平成25年度検討会 報告書(概要)(PDF形式:268KB)

出版物の流通促進に向けた契約の在り方に関する検討会 報告書(概要)
1.契約書による契約の締結の意義及び機能
① 契約当事者によって合意された内容の確認がなされること
② 契約当事者間の契約に関するルール(権利・義務)が約束されていること
ⅰ)法律において定められたルールの確認
ⅱ)法律において定められたルールの修正
ⅲ)法律において定められていない事項についての,当事者間のルールの形成
③ 契約当事者間において,紛争が生じた場合の重要な証拠となること
2.契約締結の時期・方法
 新しく原稿の執筆等から依頼をする場合
 原稿等の依頼時に,出版にあたっての基本的事項(条件)について,書面またはメー
ルで示すことが望ましい。
 出版を行うことが確実になった後,可能な限り早い時期に契約の締結を行う。遅くと
も,発行時までに,書面で契約を締結する。
 書面で契約を締結する際には,契約の内容が適切に理解されることを目的として,契
約の重要事項を書面で示し,説明する。
 既に著作物が存在している場合
 企画時ないし原稿の引渡し時に,出版にあたっての基本的事項(条件)について,書
面またはメールで示すことが望ましい。
 出版を行うことが確実になった後,可能な限り早い時期に契約の締結を行う。発行時
までに,書面で契約を締結する。
 書面で契約を締結する際には,契約の内容が適切に理解されることを目的として,契
約の重要事項を書面で示し,説明する。
 出版物の条件等が事前に想定できる場合(定期刊行物等)
 原稿等の依頼時に,出版にあたっての基本的事項(条件)について,書面またはメー
ルで示すことが望ましい。
 可能な場合には,原稿等の依頼時等に書面で契約を締結する。
 契約の内容が適切に理解されることを目的として,契約の重要事項を書面で示し,説
明する。
 装丁やイラスト等,主たる著作物にアドオンする著作物の場合
 原稿等の依頼時に,書面で契約を締結することが望ましい。
 契約が締結できない場合でも,原稿等の依頼時等に基本的事項(条件)について,書
面またはメールで示さなければならない。
契約 内容 適
解さ
契約 重 事項 書
説 す
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3.出版に関する契約を構成する項目
(1)紙の出版の出版許諾契約
 出版許諾契約を構成する基本的事項
①出版にあたっての著作物の利用の許諾及び(二次利用,二次的利用を含めた)利用の許諾
の範囲
②著作物の利用料
③出版期日等
 出版許諾契約を構成するその他の要素
出版物の価格や発行部数,契約の有効期間,利用料の支払時期・支払方法,著作者人格権
に関する条項,二次的利用,契約の解除等は,契約を構成する重要な事項である。
(2)電子出版の許諾契約
 出版許諾契約を構成する基本的事項
①出版にあたっての著作物の利用の許諾及び(二次利用,二次的利用を含めた)利用の許諾
の範囲
②著作物の利用料
③電子出版物の配信開始日等
 紙の出版契約に比して重要となる条項
 配信を行う電子配信事業者
 著作物の利用料(印税)の支払時期等
 電子出版物の宣伝方法
(3)執筆依頼時等に示されるべき事項
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著作物に関する事項(題名・概要,分量,入稿目安日等)
完成の完成後に結ぶ契約の種類(出版権設定契約か許諾契約か,独占契約か否か等)
出版の方法等(紙の出版か電子の出版か等)
著作物の対価
対価の支払日
その他(特に留意すべき事項等について)
※「覚書」
(執筆依頼時等に,執筆や出版に関する条件を書面またはメール等により,
記載したもの)に記載されるべき事項は,上記に限定されるものではない。
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4.わかりやすい契約のあり方
(1)わかりやすい契約のあり方のための方策
(1)契約書を形式面でもわかりやすくすること
(2)契約書のひな型及びその解説を示すこと
(3)契約の基本的事項や重要事項についてチェックリストを示すこと
(4)契約書において用いられる用語の意味を明らかにすること
(5)契約書の内容の説明を適切に行うこと
(2)契約書への契約条項の記載及び契約交渉にあたっての留意点
(1)契約書のひな型の変更は自由であること
(2)契約書において,契約当事者がどのような権利・義務を負うのかを確認すること
(3)契約書に記載されていない事項の確認を行うこと
5.出版に関する契約の種類
(1)出版に関する契約の主な契約の種類
① 権利の譲渡契約
② 出版権設定契約
③ 出版許諾契約
ⅰ)独占的出版許諾契約
ⅱ)非独占的出版許諾契約
(2)権利の譲渡契約
権利の譲渡契約の種類
 著作物に関する権利を完全に譲渡する契約
 著作権のうち,支分権の一部を譲渡する契約
 著作権について,著作者が出版社に信託譲渡をする契約
 著作権の持分の一部を譲渡する契約
 著作物を一定の期間について,譲渡する契約
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メリット
①出版社による海賊版対策が可能となる。
②出版社による国外の海賊版対策も可能となる
③出版物の権利処理が容易になる。そのため,出版物の二次的利用が促進される
デメリット
①著作者としては,出版社に権利の譲渡を行った後,出版社が行う行為についてコントロ
ールをすることができなくなる
②著作者は,自己の著作物に関する完全な権利を有しなくなる
③出版社としては,権利の譲渡を受けた場合には,法律または契約により一定の義務を負
う可能性があり,負担となる
※著作者と出版社との間で,著作者の権利の譲渡に関する契約を締結する場合には,契約書に
おいて,
「譲渡」に関する契約であることを明示すべきである。
※「買い切り」
「買い取り」
(著作物利用の対価(原稿料等)を一括で払う形式の契約)には,
著作者の権利の譲渡を通常は含まない。
※今後は,著作物の対価(原稿料等)の一括払いを意図した契約についても,
「買い切り」
「買
い取り」という用語を使用しないことの方が望ましい。
6.二次的利用
(1)二次的利用の意義
二次的利用とは,著作物について形を改めて使用される場合及び異なった媒体に使われる場合
を意味する。
※著作物について形を改めて使用される場合とは,翻訳やダイジェスト等として使用される
ことを言う。
※異なった媒体で使用される場合とは,出版物を原作として,演劇,映画,放送番組,録音,
録画等で用いられる場合を含む。
※「二次出版」や「二次使用」は「二次的利用」に含まれない。
二次出版(二次使用)とは,出版物について,判型を変えて新しく出版を行うことをい
う。新刊書(ハードカバー)として既に出版されている書籍を文庫本として出版する行
為などが含まれる。
(2)二次的利用に関する契約条項
二次的利用に関する契約条項の種類
① 著作者が,二次的利用の利用に関する処理を出版社に委任する場合
② 著作者が,二次的利用について,優先的権利を出版社に付与する場合
③ 著作者が,二次的利用について,出版社に独占的に許諾を行う場合
④ 二次的利用について,別途協議する旨の条項がおかれている場合
⑤ 二次的利用について,契約書において定めない場合
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※二次的利用に関する契約書の契約条項について,著作者及び出版社の双方で契約条項の意味
を適切に理解する。
※仮に独占的権利や優先的権利が出版社側に与えられている場合であっても,著作者と出版社
間の通知・報告等を適切に行うようにする。
※二次的利用に関する契約慣行について,引き続き検討を行っていく。
7.権利侵害への対応(海賊版対策)
権利侵害への対応(海賊版対策)に関する契約条項の種類
① 出版物の権利侵害がある場合に,出版社がその費用と負担で対処をする場合
② 出版物の権利侵害がある場合に,著作者・出版社が協力して対処をする場合
※出版物の権利侵害がある場合に,出版社がその費用と負担で対処をする場合(①)には,少
なくとも,海賊版であることが著作者または出版社に現認されている場合については,費用
が多大とならない範囲で,
出版社が海賊版提供者への警告や削除要請を行うことが望ましい。
※出版社が海賊版対策を行う義務がない場合であっても,どのような海賊版対策を行うことが
できるか著作者に説明を行った上で,その海賊版の対処にかかる費用や著作者と出版社との
間の費用負担等について著作者との間で協議をすることが望ましい。
※期間や権利の範囲を限定した譲渡契約の締結や,海賊版対策の費用を出版社が負担する代わ
りに著作者の出版社への著作物の利用料を低くするなど,海賊版対策を行いやすくするため
に,柔軟に契約上の工夫を行うことが重要。
8.今後の検討の方向性及び課題
契約における留意点をまとめたチェックポイント及び契約に関するガイドライン作成を目標
とし,実務において広く用いられる内容とすることを心がけつつ,必要となる法的・実務的側
面からの検討を次年度以降も行うものとする。
(以 上)
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