奨励賞 日本から台湾へ、台湾から日本へ お の ゆ き 小野 由貴 同志社大学 3年 幼い時、家にあった世界地図には、台湾が(台湾)と表記されていた。私は世界地図を見 るのが好きで、地図を見ながら世界の各地について両親に聞いたことがある。東アジアの (台湾)と表記されたその地が気になってたまらなかった。どうして他の国と異なり、台湾に だけ括弧が付いているのか、私には理解できなかった。その後、小学校5年生の時、家族旅 行で初めて台湾を訪れた。台北101や士林夜市などの観光地、故宮博物院や中正記念堂な どの歴史的な地を巡ったり、父が地元の日華親善協会の役員をしていたため、台湾の政府の 方にお会いしたりもした。言語はわからなかったが、台湾人の温かさや親切さを身に染みて 感じ取ることができた。迷子になり立ち止まっていると、台湾の方が話しかけてくれ道を教え てくれた。レストランで注文する際に、言語がわからず因っていると、店の方は片言の日本語 と英語でメニューを教えてくれた。外国にいるのになぜか日本にいるような気さえした。言語 も文化も異なるが、何か通じるものがそこにはあった。私はそんな台湾を好きになった。そし て、その後何度も台湾を訪れた。 私は現在、大学に通うため、京都で下宿している。京都には世界各地からたくさんの観光 客が訪れる。台湾からの観光客も多い。街で出会った台湾人観光客と話をすると、 「日本が 好きで日本語の勉強をしている。」、 「台湾が大好きだ。日本も同じくらい好きだ。」、 「台湾 に遊びにきて。」などと彼らは言う。また“I LOVE TAIWAN”というステッカーを貼ったも のを身につけている台湾人もよく見かける。彼らの話を聞いていると、台湾という国に誇りを もっているのがひしひしと伝わる。そして彼らは、とても礼儀正しい。 「ありがとう」という言 葉を決して忘れない。 台湾は親日国家であると知られている。かつて日本が植民地支配を行っていた地ではある が、同様の韓国とは大きく異なる。反日感情ばかりを訴えたり、未だに責任と賠償を求めたり するような国ではない。歴史的問題や領土問題など国家間の抱える問題は依然としてあるも のの、実際に台湾人には親日的な人々が多い。台湾に何度も旅行で行き、たくさんの人々に出 会ったが、優しい人たちばかりだった。日本の統治により、台湾人の中にも日本的精神が築か れたように思う。私が知人の台湾人の家庭にお世話になった時、知人の家族は温かく迎えて くれた。食べきれないほどたくさんの料理がテーブルに並び、 「もっと食べなさい」と笑顔で もてなしてくれた。帰国するときには、台湾の名産品をお土産に持たせてくれた。東京オリン ピック招致の際に話題に上がった「おもてなし」の精神は、台湾人のなかにもあると私は確信 している。 さらに、台湾には、 「おもてなし」精神だけでなく、 「思いやり」精神も根付いている。東日 本大震災の際には、いち早く台湾から巨額の義援金が寄せられた。そして、台湾の行く先々 で日本のことを心配する言葉をいただいた。私が台湾を旅行した時に出会った人々からもそ の思いやりの精神はうかがえた。台湾人の思いやり精神は、日常生活でもよく表れている。台 湾のMRTやバスでは、お年寄りや体の不自由な人を見つけると皆、すぐに、躊躇することな く席を譲る。優先席でなくとも当然のように譲る。日本では、優先席であっても若者が居座っ ていることがあるというのに、台湾では全く様子が異なっていた。表面だけ取り繕うのではな く、人を思いやる優しい気持ち、そして精神を日本人は見習うべきだ。 昔の地図では括弧書きであった台湾。そこには、とても思いやりのある優しい人々がいて、 愛国心もある。確固としたアイデンティティをもった国民がいるのだ。しかしながら、現在でも オリンピックやWBCでは、国際的に台湾のことを「チャイニーズタイペイ」と表記している。そ んな中、日本は、台湾を独立した一国家として認めつつある。WBCの放送では、日本のテレ ビ局は「台湾」と表記した。日本の台湾人に対する在留カードの国籍は、中国から台湾へと表 記の改正がなされた。もはや(台湾)でも、チャイニーズタイペイでも、中国でもない。台湾は 台湾なのである。 日本の統治時代、日本語教育をはじめ様々な日本的教育が施された。そこで何らかの日 本の精神を受け継いだはずだ。しかし、現在の台湾人の精神は、それを超えるものがあると 私は思う。台湾人は日本人以上に思いやりの精神をもっているからだ。かつて日本が台湾に 伝えたように今、日本は台湾から学ぶべきものがある。世界情勢が、日々刻々と変化し、国家 間の関係が複雑になっている今日、日本は、台湾に生きづく思いやりの精神から学び、お互 いに助け合えるような社会を再構築していかなければならない。そのためにも、日本と台湾 が、さらなる友好関係を深め、互いに発展していくことが望まれる。
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