葉月-HAZUKI-2015【夢語】 簡易ストーリー (昨年の続きより・・・現世から約 2000 年の時を越え吉備の国に舞い降りた少女は、吉備 津彦命の圧政に苦しむ村人を救うため、吉備津彦命と戦うことを決意する。 少女は野を越え、山を越え、吉備の中山にある吉備津彦命の屋敷に到着する。 ) 初めは少女が吉備津彦命に対して圧政を止めるように交渉を行うが、吉備津彦命の平和へ の意志は固く、交渉は決裂し決闘することになる。 先制は少女。正面から切りかかろうとした。だが吉備津彦命は余裕で回避し、逆に少女を大 きく吹き飛ばした。 力の差を大きく感じた少女はまともに戦っては勝てないと思い、作戦を立てた。 その作戦は物陰から吉備津彦命の背後に回り奇襲を行うというものだった。 作戦は上手くいき、吉備津彦命の背後に回り込み切りかかった。しかし、吉備津彦命は直前 で気配を察知し、寸前で攻撃をかわした。だが、吉備津彦命の頬にはかすり傷が付いていた。 自らが絶対的な正義であるためには、絶対的は力を見せつけねばならない。そんな吉備津彦 命の信念は、かすり傷ひとつ付けられることでさえ許さなかった。(実際に彼が戦闘で負傷 したのは、温羅との戦いの時のみであった。) 吉備津彦命は、絶対的な力を見せつけるため本気を出した。彼は体全体から闇の霧を放出し た。そして大きく力を溜め、少女に攻撃した。 その時、少女は強い恐怖を感じ、死を悟った。しかし、村人や吉備の未来を思うと死ぬわけ にはいかなかった。 「生きたい。」少女は強く願った。すると少女の持つ鉄扇は大きく開き、 強い光を放った。 その光に吉備津彦命の目が眩んだ。そしてその一瞬の隙をついて少女は攻撃。 覚醒した鉄扇の攻撃力はすさまじく、吉備津彦命は大きく吹き飛び、そのまま動けなくなっ た。 動けなくなった吉備津彦命は少女に自分にとどめを刺すように懇願した。 しかし、少女は吉備津彦命の懇願とは反対に、彼を治療するように指示した。 理由は 2 つ。吉備津彦命が吉備の歴史上重要な人物であることを知っていたことと、吉備 津彦命の平和にかける思いは吉備の発展に必要なことであると感じたからである。 幼女には吉備津彦命にもその理由を話した。 吉備津彦命は少女の話を聞いて、温羅の戦いを思い出す。 温羅が戦いの最中にしきりに叫んでいた言葉がある。 「共生と融和」 吉備津彦命は当時、なぜ温羅がその言葉を叫ぶのか理解できなかった。人は生まれや育ちが 異なると考え方や常識が異なる。それによって人は互いに競い合い、ぶつかり合ってきた。 それは歴史が証明してきたことである。つまり人が人である限り、「共生と融和」なんて御 花畑じみた言葉を実現することなど到底無理であると考えていたからである。 しかし、 「遠く離れた人と会話したいと願えば、電話が発明され、 鳥のように大空を自由に飛び回りたいと願えば、飛行機が発明されたように、 人がかつて夢見たことは現実のものなる。これは歴史が証明してきたことである。 」 この少女の言葉は吉備津彦命に強く突き刺さった。彼自身幼いころは「共生と融和」を夢見 ていた時期があった。だが時が経つにつれ、それが無理であると悟った。しかし、人が夢見 たことは必ず叶う。 それならば、夢を見続けていれば、いつか「共生と融和」も実現できるのではないか。 吉備津彦命は少女に言った。「大切なことは気付かせてくれてありがとう」と。 少女はこれで安心して現世に帰れると思った。 しかし、次に吉備津彦命が少女に言った言葉は意外なものだった。 「だが、もう遅いのだ。」吉備津彦命はうなだれながら少女に言った。 吉備津彦命が少女に攻撃しようとした際、吉備全土に向けて放出した闇の霧は、人の心の闇 そのものであり、触れた者の心の闇を増大させる効果がある。心の闇とは、言い換えれば心 の弱さであり、人であれば誰しもが持ち合わせているものである。人は絶対的な強者には逆 らおうとはしないのである。また、人は、自分が優位な立場であればそれを利用して人に強 く当たるものなのである。 心の闇は吉備津彦命が絶対的な強者(正義)である限りは、平和な統治の為に都合がよかっ た。 だがしかし、少女に負けたため、今は絶対的な強者ではない。 吉備津彦命に圧制されてきた民衆は吉備津彦命に対し、どう思うだろうか。 おそらく、吉備津彦命は今まで自分たちを苦しめてきた悪であると考えるだろう。 すると相対的に民衆の方が正義となる。正義は悪に対して何をしても許される。 おそらく民衆は吉備津彦命を討伐しようと襲うだろう。 もし、闇の霧が全土を覆ったなら、それは誰にも止められない大きな渦となり、吉備津彦命 を襲うだろう。と吉備津彦命は諦めたように少女に言った。 しかし、少女は諦めなかった。 少女はみんなで大きな風を起こして闇の霧を吹き飛ばそうと提案した。 そして、村人に指示し、吉備全土に協力するように伝達した。 吉備の民衆は少女の指示通り、強い心を持って闇の霧を吹き飛ばすための風を起こした。 一人が起こす風は大したことなくても、全員で起こせば大きな風となり、また、吉備の大地 とも共鳴しあって、大きな渦が巻き起こった。その渦は闇の霧を完全に消滅させた。 闇の霧が消滅し、空からはまぶしい太陽の光が差した。 吉備の国に平和が訪れたのである。 また、この時から、吉備の国は別名、晴れの国と呼ばれるようになった。 その後、2、3 日は全土の民衆たちが集まって、宴が開かれた。 宴が終わって、少女は現世に帰ることにした。 吉備津彦命は一緒に吉備の国を治めようと少女を説得したが、 「待っている人がいるので」 と、少女は吉備津彦命の説得を断った。 吉備津彦命は残念がったが、最後には笑顔で少女に言った。 「約束だ。生きる時代が違って共にかたり続けよう。我らの夢を。」 幼女は穏やかに微笑みながら、窯の中に消えていった。 ~完~
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