2015年1月発行号(中身見本)

はじめに
流行語大賞でも取り上げられた「ブラック企業」
それほど、あっという間に知れ渡り、知らない人はいないほどの言
葉になりました。
もちろん、社員に無理を強いて働かせることはNGです。過酷な労
働が原因で心身に支障をきたし、過労死やうつ病による自殺といった
悲惨な事件をも引き起こしています。こうした会社は今すぐに猛省し
て労働環境の改善に取り組む必要があるのは言うまでもありません。
その一方で、こういったトレンドを背景に、何かと会社にナンクセ
をつけて責め立てるという輩も出てきています。
雇用契約は、社員が労務の提供をしてこそ成り立ちますが、会社が
期待しているレベルにはほど遠いのに自分ではやっているつもりだけ
の社員が増えています。そういった社員が、インターネットを利用し
て「こんな酷い働かせ方をする会社は、まさしくブラック企業だ!」
と告発し、被害者面を貫くのです。
このような社員を「ブラック企業」になぞらえて「ブラック社員」
と呼ぶ向きがあります。
労使が対立する構図は決して生産的ではありません。そもそも利害
関係が対立する関係性ですから双方に不平不満があって当然なのです
が、行き過ぎはよくありません。
本書では、そのような社員の本質と生まれてきた背景、具体的な対
策を説明していきます。
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そもそも、ブラック企業とは
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ブラック企業とは何か?
それではまず「ブラック企業」について理解しておきましょう。
この「ブラック企業」という言葉は法律用語でもありませんし、地
方自治体や公的な機関が認証しているわけでもありません。
「何となく職場環境が悪い、過労が原因で社員の自殺があった、長時
間残業が恒常的にある」などといった状態にある会社を指しています
が、ここできちんと定義しておきます。
「ブラック企業」とは、従業員に対して心身の過重負担や極端な長時
間勤務など劣悪な環境での労働を強いて改善しない体質をもち、それ
ゆえに入社を勧められない、あるいは早期の退職が勧奨されるような
会社を総称する言葉です。
若者の労働環境悪化を背景に、ここ数年インターネットなどを通じ
て広まり浸透しました。
具体的には、労働法や関係諸法に抵触する可能性があるグレーゾー
ンな条件での労働や違法性の濃い営業行為を意図的・恣意的に従業員
に強いたり、いわゆるパワーハラスメントを常套手段として本来業務
とは無関係な部分での非合理的負担を従業員に強制したりする企業や
法人を指します。
(出典:人事労務用語辞典)
会社側の肩を持つと、解雇が厳しく規制されているといった圧倒的
に社員側が有利な雇用法制の下、グローバル化の波にさらされ世界相
手に戦わなければならない中で利益を出していかなければならないの
は、至難の業と言えます。
新興国が力をつけている中、現状のままでは現状維持どころではな
くマイナスに転じるのも止む無しとなってしまいます。会社が利益を
上げていくために、社員に現状以上の成果を求めるのは当然のことで
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すが、これが行き過ぎて社員に法令基準を超えて無理を強いると、
「ブ
ラック企業」と呼ばれることになります。
確かに過酷な労働を強いて社員の心身に悪影響を及ぼすような会社
は、問題視されて当然と言えます。しかし一方で、企業が生き残りを
かけて必死な中で時代の変化についていけず、要求レベルを満たす仕
事ができていないのにもかかわらず、それをきちんと自覚できていな
い、反省の色もない、仕事ができないため職場仲間に多大な迷惑をか
ける、ひいては会社に対して敵意を剥き出しにして誹謗中傷を繰り返
す、といった問題社員が増えています。
こうした社員は「ブラック企業」になぞらえて「ブラック社員」と
言われています。
たとえば、こんな社員はいませんか?
•
自分ではそれなりに仕事をしているつもりでも、成果に結びつい
ていない。それを上司から軽く注意されただけで、パワハラだ!
と決めつけ会社をブラック呼ばわりする社員。
•
「こんな単純作業は俺の仕事と違う」
「この仕事は俺のやり方に
合わない」と自分の価値観にこだわり、会社から厳しく対応され
ると、対抗意識を燃やし執拗に自己主張を繰り返す社員。
•
今日が期限であるのにもかかわらず、処理スピードが遅く仕事が
終わっていないのに、終業時刻だからとさっさと帰ってしまおう
とする。また、それを指摘されると労働法を盾に権利ばかりを主
張する社員。
といった社員に、頭を悩ませている企業経営者も多いのではないで
しょうか?何度注意しても一向に改善しないために、もはや会社側だ
けでは手に負えなくなってきています。そこで改めて、今回のテーマ
である「ブラック社員」について、
深く掘り下げて見ていきましょう。
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ブラック社員は、身近にいる
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ブラック社員とは何か?
では、
「ブラック社員」というのは、どのような社員を指すのでしょ
うか。これはまだ明確な定義がないようですので、ここで筆者なりの
まとめをしておきます。
「ブラック社員」には遍歴があり、旧と新で
はその定義が違います。
旧の「ブラック社員」
いわゆる「ブラック企業」に勤務しており、ブラックな企業風土に
疑問を持たないため、結果としてブラック体質を継承している社員の
ことを指します。
たとえば、社会人ならばサービス残業や休日出勤をするのが当たり
前と考え、会社からの理不尽な指揮命令であっても、きちんと応じな
ければならないという強い責任感をもっています。そもそも、そういっ
た働き方はおかしいということに気づいていないのは、コンプライア
ンス以前の問題です。見方を変えれば、彼らは企業の発展のために一
生懸命なわけですから会社にとっては非常に有益な社員と言えます。
しかし、そうした働き方をしない、そういった考え方を理解できな
い後輩や新入社員、中途入社社員を罵倒するといった「ブラック」な
行為に及ぶこともあります。自ずとついていけない社員は早々と辞め
しまい、離職率が必然的に高いままとなってしまいます。
このように「ブラック社員」は「ブラック企業」の社長と一緒にブ
ラック体質を構築していくのです。
新の「ブラック社員」
彼らは「ブラック企業」だけではなく、普通の会社にも存在してい
ます。旧のように会社のために身を粉にして一生懸命働くという発想
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はありません。仕事に対しての意欲が著しく低いのが特徴で、通常の
社員に期待されるような成果は期待できませんし出世しようとする向
上心もありません。更には自己保身が強く、わがままでこだわりが強
いのが特徴です。
たとえば、上司や同僚から注意されようものなら、いわゆる逆ギレ
して反撃に打って出ます。
「ブラック社員」自身が仕事ができないだ
けならともかく、周りの足を引っ張ることで組織全体のパフォーマン
スを低下させます。そしてその迷惑をかけていることに自覚がありま
せん。
また今の会社を辞めようなどは、少しも考えていないところが更に
問題を難しくしています。
「ブラック社員」に見られる傾向
<ブラック社員チェックリスト>
□仕事に対して、全然やる気が見られない
□簡単な仕事であっても、仕上がるのが非常に遅い
□指示されたことには取り組む姿勢を見せるが、完遂しない
□何かと要求してくるけれども、義務は果たさない
□極論ばかりで話してくる
□曖昧さを許容できない
□譲歩しない、できない
□ミス、間違いを絶対に認めない
□他人や環境に責任転嫁する
□異様なほど固執することがある
□自分のことを開示しない、周りと距離を保つ
□相手の気持ちが理解できない
□身勝手、自分勝手、わがままである
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□自ら行動を起こすことはなく、主体性が全くない
□ネガティブ思考が強い
□インターネットに詳しい
10 個以上該当すると「ブラック社員」確定、7 個以上該当すると「ブ
ラック社員予備軍」と判定します。
いずれにせよ、会社側にとって非常に扱いが難しい存在であること
には間違いがありません。更に「ブラック社員」の場合は、疾病(も
しくはその疑いがある症状)に起因しているケースもあり、周りに迷
惑をかけていることに関して自覚や意図がないため、特に難しいと言
えます。
それでは次に、この厄介な存在である「ブラック社員」に対して、
どのように対処していけばいいのか、
を説明していきたいと思います。
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ブラック社員の入社を未然に防ぐ
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ブラック社員を入社させないために
営利団体である会社にとって、
仕事を安心して任せられない「ブラッ
ク社員」は非常に厄介な存在です。更に彼らはそこだけに留まらず、
周りにも迷惑をかけるといった大きな問題もあります。気に食わない
ことがあると、インターネットをフル活用して「ブラック企業」と叩
くのが、その顕著な事例と言えます。
そこで2つのシーンに分けて「ブラック社員」の対策を考えていき
ます。
まず「問題がある社員を入社させないという採用時のシーン」、そ
して「入社時には問題がなかったが、
勤務中に変化していったシーン」
の2つです。
日本の雇用ルール上、解雇権が非常に制限されているのはご存じの
とおりです。一方で採用するかどうかの採用権は会社側が 100%保
有しています。そこで、まずは「入り口でしっかりと見極めて入社さ
せない」ということが非常に大事になってきます。
採用時にどう見極めるか?
次の4つのやり方が有効です。
(1)採用工程を増やす
(2)面接で質問する内容を工夫する
(3)試用制度を設ける
(4)書面で武装しておく
の4つです。
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(1)採用工程を増やす
「書類選考と面接で内定」という基本的なステップだけで、ブラック
社員かどうかを見極めるのは困難です。そのため、基本的なものに加
えて「適性検査」や「集団討論(グループディスカッション)」といっ
た工程の導入が非常に有効です。
「適性検査」は、
「能力検査」と「性格検査」の2つで構成される場
合が多く、前者の「能力検査」は基礎学力レベルを計るもので、後者
の「性格検査」によって適性や性格を計ります。
近年は後者の検査の精度が高まっているために、虚言癖がある人や
メンタルに支障をきたしている人、ストレス耐性が乏しい人といった
ことを、ある程度まで見極めることができます。費用も一人当たり 1
万円以内ですから、中小企業でも導入はそう難しくないでしょう。採
用にあまりお金をかけたくない心情は理解できますが、問題社員を入
社させてしまって、いろいろと問題を起こされることを考えたら、遥
かに安価であると考えてください。
書類選考時の「ブラック社員」のはじき方
まず転職回数が多過ぎる人は採用しないようにしておきましょう。
ある外資系企業は、求人情報に、転職回数 3 回までとはっきりと明
示しています。社内で一定の回数制限を設けておけば採用基準が明確
になります。
次に、短期間にも関わらず契約更新されずに、契約満了で何度も退
職している人は避けておきましょう。前職の退職理由、現職の退職志
望理由がはっきりしないのも避けておきます。もちろんこれらは「ブ
ラック」な行為によって、退職させられた可能性があるからに他なり
ません。個人情報保護法やプライバシー保護の観点から前職調査や素
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行調査が非常に難しい今、少しでも臭うならば採用は見送るのがセオ
リーです。
他には、誤字、脱字がある、書類にヨレがある、といった点もチェッ
クし、あるならば採用はやめておきましょう。
(2)面接で質問する内容を工夫する
面接時に「ブラック社員」の素養がないかをチェックする質問を混
ぜておきます。通常は 30 分くらいの面接ですから、志望動機や自己
PR、長所・短所といった、ありきたりの質問だけでは、本質が見え
ないことが多いはずです。
応募者も平気で嘘がつけたり良い人を演じ切ることに長けていたり
するので、表面的な質問では「ブラック社員」であることが全くわか
らないのです。
余談になりますが、筆者は社会保険労務士だけではなくキャリアカ
ウンセラーとして行政機関や大学で就職支援を行っております。就職
支援をする中において、仮に内定を獲得できたとしても、きちんと働
いていけるかどうかという点について、グレーゾーンな人が結構いま
す。しかし、こういった就職支援の現場では、彼らに選考突破させる
ように支援するのが最大の任務です。そのため、自分にとって不利な
ことは極力言わないようにする、志望度が高くなくても、志望度が高
い旨を伝える、といった「嘘も方便」的な回答アドバイスも行うケー
スがあります。
採用だけに専念できるような社員がいるならばともかく、そうでは
ない企業がほとんどでしょう。そういった企業では、応募者側が選考
突破のためのノウハウを十二分に身につけて臨んできた場合、簡単
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著者
中谷 充宏(なかや みつひろ)
M&Nコンサルティング 所長
・社会保険労務士
・キャリアカウンセラー
同志社大学法学部法律学科卒。新卒入社した NTT(日
本電信電話株式会社)でシステムエンジニアとして勤務
した後、産業車両ディーラーに転職、人事を含む経営企画業務を担当。そして平成 16 年に社会保
険労務士並びにキャリアカウンセラーとして独立。
現在は社会保険労務士として埼玉、東京を中心に多くの中小企業の顧問を担い、時には人事部長
を任されるなど、現場最前線で人事労務コンサルティングを実践。そのため生々しい労務問題とそ
の解決策を熟知しており、特に近年増加傾向にある「問題社員」への対策については豊富な取り組
み実績あり。
その一方でキャリアカウンセラーとして、教育委員会や自治体が運営する就労支援機関、私立大
学等での勤務を通じ、高校生からシニアまで幅広い年齢層の就職支援の実績あり。
労働者側と使用者側の両面を知り尽くした日本では数少ない存在であり、NHK やニッポン放送、
読売テレビ、読売新聞、週刊現代、サンデー毎日、マイナビ転職といったマスコミの取材実績も豊富。
著書「面接官の本音がわかれば、30 日で必ず内定がとれる!」、「30 代 40 代のための転職成功ガ
イド」
、
「質問の「建前と本音」が読めれば転職面接は突破できる !」
(秀和システム)など多数。
M&Nコンサルティング
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メールアドレス:[email protected]
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近代中小企業 Vol.50 No1 付録 ブラック社員が会社を潰す
編者:中小企業経営研究会
発行者:芦澤貞春/発行所:中小企業経営研究会
〒 169-0075 東京都新宿区高田馬場 1-33-13 千年ビル 8F 株式会社データエージェント内
電話 03-5272-5425©2015 Dataagent
ISBN 978-4-907196-44-8 C0034 定価:本体 500 円+税
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