油価急落下での米国シェールオイル生産

IEEJ:2015 年 2 月掲載 禁無断転載
特別速報レポート
2015 年 2 月 12 日
国際エネルギー情勢を見る目(206)
油価急落下での米国シェールオイル生産
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
常務理事 首席研究員
小山 堅
原油価格の大幅低下は、国際エネルギー情勢に新たな局面をもたらし、今後の油価の行
方とその方向性を左右する様々な要因に世界の注目が集まっている。その重要なポイント
の一つが、油価急落の背景要因となった米国石油生産の大幅増大とそれを支えたシェール
オイル生産拡大が低油価環境でどう影響を受けるか、という点であることは間違いない。
様々な可能性や不確実性が存在するものの、現時点では、WTI 原油の価格が 50 ドル前後
まで落ち込んでいる状況下でも、少なくとも 2015 年については、一定の増産が続くとの見
方が多い。バッケン、イーグルフォード等の主要なシェールオイル生産地域では生産性の
高い(低価格耐性の強い)開発地域として増産傾向が続くこと、現時点での価格より高価
格でのヘッジングでキャッシュフローをカバーしている事業者も存在すること、等のため
昨年のピーク時よりは 2 割以上低下しているリグ(掘削)活動の低下にもかかわらず、生
産はそれほど落ち込まない、との見立てである。
ちなみに、代表的な予測機関である IEA、OPEC、そして米国 EIA の最新の短期見通し
では、米国の 2015 年の石油生産の対前年増加は、各々、63 万 B/D、82 万 B/D、92 万 B/D
となっており、いずれも 100 万 B/D を遥かに超える大増産となった 2014 年よりは減速す
るものの、低価格環境下でも今年は増産維持という姿を想定している。
それでは、今年を超えてさらに中期的な将来はどうなるのか。原油価格の先行きも含め
て、より大きな不確実性が存在するものの、この点について、2 月 10 日に IEA から 2020
年までの国際石油市場を展望した「Medium-Term Oil Market Report 2015」が発表された
ことが注目される。原油価格急落が発生してから、上記 3 機関の中で石油市場についての
中期(および長期)見通しとしては最初に発表されたものであり、低価格のインパクトが
どう分析されているかを見る上で重要な参考資料となるからである。
まず、この最新の中期見通しでは、需給分析の価格前提として、例年と同様に、最近時
点での先物価格曲線の形状を参考に、IEA の輸入原油価格は 2015 年の 1 バレル 55 ドルか
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ら 2016 年 62 ドル、そして 2020 年の 73 ドルまで緩やかに上昇するとの考えを採用してい
る。なお、昨年 6 月に IEA が発表した前回の中期見通しでは、価格前提は 2015 年 102 ド
ル、2020 年 87 ドルとなっており、今回は大幅な下方修正である。IEA はこの報告の中で、
米シェールオイルの生産は基本的には価格感応度が高い、と位置付けており、前提となる
原油価格が引き下げられる中では、米シェールオイル生産及び米国の石油生産全体の見通
し下方修正されても不思議はない。
実際、今年の中期見通しにおいて、米シェールオイル生産見通しを以前より低めに評価
したとの記述はあるが、今後 2020 年に至る生産を見ると趨勢としては緩やかながら(前提
となる価格の上昇も影響し)増加する傾向が変わらない見通しを示している。シェールオ
イル生産に関しては、2014 年の 360 万 B/D から 2020 年には 520 万 B/D に増加し、その
他 NGL(天然ガス液)の増産効果も相まって米国の石油生産は同期間で 1181 万 B/D から
1396 万 B/D まで増加する、と見ているのである。
シェールオイル生産の将来については、中小規模の生産・開発業者が多いことから、そ
の財務上の脆弱さ等の問題が上記の見通しにとってダウンサイドリスクとなることもこの
報告では指摘されている。しかし同時に、今回の油価低下を契機としたコスト削減・合理
化の可能性、さらなる技術開発等によるシェールオイル開発の生産性向上等が奏功して着
実なシェールオイル生産拡大のドライバーとなる可能性も指摘されている点が興味深い。
本報告では、2020 年時点での米国の石油生産のうち 63%が開発の経済性を見る上での「ブ
レークイーブンコスト」が 50 ドル以上となるとの分析も紹介している。従って、まさに今
後の価格の展開次第で、生産量は上下に振れることもあり得るだろう。
米国の石油生産、特にシェールオイルは、生産コスト・相対的に小さな必要初期投資額・
継続的な掘削活動の必要性等の特徴から、今後も原油価格の動向に反応することが予想さ
れる。一定以上の高価格となれば、その生産が刺激され供給拡大を通して需給緩和効果を
導き、逆に一定以下の低価格となれば、生産が停滞して需給引き締め効果を導く、という
役割を中期的なサイクルで果たす可能性がある。短期的な需給調整役としての「マーケッ
トメーカー」ではないが、中長期的な観点での「需給バランサー」的な役を果たすと見て
も良いのかもしれない。
上述の通り、油価急落以降、いまだ中長期の石油市場における需給両面での反応に関し
ては、世界的に分析が出揃っている状況とは言い難い。本年はこれから、様々な予測機関
で、この問題を取り上げていくことになるものと思われる。中長期的に国際石油市場がど
のような方向に向かうのか、その過程における主要な市場プレイヤーの果たす役割をどう
見るか、未だ不透明で不確実な要素が多く残る中、見極めのための深い分析が必要となる。
以上
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