<メディア批評> 「村山談話」を反古にしかねない戦後 70 年の「安倍談話」 2015 年 1 月 7 日 上出 義樹 「侵略」の言葉が消える? 安倍晋三首相は 1 月 5 日、三重県伊勢市で行われた年頭の記者会見で、今年 8 月 15 日の 終戦の日に発表する戦後 70 年の首相談話の基本的な考え方を明らかにした。アジア諸国 に謝罪した 20 年前の「村山談話」を「全体として引き継ぐ」と強調しているが、問題は その中身。安倍首相の一連の国会答弁などからみて、 「村山談話」の最も重要なキーワード である「植民地支配と侵略」がすっぽり抜け落ちることが懸念される。 10 年前の「小泉談話」も「植民地支配と侵略」を明記 戦後 50 年(1995 年)の節目に発表された村山富市首相の談話は、 「植民地支配と侵略 によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えまし た」と日本の侵略行為を明記。その 10 年後の小泉純一郎首相の談話も、 「植民地支配と侵 略」の言葉が使われ、日本政府の見解として引き継がれている。 ところが、安倍首相はこれまでの国会答弁や記者会見などで「アジア諸国に多大の損害 と苦痛を与えた」との表現は使うものの、 「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まってい ない」として、日本の「侵略」をかたくなに否定している。 歴代内閣の中でも異常さが際立つ安倍政権 安倍首相ばかりでなく、岸田文雄外相も閣議後の定例記者会見で、 「安倍政権はなぜ『侵 略』の言葉を使わないのか」 「アジア諸国に多大の損害や苦痛を与えても、侵略はしていな いということか」などと問う私(上出)の質問に対し、 「侵略」の有無を一切言及していない。 他の閣僚たちも、同様に「侵略」の言葉を懸命に避けながら答えるのが常だ。つまり、安 倍政権では「侵略」はタブーなのである。歴代内閣と比べても、異常さが際立つ。 問われるメディアの対応 「安倍談話」の内容は 8 月 15 日に向け今後、歴史や外交などの専門家からなる有識者 会合で詰めることになっている。この問題での安倍首相のこれまでの言動や、集団的自衛 権の行使容認など、安倍政治そのものの暴走ぶりなどから、 「村山談話」の核心である「植 民地支配と侵略」の言葉が無事に生き残る可能性は高くないと、見るのが自然だろう。 戦後 70 年の「安倍談話」から、もし「侵略」の表現が消えれば、世界の信頼を得た「村 山談話」 は事実上反古にされる。安倍政権を後押しする読売や産経などは無理だとしても、 多少とも安倍政治に批判的なメディアは、 「侵略」の 2 文字に徹底的にこだわってほしい。 (かみで・よしき)北海道新聞で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委員な どを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士後期課程(新聞学専攻)在学中。 1
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