5 モンゴルの森林と林業42

平成 22 年度自由貿易協定等情報調査分析検討事業
モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
プロマーコンサルティング
5
モンゴルの森林と林業42
5.1
概況

森林資源
モンゴルの森林は北部のロシア国境沿いに集中しており、シベリアのタイガ
(針葉樹林)
から中央アジアのステップに移行する地域に位置している。森林面積は北部の針葉樹林・
広葉樹林約 1,420 万ヘクタールとゴビ砂漠の潅木林約 460 万ヘクタールを合わせても全体
で 1,880 万ヘクタールと国土面積の 12%に過ぎず、モンゴルの森林資源は非常に限られて
いる。また、道路インフラが未整備のため、アクセスが困難な森林も多い。
図 22 モンゴルの森林地域
Larch
Pine
Spruce
Fir
Birch
Fire damaged
Saxual
出所:World Wide Fund for Naure(2002) “Mongolian Forest Exonsystems”
1) 国際農林業協力協会 (2002)「モンゴルの農牧業」
2) WB (2004) “Mongolia Forestry Sector Review”
3) World Wide Fund for Nature (2002) “A Report on Legal and Illegal Timber Trade of Mongolia”
4) FAO ウェブサイト
42
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モンゴルの森林は多くが保護林として指定されており、商業用に使用できる森林はごく
限られている。2010 年には森林全体の 85%に当たる 1,600 万ヘクタールが国立公園やゴ
ビ砂漠の潅木を含む保護林と指定されている。残りの 15%(290 万ヘクタール)が伐採が
許可された商業林であり、商業林はロシア国境沿いセレンゲ県とフブスグル県に集中して
いる。
表 27 森林面積と保護林・商業林の割合(2010)
単位:千ヘクタール
森林区分
県・市
針葉樹林・広葉樹林
アルハンガイ
ブルガン
セレンゲ
トゥブ
フブスグル
ヘンティー
ウブルハンガイ
ドルノド
ザブハン
ウブス
ゴビ・アルタイ
オルホン
バヤンウルギー
バヤンホンゴル
ウランバートル
小計
潅木林
ドンダゴビ
ドルノゴビ
ウムヌゴビ
ゴビ・アルタイ
バヤンホンゴル
ホブド
ウブルハンガイ
小計
合計
保護林
商業林
合計
863
1,843
870
1,299
3,544
1,528
171
189
609
186
9
21
68
24
116
11,339
145
140
1,355
146
665
256
0
0
169
0
0
0
0
0
0
2,877
1,009
1,983
2,226
1,445
4,209
1,784
171
189
778
186
9
21
68
24
116
14,216
58
195
1,174
1,926
561
644
76
4,633
15,972
0
0
0
0
0
0
0
0
2,877
58
195
1,174
1,926
561
644
76
4,633
18,849
出所:森林管理局資料を元に作成
モンゴルには約 150 種類の樹があるとされているが、種類別ではカラマツが 77%と最も
多く、次いでシベリアマツ(9.3%)
、樺の樹(6.6%)、マツ(6.3%)等となっている。
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表 28 樹種別森林資源(2009)
単位:千㎥
種類
県・市
合計
%
アルハンガイ
バヤン・ウルギー
ブルガン
バヤンホンゴル
ゴビ・アルタイ
ドルノド
トゥブ
ヘンティー
ザブハン
ウブス
セレンゲ
ウブルハンガイ
フブスグル
オルホン
ウランバートル
ドンダゴビ
ドルノゴビ
ウムヌゴビ
ホブド
カラマツ
マツ
1,074,903
77.0
86,723
6.2
シベリ
アマツ
129,860
9.3
101,220
3,888
152,869
1,972
1,070
1,158
74,229
107,196
55,410
18,448
75,823
14,532
458,662
1,873
6,554
-
6,535
2,071
10,051
8,118
58,056
625
1,267
-
2,128
2
9,046
48,859
12,638
437
206
35,486
2,923
15,792
2,344
-
トウヒ
モミ
樺
アスペン
ポプラ
エレ
低木
潅木
4,264
0.3
367
0.0
91,757
6.6
2,532
0.2
1,801
0.1
88
0.0
1,542
0.1
1,527
0.1
50
73
571
15
942
19
1,533
850
213
-
364
3
-
284
4
19,571
3,562
7,545
8,546
32
46,686
55
4,968
99
405
-
323
92
180
3
69
116
862
447
229
184
27
-
38
44
256
78
453
2
857
2
69
3
-
3
31
38
17
-
175
39
288
7
29
106
430
116
101
0
180
71
-
122
522
38
29
147
542
128
出所:モンゴル森林管理局資料を元に作成
森林管理局によれば、モンゴルの森林面積は過去 10 年間で約 10 万ヘクタール減尐して
おり、特にトゥブ県、ヘンティー県などのウランバートル周辺では、インフラが整備され
森林へのアクセスが容易であることから減尐が目立っている。また、モンゴル政府は温暖
化対策と環境保護のため、森林保全に力を入れており、保護林の割合を増やしている。今
年の 9 月には「国家安全保護方針(The Concept of National Security)
」が見直され、こ
の中で自然林の面積を 2%増加させることを目標に定めている。
モンゴルにおける木材の主な使途は国内消費用の薪と丸太の生産である。薪は主に家庭
での暖房や薪用として、また丸太は製材に加工されて建材等として利用される。森林管理
局によれば、モンゴルでは年間平均約 80 万㎥の森林を伐採しており、その内 69 万㎥が燃
料用、11 万㎥が製材用である。

違法伐採
モンゴルでは違法伐採が多く報告されており、モンゴル政府の調査によれば、年間約 10
万㎥規模の違法伐採が行われている。また、2004 年に発表された世界銀行(World
58
合計
1,395,364
100.0%
104,170
4,075
188,637
2,100
1,595
7,145
141,555
138,257
56,906
19,152
219,170
17,550
481,349
1,973
10,884
29
147
542
128
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Bank-WB)の調査報告書43では、違法伐採の規模を 40 万㎥~240 万㎥と推計し、法定伐
採量を大きく超える量の木材が伐採されていると指摘している。個人が燃料や家畜用の柵、
ゲル用の建設資材として伐採する他、数人のグループがビジネス目的で大量に運び出し、
国内市場で販売しているケースもある。森林管理局によれば、これまでに 3,000~4,000
件が摘発されているが、ここ 2~3 年は警察による取締りの強化等の対策により減ってきて
いる。

管理体制
森林の管理は森林管理局の管轄で、森林管理局は各県の伐採量と植樹面積を決定する他、
森林火災、病虫害対策、違法伐採対策等を行っている。現在の森林管理局は 2007 年の省
庁再編に伴い新しく設置された機関であるが、森林管理局の下には 17 の森林管理機関が
あり、県の規模に応じて各県に 1 つもしくは複数の県にまたがって設置されている。森林
管理機関は県レベルでの伐採許可証の発行業務等を行っている。
現在 70 社が森林管理局を通じて自然環境・観光大臣から伐採の許可を得ており、伐採
を認可された企業は伐採量に応じて植林を行う義務を負う。この他に、国家予算により設
立された 150 社の植林企業があり、主に北部の森林地帯とゴビ砂漠地域で植林を行ってい
る。
また、近年は違法伐採を防ぎ、森林管理を改善するため、行政組織と住民組織とのパー
トナーシップによる森林管理も進められている。現在約 800 のパートナシップが結ばれて
おり、全体で約 200 万ヘクタールの森林を管理している。住民組織は落ち木等を集め、燃
料用の薪として販売する他、木の実や果物の販売も行っている。
5.2
森林・林業政策
モンゴルの森林資源は限られており、林業政策も森林保全や砂漠化防止といった環境政
策の中に位置付けられる。モンゴル政府は 1998 年に植林による砂漠化の予防や林業・製
材所の技術向上について定めた「森林に関する国家プログラム」を策定したが、同プログ
ラムが 2010 年で終了するのを機に、現在「森林管理国家計画」及び「国家森林政策」を
作成中であり、2011 年からの開始を予定している。政策の柱となるのは、気候変動に対す
る対策、森林保全と森林面積の拡大に係る技術的検討と実施、及び木材の加工率の向上(加
工工程で余った木を活用すること)である。
43
WB (2004) “Mongolia Forestry Sector Review”
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モンゴルにおける農林水産業と農林水産政策等の調査・分析
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加工業に特化した政策としては、2009 年に策定された前掲の「モンゴル産業化プログラ
ム」があり、現在各セクター毎に合計 7 つのサブプログラムを作成中であるが、林業分野
のサブプログラムに関しては 2011 年の国会で承認を得る予定である。サブプログラムの
主な内容は、倒木を活用した加工業の促進、伐採企業による植林の実施、木材加工製品の
輸出、原料の輸入に係る VAT の免除、建築用に加工した木材を輸出するための法的枞組み
の整備等である44。また、加工技術を改善し、現在の低い木材加工率を改善することも目
標としている。
5.3

木材産業
木材加工業と輸出
モンゴルの林業は社会主義時代に旧ソ連を主な市場として発達し、北部森林地帯を中心
に木工所、製材所、家具・建具製造所等が設立された。市場経済化による国有企業の私有
化と旧ソ連市場の崩壊により、1990 年代以降急速に衰退したが、2000 年代に入って徐々
に回復してきている。
木材加工産業協会によれば、現在林業及び木材加工に携わる企業は個人事業主を含め約
600 社ある。家具や建具、楽器等も製造されているが、木材加工は建築材料やゲル用の建
材といった半加工品が多く、
それ以上の加工はあまりできていないのが現状である。ただ、
MOFALI によれば、木材加工業者がソフトローンを利用して加工機材等に投資できるよう
になったことを背景として、ここ数年木材加工品の生産量は伸びてきている。
現在、モンゴルの林業はほとんどが国内市場に頼っており、林産物の輸出はごくわずか
である。モンゴルは 1980 年代半ばには年間 12 万㎥の丸太を輸出していたが、市場経済移
行後の 1990 年代半ばには 1/3 程度にまで減尐した。1996 年以降丸太の輸出量が拡大し、
1998 年には 27 万㎥に達したが、森林や国内産業の保護のため、モンゴル政府は 1998 年
に森林税法を施行し、丸太及び製材(丸太を板状に切ったもの及び角材)の輸出に US$150/
㎥の輸出税を課し、実質的に丸太の輸出を禁止した(加工品、製品は除く)
。MOFALI に
よれば、輸出税はしばらく続けられる見込みである。
これまでに輸出実績がある木材加工品としては、割り箸、まな板、ゲル建材やゲルのた
めの家具等で、割り箸やまな板の輸出先は主に日本、韓国や中国等であるが、木材加工産
業協会によれば、韓国、中国向けは最近では尐なくなっている。
44
現在、板の状態の木材の輸出には高い関税がかけられているため、加工製品として輸出税がかからな
いように法改正を行う
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5.4
林業分野の重要性と制約要因
モンゴルの森林資源は限られており、森林管理体制も 2007 年に森林管理局が設置され
て徐々に整えられつつあるという段階で、まずは森林の適正な管理が課題とされている。
また、モンゴル政府は原材料の輸出に制限をかけて国内産業の育成を図っており、加工技
術は改善されてきているとは言え、木材加工産業は発展途上である。加工技術の更新や加
工工程で出る廃材の利用率の向上の他、現在 5,000 万㎥あると言われる倒木を整理し、製
品化していく事などが課題とされている。
モンゴルの森林・林業が抱える制約要因として、以下の 4 点が挙げられる。

火災や害虫被害による森林面積減尐

違法伐採

森林にアクセスするためのインフラの未整備

木材加工技術の低さ
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