(PART2権利関係) 抜粋

第 1 章 制限行為能力者
Scen1 約束は守るが原則。例外
事例 ○or×?
未成年者 A は、宅建業を始めようと事務所を借りる契約をした。しかし、賃料を支払えるあてはな
い。それでも契約した以上、A は家賃を支払わなければならない。
1.契約を守らなくても許される者がいる
マンションの売買契約を結んだのであれば、売主はマンションを引き渡す義務があり、買主は代
金を支払う義務があります。約束は守るのが原則です。ところが、未成年者や加齢や病気で判断
能力が衰えた者は契約等をしても、後で取り消すことが認められています。契約(約束)を守らなく
てもよいのです。未成年者が考えもなしにバイクを買う契約をした、お年寄りが、家が傷んでいると
いう言葉を信じて不必要なリフォーム契約をした、といった場合にまで約束を守るというのは気の毒
だと法律は考えています。この約束を守らなくてよい者のことを制限行為能力者といいます。制限
行為能力者には未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の 4 つがあります。
2.どうやって保護するのか
制限行為能力者を保護する方法は 2 つあります。
①サポートする保護者を付けます。未成年者には法定代理人(通常は親)、成年被後見人には
後見人という保護者を付け、制限行為能力者に代わって契約をできるようにしました。また、②制限
行為能力者が単独で契約した場合には取り消すことができるとしました。不利な契約をしても取り
消すことを認めています。
3.取り消されるまでは有効
取り消すことができる、というのは取り消さなくてもよいということです。制限行為能力者が行った行
為でも、損ではない行為もあるからです。取り消すことができる契約も、取消という行為があるまで
は有効です。取り消すことのできる契約を保護者が追認(契約の事後承認)すれば、その契約は確
定的に有効となります。一方、取り消されれば契約は初めからなかったことになります。
4.取り消すことができる契約と無効は違う
取り消すことができる契約とは別に、そもそも無効な契約というものもあります。これは最初から効
果がない契約です(取消という行為は不要)。後で勉強する錯誤(勘違いのこと)や、公序良俗に反
する契約は無効な契約にあたります。
事例解答 ×
A は未成年者です。判断能力が不十分であり保護する必要があります。法定代理人(通常は親)
の同意を得ないで行った事務所の賃貸借契約は取り消すことができます。
1
Scene2 未成年者は保護される
事例 ○or×?
未成年者は、婚姻をしているときであっても、その法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、
取り消すことができる。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りで
はない。
(H20-12)
1.法定代理人の代理権と取消権
未成年者は 20 歳未満の者のことです。通常は親(親権者)が保護者になります。親権者や未成
年後見人(親が死亡している場合の保護者)は未成年者に代わって法律行為ができます(代理権)。
また、法人(会社)が未成年後見人となることもあります。このように親権者には代理権があるため、
法定代理人とも呼ばれます。未成年者は判断能力が未熟なので、法定代理人の同意を得ないで
契約をした場合には取り消すことができます。未成年者本人が取り消してもよいし、法定代理人が
取り消してもかまいません(取消権)。
2.法定代理人の同意権と追認権
未成年者が契約しようとしても相手方は契約しないでしょう。これでは未成年者にとって不都合な
こともあります。そこで、未成年者がした契約でも取り消せない場合を法律で定めました。まず、法
定代理人の同意を得ている契約は取り消せません(同意権)。また同意権を得ていない契約であっ
ても、法定代理人が追認した場合にはその契約は取り消せなくなります(追認権)。
3.法定代理人の同意なしでもできる行為
未成年者であっても例外的に単独でできる行為があります。
①単に権利を得、義務を免れる行為
②法定代理人が処分を許した行為
③法定代理人から営業の許可を受けた未成年者が、その営業に関して行う行為
①は贈与を受ける、借金をまけてもらうといったことです。未成年者が損をする行為ではないの
で法定代理人の同意は不要です。②は親からもらったお小遣いを使うという場合です。③は未成
年者に、親が宅建業に関する営業の許可を与えると、未成年者は宅建業に関しては成年扱いされ
るということです。未成年者が宅建業に関して結んだ契約は取り消すことができなくなるため、お客
さんも安心して未成年者と取引することができます。
4.婚姻したら成年として扱われる
20 歳未満でも婚姻した場合には、成年と扱われます(成年擬制)。男性は 18 歳、女性は 16 歳
で婚姻できます(親権者の同意が必要)。婚姻して親から独立しているのに、親の同意なしでは家
も借りられない、大きい買い物もできないというのでは不都合が生じます。
事例解答 ×
未成年者がその法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、原則として取り消すことができま
す。しかし、未成年者が婚姻をしたときは成年者とみなされます。よって、婚姻をした未成年者は、
未成年であることを理由に単独で行った法律行為を取り消すことはできません。これは、単に権利
を得、又は義務を免れる法律行為についても同じです。
2
Scene3 判断能力のない成年も保護される
事例 ○or×?
成年被後見人が成年後見人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合、成年
後見人は、当該意思表示を取り消すことができる。
(H14-1)
1.成年被後見人
成年被後見人とは病気や加齢によって判断能力をなくしてしまった者です。成年後見人が保護
者となり代わりに契約したり(代理権)、成年被後見人がした契約を取り消したり、追認します。成年
被後見人は判断能力がほとんどないので、ほとんどの行為を取り消すことができます。たとえ成年
後見人が同意した行為であっても取り消すことができます。また単に権利を得、義務を免れる行為
でも取り消すことができます。
2.日常生活に関する行為は取り消せない
成年被後見人の行為でも、日用品の購入等日常生活に関する行為は取り消せません。日用品
の売買まで取消を認めると、成年被後見人がパンを買おうと思っても、パン屋が取消をおそれてパ
ンを売ってくれないということになってしまい、かえって成年被後見人にとって不都合だからです。
3.被保佐人、被補助人
被保佐人は成年被後見人より少しだけ判断能力がある者くらいに思って下さい。判断能力が弱
いので「重大な行為
をする場合には保佐人の同意又は家庭裁判所の許可が必要となります。「重大な行為」とは借金
をする、保証人になる、財産の贈与、相続、不動産の売買、建物の建築の依頼、長期の不動産賃
貸借契約を結ぶ等です。被補助人は被保佐人よりも判断能力があります。とはいえ、一般の者と比
べて判断能力が劣るので重大な行為のうち家庭裁判所が指定したものについては、補助人の同
意又は家庭裁判所の許可が必要となります。被保佐人、被補助人は同意や許可を受けずに行っ
た行為を取り消すことができます。
事例解答 ○
成年被後見人がなした法律行為(日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く)は、成年後
見人の同意があっても取り消すことができます。なぜならば、成年後見人には同意権がないからで
す。
3
Scene4 保護者ができること
事例 ○or×?
被保佐人が保佐人の事前の同意を得て土地を売却する意思表示を行った場合、保佐人は、当該
意思表示を取り消すことができる。
(H15-1)
1.保護者の権限
制限行為能力者の保護者ができることについて整理しましょう。取消権と追認権は皆、持ってい
るので代理権、同意権があるかないかが重要です。
制限行為能力者
保護者
保護者の権限
代理権
同意権
取消権
追認権
未成年者
親権者 or 未成年後見人
○
○
○
○
×
成年被後見人
成年後見人
○
○
○
被保佐人
保佐人
△
○
○
○
被補助人
補助人
△
△
○
○
*△:家庭裁判所の審判により付与されることがあります。
2.成年後見人の権限
成年後見人には同意権はありません。判断能力のほとんどない成年被後見人は保護者の同意
どおりに行動するかわからないため、同意しても無意味なのです。したがって成年被後見人に代
わって法律行為をする代理権という形で保護していきます。
3.保佐人、補助人の権限
被保佐人、被補助人は一定の判断能力を有します。本人の意思を尊重しようということで、なるべ
く同意権という形で保護していきます。代理権は家庭裁判所の審判で認められた場合のみです。
4.未成年者の法定代理人の権限
未成年者の法定代理人には代理権と同意権の両方が認められています。これは未成年者でも
年齢により判断能力の幅が広いからです。一定の判断能力を有する未成年者には同意権という形
で保護していくのが望ましいのです(自己決定権の尊重)。ところが 5 歳程度だと法律的判断は全
くできないので代理権で保護していくことになります。
事例解答 ×
被保佐人は保佐人の同意があれば、有効に土地を売却する意思表示をすることができます。した
がって、保佐人の事前の同意を得ている以上、保佐人は当該意思表示を取り消すことができませ
ん。
4
Scene5 制限行為能力者と取引した場合
事例 ○or×?
成年被後見人である A が、B 不動産と土地の売買契約を結んだ。B は、(成年後見人である)C に
対し 1 か月以内に A の行為を追認するか否かを確答すべきことを催告することができ、その期間
内に C が確答しなかった場合には、C は A の行為を取り消したものとみなされる。
(S60-9)
1.制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者を保護するために行為の取り消しが認められていますが、無制限に認められる
のでは安心して取引ができません。そこで制限行為能力者と取引した相手方を守る規定も用意さ
れています。①催告権、②法定追認、③詐術を用いたときは取り消せない、④消滅時効の 4 つで
す。
2.相手方の催告権
B 不動産が成年被後見人である A から土地を買ったとしても、A は成年被後見人だから契約を
取り消すことができます。そのため、買っただけでは B には不安が残ります。そこで、B は後見人で
ある C に対し「A の契約を取り消すのか追認するのか、来月末までに決めてくれ
と催告することができます。この催告には 1 か月以上の期間が必要です。C が追認すれば契約は
有効になります(もう取り消すことができません)。取り消せば契約は最初からなかったことになりま
す(B はお金を返してもらえます)。
3.確答がない場合の効果
催告に対し確答しないとどうなるのか、以下の表で確認しましょう。
行為をした者
催告の相手方
確答がない場合の効果
未成年者
法定代理人
追認したことになる
成年被後見人
成年後見人
被保佐人・被補助人
保佐人・補助人
被保佐人・被補助人
被保佐人・被補助人
取り消したことになる
「期間内に確答がない場合は追認したことになる」が原則です。ただし、被保佐人や被補助人に
催告し確答がない場合は、取り消したことになります。制限行為能力者が取引した以上、保護者に
は催告に応える義務があります。にもかかわらず確答しないのであれば、相手方に有利になるよう
に追認したと考えます。一方、被保佐人や被補助人は判断能力が弱いので期間内に確答できな
いことが考えられます。この場合は追認では酷なので、取消扱いになります。
事例解答 ×
成年後見人 C が期間内に確答しなかった場合には、A の契約を追認したものとみなされます。
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Scene6 制限行為能力者が保護されない場合
事例 ○or×?
A(婚姻していない未成年者)が、B(法定代理人)の同意を得ないでした契約は、A が成年者であ
ると相手方に信じさせるために詐術を用いたときであっても取り消すことができる。
(H20-1)
1.詐術を用いたときは取り消しできない
今まで勉強してきたように、未成年者等の制限行為能力者は強く保護されています。しかし、詐
術(嘘をつく)を用いた場合には、取消権がなくなります。ただし、制限行為能力者が詐術を用いた
としても、相手方が悪意(A が未成年者であると知っている)の場合には取消権は消滅しません。
取消権の消滅はだまされた相手方を保護するための規定なので、だまされていない以上は制限行
為能力者の取消権を消滅させる必要がありません。
2.法定追認
取消権がなくなるのは詐術だけではありません。たとえば、未成年者 A の親がバイク屋に「A が
買ったバイクを早く納品してくれ
といったとします(債務の履行請求)。これは法定代理人が A の行為を追認したのと同じことです。
つまり「契約を追認します
とはっきりいわなくても、追認したものとして扱われます。これを法定追認といいます。法定追認があ
れば、もう取り消すことはできません。法定追認となるのは①債務の全部又は一部の履行、②履行
の請求、③取得した権利の一部又は全部の譲渡です。
3.消滅時効
権利は一定期間行使しないと時効により消滅します。制限行為能力者の取消権も権利の一種な
ので以下の期間が経過すると消滅します。
①単独で追認できるときから 5 年を経過
②行為のときから 20 年を経過
単独で追認できるときとは未成年者が成人したり、後見開始の審判が取り消されたりすることです。
つまり、自分で判断できるようになってから 5 年を経過すると取消権は行使できないということです。
事例解答 ×
制限行為能力者が行為能力者であると相手方を信じさせるために詐術を用いた場合には、保護さ
れません。A は契約を取り消すことができません。
6
Scene7 第三者の立場
事例 ○or×?
成年被後見人である A から土地を買った B 商事は、契約を取り消される前に C 不動産に転売し
た。C が善意であれば A は土地の返還請求は認められない。
1.第三者への転売
制限行為能力者である A から土地を買った B 商事は、保護すべき弱い相手と取引をしてしまっ
たので契約を取り消されても文句はいえません。したがって、保護者である後見人が契約を取り消
せば B は土地を返さなければなりません。では B がこの土地を第三者 C 不動産に転売した場合
でも、後見人は契約を取り消して「土地を返せ
といえるのでしょうか。B とは違って C にはなんの落ち度もありません。この場合にも土地の返還を
認めてしまっては C に酷です。しかし、土地が返還されなければ A が保護されません。
2.第三者が悪意の場合
まず、C 不動産が、問題の土地は B 商事が制限行為能力者である A から買ったものだ、と知っ
ていた場合を考えましょう。こういうケースを C は悪意であるといいます。悪意とは「事情を知ってい
る」という意味の法律用語です。C が悪意であれば、保護する必要はありません。A を守ってあげ
た方がよい。C は契約が取り消されるかもしれないことを十分予想できたからです。
3.C 不動産が善意の場合
では、C 不動産が、問題の土地は B 商事が制限行為能力者 A から買ったことを知らなかった場
合はどうなるのでしょう。C が善意の場合です。善意とは「事情を知らない」という意味の法律用語
です。この場合も制限行為能力者であることを理由に契約を取り消されては、C にとっては寝耳に
水ということになります。しかし、後見人は契約を取り消すことができます。C には酷ですが、それだ
け制限行為能力者の保護を徹底しているのです。
4.取消前の第三者
ただし、ここで注意が必要です。後見人の取消と B 商事の転売の順番です。今、説明したのはあ
くまで、①制限行為能力者 A が B 商事に土地を売る。② B が土地を第三者 C 不動産に転売する。
③後見人が、A と B 間の土地売買契約を取り消す。という順序の場合です。後見人が取り消す前
に第三者の C に転売されていれば、C を「取消前の第三者
といいます。この取消前の第三者に対しては、制限行為能力者は土地を自分に返還するように主
張できます。これを「制限行為能力者の取消は、取消前の第三者に対抗できる
といいます。
5.取消後の第三者
もしこれが、後見人が B 商事との取引を取り消した後に、C 不動産に転売したとなると話は別に
なります。①制限行為能力者 A が B 商事に土地を売る。②後見人が、A と B の間の土地売買契
約を取り消す。③ B 商事が土地を C 不動産に転売する。となった場合には、A に土地が戻ってく
るとはいいきれません。このケースでは、後見人が取り消した後に第三者の C に転売されています。
こういう順番であれば、C を「取消後の第三者
といいます。契約は取り消されたのだから、転売等できないのではと思うかもしれませんが、そうで
はありません。売買契約を結ぶことができます。この場合、登記がある方が土地を手にできます。詳
しくは第 5 章の物権変動で説明しますが、取消後の第三者に対しては、「登記を備えていないと取
消を対抗できない
のです。
事例解答 ×
C は取り消し前の第三者です。A は B 不動産との契約を取り消し、C に土地の返還請求ができま
す。
7
[参考資料] 意思無能力について
意思無能力は泥酔状態にある等、意思がない状態のことです。意思はありますが判断能力に問
題があるという制限行為能力とは異なり、意思そのものがないということです。
制限行為能力
意思はあるが、判断能力に問題がある。
取り消しうる
意思無能力
意思そのものがない。
無効
意思がない以上その行為は無効となります。つまり最初から効力を生じません。意思があるかな
いかで無効か取消かに分かれます。第 2 章で学ぶ意思表示でも同様です。詐欺や強迫は、一応
意思があるので取り消しうる行為です。これに対し、心裡留保や通謀虚偽表示、錯誤は意思そのも
のがないので無効となります。
8
第 1 章 まとめ
◇制限行為能力者
未成年者
保護の仕組み
・契約等の法律行為を行うには法定
代理人の同意が必要
・同意を得ないで行った行為は取り
消すことができる
注意点
<例外>以下の行為は取り消せない
①単に権利を得、義務を免れる
②法定代理人が許した財産の処分
③営業の許可を得た未成年者が行う営
業行為
婚姻すると成年者として扱われる
(成年擬制)
・同意を得た行為でも取り消せる
・単に権利を得、義務を免れる行為でも
取り消せる
・法律行為を取り消すことができる
・日用品の購入等、日常行為は取り
消せない
・重大な行為(不動産取引、建物の
新築、保証人になる等)については
被保佐人
保佐人の同意が必要
・日用品の購入等、日常行為は取り
消せない
・重大な行為のうち、一定の行為に
被補助人
は補助人の同意が必要
・日用品の購入等、日常行為は取り
消せない
◇制限行為能力者の相手方の保護の仕組み
①相手方の催告権
②法定追認
③詐術を用いたときは取り消しできない
④消滅時効
◇取消と第三者
制限行為能力者の取消は、取消前の善意の第三者にも対抗できる。
成年被後見人
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