産業技術人材の流動化に関する調査 報告書 概要版

経済産業省委託 平成25年度産業技術調査事業
産業技術人材の流動化に関する調査 報告書
概要版
2014年2月
1.調査の概要
【調査の目的】
我が国の産業構造の変化は加速しており、成熟産業からの技術人材の大量流出による技術の人的資源の散逸が危惧されている。今後、我が国の産業競争力を維持す
るためには、イノベーションに資する技術人材の継続的な確保が必要不可欠である。成熟産業(分野)から流出する技術人材の中には、今後のキャリアパスが見えなく、不
本意ながら、これまでのキャリアの蓄積とは無縁な職務に就かざるを得ない者も少なくない。
一方、成長分野の企業には、既存事業の延長線上のみで人材の要件定義を行うため、イノベーションに必要な真の人材を確保できていない可能性がある。
我が国に蓄積されてきた高度な技術力を維持・発展させるためには、企業内外によらず、成熟産業の技術人材を次に成長が期待される隣接産業において活用する方策を
検討していくことが求められている。
しかし、技術人材の動向については、定量的及び定性的に現状が把握されておらず、有効な施策を講じることが難しい状況にある。そのため、本調査では、まず、可能な
限り、技術人材の現状について定量的・定性的な現状把握を行う。その上で、技術人材の確保と育成に必要な施策の提案を行うことを目的とする。
【調査の方針】
基本方針1~技術者の定量的把握~
技術人材移動の定量的把な把握は、わが国特有の労働市場の特徴を踏まえ内部・外部労働市場の別に移動状況を把握する。また、その際、技術者としての分野間の移
動だけでなく、職種間の移動(職種チェンジを伴う移動)についても把握できる設計とする。
基本方針2~隣接成長分野への技術者のシフト事例・技術人材のスキル活用の拡大事例の把握~
隣接成長分野への技術者のシフト事例・技術人材のスキル活用の拡大事例の収集について、下記の2点に着目した収集・実態把握を行う。
(1)①企業等の社内・社内グループ内の労働市場における人材のシフト・スキル活用拡大の取組と②外部労働市場におけるシフト、スキル活用拡大の取組の双方
の観点から収集する。
(2)技術者が多様な就業形態で活躍することを想定し、①雇用、②創業/社内起業、③特定労働者派遣、④フリーランス(クラウドソーシング活用)に類する事例を把
握する。
【本調査の用語】
本調査では、産業技術人材について「①業種や研究開発プロセスを問わず、②「専
門的・技術的職業」を主な職務として、③主に概ね10年以上のキャリアを有するミド
ル層以上の人材(30代~50代)」として捉えた。
•統計・文献による資料調査
•技術者数の推移、就業形態、転入職の状況等
①技術者の動向把 •技術者を取り巻く環境変化
握
•海外における技術者の統計的把握、新たなコミュニティ
【第2章・第3章・第5章】
•個人向けWEBアンケート調査
•雇用管理状況
•内部・外部労働市場における移動状況
•移動経験者におけるスキル・知識の連続性
•環境変化を踏まえたキャリア形成に関する意識・取組
•スキル活用拡大のために今後求められること
【第4章】
具体的には、いわゆる「専門的・技術的職業」を主な職務とする人材であり、具体的
には農林水産・食品技術者、電気・電子・電気通信技術者、機械・航空機・造船技
術者金属技術者、化学技術者、建築技術者、土木・測量技術者、情報処理技術者
等を想定する。
②技術者のキャリ
アに関する意識把
握
本調査では、人材の移動(シフト)を、技術者の転職と社内・グループ内の異動の双
方を対象として捉えた。
•文献・ヒアリング調査
•内部労働市場におけるシフト・スキル活用拡大事例
③技術者のシフト・
•外部労働市場におけるシフト・スキル活用拡大事例
スキル活用拡大の
【第6章】
事例把握
調査の全体像
技術人材の確保と育成に係る課題と今後の求められる施策モデルの検討(第7章)
1
2.各種統計データにみる技術者の推移
(技術者数の推移)
わが国の技術者総数は、約215万人(2010年)。2000年時252万人、2005年時214万人。総数としては2000年から2005年にかけて40万人弱減少したが
、2005年から2010年は横ばい。
技術者約215万人のうち、「情報処理技術者」90万人と情報系が40%を占める。「電気・電子・電気通信技術者(通信ネットワーク技術者を除く)
」29万人、「機械・航空機・造船技術者」30万人。
(技術者数の就業形態)
わが国の技術者は、企業に直接雇用される者に加えて、一般労働者派遣や特定労働者派遣(派遣元企業に常用雇用されている者)の形態で、派遣
される技術者も含まれ、その市場は拡大している。
人材派遣市場は、派遣労働者数約135万人のうち、技術者派遣として従事する労働者数は約26.5万人。
最近では組織に属さないフリーランスの技術者(エンジニア)についても、クラウドソーシング市場の急成長を背景に増加していると思われる。
(技術者数の転入職比率)
中田喜文(2011)「日本の技術者」の研究によると、技術者の転入職比率は、全職種平均とあまり変わらない7.6%である。ただし、一般技術者と情報
技術者とに分けると、情報技術者の転入職比率は、一般技術者の2倍の10.2%である。97年と07年を比較すると各年齢層で転職率は上昇している。
厚生労働省「雇用動向調査(平成24年)」によると、技術者が含まれる「専門的・技術的職業従事者」の入職経路を職業計と比較すると、学校(
42.4%)、民営職業紹介所(34.2%)、出向先からの復帰(30.0%) 、出向(29.8%)、での入職の割合が高い。技術者の労働移動に関しては、民
間の人材ビジネス事業者や学校等の果たす役割が大きい。
(理工学系の学生数の推移)
学部別学生数の推移をみると、工学
系の学生数は、1995年の47.2万人(
19.6%)から2013年には39.0万人(
15.2%)と約8.2万人減少。理学系の
学生数は1995年の8.6万人(3.6%)か
ら2013年には8.0万人(3.1%)と0.6万
人減少。技術者としての労働市場へ
の流入数の減少は避けて通れない
状況である。
(万人)
300
(注)「技術者」とは、
250
日本標準職業分類(平成21年12月統計局基準改定)の大分類
B【専門的・技術的職業従事者】のうち、中分類06~11に該当す
るもの。(中分類05及び12~24は含まない。下記参照。)
200
05 研究者
150
その他の技術者
情報処理技術者
100
土木・測量技術者
建築技術者
50
化学技術者
0
2000年
2005年
2010年
14
医療技術者
051 自然科学系研究者
15
その他の保健医療従事者
052 人文・社会科学系等研究者
16
社会福祉専門職業従事者
06 農林水産技術者
17
法務従事者
07 製造技術者(開発)
18
経営・金融・保険専門職業従事者
08 製造技術者(開発を除く)
19
教員
09 建築・土木・測量技術者
20
宗教家
10 情報処理・通信技術者
21
著述家,記者,編集者
11 その他の技術者
22
美術家,デザイナー,写真家,映像撮影者
12 医師,歯科医師,獣医師,薬剤師
23
音楽家,舞台芸術家
13 保健師,助産師,看護師
24
その他の専門的職業従事者
出所:総務省「国勢調査」
2
3.技術者を取り巻く環境変化
(製品ライフサイクルの短縮化・技術の陳腐化)
ものづくり白書(2007年)よると、業界別に製品ライフサイクル年数の短縮率(5年前と比較)をみると、家電業界では約6割に短縮している。一部の業
界では、たとえ、売れ筋商品を開発したとしても、そのライフサイクルは短く、当該技術の陳腐化のスピードも早くなっていることが伺える。
10年前との比較においては、全体として短期の研究開発の比率が上がり、中長期の研究開発の比率が低下。研究開発の短期化の原因としては、「
短期成果に関する上層部の要求」、「製品ライフサイクルの短期化」、「中長期テーマ立案の困難さ」、「中長期テーマのリスクへの懸念」がある。
(技術の高度化・専門分化)
技術者の61.5%が、「ビジネスサイクルの短期化、技術の陳腐化が加速していると思う」との意識を持っている。また、57.1%が「技術の高度化、専門
化が進展していると思う」との意識を持っている(本アンケート調査結果)。
(研究開発におけるアウトソーシングの進展)
製造業の研究開発費に占める自社研究開費比の割合は1994年度91.5%から2010年度85.9%へと減少しているのに対し、委託研究開発費の割合は
1994年度8.5%から2010年度14.1%へと大きく増加している。一方で、研究開発サービスの市場も拡大してきた。
(グローバル化への対応)
グローバル化の進展に伴い、生産拠点やサービス拠点にとどまらず、より市場に近い場所に研究開発機能を置くという戦略で、研究開発拠点も海外
へシフトする動きが見られている。生産、品質管理、販売・マーケティング職だけでなく、研究開発を担う技術者の働くフィールドも、グローバル化が進
展している。
日本貿易振興機構(ジェトロ)「平成23年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、海外拠点のある企業のうち海外に研
究開発の機能を持つ企業の割合は、2011年度で10.6%。2010年度から2011年度にかけて、どの地域においても研究開発拠点を置く企業の数
が増加
(%) 70 60 62.7 能力の限界を感じたり、将来に不安を感じる理由
52.4 組合員計
48.8 50 管理職計
36.0 33.1 34.1 40 30 22.2 12.1 16.6 19.2 6.8 7.3 10 これまでの知識や経験
が活かせない
体力面や集中力の面で
限界を感じる
0 技術の進歩に能力がつ
いていけない
プロジェクトのキックオフから実施までの期間が10年前の半分くらいの期間になって
きた
利益を第一に優先し、無駄な作業や経費の削減が徹底されるため、技術・知識などを
身につけるための時間や経費を会社が与えてくれない
以前は一人ですべての技術領域を把握できたが、今は使用する部品ごとに高度な知識
を要求され、狭い領域ごとに担当者がつかなければ仕事が回らなくなっている
業務に追われ専門性向
上が図れない
技術者の声(アンケート結果より)
その他
11.2 仕事を続けても能力開
発にならない
20 26.8 管理職としてやっていく
自信がない
(能力開発とオープンイノベーション)
わが国の技術者は、急激な外部環境の変化を受けて、自身の役割や将来
の見通しについて不安や懸念を抱く者も少なくない。
技術者が能力の限界を感じたり、将来に不安を感じる理由としては
、「業務に追われ専門性向上が図れない」、「技術の進歩に能力が
ついていていけない」との回答が多い。
出所:電機連合総合研究企画室「調査時報No.374」(2008年10月)
3
4.技術者のキャリア形成や転職等に関する実態(技術者向けアンケート調査結果)
「客観的基準に基づくスキル評価」を定期的に受けていると回答する技術者は3割程度であり(不定期に受けているとの回答を合わせて5割程度)、また、今後のキ
ャリアについて上長と話をする機会が頻繁に/時々あった、との回答も4割に満たない。自身の培ってきたスキルや経験を客観的に整理・認識し、今後のキャリア
展望をどのように描いていくかを考えるための支援が、企業内に不足している可能性がある。さらに、勤務先で提供される教育訓練機会(研修)について、量・質と
もに「満足」との回答が「不満」との回答を下回っており、勤務先で十分に教育訓練を受けられていないと考える技術者が多い。
技術職に従事する人材の移動に関しては、これまで政府統計等で把握されてこなかった。本事業においてWEBアンケート調査を実施したところ、次の 3点が明ら
かになった。
技術職から技術職への転職では、転職前と同じ技術分野の職に転職する傾向が強い。「素材、食品、メディカル系」から他分野への転職ケースも一部見られる。
技術職から非技術職への転職の場合、「営業・事務・企画系」職種への転職が多く、また転職先企業はサービス業(他に分類されないもの)の企業が多い。
技術職から非技術職への異動(社内・グループ内での異動)では、技術職から「営業・事務・企画系」職種への異動が多く、また非自発的理由での異動が多い。
技術職から非技術職へ移動した場合は、技術職から技術職へ移動した場合に比べて転職前のスキル・知識の連続性が低いが、それでも6割以上がスキル・知識
を連続させたキャリアを歩んでおり、またその中の多くの人が、「専門技術領域に関する知識・ノウハウ」を異職種に移動後も活用している。報告書本編に人的資源
の「散逸」について整理したが、この整理に従うと、技術職から非技術職へ移動したケースの6割以上は、人的資源の散逸には当たらない。一方で、移動後に以前
のキャリアで培ったスキル・知識を活用できていないとの回答も一定数あり(技術職への移動で3割程度、非技術職への移動で4割程度)、これまでのキャリアの延
長線上に移動後の展望を描けるよう、支援が必要であるといえる。
技術者としての今後のキャリアについて、特に40代以上の技術者では消極的な見通しを持つ傾向にあり、半数以上が「今後の見通しは明るくない」と回答している
。「どちらともいえない」との回答も多く、「明るい」との回答は若年層を合わせても全体の1割程度にとどまる。1章で見たような様々な環境変化があり、しかし勤務先
でのスキル評価やキャリアを考える機会、研修は不十分である中で、特にミドル層以上の中で、今後の技術者としてのキャリアに対する不安感が生まれているので
はないか。
「今後、転職を希望しない」と答える者は全体の5割を超える。その理由としては、現在の勤務先に満足しているといった積極的な理由のほかに、自身の能力をどの
ように他社で活かせるかわからないといった消極的な理由も3割程度みられる。また、転職経験者では、転職の際に困ったこととして、「自身の能力や経験の棚卸し
」、「転職先での自身の能力や経験の活かし方」、「専門以外の分野に関する知識・スキルの不足」を挙げる者が3割を超えている。「技術者の円滑な移動やスキル
活用拡大を考える上で、技術者が自身の能力や技術、経験を客観的に認識し、それらを他社でどのように活かしていくのかを考える支援が必要である。
転職後も技術職として培ったスキル・知識を活用している者は、専門技術に関する学習だけでなく、リーダーシップやコミュニケーション力等に関する学習、社外の
人材との交流等、あらゆる角度からの自己研鑽に努める傾向にあり、これらの学習と円滑な人材移動の間には関連がみられる。
環境変化
転職後
企業内における
能力開発機会
スキル評価
キャリアを考える機会
の不足
転職後
技術職としての
今後のキャリアが
不安・・
自分のスキルや経験
が他社でどう活かせ
るかわからず、転職
に踏み切れない
活用し
ていな
い
転職前
の知
識・ス
キルを
活用
日頃から、自身の専門
分野の学習に加え、社
外人材との交流等、多
方面からの自己研鑚に
努める技術者に多い
4
5.諸外国(⽶国・ドイツ)の技術者の実態
(1) 欧州における技術者動向の把握
Eurostatにより、科学技術人材(human resources in science and technology: HRST)のカテゴリーにおいて統計的に把握・公表されている。 HRSTとは、①大学レベル
の教育を修了している②科学技術職において雇用されている――のいずれかに該当する個人であり、①②共に該当する個人をHRST Core(中核科学技術人材)と呼ぶ。
国別のHRST動態は、公表データによれば、①科学技術職間での転職②大学レベル教育機関からの人材流入③大学レベル教育未修了人材の流出入あるいは死亡・国
際移動――の3カテゴリーで把握できる。
(2) 米国における技術者動向の把握
「人口動態統計」(CPS)およびその追加調査により、失業者について、①失業期間②利用している求職方法③失職・離職の理由④働いていた企業・団体名⑤働いていた
際の職種・職務内容⑥労働組合等への加入如何――が把握できる。職種は(公表データにはないが)細分化されたカテゴリーで把握可能である。
「求人・転職調査」(JOLTS)では、各月の最終営業日時点での求人数、月間の新規雇用数(Hires)、月間の失職数(Separations)――辞職(Quits)、解雇(Layoffs and
Discharges)、その他失職(Other Separations)の合計数――が把握できる。ただし公表ベースでは大括りの産業分類でのデータしかない。
(3) フランスにおける技術者動向の把握
IESF(フランス技術者科学連合)は、技師称号委員会(CTI)から認定を受けたエンジニア養成校の免状を持つ65歳以下のエンジニア(71.5万人)に対して調査を毎年実施
し、エンジニアの転職や社内での異動状況について把握している。
<日本国内のファブラボ>
(4) 海外技術者コミュニティの新たな動向
技術者コミュニティの新たな取組として世界的に展開されているものの代表例として「
ファブラボ」がある。
ファブラボは1998年に米国から発祥したもので、米国内に現在44か所存在する。米
連邦政府は、製造業におけるイノベーションの推進およびその基盤としてのSTEM(理
数系)教育の強化の中で、ファブラボを国策として推進しようとしており、人口70万人に
1か所、「図書館」のような存在としてファブラボを整備することを目指している。
ドイツには現在20のファブラボがあり、人口比では米国より多い。ドイツにファブラボが
多い背景としては、①ファブラボを包含する概念である「ハッカースペース/メイカース
ペース」の発祥地であること②図書館の設置密度の高さ等から公共施設設置に積極
的な社会であると推察されること――等が挙げられる。
ファブラボの多寡には、起業活動を行う人の多さも関連すると思われたが、起業活動
従事者シェアは、米国は日本(ファブラボは設置予定も含め8か所のみ)の2倍を超え
るが、ドイツは日本を若干上回る程度である。
ファブラボの他、技術者の団体として著名な事例として、米国のモビリティ専門家団体
「SAEインターナショナル」がある。 SAEインターナショナルは、米国内外に研修センタ
ーを設置し、教育訓練事業を手がけている。
・
5
6.技術者のシフト・スキル活⽤拡⼤の取組事例
収集事例の全体概要
Virtual Hollywood® Platform
想定する労働市場
ケー スNO
取組企業・機関
内部
Case1
ソニー
Case2
対象:就業形態(ワークスタイル)
取組名
外部
雇用
起業
派遣
フリー
個人
社内外でのアフター5交流活動による、技術人材のスキル拡大
○
○
○
ソニー
ビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ
○
○
○
Case3
大日本印刷
事業開発センター等における入社7年目社員教育
○
○
Case4
富士ゼロックス
Virtual Hollywood® Platform
Case5
メイテック
需給ギャップを埋める取組(市場変化への対応策)
Case6
メイテック
ファブクロス
○
Case7
クラウドワークス
クラウドソーシング活用エンジニアのスキル育成、見える化
○
○
Case8
パソナテック
パソナラボ(竹輪プロジェクト)
○
○
Case9
テクノブレーン
キャリアラボラトリー
○
Case10
大阪市
「大阪市グローバルイノベーション創出支援事業」
「ものアプリハッカソン」
○
Case11
岐阜県
スマートフォンアプリ開発人材育成事業
○
○
Case12
情報科学技術大学
院
(IAMAS)
f.Labo イノベーション工房
○
○
○
Case13
ファブラボ北加賀屋
ファブラボを活用したエンジニアのスキル活用拡大
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
大阪市グローバルイノベーション創出支援事業
第2回
ものアプリハッカソン
ビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ
2012年夏に、「ビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ」と呼ばれる新部署を立ち上げた。専門領域の異なる100人が新規事業創出のために集
められた。平井社長が内外に打ち出したメッセージが「ワン・ソニー」。縦割りに閉じていた組織に横の連携の楔を打ち込むことで、これまでにない製
品やサービスの提供を生み出したい考えが背景にある。
毎週水曜日にピッチと呼ばれる短時間のプレゼンテーションを行いメンバー同士で意見交換。共通テーマからアイデアをひねり出し、いかに素早くプ
ロトタイピングして具現化するかを競うアイデアコンテスト(ハッカソン)も定期的に行われている。
Virtual Hollywood® Platform
「Virtual Hollywood® Platform」活動は、会社、仕事、自分自身を変えたい成長させたいという「思い」や「実行力」のある社員が、自らディレクターと
なり、お客様そして社会への価値創造を目指して、テーマを設定。そのテーマを基に、シナリオを作成しながら、社内外から広く参加メンバーを募り、
共通の目的をもった仲間たちとテーマの具現化に向けてコミュニティ活動を実践。
参加者たちは、活動を通じて、創造することの大切さや協力することの難しさを認識。一方、自らの意志でチャレンジし、考える姿勢を身につけた参加
者たちは、従来の組織活動においても、上司から高く評価されている。
出所:経済産業省「産業技術人材の流動化に関する調査」ヒアリング結果よりみずほ情報総研にて整理
6
7.技術⼈材の移動とスキル活⽤拡⼤に関する課題と施策案
課題1 人材の移動・スキル活用拡大施策と事業シフト戦略とのリンクが弱い
アフター5を利用しての交流活動を実施したり、業務時間中の取組を認める形で組織風土改革活動に取り組むケースもみられたが、あくまでも基盤づくりに注
力されており、企業のコア事業等のシフト戦略等と強く結びついた戦略的な取組にまでは至っていない。
新興国との競争激化の中で勝ち抜くための人材の移動・スキル活用拡大施策として整備していくためには、①経営企画部署と研究開発部門、人事教育部門が
一体的に取り組むこと、②ノンコア領域の縮小や撤退等から要請される人材の移動・スキル活用拡大策と新たなコア領域等を創造していく人材の移動・スキル
活用拡大策について、諸外国の先進企業のノウハウ整理し、提案・サポートが出来る人材ビジネス企業等のビジネスモデルの構築の2点が求められる。
課題2 技術者がキャリア形成に関して相談や刺激を受ける環境の整備が不十分である
わが国の技術者は、急激な外部環境の変化を受けて、自身の役割や将来の見通しについて不安や懸念を抱く者も少なくない。一部のソフトなど情報通信等
に関する技術者の中には、個人的なネットワークによる勉強会や人材ビジネス等が企画・運営するコミュニティに所属して、最新の技術動向や参考となるキャ
リアパス等について学び、気づきを得て、自身のキャリア自律を図っている者も見られている。そもそも、企業内において、技術者が自身のキャリアについて、
一般的な心構えにとどまらず、特定技術の生かし方などについて専門のアドバイザーに相談できる機会も十分であると言えない。
8-1.技術者向けキャリア自律に関する相談・マインドセット改革に関するモデルの開発・普及
<概要>社内における技術者(エンジニア)に対するキャリア形成に関する相談・マインドセット改革モデルについて、外部労働市場について明るい人材ビジネス事業者やコ
ーチングの専門家等と連携して、相談モデルを開発し、その成果を普及。
課題3 企業が参考とすべき技術者のシフトやスキル活用拡大に関するノウハウの蓄積が乏しい
技術者に対する基本的な人材マネジメント施策は十分に機能しているとは言いがたい。技術職従事者の半数に対しては、勤務先の雇用管理の一環としての
スキル評価やキャリア展望に関する面談等が十分に行われておらず、自身の能力や経験を客観的に認識することができていない可能性がある。
人材のシフトを円滑に行うためには、人材マネジメント施策以外に、組織風土改革など、日常的に部門間の横のつながりが必要であるが、カンパニー制など
の組織改革等により、従来あった横のつながりが希薄化している企業もあり、そのような企業では、アフター5などを利用して、従業員同士の横のつながりを深
めていく、ボトムアップの取組について容認しているケースもある。上記のような取組は、組織風土改革活動や従業員による提案制度の等も含まれることか
ら、通常の人材マネジメント施策のメニューの枠を超えることもあり、十分に企業内に知見やノウハウが蓄積されているとは言いがたい。
8-2.エンジニアのスキル活用拡大に取り組む企業の認定・表彰
<概要>社内における技術者のスキル活用拡大について、業務・業務外と問わず、特徴的な取組を実施している企業を認定し表彰。また、企業を超えて、社
会的に技術者のスキル活用拡大に取り組む自治体や機関等を推進サポーターとして表彰。
課題4 技術者の視野・問題意識が自身の特定分野で閉じてしまい、ビジネス構造を俯瞰できない
技術者の取り巻く環境の変化の1つである技術の専門分化やアウトソーシングの進展は、技術者がより深いコア技術分野の研鑽に注力できる一方で、製品
開発の上流から下流、さらにはバリューチェーンの全体像について俯瞰する機会を失わせている可能性が高い。
一部の企業においては、自社の開発技術を示して、外部の技術者等とのハッカソンを実施したり、自治体等が企画するオープンイノベーション事業の場をうま
く活用している。特に、ハード系の技術者は、ハッカソンやファブラボ等のプラットフォームに参画することが少ないことから、自身の技術を活用し、どのようなビ
ジネスに展開可能なのか等、気づきを得る機会が乏しい。
8-3.企業間の交流プラットフォームの整備
<概要>製品開発の上流から下流(ソフト・ハードエンジニア、デザイナー、プランナー等)までの人材を集め、ビジネスモデル創造、製品プロトタイピング、市場
テストの実践を通じ、ビジネス・技術を包括した横断的視野を身につけさせ、イノベーション創出、起業、自身の技術を生かせる企業への転職等を促進。
7
8.課題解決のための施策モデル案
課題1 人材の移動・スキル活用拡大施策と事業シフト戦略とのリンクが弱い
課題2 技術者がキャリア形成に関して相談や刺激を受ける環境の整備が不十分である
8-1.技術者向けキャリア自律に関する相談・マインドセット改革に関するモデルの開発・普及
<概要>社内における技術者(エンジニア)に対するキャリア形成に関する相談・マインドセット改革モデルについて、外部労働
市場について明るい人材ビジネス事業者やコーチングの専門家等と連携して、相談モデルを開発し、その成果を普及。
課題3 企業が参考とすべき技術者のシフトやスキル活用拡大に関するノウハウの蓄積が乏しい
8-2.エンジニアのスキル活用拡大に取り組む企業の認定・表彰
<概要>社内における技術者のスキル活用拡大について、業務・業務外と問わず、特徴的な取組を実施している企業を認定し
表彰。また、企業を超えて、社会的に技術者のスキル活用拡大に取り組む自治体や機関等を推進サポーターとして表彰。
課題4 技術者の視野・問題意識が自身の特定分野で閉じてしまい、ビジネス構造を俯瞰できない
8-3.企業間の交流プラットフォームの整備
<概要>製品開発の上流から下流(ソフトウェア・ハードウェアエンジニア、デザイナー、プランナー、投資家)までの人材が集
め、ビジネスモデル創造、製品プロトタイピング、市場テストの実践を通じて、ビジネス・技術を包括した横断的な視野を身
につけさせ、企業内でのイノベーション創出、起業、自身の技術を生かせる企業への転職・再就職を促進。
8
8.課題解決のための施策モデル案
8-1. 技術者向けキャリア自律に関する相談・マインドセット改革に関するモデルの開発・普及
(概要)
社内における技術者(エンジニア)に対するキャリア形成に関する相談・マインドセット改革モデルについて、外部労働市場について明るい人材ビジネス事業者
やコーチングの専門家等と連携して、相談モデルを開発し、その成果を普及させる。
(対象)
新規事業への参入や部門の縮小等を実施する企業
技術者の交流や情報交換等の場を提供する人材ビジネス事業者等、工場等の立地が多い地方自治体等
(想定される効果)
技術者のキャリアに関する相談体制等が整備されていない中小・中堅企業等が自社にあったモデルを参考として、社内体制の充実を図ることが可能となる。
施策モデルイメージ
企業等
応募・モデル
開発の場の提
供、協力
業界団体等の同じ
分野の企業コン
ソーシアムや大企
業グループパター
ン、社内ベンチャー
など多様なパターン
(モデル)を用意
モデルの開発・実践
の支援
相談・マインドセット改革
に関するモデル開発
人材ビジネス
専門家グループ
セミナー等による全国への普及
9
8.課題解決のための施策モデル案
8-2. エンジニアのスキル活用拡大に取り組む企業の認定・表彰
(概要)
社内における技術者のスキル活用拡大について、業務・業務外と問わず、特徴的な取組を実施している企業を認定し、表彰する。また、企業を超えて、社会的
に技術者のスキル活用拡大に取り組む自治体や機関等を推進サポーターとして表彰する。
(対象)
組織風土改革活動等に積極的な企業、従業員の提案制度などボトムアップの取組に積極的な企業
ファブラボやハッカソン等の事業を実施している自治体やNPO、諸団体
(想定される効果)
認定・表彰されることにより、当該企業の外部労働市場による価値が向上する。表彰事例をグッドプラクティスとしてまとめ、企業の参考モデルとする。
施策モデルイメージ
企業等
応募・自社の
取組に関する
説明
組織風土改革活動、
アフター5の活動、
社内ベンチャー制
度、ファブラボ活動
などの多様な取組
を認定・表彰
人材育成企業の認
定・表彰
エンジニアのスキル活用
拡大に取り組む企業の
認定・表彰
審査
有識者による
審査委員会
英国では、能力開発優良企業の認証制度(Iip:
Investors in People)を導入・実施
事業主と従業員双方が、能力開発の目的及
び重要性を理解し、訓練成果が基準に達したと
判断されるとIip認証を取得できる制度
セミナー・事例集等による全国への普及
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8.課題解決のための施策モデル案
8-3. 企業間交流プラットフォーム整備プロジェクト
(概要)
製品開発の上流から下流(ソフトウェア・ハードウェアエンジニア、デザイナー、プランナー、投資家)までの人材が集め、ビジネスモデル創造、製品プロトタイピ
ング、市場テストの実践を通じて、ビジネス・技術を包括した横断的な視野を身につけさせ、企業内でのイノベーション創出、起業、自身の技術を生かせる企業
への転職・再就職を促進させる。
(対象)
技術人材を擁する大企業で、新たなイノベーション誘発に外部連携により取組む企業、大企業等との連携を志向するベンチャー企業、フリーの技術者
(想定される効果)
企業内でのイノベーション創出、起業、自身の技術を生かせる企業への転職・再就職を促進
施策モデルイメージ
技術系人材派遣会社
ソフトウェアエンジニ
ア、ハードウェアエン
ジニア、デザイナー、
経営事業企画者が
グループで参加
新たなイノベーション誘
発に外部連携により取
組む大企業
運営
ファシリテータ人材の
提供、カリキュラム作
成、ファシリテータ育
成
大学等の教授
NPO等のファシリテー
ター
・既存のFab Labやinnovation Hub等を
活用
研究開発型の中小企業
やベンチャー企業
個人事業主
フリーランサー
(クラウドソーシング)
・プロトタイピングと市場化テストによるビジネスモ
デル創出
ソフトウェアエンジニ ・多様な企業や個人のエンジニア等の参画
ア、ハードウェアエン によるopen innovationの実践
ジニア、1ユーザーと
して参加
地方自治体
研究機関等による
事業進捗管理・評価
全国主要都市での展開
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8.課題解決のための施策モデル案
8-3. 企業間交流プラットフォーム整備プロジェクト
企業間交流プラットフォーム整備プロジェクトの活用イメージとしては、「スタートアップ」、「他流試合」、「マーケティング」、「商品開発・事業開発」、「流動化」、「
CSR」を目的としたものが考えられる。
企業間交流プラットフォーム整備プロジェクトの活用イメージ
目的
主なプレイヤー
概要
スタートアップ
創業予備軍(在職者、離職者)
事業会社、個人投資家、メンター
コンテスト方式のハッカソン
優秀者には、スタートアップ支援あり
他流試合
ミドル以降の在職者(技術者)
デザイナー、事業プランナー
研究開発部門長、人事部長
教育・研修が基本のプラットフォーム
キャリアカウンセラー、コーチャー等とのの
リフレクションの機会
マーケティング
大企業等の販売部門、研究開発部門
ヘビーユーザー
消費者等との交流
インフルエンサーへの訴求機会
研究開発の探索活動の場
商品開発・事業開発
ベンチャー・研究開発型中小企業
フリーランサー技術者
外部連携に積極的な大企業
コンセプトの早期のプロトタイプ化
大企業と個人技術者とのマッチング
流動化
転職希望者、再就職希望者
求人企業
協働プロジェクト型の人材マッチング
CSR
地域住民
企業
社会貢献活動の一環
地域課題等の技術者によるアイディア出し
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