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パネルディスカッション 「来たるべき将来を見据えた地域づくりへの挑戦」
コーディネーター:
(独法)産業技術総合研究所 主任研究員・工学博士 小島 一浩 氏
~はじめに~
(独法)産業技術総合研究所は経済産業省の研究機関。専門はロボットのシステム研究開発をしていた。
最新の介護事業用ロボットの開発をしていたが,そもそも,高齢者がどう社会に参加すれば寝たきりにな
らないかという,ロボット以外の制度設計を手がけていた。震災後,仮設住宅等で生活不活発病が問題に
なるだろうと,
その予防のための課題解決を目的に気仙沼市を担当し,1年間市内に居住した。
その中で,
NPO団体や行政と協働する機会が多く,現在に至っている。
気仙沼,南三陸地区は,人口減少が進んでいる地域であるが,今後の地域づくりについて,
「地域の良
さへの気づき」
,
「郷土への自信」
,
「成功体験による自分自身への自信」をキーワードに意見を交換してい
きたい。
パネリスト
・からくわ丸-Karakuwa Designers League
事務局長
加藤 拓馬 氏
・一般社団法人 南三陸町復興推進ネットワーク (以下,
「373ネット」
)
理
事
遠藤 勝史 氏
・特別非営利活動法人 底上げ
理
事
成宮 崇史 氏
・底上げY o u t h
発 起 人
阿部 愛里 氏
・特別非営利活動法人日本国際ボランティアセンター(以下,「JVC」)※1
震災支援現地統括
2
・特別非営利活動法人 ウィメンズアイ※
代表理事
山崎
哲 氏
石本めぐみ 氏
※1 気仙沼市鹿折地区で活動。2011 年 8 月から気仙沼事務所設立。ボランティアから入り,現在は,鹿折地区の仮設
住宅,在宅の方々の見守り支援,防災集団移転のサポート,浦島地区振興会の運営支援活動を行っている。
2
※ 南三陸町と登米市を中心に地元の女性達の活動を支援。震災後,避難所の支援から開始。特に最近では,南三陸
町で多世代の女性達とまちづくりについて女性の視点で考えていこうという「まなびの女子会」を主催し,視察や
勉強会を行っている。
←パネルディスカッションの様子
コーディネーター 小島氏→
1 郷土愛の基になる「地域の豊かさ」をどのように認識するか又はさせるか。
●底上げYouth 阿部氏
・ (地元の立場から)外部の方との交流で,質問がきっかけになり改めて考えることから知ることがある。
●からくわ丸 加藤氏
・ (外部支援者の立場から,どのように地元の人に気づいてもらうか。
)
よそ者を如何にうまく使うか。地域に眠っている資源や食べ物に対して大げさに驚いてみせることもあ
る。地元の人に可視化されていく。外から来た者として,町を歩く時はそういうものを探す視点で接し
ている。
●373ネット 遠藤氏
・ (地元支援団体の立場として)地元出身者には地域にあるものは当たり前のことでも,子どもに教える,
外部に伝えることで再認識される。外部との交流は重要。
●ウィメンズアイ 石本氏
・ (外部との交流で大事なことは)単に視察に行ってすごい先生から話を聞いてくるのではなく,同じよ
うな年代や立場で等身大で話をしてくれる方の話を伺うようにしている。他地域に行くと,自分たちが
よそ者になる。よそ者の視点で身近に感じられることが一つのポイントである。
2 何かをやろうとするとき,アイディアを実現するためのポイントは?
支援者側の視点から
●底上げ 成宮氏
・ 根本的な話になるが,高校生にとって「まちづくり」とは何か新しいものを作るイメージではなく,
「ま
ちの良さを知ることや伝えることもまちづくり」だと発見することから始めた。その良さをどう伝える
か誰に伝えるかプロセスを考えることで形づけていった。その結果,観光リーフレット作り等もうまく
いったと思う。
・ 高校生の活動のコーディネーター役として,アイディア実現の壁になっている課題に対し,間に入って
サポートしてあげるのもサポート側の役割。
●からくわ丸 加藤氏
・ できるだけハードルが低いところから始めている。準備が簡単なものでも「自分たちが活動している」
という発信と「小さな成功体験」の積み上げが必要だ。その中で地域の方達との新たな繋がりができ,
「地
域で活動して良いんだ!自分たちが発信できる!」という自信になっていく。
3 そこに暮らす地域の人達がどうやって郷土に自信を持って住んでいくか。
●JVC 山崎氏
・ 地域の人たちにとって産まれた時から見ているものは「当たり前」であり,他と比較していないと思う。
「郷土愛」は無意識に持っている。それを意識させたり言葉にしたりする必要などないのではないか。
▲コーディネーター 小島氏
からくわ丸の活動報告の中で,
「活動をしているうちに地域の良さを言葉にできるようになった。
」とい
う発言があった。郷土愛は無意識でも,他人に言葉で説明できる。自信になることが必要なのではないか。
⇒山崎氏
否定するわけではない。自分たちは外に出向くのもあるが,自分達は外部から人を連れてきて体験ツ
アーなどを企画している。住民の成功体験の為に何かをするのではなく,アィデアが出たらまずやって
みる。そして,地域の人に相談をしてみる。終わってみたらその人達が張り切っていた。それが結果的
に成功体験となる。成功体験を得てほしいからやるのではなく,目標を立てずに今までの経験から仮説
を立ててとにかく実行することも必要。
(責任は負わなければならないが。
)そこに結果がついてくる。
●373ネット 遠藤氏
・ わらすこ探検隊では,参加した子ども達が周りの子どもに体験学習で学んだことを話して,そのときは
何が好きか分からないがそれが自信になり,また無意識のうちに町を好きになっている。それが山崎氏
の言う「無意識」に繋がるかと思う。
4 それぞれの活動をどう拡げるか,地元の人をどう巻き込むか。
●ウィメンズアイ 石本氏
・ 支援団体が何もかもお膳立てするのではなく,課題解決の場ならその渦中の人が,お楽しみ会ならそれ
を楽しみたい参加者が中心になって活動すること。当事者の人達と一緒にやらないと続かない,お楽し
み会を継続するためには例えば,新しい人達を入れていくのか等も自分たちで考えてもらう。自分達が
やっている,自分達のものという意識でやってもらうところがほかと違うところ。
▲コーディネーター 小島氏
楽しいから続けたい,広げたいということが重要だと思う。その中で,373ネットの活動報告で,ス
タッフ数の不足という課題が保護者等の参加により解決されてきたという話があったが,保護者の意
識は変わっていったか。
⇒373ネット 遠藤氏
・ 保護者世代は子どもの時の体験学習でやった事を覚えていて,大人になってからその価値に気がつく。
そうした大人が協力的に活動を手伝ってくれている。
▲コーディネーター 小島氏
このように子ども達を自然の中で経験させる取組をするのは,今がラストチャンスかもしれない。今,
地域に残っている世代が,子どもの頃自然の中で遊んだ経験をしている最後の世代。
5 郷土に戻りたくなるポイントは何か。
●底上げYouth 阿部氏
・ 周囲の同年代(高校生~大学生)は皆帰ってきて,ここで子どもを育てたいと言う。特に食べ物の美味
しさなどは都会に出て気がつく。
●JVC 山崎氏
・ 東京からこちらに駐在してきて,気仙沼で自分の子どもを育てたいと家族を呼んだ。
「社会教育力」と言
うか,他人の子でも自然に大事に甘やかさない「包容力」がここにはある。あるもの探しは物だけでな
く精神的なものもある。
●ウィメンズアイ 石本氏
・ 「まなびの女子会」では中越視察の後,南三陸町をより子育てしやすい町にするためにはどうすればよ
いかがテーマになっている。気仙沼に家族で引っ越して来たJVC山崎さんによると、東京の少年野球チ
ームは大人が指導し取り仕切るので,失敗すると大人に怒られる。子どもたちは大人に怒られないように
失敗しないような野球をするようになるが,こちらでは子どもの社会があり,野球チームでも子どもた
ちが自分達で話し合い、大人は見守る,導く役割を担っているそうだ。そんな環境の方が子どもを育てる
のは良いと思う。
●からくわ丸 加藤氏
・ 教育には「学校教育」
,
「家庭教育」
,
「地域教育」の3つがあり,最近は地域教育が衰退し,学校や教師
に対する期待が増している。しかし,気仙沼には地域全体で教育するという意識が豊かに残っているの
で,こちらで子育てしたいということになるのだと思う。
・ また,IターンとUターンは全く違っており,Iターンを希望する人には,田舎の人付き合いの面倒く
ささを良く理解してもらうことが必要。田舎は都会と比べて人間関係の全てがウェットである。その裏
返しが人の繋がりの温かさである。それを理解し,そこでどう自分のライフスタイルをつくっていくか,
期待を膨らませてもらうことにIターンを増やしていくヒントがあると思う。
●373ネット 遠藤氏
・ 地元民としては,厚かましさやウェットさも褒め言葉と思って大事にしていきたい。自分たちもその意
識を持っていきたい。
▲コーディネーター 小島氏
・ 今日のパネリストは,地域に住んでいるからこそ今のような発言になるかと思う。
また,外部から来た支援者としては,
「復興とはこうあるべき」という「上から目線」になることなく,
支援していくことが大切だと認識している。
6 まとめ
▲コーディネーター 小島氏
・ 郷土愛,郷土や自分についての自信は無意識の部分もあるが,
「何となく」ではなく言語化できることも
大事。その気付きは外部との交流で生まれてくることもある。
・ 今後は復興から通常のステージに戻って行くのだが,外部支援者の新しい血が入ってくるのをいかにう
まく維持していくかは行政側としても課題となる。
・ まちづくりの持続可能性を考えると,地元の人が自分達の力でやっていくことが重要。それも参加して
楽しい,リスペクトされて楽しいというように,これをどうやって一緒にやっていくかが重要。また,
外部から来た人が田舎のコミュニティに入って新たなスタイルを成立させるかも重要である。
7 質疑・応答
Q)被災地ではもっと観光に来て欲しいと考えているのか。またそうだとすれば,どのようなアイディアをも
っているのか?
A)
●からくわ丸 加藤氏
・ 唐桑の「折れ石」などの観光名所を見に行くのは衰退する。これからは体験型や地域に入り込み,第二
の故郷化や繋がりを再発見するのがニーズと言われている。よって半日漁師体験,半日コミュニティ体
験などのプログラムを地元の人達と話している。交流は大事なので観光には来て欲しい。
●JVC 山崎氏
・ 浦島地区ではワカメ,昆布,メカブ,牡蠣の養殖をやっており,生産者と消費者を直接つなぐ企画,現
地を訪ねて知ってもらう企画を既にやっている。震災の記憶を風化させない為にも来て欲しい。今後も
企画している。
●底上げYouth 阿部氏
・ 従来のように観光客を増やすため,景色,食事,温泉のようなツアーで良いのかと思う。体験や故郷を
感じるツアーという意見が出たが,故郷は,お帰りなさいと言って貰えるような素敵な場所のイメージ。
自分達が大事にするのは人数ではなく品質。人との繋がりや仲良くできること,そういう品質は数値化
できないが,リピート率は見るべき数字である。それは,来て本当に良かった,忘れられないことの証
明だと思う。行ってみてフィーリングに合う,自分に合う場所を見つけられることが良いと思う。
▲コーディネーター 小島氏
・ 観光は地元の人が関わることで高齢者の社会参画にもなり意味がある。こういう「組み合わせの取組」
について行政も考えて欲しい。
意見)気仙沼は,今は工事で賑わっているが収束した後,一斉に職を失ったり生活困窮者が顕在化した時にど
うするか考えておくべき。そのためにも若い世代の人達,地元の商工会や青年会もまちづくりを盛り上
げていくことが大事だと思う。まさに本日のディスカッションのテーマを見て心の復興が始まったと感
じた。
本日の会議を振り返って(▲コーディネーター 小島氏)
復興ではなくその先の地域づくり,まちづくりを考える段階だが,堅苦しく考えるのでなく,できると
ころからやるのが良いのではないか。方向性が見えれば行政,民間,NPO等が一緒に活動できる。今日をき
っかけに,みなさんが今後の活動を探る良いきっかけになればと考えている。