「日本と世界の海事社会の発展に向けて」 国立大学法人神戸

「日本と世界の海事社会の発展に向けて」
国立大学法人神戸大学 学長 福田秀樹
海神会会員の皆様には、お元気でご活躍のことと存じます。
日本のインフラの中で最も重要な役割を担う海上物流の最前線で活躍される皆様方、現在の
大学教育、大学院研究、総合大学としての海事科学部研究科・海事科学部が目指し実績を残
してきた事、今後の果たすべき課題、研究、役割をここに記しておきたいと思います。
神戸大学と神戸商船大学は、2003 年 10 月に統合し、神戸商船大学は「神戸大学海事科学
部」となり 2013 年秋には学部創立 10 周年を祝いました。神戸大学は 1902(明治 35)年に設
置された神戸高等商業学校に、神戸商船大学は 1920(大正 9)年に設置された神戸高等商船
学校に源流を持ちます。この二つの官立学校が国際港湾都市・神戸を支えてきたと言っても
過言ではありません。この統合によって神戸大学は国立大学法人として唯一、港を有し、海
に開かれた大学となりました。この特長を生かすのが私の使命でした。
私は化学メーカーでバイオ技術の研究に取り組み、1994 年神戸大学工学部教授に転じまし
た。自然科学分野の研究を進めていると気付くのですが、研究は細分化されて深化する。そ
の一方で、統合の視点も欠かせない。神戸大学は 2007 年、自然科学系の研究者を分野横断
して統合した「自然科学系先端融合研究環」を設けました。私がその初代環長を務めました
が、海事科学部の研究者もこの研究環に参画して大いに貢献しています。
海に開かれた大学を象徴しているのが共通教育科目(昔の一般教養科目)の「海への誘い」
です。海事科学部の練習船「深江丸」やクルージングヨット「クライナーベルク」に乗り込
んでの航海訓練は学生たちに海と自然科学への興味をかきたてています。経済学部、医学部
の学生もこの科目を取って改めて海の重要性に目を見開かされているのです。
海事科学部は乗船実習科・大学院海事科学研究科と共に海技者をはじめとする海事社会へ
の人材輩出の重責を担っています。研究大学として認定された神戸大学で海事科学研究科・
海事科学部は中心的役割を果たすよう一層の発展と活躍が求められています。このため 2013
年4月に海事科学部の学科改組・カリキュラム改編を行いました。海洋基本計画で謳われて
いる「産学官連携による海運経営、技術経営、運航管理、造船等の海事産業分野で活躍する
人材の育成や供給を促進」するのが狙いでした。カリキュラム改編に際しては、STCW2010 改
正に対応した ERM(Engine-room Resource Management)教育を正課として組み入れました。学
内 ERM 教育は,2010 年3月に深江キャンパスに設置された MEPS(Marine Engine Plant
Simulator)等の環境下で行われています。新カリキュラムを経た人材の輩出は 2017 年3月の
学部卒業、9月の乗船実習科修了、あるいは 2019 年3、9月の博士課程前期課程修士修了を
待たなければなりません。
海事科学研究科附属練習船深江丸は昨年、文部科学省の教育関係共同利用拠点制度に基づ
いて「グローバル海上輸送に関わる海事技術・海洋環境とヒューマンファクタの教育のため
の共同利用拠点」に認定されました。拠点化認定の背景には他大学の教育のため深江丸が出
動する機会を飛躍的に多くした運航計画があります。拠点化認定によって船齢 27 年を超える
深江丸の代船計画が進むことを期待しています。深江丸は練習船としての役割に加えて研究
船としての役割も実質的に担っています。海洋調査、資源探査、地球科学調査など幅広い分
野でのさらなる活躍が期待されます。
神戸大学は 11 学部、14 研究科、附置研究所、附属病院等から構成される総合大学です。
学生・教職員総数は2万人を超え、関西地域の研究・教育に貢献するとともに大きな社会責
任を負っていますが、今や全国の国立大学法人は、大学教育改革の大きな流れの中で厳しい
対応を迫られています。世界の大学との競争の中でグローバル化に対応した人材輩出も求め
られており、本学は海外留学、留学生受け入れの促進のため前後期をさらに二分する「クォ
ーター制」の導入に踏み切ります。新たな研究科の創設、学部の統合など身を切りながら教
育研究のさらなる充実も図って参ります。
大学の発展は社会の発展に直結します。そのためには産業界や卒業生による深い理解と支
援が必要不可欠です。今後とも同窓会などを通じて密接な情報交換をさせていただければと
存じます。
私は 2009 年4月から学長を務め、2015 年春に2期6年の任期が満了します。自然科学系
先端融合研究環長や学長の職務を通じて海事科学研究科・海事科学部の重要性を肌身に感じ
てきました。これからも日本と世界のため、海事社会の発展に向け努力を続ける所存です。
末筆ながら、海事科学研究科・海事科学部の教職員の方々ならびに海神会会員の皆様の
ご多幸とご健勝を心よりお祈り申し上げます。
<ご覧頂きたい参考情報>
神戸大学
http://www.kobe-u.ac.jp/
学部・大学院等ファクトブック
http://www.kobe-u.ac.jp/info/outline/factbook/index.html
特定分野(理系)のミッションの再定義結果