3.本数調整伐前後の林況や下層植生等の変化の把握 3-1 流域レベル 平成 21~22 年に岐阜県福岡地区、広島県上筒賀地区、福岡県中元寺地区で現地調査を行 った。現地調査の項目と内容を表 3-1 に示す。現地調査箇所の位置を図 3-1~3-3 に、現地 調査結果を表 3-2~3-4 に示す。 表 3-1 現地調査項目と内容 調査項目 調査箇所 概況把握 階層構造 毎木調査 天空写真 下層植生 林床状況 表層土壌 (リター層) 調査内容 GS1(2 箇所) 、GS2(2 箇所) 、MR3(3 箇所) 。岐阜県が設定した標準地にて実 施(広葉樹プロット〔№広 1 は別〕 ) 。 標準地の位置(緯度・経度〔GPS±5m精度〕 )、地質、地形(標高・斜面方位・ 平均傾斜) 、林種、樹種を既往資料や現地計測。 標準地内の平均的な高木層(人工複層林の場合は上木) ・亜高木層・低木層(人 工複層林の場合は林内植栽木も含む) ・草本層の各階層区分状況(樹高範囲・ 被覆率・出現種・優占種)を現地調査。なお、階層状況をスケッチして簡単な 階層図を作成。 標準地内 100 ㎡の円形プロットの毎木調査(樹種・樹高・胸高直径〔林内植栽 木も含めた植栽木全てと胸高直径 10cm 以上の広葉樹が対象〕 )を実施。また、 調査結果より本数密度、材積、Ry(収量比数)を計算。 標準地内の平均的な樹冠被覆箇所において魚眼レンズ(h1.2m位置)の天空写 真を撮影。その写真より開空度(%)を計測。 標準地内の平均的な 4 ㎡の四角プロットにおける草本層(高さ 1.2m以下が対 象)の出現種別被覆率及び全体の被覆率(草本層のみ及び草本層+低木層)を 現地調査。 標準地内の平均的な林床箇所の L 層(落葉層)被覆率、裸地率、表面侵食状況 を現地調査。 林床状況調査箇所の表層土壌を深さ 30cm 程度、幅 40cm 程度に堀って表層土壌 断面を整形して、A0 層(落葉腐植層)の L 層(落葉層) 、F 層(有機物移行層) 、 H 層(有機物層)の層位・層厚と、A 層(腐植の多い鉱質土壌層)の層位・層 厚・土色・土壌構造を現地調査。また、表層土壌断面をスケッチし、簡単な土 壌断面図を作成。 層位 L層 A0 F層 層 H層 (A1 層) A 層 (A2 層) 表層土壌断面層位の説明 説明 落葉落枝を主体とするリター層(落葉層) 植物組織を認める有機物層 植物組織を認めない有機物層 腐植の多い鉱質土壌層 腐植のやや少ない鉱質土壌 状況に応じて区分する 層 23 図 3-1 岐阜県福岡地区における現地調査地の位置 標準調査地位置図 №A1 №6 №16 №53 №58 №66 №15 №65 標準調査地位置 №67 図 3-2 広島県上筒賀地区における現地調査地の位置 24 標準調査地位置図 №.E4-1 №.E4-2 №.4-2 №.1 №.2 標準調査地位置 №.4-1 図 3-3 福岡県中元寺地区における現地調査地の位置 25 表 3-2 現地調査結果の整理(本数密度や材積、RY、下層被覆率、平均 L 層厚等) 現地調査結果 調査箇所 № GS1 流域 施6 スギ・ヒ ノキ混広 本数 密度 (本 /ha) 平均 樹高 (m) 平均 胸高 直径 (Cm) 実材 積 (m3 /ha) RY (収量 比数) 開空 度 下層 植生 被覆 率(%) L層 被覆 率 (%) L層 厚 (㎝) 1100 22.2 25.8 756.0 0.80 18.6 50 90 1.5 1300 16.5 23.2 462.0 0.78 25.4 60 70 0.5 1000 20.8 28.4 634.0 0.74 19.8 80 95 1.5 (下ヒノキ) 対7 GS2 流域 樹種 標8 ヒノキ スギ (下ヒノキ) 対4 ヒノキ 1700 13.3 18.0 282.0 0.75 28.8 80 90 0.5 残7 スギ・ヒ ノキ混広 1400 15.9 18.4 369.0 0.73 20.3 80 95 1.5 (下ヒノキ) 備考 スギ 5:ヒ ノキ 4:サ ワラ 2 混交 ヒノキ1 割 混交 スギ 6:ヒ ノキ 4 混交 ヒノキ 3: サワラ 1: MR3 ヒノキ・ 施 スギ 1 混交 21.2 27.4 329.0 0.54 22.4 90 100 2.0 流域 スギ混交 500 12 、スギ・広 (下ヒノキ) 葉樹の落 葉多し その他広 ミズナラ 広1 1600 8.0 15.3 159.0 0.30 23.9 100 100 2.0 葉樹 優占林 (注)本数密度・平均樹高・平均胸高直径・材積・RY(収量比数)は、高木が対象。また材積は 「立木幹材積表西日本編(日本林業調査会:1970) 」の材積式を用いて単木毎(樹種別)に算 出して集計。RY(収量比数)は、 「人工林林分密度管理図(日林協:1978) 」の高木層の優 占種に該当する密度管理図を用い、本数密度と平均樹高から計測。 26 表 3-3 広島県上筒賀地区における概括的な現地調査結果(林況・下層植生・表層土壌) 調査 箇所 観測 流域 №16 №1 №A1 A1 №6 A2 №58 A2 №66 B2 №67 C №65 C 樹種・林種等 平均 樹高 (m) ヒノキ・スギ 混交林 9.2 (人工林) ヒノキ林 20.7 (人工林) スギ林 22.8 (人工林) ブナ・ミズナ ラ 広 葉 樹 林 13.2 (天然性林) ヒノキ・スギ 混交林(人工 8.3 林)(下ヒノ キ) スギ林 9.8 (人工林) スギ・ヒノキ 混交林 (人工林) 7.9 平均 胸高 直径 (Cm) 本数 密度 (本 /ha) 材積 (m 3 /ha) RY (収 量比 数) 下層植 生被覆 率(%) L層 L層 被覆 厚 率 (Cm) (%) 19.0 1200 155 0.39 70 95 1.5 風倒被害 後植栽 34.2 500 472 0.60 70 100 2.0 本数調整 伐実施林 34.4 900 870 0.75 60 85 1.0 壮齢林 16.9 2000 389 0.75 35 100 2.5 天然生林 17.6 1300 130 0.36 90 95 1.5 15.6 2600 251 0.69 85 90 1.5 12.1 1700 86 0.44 70 90 1.5 備考 風倒被害 後植栽( 広葉樹進 入多い) 風倒被害 後植栽 風倒被害 後植栽( 広葉樹進 入多い) ヒノキ・ヤマ ザクラ等針 風倒被害 №53 D 10.0 12.1 2000 142 0.59 75 100 2.5 広混交林 後植栽 (人工林) ヒノキ・ミズ メ等針広混 風倒被害 №15 D 9.8 16.1 2000 274 0.57 80 95 2.0 交林 後植栽 (人工林) (注)平均樹高・胸高直径、本数密度、材積、RY は、高木のみが対象。下層植生被覆率は低木・ 草本層が対象。L 層とは落葉層のこと。また材積は「立木幹材積表西日本編(日本林業調査 会:1970) 」の材積式を用いて単木毎(樹種別)に算出して集計。RY(収量比数)は、 「人 工林林分密度管理図(日林協:1978) 」の高木層の優占種に該当する密度管理図を用い、本数 密度と平均樹高から計測。 27 表 3-4 福岡県中元寺地区における概括的な現地調査結果(林況・下層植生・表層土壌) 調査 箇所 観測 流域 樹種・ 林種等 №1 W1 スギ林 (人工林) (下スギ) 23.4 35.5 400 407 0.61 80 90 1.5 本数調整伐 実施直後・ 複層林 №2 W1 ヒノキ林 (人工林) (下ヒノキ) 18.7 33.1 600 467 0.70 80 80 1.0 本数調整伐 実施直後・ 複層林 E1 ヒノキ林 (人工林) (下スギ) 20.9 41.4 300 379 0.56 70 90 1.0 本数調整伐 実施直後・ 複層林 E1 スギ林 (人工林) (下スギ) 20.6 44.6 300 401 0.47 60 90 2.5 本数調整伐 実施直後・ 複層林 E4 スギ林 (人工林) 19.1 22.3 2000 753 0.95 5 70 1.0 E4 ヒノキ林 (人工林) 17.5 28.6 1100 595 0.83 50 80 0.5 № 4-1 № 4-2 № E4-1 № E4-2 平均 樹高 (m) 平均 胸高 直径 (Cm) 本数 密度 (本 /ha) 材積 (m 3 /ha) Ry (収 量比 数) 下層 植生 被覆 率 (%) L層 被覆 率 (%) L層 厚 (Cm) 備考 (注)平均樹高・胸高直径、本数密度、材積、RY は、上層木のみが対象。下層植生被覆率は低木・ 草本層が対象。L 層とは落葉層のこと。また材積は「立木幹材積表西日本編(日本林業調査 会:1970) 」の材積式を用いて単木毎(樹種別)に算出して集計。RY(収量比数)は、 「人 工林林分密度管理図(日林協:1978) 」の高木層の優占種に該当する密度管理図を用い、本数 密度と平均樹高から計測。 28 3-2 斜面レベル 本数調整伐の実施の有無により浸透能がどの程度異なるかを比較するため、本数密度の異な る2つの林分において、自然降雤により発生する表面流と土壌水分の観測を行った。 比較対象とする林分は、林種や立地・気象等、各種条件が類似していることが望ましい。し かし、調査地の候補地として岐阜県福岡地区と福岡県中元寺地区のヒノキ人工林を検討したと ころ、現地の人工林は概ね本数調整伐が実施されており、水文観測流域内にあり、かつ本数調 整伐実施箇所と未整備箇所が数 100m未満の比較的近距離にある場所を選定することは困難で あった。そのため代替措置として、福岡県中元寺地区にある本数密度と下層植生の被覆状況の 異なるヒノキ林において調査を実施した。 調査を行うにあたり、小面積皆伐地に隣接していて林内が明るく、比較的本数密度の低い場 所を便宜上「間伐区」とし、同じ斜面ではあるものの林縁から離れているために光が入らず暗 い場所を「対照区」として扱うこととした。 間伐区と対照区の林分の状況を表 3-5 に示す。間伐区と対照区はほぼ隣接しており、標高・ 傾斜・斜面方位はほぼ同じである。どちらもヒノキ林で、間伐区の方が対照区よりもやや本数 密度が低い。間伐区は日当たりが良く、木本類や草本類などの下層植生が繁茂している。一方、 対照区はほとんど下層植生がなく、落葉落枝が散見される程度で土壌や石礫が地表に露出して いる。 表 3-5 浸透能調査地の林分状況 間伐区 対照区 林種 ヒノキ林 ヒノキ林 本数密度 1,400 本/ha 2,000 本/ha 平均樹高 16.0m 17.0m 平均胸高直径 19.9cm 18.7cm 下層植生の植被率 85% 0% 標高 390m 380m 傾斜 38.2° 38.4° 斜面方位 北 北 間伐区と対照区で実施した植生・土壌の調査結果を以下に示す。 (1)植生状況 1)林分構造 間伐区と対照区にそれぞれ 10m×10m の調査プロットを設定し、毎木調査を行った。調査結 果を表 3-3 に、林内の状況を写真 3-1 に示す。 29 表 3-6 毎木調査結果 № 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 樹種 ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ 平均 間伐区 DBH(cm) H(m) 18.7 13.2 21.3 17.2 18.4 15.0 14.2 13.1 12.5 10.1 29.3 17.9 18.2 16.2 19.0 14.9 24.2 18.7 19.8 16.8 18.6 16.6 27.5 19.4 20.3 17.6 16.7 17.0 19.9 備考 № 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 16.0 樹種 ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ ヒノキ 平均 対照区 DBH(cm) H(m) 備考 20.0 17.6 21.1 17.3 15.0 15.6 19.0 17.6 19.4 17.4 19.0 17.3 18.5 17.4 21.5 18.8 18.9 18.2 14.0 15.7 13.7 15.3 17.0 16.9 24.1 19.0 18.7 17.4 11.0 12.2 枯死 23.0 19.6 20.5 18.0 25.5 18.2 14.2 13.6 19.0 17.8 18.7 17.0 写真 3-1 浸透能試験地の林分構造(左:間伐区、右:対照区) 2)下層植生 間伐区と対照区において、それぞれ代表的な下層植生の状況をあらわしていると思われる場 所に 2m×2mの調査コドラートを設定し、草本層及び低木層の出現種、被覆率を調べた。調査 結果を表 3-7 に、状況を写真 3-2 に示す。 表 3-7 下層植生調査結果 間伐区 下層植生全体の被覆率 低木層+草本層 草本層 下層植生(低木層)の種別被覆率 下層植生(草本層)の種別被覆率 35% 35% ヒサカキ3% スゲsp 25%、シシガシラ 15%、 キジノオシダ+、ベニシダ+、 フユイチゴ+、テリハノイバラ+、 シロダモ+、コガクウツギ+、 トウゲシバ+ 30 対照区 0.1%未満 0.1%未満 - スゲsp+ 写真 3-2 浸透能試験地における下層植生の生育状況(左:間伐区、右:対照区) 3)地表面の浸食状況 落葉による地表面の被覆率は、間伐区 85%、対照区 40%で、間伐区の落葉はヒノキのほかに 草本のものがみられた。一方対照区の落葉はほぼ全てがヒノキで、沢沿いに生育するスギの葉 が少し混在していた。プロット内で雤滴による地表面の浸食の有無を観察したところ、間伐区 では表面侵食はみられず、対照区では侵食している箇所がみられた。 写真 3-3 落葉落枝による地表面の被覆状況(左:間伐区、右:対照区) (2)土壌の状況 間伐区と対照区の土壌水分を測定するため、深さ 40cm 程土壌を掘削した。土壌断面を観察 すると、間伐区は対照区よりも色が明瞭に分かれており、硬さを比べると間伐区の方が若干軟 らかい。細根はどちらの断面も深さ 30cm 以上までみられた。 写真 3-4 土壌断面の状況(左:間伐区、右:対照区) 31
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