉大学大学院看護学研究科) 金 丸 友(千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程) 出 野 慶 子(千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程) 本研究の目的は,幼児期に糖尿病を発症し小児糖尿病キャンプに参加経験がある青年の「糖尿病をもちながら成長する体 験」を明らかにし,長期的な成長発達の視点をもつ看護援助への示唆を得ることである。2∼5歳で1型糖尿病を発症し, 現在19∼24歳の青年5名を対象に,発症時期から現在までの時間経過に沿って糖尿病や療養行動に関連した生活のあり様に ついて自由な語りを得た。それぞれの時期の体験から,糖尿病をもちながら成長する体験,小児糖尿病キャンプの体験,家 族のサポート,糖尿病になったこと,について抽出した。その結果,以下が明らかとなった。 糖尿病をもちながら成長する体験は,糖尿病をパーソナリティーの一部として取り込み成長していく体験であり,青年期 となった現在【時折,制約のある自分をもどかしく感じながらも,糖尿病のある自分はふつうで,よりよい人生】と肯定的 にとらえていた。小児糖尿病キャンプは,糖尿病である自分がふつうに生活していくために有用な技術や情報を得た体験, 同じ病気をもつ一生の友達を得た体験であった。また,家族は年少の時に生じた困難を子どもに代わって受け止め,自分の 気付かないところで療養行動を支えてくれたと感じていた。これらの体験やサポートは,糖尿病をもちながら成長する体験 が肯定的であることに影響を与えていた。以上より,幼児期に1型糖尿病を発症した子どもと家族に対し,糖尿病を子ども のパーソナリティーの一部ととらえ,成長に沿って必要となる糖尿病のセルフケアが進むように支援していく重要性が示唆 された。 Key words:type 1 diabetes, children, experiences, diabetes の成長発達は成人に近づき,糖尿病をもつ自身の自我を camp, family 確立し将来を選択していく時期にある。 Ⅰ.はじめに “本人が望む 己管理に関するメタスタディの結果では, 小児期に糖尿病を発症した子どもは,療養行動を生活 こと”と“疾患の理解・適切な療養行動”のギャップと, の中で行いながら成長発達を遂げていく。発症時期には 親や友達のサポートが,自己管理に影響していくことが 疾患の受け止めや,インスリン注射,自己血糖測定など 導かれている3)。しかし,メタスタディでは,学童期以 の技術の獲得,食事療法や運動療法など生活の仕方の変 前からの体験の積み重ねについては明らかにされていな 更に伴う子どもと家族の困難は大きいが,ほとんどの子 い。また,小児期・思春期に発症しキャリーオーバーし どもや家族は様々なサポートを得ながら発症時期の困難 た慢性患者に焦点を当てた研究もあるが,現在の感情や に適切に対処している。しかし,子どもの成長発達の過 認知に焦点が当てられており 4)5),慢性疾患をもちな 程では,親が主体となって行ってきた療養行動を子ども がら成長する子どもの体験については明らかにされてい 自身が行えるように移行したり,学校生活の中で療養行 ない。近年,慢性疾患をもつ患者の生活史に焦点をあて 動を行いながら友達関係を良好に築くことなど,対処を た看護研究が増えてきているが 6)7),多くが成人期の 必要とする新たな問題が生じる1)。小児は,生物学的な 患者を対象としている。そこで,小児期に糖尿病を発症 成長に加え様々な環境の影響を受けながら発達段階にお し成長してきた青年の語りから「糖尿病をもちながら成 ける課題を達成し,次の発達課題に取り組むことを繰り 長する体験」を明らかにし,長期的な成長発達の視点を 研究者らが行った,学童・思春期の慢性疾患患者の自 2) 返して成人になっていく 。糖尿病をもつ青年は,心身 受理:平成21年11月13日 Accepted : November. 13. 2009. 18 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 もつ看護援助の示唆を得るため本研究に着手した。本研 究において「糖尿病をもちながら成長する体験」とは, 3.倫理的配慮 「糖尿病を発症してから現在までの糖尿病や療養行動に 研究は,千葉大学看護学部倫理審査委員会の承認を 関連した生活の実際やそのとらえ方であり,その時々の 受けて実施した。施設のスタッフ等に,研究について 体験だけでなく体験の蓄積の中で意味づけられたことを 説明を受ける意思があるか確認してもらう。説明を受 含む」とする。 ける意思を示した者に対し,研究の趣旨および参加が 1型糖尿病の小学校3年生から中学生308人を対象と 任意であることを書面と口頭で説明し,承諾が得られ した全国調査では,子どもの年齢が小さいほど療養行動 た対象者のみに調査を行う。面接時間は30∼60分程度 への親の関わりが大きいことに加え,年少発症の子ども とし,診療等を妨げないよう配慮する。面接途中での の方が学童・思春期発症の子どもより療養行動への親の 中断の自由や,話したくないことについては話さなく 8) 関わりが大きいことが報告されており ,発症年齢は, てよいことを保障する。固有名詞などの個人情報はで 子どもの体験に影響を与えると考えられる。また,小児 きるだけ含めずに話すよう依頼するとともに,個人情 糖尿病キャンプは糖尿病に関する知識や技術の習得など 報が含まれた場合には削除してデータ化する。公表す の教育的効果や,同じ病気をもつ仲間との生活を通した る可能性と,その際に匿名性が保持されることについ 心理的効果などの意義があるため,キャンプ参加の有無 て文書に明記し,厳守する。承諾が得られた場合には により子どもの体験は異なると予測される。 IC レコーダに録音する。全てのデータは,鍵のかかる 本研究は,小児期に糖尿病を発症した青年を対象とし 書庫に保管し研究終了後速やかに消去・破棄すること た研究の一部である。本論文では,発症当時にほとんど を文書に明記し厳守する。 の療養行動の主体が親である幼児期に発症し,小児糖尿 4.分析方法 病キャンプの参加経験がある者を対象とする。また,近 個々の面接について逐語録を作成し,発症してから 年の糖尿病に対する国民の関心の高まりや生活習慣病対 現在までの糖尿病や療養行動に関連した生活の実際や 策に伴う社会状況の変化,インスリンアナログ製剤の開 そのとらえ方,周囲のサポートや状況について,意味 発など糖尿病治療の変化もまた,子どもの体験に影響を 内容を損なわないように要約する。要約した内容を, 与えると推測されるため,合わせて分析する。 発症時期から現在までの時間に沿って「発症時の体験」, 「幼稚園での体験」,「小学生での体験」,「中学生での体 Ⅱ.研究目的 験」, 「高校生での体験」, 「高校卒業後の体験」に並べる。 幼児期に1型糖尿病を発症し,小児糖尿病キャンプに それぞれの時期の体験から,糖尿病をもちながら成長 参加経験がある青年の,「糖尿病をもちながら成長する する体験を抽出する。また,「キャンプの体験」と「家 体験」を明らかにし,長期的な成長発達の視点をもつ看 族のサポート」「糖尿病になったこと」について抽出す 護援助への示唆を得る。 る。治療方法や社会背景などの要因を加え,年少で1 型糖尿病を発症した青年の「糖尿病をもちながら成長 Ⅲ.研究方法 する体験」を明らかにし,長期的な成長発達の視点を 1.対象 もつ看護援助を考察する。分析は,研究者3名で合意 小学校低学年以前で糖尿病を発症し,現在18歳(高校 を得るまで検討を行うことで,分析結果の信頼性・妥 卒業)以上30歳未満の糖尿病患者。小児糖尿病キャンプ 当性を高める。 の参加経験がある者。 年齢設定は,発症時からの体験を自ら語ることができ Ⅳ.結 果 る年齢,幼少期からの体験に基づき自らの将来の方向付 1.対象者の概要 けができる年齢であることを加味した。 6名の対象候補者に研究説明を行い,5名から承諾が 2. 調査方法 得られた。1名は,面接の時間が取れないことを理由に 発症時期から現在までの時間経過に沿って,発症して 辞退した。対象は,幼児期(2∼5歳)に1型糖尿病を から現在までの糖尿病や療養行動に関連した生活のあり 発症した,現在19歳から24歳の男性3名,女性2名。最 様について,「病気になったのはいつ頃ですか,その時 近の HbA1c は6.2∼9.0%であり,現在,合併症のある者 のことで覚えていることはどんなことですか。」のよう な簡単な質問を行い,自由な語りを得る。時期が前後し たり,話が逸れても話を中断させない。 はいなかった。面接時間は,28分から46分,平均36.0分 であった。対象者全てが,面接者と小児糖尿病外来や小 児糖尿病キャンプで10年以上の関わりがあった。 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 19 2.発症してから現在までの「糖尿病をもちながら成長 する体験」 思いをするなど【友達の家でのおやつにまつわる苦い思 い出もあった】。高学年になると,病気の説明や補食の 各ケースの「糖尿病をもちながら成長する体験」を, 対応などを自分で行ったり,学校での注射を始めるなど 時間経過に沿って表1にまとめた。大学や専門学校を卒 【高学年では,自分でも身近なことに対処するようになっ 業後のケースの方が高校卒業後の体験が多様であった た】体験があった。 が,その他の時期には,性差や年齢差,就労・就学によ 4)中学生・高校生での体験 り大きな相違はみられなかった。 本研究の対象者が中学生の時期には,ペン型インスリ 1)糖尿病発症時・入院時の体験 ンが普及し,中学生では全員が学校でインスリン注射を 幼児期には学校検尿のようなスクリーニング体制がな 打っていた。中学校での生活に糖尿病が大きな影響を与 かったため,全員が急性発症で重篤になってから診断さ えたものはなく【中学校では,小学校からの引き継ぎも れた者もあった。発症時の体験は,2歳時に発症した3 あり理解が得られた】,【病気については,自分の判断で 名は全く記憶がなく,5歳で発症した2名も口渇や病院 必要な友達に,必要なことを説明し,分かってもらった】 へ行ったことなどは覚えていたが,詳細は大きくなって 体験であった。小学校では時々低血糖を起こして周囲に 親から聞いており,【発症時のことは,ほとんど覚えて 助けられていた者も,中学校では低血糖で倒れることは おらず,大きくなって親から聞いた】。また,入院中の なくなっていた。また,友達と外食する際にはカロリー 体験についても,【幼児後期では,入院中の記憶は,血 計算をしたり食事の目安をもつなど【注射や食事は,周 糖測定や注射が嫌だった記憶】のみであった。 囲とうまくやりつつ実施できるように工夫した】。 2)幼児期の体験 高校進学に際しては,病気があることを考慮して負担 全員がインスリン注射や食事療法を行っていたことや の少ない家から近い学校を選択した者と,病気とは関係 幼稚園・保育所の生活について記憶していた。自分だけ なく学力等に応じて選択した者がおり【高校選びは,家 遅刻や早退をしたり,飲食物に配慮してもらったことを から近い所,もしくは病気は考慮せず選択した】。高校 記憶していても,他児との違いについて大きな疑問を感 では,自分から友人だけでなく担任や養護教諭に説明を じたり意識したものはなく【友達との違いを意識したが, していた。注射や補食を目立たないように行ったり,活 疑問はあまり感じていなかった】体験であった。 動範囲の拡大に際しても【高校では中学までの体験を生 一方で,お泊まり保育や卒園旅行に自分だけ行けな かし,自分の力と周囲の状況を判断して行動していた】。 かった体験をもつ者は,その時の様子について明確に感 体調が悪いのにマラソンに参加して倒れそうになった 情を込めながら話しており,【幼稚園では,病気のため り,アルバイト先で低血糖になるなど,失敗した体験か に一緒にできない行事もあった】体験として残っていた。 らは次回への教訓を得ていた。 3)小学生での体験 5)高校卒業後の体験 本研究の対象者が小学生の時期は,日本においても強 高校卒業後は,全員が【自らの関心に沿って将来を選 化インスリン療法が導入され,ヒトインスリンも発売さ 択した】体験をもっていた。仕事が続かずフリーターに れていたが,ペン型インスリンは導入されていなかった。 なったり,大学入学後に生活が乱れて眼合併症を併溌し 研究の対象者には,小学校入学時に学校でインスリン注 たり,看護師の専門学校に病気を理由に不合格になるな 射を打っていた者はいなかった。1型糖尿病の子どもや ど,糖尿病があることで自ら望むことができない体験を 家族向けの図書や情報源も少なかった。 した者もあったが,長期間落ち込んだり,療養行動が乱 親は小学校入学時の学校への説明を行い,学校で低血 れた者はなく,家族や教員などのサポートを求めたり, 糖への対応が可能になるように説明をしたり,担任が対 生活を整える,勉強するなど自ら努力して解決しており 応できないときにはすぐに学校に来て対応しており, 【入 【糖尿病に関連した問題も生じたが,努力とサポートを 学時,親は学校に説明したり,学校ではできないことに 得ることで解決した】体験となっていた。 対応してくれた】体験があった。低学年では低血糖を起 6)糖尿病になったこと こすこともあったが,担任や親が対応することで,友達 インスリン注射や血糖測定を行うこと,低血糖で思う との関係や学校生活に支障をきたした者はおらず【低学 ように活動できないこと,無理がきかないことなど,糖 年では学校で補食や低血糖の問題も生じたが周囲のサ 尿病による制約感を多くの者が感じていた。しかし,記 ポートがあった】。しかし,友達の家で出されたおやつ 憶があまりない時期から病気と共にある自分は,病気で を食べて高血糖になったり,おやつを止められて悲しい あることがふつうであるともとらえていた。更に, 「劣っ 20 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 21 ケース C 覚えていない。 注射の針が痛くて、ずっと泣い ていたと聞いた。 ケース D 10時に補食を摂ってから,毎日 遅刻して行っていた。今思う と,あまり疑問は感じていなか った 保育所で自分だけ出来なかった ことはなかった。 覚えていない。 コーヒー牛乳の日は普通の牛乳 に換えてもらい、他はみんなと 一緒。 年長のときに、注射があるため お泊り保育に行けず、母に「風 邪だってみんなに言うのよ」と 言われて、「ああ、行けないん だ」と思った。 覚えていない。 ケース E 注射なり血糖なり打ちたくない とかそういうので、叱られたこ とを覚えている。 20代前半・女性 5歳発症・常勤職 幼稚園の中での生活はそんなに 初めの頃は、母親に途中でお昼 変わらなかった。しかし、卒園 になる前に向かえに来てもらっ 旅行で動物園に行くときには、 ていた。 自分は行けなくて、お土産だけ もらった記憶がある。 夜中の低血糖のとき、寝たいの に起こされてイヤイヤ血糖測定 をしていた記憶がある。 20代前半・男性 5歳発症・大学院生 小学生での ・小学校に入る時の説明は母親 ・小学校では、注射を打ってい ・親が担任と保健室の先生に話 ・小学校に入る時、母は担任の ・入学時は学校で注射はしてい が全部やってくれた。自分が なかったので問題なかった。 してくれた。親が友達には話 先生に、結構、医学的な内容 なかった。低血糖が多く10時 体験 何かしら特別やったことはな 親が説明に行ってくれた。 さない方がいいと言い、5年 の本を渡していた2 , 3回泣 に補食をしていた。先生に世 ・2時間目の長い休み時間に、 間は先生のみに話していた。 いていたり、訳もわからず、 話になった記憶は低学年のと い。 補食を摂っていた。低血糖で 気がついたら給食を食べてい ・低学年では病気のことを友達 小学校では注射はしていなか きにはなかった。少しでも低 に伝えていたかどうか覚えて 倒れても,なぜか周知の事実 たこともあったが、先生も低 った。 血糖が起きれば、母親がすぐ いない。給食も何も変わらな だった。 血糖だと把握してくれて、問 ・気 が つ い た ら 保 健 室 に い た 来て対応してくれた。 り、体育でグランドにいて保 い。 ・友達の家でお菓子を食べてい 題はなかった。 ・行事の時は保健の先生が自分 たら、「すごい食べています 健室に行くまでの間に倒れ、 ・友達の家でサブレーを食べ、 のクラスについてくれた。部 ・友達がキャンディーを食べて いた時、母にダメと言われた 夕食前血糖が高くなり、「食 けど大丈夫ですか」と家に電 屋を借りて補食をした 担任の先生が一生懸命に走っ ことが悲しかった。 べたでしょ」と怒られたこと ・一度、学校で低血糖になり救 話があった。 て抱えられたことを覚えてい 急車で運ばれたが、それによ ・みんなに話していたので、低 ・給食もあまり制限していなか がある。 る。 血糖の時はみんなの「ずるい ったためコントロールは悪か ・保健室にちょくちょく行くの ・学校での注射は高学年から、 る影響はなかった。 保健室で。給食の直前に打っ ・5,6年では自分から補食と ー」という声を聞きながら優 った。自分だけ注射打って、 で、病気を知らない友達から 昼に注射のために抜けること て食べていた。秤を持ってい 越感に浸って堂々と人前で食 ご飯もいちいち測って、悪い 「何で?」みたいには聞かれ を説明した。補食を理解でき たが、うまく流した。 き主食は測ったが、おかずは べていた。 ことが続くと全部これがいけ 「市 低血糖の時は多目に食べた。 ない友達から質問があり、 ・注射は、宿泊学習前に、親に ないんだと思ったが、追い詰 「打 た な き ゃ 食 べ さ せ な い 」 められはしなかった。 販されているビスケット」と 日常化しており特に問題は無 と言われ、腹を決めて、打て 答えると、みんなに「へえー」 かった。 るようになった。 と言われた。 幼 稚 園・ 記憶的にあるのは幼稚園くらい 保育所での から。細い針1本1本、空打ちと 体験 か。記憶がないときから、ずっ と注射していたので、自分には 当たり前。注射も朝と夕だけだ っ たの で(幼稚 園 で の生 活に は)関係なかった。 入院中の 体験 20代前半・女性 2歳発症・非常勤職 全然覚えていない 。母は医学 何も覚えていない。 何も覚えていない。母は、微熱 すごく喉が渇いて。両親いわ 一緒に病院へ行ったのは覚えて 書をみて糖尿病を疑い、病院で のちに父親に、発症して倒れ が出て風邪だと思っていたら大 く、何か痩せていったらしい。 いるが、そこからは記憶がな かぜと言われたとき、先生に たときに救急車を呼びながら、 きい病院に紹介、そのまま意識 内科で診てもらったら小児糖尿 い。ずいぶんひどい状態だった 「糖尿病じゃないですか」と言 「こいつ死ぬんじゃないか」と がなくなり入院した。「頭が真 病と言われたと聞いた。 と聞いている。 い、尿検査で診断がついたらし 思った、と言われた。 っ白になるって、あのことなん い。 だ。」と話した ケース B 20代前半・男性 2歳発症・専門学校生 発症時の 体験 ケース A 10代後半・男性 2歳発症・大学生 年齢・性別 発症・職業 ケース 表1−1.幼児期に1型糖尿病を発症した青年の「糖尿病をもちながら成長する体験」 高学年では、自分でも身近なこ とに対処するようになった 友達の家でのおやつにまつわる 苦い思い出もあった 低学年では学校で補食や低血糖 の問題も生じたが周囲のサポー トがあった 入学時、親は学校に説明した り、学校ではできないことに対 応してくれた 幼稚園では、病気のために一緒 にできないこともあった 友達との違いを意識したが、疑 問はあまり感じていなかった 幼児後期では、入院中の記憶 は、血糖測定や注射がいやだっ た記憶 発症時のことは、ほとんど覚え ておらず、大きくなって親から 聞いた 糖尿病をもちながら 成長する体験 22 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 ケース A ケース B ケース C ケース D ケース E イレで注射を打っていた。 います、ということを、自分 で、カロリー計算をしたり、 3年の時に仲の良い友達にこ と、分かってくれた のに流していた。 ることはなかった。 からクラスの人たちには全部 話した。 かつ丼などは2食分入ってい ると考えて控えた。 っそり話したら、「何で言っ てくれなかったの」と、分か ってくれた。 は注射を減らすなどして何と か対応した。 ・病気が中学生活に影響を与え ・球技の部活に入り、低血糖に 病気でこういうことをやって れている店は少なかったの に話している人の話を聞き、 るの」と聞かれても説明する くれた った友達を同じクラスにして 大の方に入って、していない ・友 達 と 外 食 す る 機 会 が 増 え 理解が得られた。 ・中学では、小学校で仲の良か た。当時まだカロリー表示さ ・中学に入った時は、こういう つうに生活できた。 多く、すぐに止めた。他はふ ・給食は目分量で判断した の先生に話した。 に受験。入学後、自分で保健 ところを選んだ。 た。 保つようにした。 じた。 学校に進学した。 ようになった。 入学した。 学校に、病気のことは話さず 明をしたが採用。 念。 正看護の資格を得る。 時折、制約のある自分をもどか しく感じながらも、糖尿病のあ る自分はふつうで、よりよい人 生。 いし、気がつかない。 旅行とかの時に、荷物が増える くらい。 なったことは、この病気があっ たことがいい方向に作用してい る。 い。ぜんぜん違う人生。 夏にキャンプもないし、集まり もないし、つまらない。 病気になって、キャンプに行っ 自分は病気があるから、限られ 逆に病気があるために制約もあ る。 て、だいぶ“でかく”なったと 思う。 だから、周りの人を見て逆に優 越感がある。 た中で勉強して大学に入って、 て、他の人の話をたくさん聞い ったこと 人間だったと思う。 劣っている部分があるから、輝 糖尿病にな いている部分もある。 量できた。 動量が増え、インスリンも減 日常の生活ではあまり意識しな 一人暮らしに再挑戦。 健康に人一倍気をつけるように 常勤で就職。 リーターとなるが、再度、非 糖尿病のない人生は想像できな を武器に頑張りたい。 ことで解決した。 あり准看の専門学校を経て、 が、努力とサポートを得る ックを受けた。教員の支援が 糖尿病に関連した問題も生じた と思っていたので大きなショ に不合格。理解してもらえる ・資格をたくさん取って、それ ・続かなくなり1年で辞め、フ ・大学院進学と共に生活を整え ・看護師として勤務を継続。運 生と出会い、意気投合した 合併症が出て一人暮らしを断 ・大学入学後、生活が乱れ眼の があった建築分野を選択。 考えた時、小さな頃から興味 病気がなければ、もっと小さい トイレで打つ。 ・友人には病気を伝え、注射は 取れるので入学。 かかるが、数学の教員免許が ・合格した大学は通学に2時間 ・専門学校で1型糖尿病の同級 ・就職は、話の流れで病気の説 イダンスで興味を持った専門 言われ、数学の教師を目指す も生かせるため、保育の専門 した。 いないと考え、高校の進路ガ でひとに教えるのがうまいと 自らの関心に沿って将来を選択 に打っていた。 時には教室で目立たないよう の体験 が、どうにか切り抜けた。 ・注射は保健室で、時間がない 半分を目安に食べた。 たが、問題はなかった。 ないように、なるべく高めに ・アルバイトで低血糖になった ボーイフレンドに話した。 教訓を生かして低血糖になら んだが、無理はいけないと感 し、自分の力と周囲の状況を判 り切ってから保健室に駆け込 した。 達もいたくらいふつうに過ご 高校では中学までの体験を生か でも病気のことを知らない友 ・高校では、3年間同じクラス と冗談で言われることはあっ ・外食の時は、家と同じ感じで、 断して行動していた。 ・注射は教室で行い、「麻薬?」 高校選びは、家から近い所、も 配だったので、歩いて通える しくは病気は考慮せず選択し 止めるのが癪で、最後まで走 ・アルバイトを始め、中学での ・病気のことは仲の良い友達と に打っていた。 少しめくり、目立たないよう しやすくなった。 た。注射は教室でスカートを ・自販機もあり低血糖の対応は した。 をした。 ・親は担任の先生に病気の説明 いうことはない。 や、聞いてきた友達には説明 ・病 気 の こ と は 仲 の 良 い 友 達 ・い つ も 補 食 を 持 ち 歩 い て い で話し合った。 所。担任と自分と保健の先生 ・マラソン大会で熱があるのに ・高校は、補食も楽だった。 慢するようになった。 ・低血糖になっても弁当まで我 い友達と部活の人に話した。 ・保健の先生と担任と、仲の良 は関係なかった。 た。 りつつ実施できるように工夫し 注射や食事は、周囲とうまくや 明し、分かってもらった。 必要な友達に、必要なことを説 病気については、自分の判断で 高校卒業後 ・数学が得意で、小学校や高校 ・自分はデスクワークに向いて ・子どもが好きでピアノの特技 ・医師を目指したが、現実的に ・看護師を目指すが病気を理由 体験 中学校では、小学校からの引き 糖尿病をもちながら 成長する体験 護教諭が中学に転勤となり、 継ぎもあり理解が得られた。 室で打っていた。「何やって ・キャンプで病気について周り が、3年くらいから面倒で教 ・注 射 は 保 健 室 で 打 っ て い た があった。 同じ。養護教諭の先生は理解 ・運動部に入ったが、低血糖が ・運動部に入り普通に活動 任がクラスのホームルームで 伝えてくれた。 行った。友達には話さず、ト の先生で4者面談を行い、担 休みにわざわざトイレに行き ・中学から4回打ちになり、昼 とを話した。 ・自分から仲いい人に病気のこ られた。 小中一貫校であり、理解が得 高校生での ・高校を決めるときには、病気 ・高校選びの基準は家から近い ・高校には病気のことを話さず ・入試に病気が影響を与えたと ・高校は、電車通学が自分も心 体験 中学生での ・学校に文書をもっていった。 ・入学時自分と親と担任と養護 ・入学時に母親が学校に説明に ・中学は、小学校の隣で友達も ・中学入学と同時に小学校の養 ケース 表1 -2.幼児期に1型糖尿病を発症した青年の糖尿病をもちながら成長する体験(続き) ている部分があるから,輝いている部分もある」「病気 るかに難しく,注射や血糖測定の手技の獲得は,キャン がなければもっと小さい人間だったと思う」など病気が プの大きな目的のひとつであり【キャンプで注射が打て あることで自分をより肯定的にとらえたり,病気を通し るようになった】者が多かった。また,キャンプは,年 て新しい人間関係ができたことや,「健康に人一倍気を 齢の違う子どもやスタッフが参加しており,小グループ つけるようになった」などよい面にも目を向け,よりよ の話し合いや,生活を共にする中で【キャンプでいろん い人生を送っていることが述べられた。 な人から話が聞けた】体験があった。キャンプの友達は, 3.キャンプの体験 キャンプ以外でも同じ病気をもつ者として情報交換や気 本研究の対象者のキャンプ参加回数は,ケース A が3 持ちの共有があり【キャンプの友達は一生の友達】とと 回,ケース D が9回であり,ケース B,C,E は10回以 らえる者もあった。 上参加していた。本研究の対象者は,小学校低学年から 4.家族のサポート 7泊8日,親と離れた遠方の山中でのキャンプを体験し 幼児期に1型糖尿病を発症した青年が感じている家族 ていた。キャンプの体験を表2に示した。全員にとって, のサポートを表3に示した。【年少時に生じた困難は親 【キャンプは毎年楽しみにしていた】体験であった。対 が受け止めてくれた】は,社会からの理解のない言葉な 象者が小学校低学年の頃のインスリン注射は,注射器を どを親が受け止め,本人には話さずにいてくれた体験で 使用して速効型インスリンと中間型インスリンを混合し あった。また,コントロール不良時の医師からの指導も, て打つものであった。注射の手技はペン型注射器よりは 親に向けられていたと受け止めていた者もあった。【親 表2. 幼児期に 1 型糖尿病を発症した青年の小児糖尿病キャンプの体験 キャンプは毎年楽しみに していた キャンプで注射が打てる ようになった キャンプでいろいろな人 から話が聞けた キャンプの友達は一生の 友達 ( ) は,ケースを示す ・人見知りする方だったが,みんな明るくてあたたかくて楽しかった。年が違うけど友達になれた(A)。 ・小学生のうちはお泊まり会の延長みたいな感じで楽しかった(B)。 ・スタッフや同級生に1年に1回会うのを楽しみにしていた(C,D,E)。 ・注射はキャンプの中で覚えたが,習ったというより自然に覚えた(B)。 ・小学校1年生のキャンプで注射を習った。家に帰って自分で注射しているのを見た親がびっくりしていた記憶がある(D)。 ・注射はキャンプで教えてもらった。それまで自分で打つことはなかったが,キャンプから帰って全部自分で打っていたの で,両親が驚いていた(E) ・人の話を聞くことがためになった。「食べたら食べただけ打てばいい」ことを知り,自由度が上がった。超速効が出たこ とも加わり,以外となんでもできると思えるようになった(B)。 ・上の人から話を聞くのがためになった。キャンプで病気のことを周りに話している人の話を聞いて,自分も友達に打ち明 けた(C)。 ・合併症がある人の話を聞くと気をつけなければと思う(C)。 ・皆どんな進路を選んでいるのか,就寝前に色々な話を聞けてよかった(E) ・キャンプの友達のつながりは強く,病気がなければ出会えなかった(B)。 ・キャンプの友達は,同じ病気でつながっているから一生の友達(C)。 外来でキャンプの先輩に会い, 同じようなことがあったが生活を正して改善した話を聞き, 励まされた (D) ・合併症が出た時, 表3.幼児期に 1 型糖尿病を発症した青年が感じていた家族のサポート ( ) は,ケースを示す 年 少 時 に 生 じ た 困 難 は ・小学校に入ってから,幼稚園で受け入れてくれるところがなかったと親から聞いた(B) ・小学校の頃はコントロールが悪かったので,親が先生に大分絞られた。でも,親は自分に口うるさくは言わなかった(B) 親が受け止めてくれた ・発症時,母は看護師から贅沢させたせいと言われ落ち込んだが,自分が「しょうがないよ」といった言葉で救われたと, しばらくたってから何度か話してくれた。自分には記憶がない(D) ・親は,周囲の人から贅沢させて子どもが糖尿病になったと,何度か言われていたが,自分にはあまりそういうことは話さ なかった(E)。 親 は 家 族 全 体 の 食 事 を ・小さい頃は料理の本が置いてあった。出されたものを食べていたが,現在,食べられないものはない(A)。 整えており,食事療法が ・おやつは姉も自分に合わせて我慢してくれたようにも思うが,親が与える量を同じにしていた気がする(B)。 ・自分が病気になってから油を控えたり,カレーも炒めずに煮込んで作るなど自分にとっては常識だったが,大学の友達は 習慣化していた 違っていた(D)。 おやつを食べない生活だったので, 友達のように食べたいとは思わなかった (E)。 ・おやつを食べる習慣ができる前に発症し, 気付かないところで家族 みんなが協力してくれた ・知らないところで,うしろで,結構気をつけてくれていた。自分はその時は,それと知らずに楽しく参加していた(A)。 ・親の不在時に,家で妹と遊んでいて低血糖になり意識がなくなった時,小学校低学年の妹は PHS で母に連絡を取り母が 駆けつけて助かった(A)。 ・親は熱心だったがおおらかで,煩く言わず自分の選択を認めてくれた(B) ・別の病気で入院した時,兄が面会に来る母を送ってくれたり,大変な時に協力してくれた。父も外来に来てくれたり,家 族全員が自分の気付かないところで気を使ってくれていた(D) ・土曜日の下校時に低血糖を起こしたあと, 父は自分が休みの日には, 「散歩に行く」 と言って, 途中まで迎えに来てくれた (E) 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 23 は家族全体の食事を整えており,食事療法が習慣化して 小学校低学年では,全員が学校での低血糖を体験して いた】は,年少時は親が用意してくれたものを食べてお いたが,教師や親が適切に対処して学校生活に大きな影 り自分ではあまり意識していなかったが,大きくなって 響を与えた者はなかった。小学校入学時に学校でインス 周囲の友達と比べると,親が家族全体で食事療法を行っ リン注射を行っていた者はなく,学校で必要な対応は低 てくれていたことに気づく体験であった。インスリンア 血糖と給食への配慮であった。学校でできないことは親 ナログ製剤が導入されるまでは,より厳格な食事療法が が担ったこと,クラスの友達には糖尿病という稀で外見 求められていたため,発症間もない時期は特に食品交換 上わからない疾患がよく理解できなかったこと,活動制 表を用いてカロリー計算をしながら献立を立てる親が多 限のある疾患ではないこと,学年が進むにつれて子ども かった。親は,食事療法を毎日繰り返すなかで家族全員 のできることが増え特別な配慮も減っていったことなど の食習慣を整えていた。【気付かないところで家族みん が,通常の学校生活を可能にしていたと考えられる。 なが協力してくれた】は,家族が様々な場面で自分を助 本研究の対象者からは,小学校から高校までは成長に けてくれていたことに気づく体験であった。 合わせて自分でできることを行い,経験を積んでいく体 験が語られた。学童・思春期の慢性疾患患者の自己管理 Ⅴ.考 察 やとらえ方2)で見いだされた“本人が望むこと”と“疾 本研究の対象者から導かれた「糖尿病をもちながら成 患の理解・適切な療養行動”のギャップは,小学校では 長する体験」は,発症の記憶がほとんどなく,成長のな 友達の家でのおやつや,制約があるために日々の物事が かで病気のためにできないことや苦い体験に出会いなが うまくいかなかったことなどが語られたが,葛藤を生じ らも,周囲のサポートや自らの努力で乗り越え,青年期 てはいなかった。高校生以降では,病気のために自分が となった現在【時折,制約のある自分をもどかしく感じ 望むことができない体験をした者もあったが,大きな ながらも,糖尿病のある自分はふつうで,よりよい人生】 ショックを受けながらも糖尿病のある自分や療養行動を と感じる体験であった。この結果は,1型糖尿病3) や 否定した者はなく,自ら努力したりサポートを得ること 先天性心疾患 4) をもちキャリーオーバーした青年の療 で解決を図っていた。これらの経過から,幼児期に1型 養行動に対する感情や病気認知に関する研究において, 糖尿病を発症した子どもは,病気や療養行動を発症を境 怒りやつらさ,不安などが多く語られている結果と比べ, に生活に組み込んでいくというより,糖尿病がある自分 かなり肯定的な内容となっていた。この理由を,年少発 を前提として,すなわち,糖尿病をパーソナリティーの 症,親のサポート,小児糖尿病キャンプの体験,治療法 一部として取り込み成長していくことが示唆された。 や社会状況の変化の視点で考察する。 青年期は,これまでの体験を基に糖尿病をもつ自身の 自我を確立し,成人となっていく時期である。幼少期の 1. 幼児期に1型糖尿病を発症した青年の「糖尿病を 体験は,その時期には気づかなかったり疑問を感じてい パーソナリティーの一部として取り込み成長していく なかったが,青年期になって振り返ると周囲に支えられ 体験」 てきた体験として語られた。また,自分自身が対処して 本研究の対象者は,発症当時の記憶がほとんどなく, きた経験は,その時期には目の前のことに必死に対処し インスリン注射や血糖測定が毎日繰り返されていたた ていたが,青年期になって振り返ると自分自身の望む生 め,他児との違いに気づいていても,幼少時より糖尿病 活をかなえるために疾患や療養行動との折り合いをつけ のある自分はふつうであるととらえていた。幼児期に卒 る対処を発展させてきた経験として位置づいていると考 園旅行などの自分がとても参加したかった行事に参加で えられた。 きなかった体験は,感情をこめて語られたが原因を突き 2.「糖尿病をもちながら成長していく体験」に影響を つめたり誰かを責める発言はなかった。幼児期の糖尿病 与える要因 をもつ子どもの親は,注射や血糖測定時に子どもの痛み 1)親のサポート に共感し気遣いながら行っていたり,子どもをかわいそ 「糖尿病をもちながら成長していく体験」の中で語られ うに思う気持ちと,糖尿病管理における親の責任感との た親のサポートは【 (小学校)入学時,親は学校に説明し 間で 9) 藤しながら生活している 。このような日々の親 たり, 学校ではできないことに対応してくれた】であった。 の関わりを通して,対象者は療養行動を自分にとって必 また, 家族から受けたサポートとして語られたことは【年 要と受け止めたり,他児と同じようにできないことを仕 少時に生じた困難は親が受け止めてくれた】 , 【親は家族 方ないととらえていたと考えられる。 全体の食事を整えており,食事療法が習慣化していた】 , 24 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 【気付かないところで家族みんなが協力してくれた】であ た。これらは,糖尿病による制約感を減らすことにつな り,幼児期や小学校低学年など本人が一人では対処でき がっていた。 ない発達段階に多くみられた。このように,年少の時に 3.幼児期に1型糖尿病を発症した子どもと家族への長 生じた困難を子どもに代わって受け止めたり,療養行動 期的な成長発達の視点をもつ看護援助への示唆 がふつうの生活であるように調整したり,疾患による問 本研究の結果から導かれた,幼児期に1型糖尿病を発 題が生じないように先回りして環境を整えるサポートは, 症した子どもとその家族の看護援助への示唆は, 3) 学童・思春期の慢性疾患患者の自己管理やとらえ方 で 導かれた,家族や周囲の患児を特別扱いしないサポート と,疾患を気遣い療養行動を行いやすくするサポートの 要素を統合したサポートと考えられた。 ・糖尿病を子どものパーソナリティーの一部ととらえ, 支援する ・子どもが成長に沿って必要となる生活習慣の自立と同 様の視点で糖尿病のセルフケアが進むように支援する 病気の理解や療養行動が一人では行えない発達段階に ・発症時の困難を含め年少の時に生じた困難を,子ども おいて,自分の気付かないところでサポートを受けてい に代わって受け止めたり,子どもの気付かないところ た糖尿病をもつ子どもは,成長と共に,自ら努力したり で療養行動を支えている家族を支援する 必要なサポートを求めるようになっていた。 ・小児糖尿病キャンプなど,ふつうに生活していくため 2)小児糖尿病キャンプの体験 に有用な技術や情報を得たり,糖尿病をもつ仲間との 小児糖尿病キャンプの体験のうち,【キャンプは毎年 交流を深める場を提供すること,である。 楽しみにしていた】は,糖尿病になったことで得られた 本研究の結果は,少人数の対象者から得られた結果で 楽しい体験であった。小学校低学年の子どもにとって, ある。また,本研究の対象者の家族は,子どもを小児糖 病気になることで得られたよいことが具体的に理解でき 尿病キャンプに参加させるなど子どもの疾患管理や育児 ることは,病気に前向きに取り組む動機づけとなったと に熱心な家族であり,家族の対処能力が高い集団であっ 考える。【キャンプで注射が打てるようになった】は, たと推測される。さらに,対象者と研究者が長期間関わ 糖尿病のセルフケアに必要な技術が,個別の指導や仲間 りがあったことなどにより,一般化するには限界がある。 のやり方を見ることで獲得できた体験であった。自分で 今後は,対象を広げて更に分析を続けていきたい。 注射ができるようになることは,校外学習等への参加を 可能にする出来事であった。【キャンプでいろんな人か ら話が聞けた】は,糖尿病である自分がふつうに生活し ていくために有用な情報が得られた体験であり,それぞ れの発達段階で必要とされることが,少し年上の先輩や 仲間から具体的に示される体験であった。【キャンプの 友達は一生の友達】は,同じ病気をもつ一生の友達が得 られた体験であり,これらのキャンプの体験は,糖尿病 になったことを肯定的にとらえる大きな要因の一つと なっていた。 3)治療方法や社会状況の変化 本研究の対象者においては,成長し生活範囲の拡大や セルフケアが進む過程に沿うように,インスリン製剤や 注射器,血糖測定器具などが進歩していた。規則正しい 生活が可能な小中学生の時代には,規則的に注射を打つ ことや,より厳格な食事療法が求められていたが,セル フケアが進み規則的な生活が保ちにくくなる高校生以上 になると,生活に合わせたインスリン療法を選択したり 短時間で血糖測定を行うことが可能となっていた。また, 糖尿病に対する国民の関心の高まりや生活習慣病対策が 行われるなかで,カロリーオフやカロリー表示のある食 品が増加し,食事療法のセルフケアを行いやすくしてい 引用文献 1)中村伸枝 : 1型糖尿病でキャリーオーバーした人の成育看 護.小児看護,28(9),1263−1267,2005. 2)岡堂哲雄 : 小児ケアのための発達臨床心理(岡堂哲雄監修), 1版,へるす出版,1983. 3)金丸友,中村伸枝,荒木暁子,中村美和,佐藤奈保,小川 純子,遠藤数江,村上寛子:慢性疾患をもつ学童・思春期 患者の自己管理およびそのとらえ方−質的研究 meta-study を用いて−.千葉看護学会会誌,11(1),63−70,2005. 4)中野実代子,穂坂真理:小児期・思春期に発症しキャリー オーバーした1型糖尿病患者の療養行動に対する感情.日 本糖尿病教育・看護学会誌,12(2),145−151,2008. 5)仁尾かおり:先天性心疾患をもちキャリーオーバーする中 学生・高校生の病気認知の構造と背景要因による差異,日 本小児看護学会誌,17(1),1−8,2008. 6)黒江ゆり子,藤澤まこと,普照早苗:病の慢性性 chronicity と個人史 わが国におけるセルフケアから個人史までの軌 跡.看護研究,35(4),19−30,看護研究,2002. 7)細野知子:入院を繰り返す2型糖尿病患者の生活における 病の体験−ライフヒストリー法を用いて−.日本糖尿病教 育・看護学会誌,9特別号,126,2005. 8)松浦信夫,佐々木望,貴田嘉一,田嶼尚子,中村伸枝:糖 尿病をもつ子どもと保護者の QOL 全国調査の報告.初版, 新星社,51−52,2004年. 9)出野慶子:糖尿病幼児の療養行動に対する反応と母親のと らえ方・言動の関連について.千葉看護学会会誌,7(1), 7−13,2001. 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12 25 PERSONL DEVELOPMENT WITH DIABETES OF ADOLESCENTS WITH EARLY-ONSET TYPE 1 DIABETES: EXPERIENCES OF ADOLESCENTS WHO WERE DIAGNOSED WITH TYPE 1 DIABETES IN PRESCHOOL AND PARTICIPATED IN DIABETES CAMPS Nobue Nakamura*, Tomo Kanamaru*2, Keiko Ideno*2 * : Graduate School of Nursing, Chiba University *2 : Doctoral course, Graduate School of Nursing, Chiba University KEY WORDS : type 1 diabetes, children, experiences, diabetes camp, family The purposes of this study were to clarify the personal development with diabetes of adolescents with early-onset type 1 diabetes and investigate nursing intervention with long-term perspective on personal development for children with diabetes. Subjects were 5 adolescents who were diagnosed with type 1 diabetes in preschool and were 19-24 years old at the time of the study. Each subject had previously participated in diabetes camps. Data were collected by narrative interviews during which the adolescents described their experiences of living with diabetes. Interview data were analyzed by focusing on personal development with diabetes, experiences at diabetes camp, family support and the meaning of diabetes. The following results were obtained: Personal development with diabetes was the process of incorporating their experiences with diabetes into their personality. The adolescents indicated that for them, diabetes has a positive meaning. The meaning of diabetes was “sometimes get nervous about restriction for diabetes, but living with diabetes is normal, and life is better than it was without diabetes.” Their experiences at diabetes camp provided them with useful skills and information for personal development with diabetes. They felt that family members avoided discussing difficult situations with the children with diabetes, and supported them with unfamiliar aspects of self-care behavior. Experiences at diabetes camp and family support allowed the adolescents to develop a positive meaning of diabetes. These findings suggest that nursing intervention should promote the understanding that diabetes is part of the s self care acpersonality of children diagnosed with early-onset type 1 diabetes and nurses should support the children’ cording to normal personal development. 26 千葉看会誌 VOL.15 No. 2 2009. 12
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