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2015年2月5日
特別企画
提供●日本メドトロニック株式会社
フットケアの日
2月10日
座談会
重症下肢虚血(CLI)の
確定診断と
病診連携の必要性
出席者
(発言順)
小林 修三 氏
大浦 武彦 氏
日本下肢救済・足病学会 理事長
日本フットケア学会理事長
北海道大学 名誉教授
湘南鎌倉総合病院 副院長・
医療法人社団廣仁会
腎臓病総合医療センター センター長
中西 健史 氏
滋賀医科大学
皮膚科学講座 特任准教授
褥瘡・創傷治癒研究所 所長
田中 康仁 氏
奈良県立医科大学
整形外科 教授
糖尿病患者の急増および高齢化の進展により,閉塞性動脈硬化症
(ASO)
を中心とする末梢動脈疾患
(PAD)
などの重症
下肢虚血
(CLI)
に起因する足病変が増加している。わが国では60歳以上の約700万人が足病変を発症し,重症化して足切
断に至る患者も年間1万人に上ると推定されている。CLIに起因する足病変は,症状が現れた初期には気付かれにくく,ま
た異変に気付いたとしてもどこの診療科を受診したらよいのか分からず,早期診断・早期治療が遅れるというのが現状で
ある。そこで,日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会では,CLIに起因する足病変の早期発見と足切断からの救
済を促す目的で,2012年から毎年2月10日を「フットケアの日」
と制定し,一般および医療従事者への啓発活動を行って
いる。本企画では,両学会の理事長に整形外科および皮膚科の専門医を交え,CLIに起因する足病変の確定診断と病診連
携の必要性をテーマに語り合っていただいた。
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PADに起因している可能性があるということをよく認
人間の尊厳の維持にも関わるフットケア
識してもらう必要があります。そうした診療科として
は整形外科,皮膚科が重要ですね。
小林 まず「フットケアの日」制定の意義について,
大浦 大学での整形外科の講義では,
「下肢は切断
大浦先生からご説明いただけますか。
しても装具を使えば歩ける」
と教えられていたのでは
大浦 人間が人間としての尊厳を維持していくため
ないでしょうか。しかし,それは虚血に起因しない局
には,立つ,歩く,運動するといった日常動作を支障
所の下肢病変の場合で,高齢者に多い虚血に起因し
なく行えることが極めて大切です。ところが,この重
た全身性の下肢病変には当てはまりません。高齢の
要性があまり認識されておらず,日常動作に支障を
下肢病変患者では過半数が心臓疾患も持っており,
来す原因となる下肢病変を容易に見逃してしまい,
下肢切断後のリハビリテーションの可能性は極めて
その結果多くの高齢者が寝たきりになってしまってい
低く,下肢切断後は半数の患者が要介助となってい
ます。こうした現状を改め,重要な下肢病変をできる
ます。また,下肢切断5年後の生存率は,糖尿病患
だけ早期に発見し,救済できるものは救済するように
者では非糖尿病者に比べて20%低く,透析患者では
したい,そして,人間の尊厳を最大限に維持してい
非透析患者に比べて28%低いことが報告されていま
けるようにしたいというのが「フットケアの日」制定の
す。切断部位によっても予後に差があり,5年後の生
目的です。
存率は,膝上切断では膝下切断に比べて15%低いこ
日常動作に支障を来す原因となる下肢病変として
とも明らかになっています
(Aulivola B, et al. Arch
は,糖尿病に合併する頻度の高いPADがとりわけ重
Surg 2004; 139: 395-399)
。
要です。下肢は第二の心臓ともいわれ,PADが CLI
虚血に起因する下肢病変でも,早期に発見して早
を伴うと急速に下肢の機能が悪化していきます。し
期に治療すれば,現在では切断せずに済むものが多
たがって,PADは下肢局所の疾患というよりは全身
く存在します。例えば下肢の潰瘍でもその責任血管
疾患の一部と捉える必要があります。厚生労働省に
を正 確に同定して,バイパス手 術 や 血 管内治 療
よる平成24年の「国民健康・栄養調査」
ではわが国の
(EVT)
あるいは高気圧酸素療法
(HBO)
などを施行す
糖尿病患者とその予備群は約2,000万人と推計されて
れば多くの例で救済は可能です。ですから,整形外
おり,そのうちの15%,実に約300万人がPAD合併患
科でも創傷治癒のみではなく,ぜひ,血行再建という
者と推定されています。
視点も持って診療に当たっていただきたいものです。
欧米では下肢病変の重要性が早くから認識され,
整形外科の現状では,創傷に真剣に取り組む医師が
およそ100年前から下肢病変を専門に診る足病医が存
少ないこと,集学的治療の必要性を認識していない
在していました。残念なことにわが国に足病医は存
表1
在しませんが,今後は足病を包括的に診ることので
きる医師の育成や診療体制を整えることが必要で
一般医がチェックすべき下肢の変化
Ⅰ 皮膚の変化
しょう。
1 色調の変化:足趾に多い,発赤,青色
足病医がいない現状で,一般の診療医が足病の診
2 皮膚の変化:
療でチェックすべきこととしては,まず,色調の変化,
乾燥,萎縮,胼胝
(タコ)
,鶏眼
(ウオノメ)
,足の毛が
なくなる,爪の変化,陥入爪,冷感,疼痛
(間欠性跛
3 冷感:(皮膚温)
行)
などの皮膚の変化が挙げられます。また,傷や潰
4 疼痛:
瘍がなかなか治らない,外傷を受けやすい,足が痺
*皮膚の異常,乾燥,萎縮,
胼胝(タコ),鶏眼(ウオノメ)
*足の毛がなくなる
*爪の変化,陥入爪
チアノーゼとなる
間欠性跛行
Ⅱ 日常生活の異常
れるなど日常生活の異常にも留意が必要です
(表1)
。
傷や潰瘍がなかなか治らない
外傷を受けやすい
整形外科・皮膚科におけるフットケアの問題点
足が痺れる
足の筋肉が つる ことが多い
歩行に異常がある
小林 足病変の早期発見のためには,足病変に早期
に遭遇することの多い診療科の医師に,足病変は
(大浦武彦氏提供)
2
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ことなどが問題点といえるでしょう
(表2)
。
ついてはまだ意識が高まっていない印象です。
皮膚科に関しても,創傷の原因となっているCLIに
田中 整形外科ではCLIに起因する足病変で初めて
対する意識はまだまだ希薄です。皮膚科医に対し,
病院にかかるという患者が多いのです。潰瘍はない
潰瘍が改善しない場合の治療方針について尋ねたア
けれども痛みがあると訴えられ,MRAを撮影してみ
ンケートでは,75%が「治らない場合は他科・他施設
ると血管に閉塞している箇所が見つかることがありま
への紹介を検討する」
と答えています。しかし問題は,
す。バイパス術を施行できる症例はいいのですが,
そう決断するまでの期間が長いことです
(表3)
。外来
PADなど末梢レベルの血管が詰まっている場合は,
で2~3カ月診療して,それから専門施設に紹介して
これまで治療手段がなく手をこまねいているしかあり
も,その間にCLIは急激に悪化し,切断を余儀なくさ
ませんでした。しかし,近年ではEVTができるように
れることになってしまいます。
なり,また保険適応され,整形外科医の意識が変わっ
CLIに起因する足病変は,どこか1つの診療科で診
たような気がします。
療することは不可能です。関係するあらゆる診療科
EVTの普及が虚血への意識を高める
のノウハウを集約し,敏速に,さらに看護やリハビリ
テーションなどコメディカル部門も含めたチームワー
大浦 治療手段があるというのは臨床医の意識を大
クによるアプローチが必要です
(図1)
。
きく変える要因です。ですから,特にEVTの有用性
足病変の原因としての虚血の理解と意識を
はもっとアピールする必要があると思います。
小林 私自身は透析を中心に診療を行っているので
小林 足病変の背景にある虚血について,それぞれ
すが,やはり創傷の原因の上流には虚血があるという
の診療科の医師は現状どれくらい認識しているもの
意識は極めて重要であると考えて,日ごろから循環
でしょうか。
器内科,血管外科,形成外科の3科で合同のディス
大浦 皮膚疾患と血流の関係については,それが分
カッションをすることを心がけています。
かってきたのがここ10年ほどのことです。循環器内科
田中 先ほど大浦先生がご説明されましたが,下肢
や血管外科を中心に理解され,それが皮膚科などに
切断した患者の生命予後は非常に悪く,整形外科医
も認識が広まってきたのは,ようやくこの数年間のこ
はなるべく切断したくないという意識が昔から強いの
とでしょう。
です。バイパス術ができなくてもEVTなどで切断せ
中西 それでも,ここ数年でかなり理解されるように
ずに済むということになれば,整形外科医にとっては
なったのではないでしょうか。日本皮膚科学会総会
歓迎すべきことです。ただ,切断を回避するためには,
などでもフットケアに関する教育講演などが行われ
患者の意識も重要です。透析患者の場合は罹病期間
て,啓発され始めたことが大きいと思います。ただ,
が長く,医師との関係も長いですから,自身で病態を
問題に気付き始めてはいるものの,具体的な対応に
よく理解し,医師の提案などにもよく耳を傾けてもら
表2
表3
整形外科による下肢病変診察の問題点
1 創傷に真剣に取り組む医師が少ない
皮膚科による下肢病変診察の問題点
1 潰瘍の治療を外来で長期にわたり行っている。CLIの病
変は急激に進行するため,重症(CLI)と分かったら1日
でも早く専門病院に送る必要がある
2 感染がある創傷を外来,入院で扱うことを極端に嫌う
2 糖尿病,リウマチの場合,骨変形が先行し皮膚病変が
その後に起こるというメカニズムを知る必要がある
3 リハビリテーション科に任せっきりが多い,足病の場
合は集学的治療が必要
3 立つ,歩く 際の負荷のかかる場所を知り,その負荷
を考えながら治療すること
(ADL)
に対する判断が異なり,切
4 年齢や日常生活動作
断の時期について下肢病変を扱う医師との違いが大きい
4 今までの皮膚科教科書には血流によって急変する病変
の記載がなかったのが原因と考えられる
5 血流が悪い軟部組織の創閉鎖に対する考え方が異なる
(大浦武彦氏提供)
(大浦武彦氏提供)
3
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病診・病病連携をどう図るか
ほど深刻でない場合は予防に熱心になれないという
ことがあります。ですから,切断を予防するためには,
今後は患者への啓発が大切だと考えています。
田中 集学的なフットケアのためには,どの診療科が
大浦 集学的なフットケアのためには患者自身の理
その窓口になるかが問題ですね。現在,全国各地に
解と意欲が不可欠です。
「フットケアの日」の制定は,
あるフットケア外来の多くは糖尿病性足病変への対
患者も含め広く一般を対象とした啓発も目的としてお
策として設立されたものだと思いますが,CLIによる
り,この面でも今後さらに充実を図っていきたいと考
足病変が問題になるのは糖尿病だけではありません。
えています。
小林 私たちの施設のフットケア外来を2014年3~
小林 EVTは冠動脈インターベンションを中心とし
11月に受診した524人の患者が,どの診療科から紹介
て循環器領域で進展してきました。冠動脈に対する
されてきたかを調査してみました。すると,足外来に
EVTは既に十分に普及したので,今後はその他の動
直接来ている患者が121人
(23%)
で,糖尿病内分泌内
脈系にまでEVTを拡大し,特に四肢に対するEVTを
科から124人
(24%)
,腎臓内科から171人
(33%)
,その
積極的に推進していこうというのは,1つの必然に
他 は 皮 膚 科 か ら34人
(6%)
,形 成 外 科 か ら34人
なってきているように感じています。ただし,慢性腎
(6%)
,外科から22人
(4%)
,整形外科から5人
(1%)
臓病に多い血管石灰化は治療に難渋します
(小林修
といった結果で,皮膚科や整形外科からの紹介はま
三. 医学のあゆみ 2012; 240: 903-908)
。
だ少ないのが現状です。
大浦 啓発をさらに推進し,行政へと働きかける動
中西 ASOなどでは下肢動脈狭窄や閉塞の程度を示
きは出ると思います。小林先生がおっしゃる通り,透
す指標として足関節上腕血圧比
(ABI)
が測定されま
析患者に対してのEVTで1つ問題になるのは血管の
すが,これがこの10年間で皮膚科でもずいぶん普及
高度石灰化の症例が多いことです。これはEVTの普
しました。これにより皮膚科医の下肢血流に対する
及を阻む大きな要因で,石灰化が少なく済むよう透
意識が高まって,創傷の背景にある血流を診てみよ
析方法が改善されればと思います。
うという医師が徐々に増えてきているように思いま
小林 透析による血管石灰化は大きな問題ですので,
す。ただし,血流を診てしっかり管理しようというと
その解決に向けて努力をしているところです。
ころまで到達するには,まだ時間がかかりそうです。
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えることが多いように思います。しかし,病態がそれ
小林 1つの施設です
図1
フットケアに対するチームワークによるアプローチ〈System Cluster方式〉
ろっているとは限りま
下肢末梢循環障害改善
Complication of
CVA & CAD
再生医療
︹遺伝子・幹細胞︺
診断・基礎疾患治療・ケア
血管形成術
EVT
●
陰圧閉鎖療法
物理的 ︵NPWT︶
HBO
義肢・装具
靴
●
創傷治療
手術
︹植皮,フラップ,
足趾形成術︺
フットウエア
物理的
HBO
温熱療法
リハビリテーション
LDL
アフェレシス
看護ケア
●
診断・ケア・リハビリテーション・予防
フットケア
と,全ての診療科がそ
せんから,病院内連携
だけでなく病診あるい
は病病連携をどう図っ
糖尿病
●透析
●一般外科
●皮膚科
●形成外科
●
X線,エコー,
アンギオ,
CT,MRI,ABI,
SPP,その他
下肢・足切断
ていくかもこれからの
課題ですね。
大浦 日本下肢救済・
足病学会で調査したと
ころ,現在,フットケ
アの連携を行っている
病院は約150カ所あり
ます。ですから,一般
開業医などで専門医に
足病変を診てほしい場
合は,こうした連携病
院にアプローチすると
(大浦武彦氏提供)
い い でしょう。た だ,
4
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問題はこうした連携を行っても,連携をした病院に十
小林 将来的なフットケアの充実を考えると,大学に
分な報酬が付かないことです。これは創傷外来につ
おける医師教育も重要になってきます。足病変の原
いても言え,全国的に創傷外来は50ほどありますが
因としての虚血について,現在ではどれほど教えら
ほぼボランティアで行っている現状です。行政には,
れているのでしょうか。
報酬体系の見直しを切に願いたいですね。
田中 整形外科の教科書には,壊疽で鑑別すべき疾
患としてASOが記載されている程度です。
どの診療科が
集学的フットケアの窓口になるのか
中西 手術が専門の皮膚外科の教科書でも,血流や
血管の走行までは詳しく教えられていませんね。
小林 集学的フットケアでも,現状における最も有用
小林 それともう1つ,集学的フットケアでは看護や
な治療はEVTということになれば,現実的には循環
栄養管理,リハビリテーションも重要なのに,看護師,
器内科医がゲートキーパーになると考えてよろしいで
管理栄養士,理学療法士をうまく関わらせることがで
しょうか。
きていない。私の感覚では,これらコメディカル部門
田中 足病変を全身疾患という観点で予防から治療
でフットケアに関わりたいという人たちは結構いるよ
まで一貫して診ていくとなると,やはり中心となるの
うに思うのです。
は循環器内科医もしくは総合診療医ということになる
大浦 リハビリテーションに関しては,効果的なのは
でしょう。
急性期リハビリテーションです。ところが,この効果
小林 中西先生は皮膚科でもABI 測定が普及してき
があまり出ていません。ですから,現状では寝たきり
たというお話でしたが,これをさらにフットケアに生
の高齢者が増えるばかりで,一向に減る気配がありま
かしていくには,どういうことが考えられますか。
せん。私はリハビリテーションの在り方については根
中西 ABIにも限界がありますが,少なくともABI測
本的な見直しが必要で,より効果的なものにするため
定の手技は簡便で時間も長くかからないので,虚血
には,実施時間による報酬ではなく成果主義にする必
の疑いが明確でなくてもABIを測定してみてもいいと
要性を感じています。
思います。また現在,全国的にバスキュラーラボを充
小林 集学的フットケアの実現には問題が山積して
実させ,血管の検査技師を養成しようという機運が
いることは,本日のディスカッションからも明らかに
ありますので,皮膚科医も今後はもっと血管内の情報
なった通りですが,これは大浦先生が冒頭にお話し
に関心を強めるべきだと考えています。
されたように人間の尊厳の維持に関わる重要な課題
大浦 外科では潰瘍などでも,血流不全を評価する
です。せっかく「フットケアの日」
も制定したことです
前にデブリドマンしてしまうことがあり,それにより
から,集学的フットケアの実現に向けて,今後もたゆ
潰瘍がかえって悪化してしまうというケースも少なく
まぬ努力をしていきたいものです。
ありません
(図2)
。下肢の血流を熟
知している医師に治療を任せ,皮膚
灌流圧
(SPP)20mmHg以下では壊死
組織を除去しないこともポイントで
図2
不要な壊死組織除去による悪化例
デブリドマンしたところ
5日後悪化
す。今後は診療科を問わず,もっと
血流情報に関心を持っていただきた
いと思います。
田中 整形外科では,下肢痛を訴え
る腰部脊柱管狭窄症の患者の2割程
度は下肢の虚血を抱えていますから,
まず ABIを測定するというのは有用
な切り口かもしれません。
(大浦武彦氏提供)
〔裏面のポスターを先生のご施設にぜひご掲示下さい〕
本特別企画は日本メドトロニック株式会社の提供です
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