「2015年、銀行業界を占う~「再編」「グローバル化

2015年、銀行業界を占う ~「再編」
「グローバル化」
「デジタル化」の波
「再編」
「グローバル化」
「デジタル化」―――。
3つのキーワードで経営改革の実行が求められる年になる。
2014 年3月期は史上最高水準の決算に沸いた。2014 年9月の中間決算も高い利益
水準を確保している。
ただし、銀行の経営幹部の方と意見交換をさせていただくと、
このタイミングで
構造改革の手を打つことが重要との認識が大半だ。
国内成熟経済下での危機意識はもちろんのこと、
資本の制約・信用コストの問題な
ど、
前向きな投資のあしかせとなる経営イシューが少ない時期だからだ。
本年も、経営・IT革新に挑む金融機関の改革実行のパートナーとして、
この3つの
宮良 浩二
テーマを中心にしたサービス提供に力を注ぎたいと考えている。
1995年 アクセンチュア入社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
銀行グループ統括
1. 再編の波 : 新たなモデルでの地域
Head Ratio=( 経費 / コア業務粗利益 ) を提供するという現在の構図では、共
金融機関の合従連衡
×100) の 低 下 に 明 確 な 相 関 は 見 ら れ 通プラットフォーム化の範囲に限界が
な い。 こ れ ま で の 取 組 み に は 共 通 プ ある。同時に、地銀 IT マーケット死守
横浜と東日本、肥後と鹿児島―。
ラットフォーム化の「範囲」と「提供者」 が死活問題である IT ベンダーから抜本
地銀トップ行が仕掛けた再編、県トップ
的なコスト削減の提案は期待しづらい。
の 2 点で限界がある。
行同士の統合など、地域金融機関の再
共通プラットフォームの「提供者」が
「範囲」について。業態は違うが、ド
編 の 幕 が 開 け た。 地 域 銀 行 の 貸 出 約 まず、
銀行となるには、自ずと地域銀行間の
定金利の低下が続いている。加えて、 イツ Sparkassen(貯蓄銀行グループ 423 機能分化を意味する。実行のハードル
地域密着という強みが活かしづらい人 銀行)は、営業などフロントの独立性を は高いがリーダーシップを発揮する銀
口減少時代に直面している中、これま 維持する一方でシステム・事務・信用格付・ 行の出現を期待したい。
で 以 上 に 戦 略 的 な 合従連衡が必要と 商 品 開 発・ 外 為 業 務 な ど を 共 通 化 し
て、大手独銀比でも競争力のある OHR を ② 同一商圏内での合従連衡
なろう。3 つの考え方を示したい。
① 広域商圏での合従連衡
達成している。本邦の地銀システム共同 特にリテールビジネス依存度・高齢者比
化のスキームやシステムソリューション 率の高い地域(図表 1 の右上のセグメ
広域商圏での合従連衡にあたっては一段 自体が規 模の経済を発揮できないも ント)では、利鞘縮小による収益性の
の経費削減につながる取組みが必要だ。 のになっているケースがあるのも事実だ 低下に加えバランスシートの縮小も避
地域に根ざした営業機能以外の共通プ
が、システムだけの共通プラットフォー
ラットフォーム化が鍵になる。
ム化ではコスト削減の対象が小さい。
けられない。さらに一歩踏み込んだ効
率化が必要だ。広域での合従連衡は、
規模拡大による調達力のア ッ プ や ス
今では 8 割を超える地域銀行がシステ また、共通プラットフォーム化の範囲を
ケールメリットによる一定の経費削減
ム共同化の取組みに参加している。しか 広げる為には「提供者」となる銀行が必
が望めるものの、打てるコスト削減施
しながら、システム共同化と OHR(Over 要だろう。IT ベンダーが共同化システム
策が限定的だ。
3
図表 1 再編の波
都道府県別のリテールビジネス・高齢者依存度
90.0
85.0
12
14
25 11
80.0
29
24
9
75.0
65.0
10
33 23646
412123 1 43 1617
44
19
20 42 31 18
3
34 7 45
37
5
22
47
30
6 38
15
28
40
個人預金比率
リテール依存度
71.7
70.0
8
27
4
35
3239
26
60.0
25 滋賀
2 青森
26 京都
3 岩手
27 大阪
4 秋田
28 兵庫
5 宮城
29 奈良
6 山形
30 和歌山
7 福島
31 鳥取
8 茨城
32 島根
9 栃木
33 岡山
10 群馬
34 広島
11 埼玉
35 山口
12 千葉
36 香川
13 東京
37 愛媛
14 神奈川 38 徳島
55.0
50.0
13
1
45.0
40.0
15.0
1 北海道
17.0
19.0
21.0
23.0
25.0 25.1
27.0
29.0
31.0
33.0
65歳以上人口比率
高齢者依存度
出所: 日銀、人口問題研究所よりアクセンチュアリサーチ作成。なお、65歳以上人口は2013年10月、預金は2014年9月
15 山梨
39 高知
16 長野
40 福岡
17 新潟
41 佐賀
18 富山
42 長崎
19 石川
43 熊本
20 福井
44 大分
21 静岡
45 宮崎
22 愛知
46 鹿児島
23 岐阜
47 沖縄
24 三重
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ガ銀行とも免許を取得、アジアにおけ
これまでのライバル同士が手を組める
米国は顧客のデジタル・リテラシー(=
かなど、実現のハードルは極めて高い
デジタル・バンキングの受容度)が高く、 る邦銀のプレゼンスの大きさを実感で
が、本部コストや店舗・自行 ATM の統
取引銀行に対するロイヤリティーが必
廃合によるチャネルコストの削減に踏
ずしも高くない(=取引銀行を変える
み込んだ同一商圏内での再編も視野に
事に抵抗が少ない)が、地域銀行の広
入れる必要があろう。
域展開にはブランド問題がつきまとう。
③ 異業態・異業種連携による
米国南部を中心に店舗展開をする
きる嬉しいニュースだった。
地域銀行からメガ銀行に目を転じると、
引き続きグローバル展開の加速が最大
の経営アジェンダの一つとなっている。
2014 年 9 月中間期決算も、利鞘確保
BBVA Compass は、昨年デジタル戦略
の厳しい国内業務を、アジアを中心と
を加速する上で、Simple 社を買収した。
したマーケットの成長果実で補完する
多くの地域銀行がインターネット支店
同行は、広域展開にあたって Simple 社
新しい広域モデルの構築
を開設し、地域外の顧客からの預金獲
得や貸出先拡大を狙っている。魅力的
な金利提示により地域外顧客の獲得に
一定の成果を挙げているものの一過性
となっているケースが少なくない。
地域銀行が商圏を拡大する場合、一般
的に「チャネル展開」と「ブランド認
のブランドを活用し、自身は金融商品
の「製造業者」に徹するという。これ
グローバル・オペレーティングモデル
は一例だが、地域銀行同士の再編を超
の構築にあたっては、
「縦串」と「横串」
えた異業態・異業種との協業による新
の両立が求められる。つまり「多様性
たな価値訴求の取組みが今後増えてく
に富む各ローカルマーケットでのプレ
るだろう。
ゼンス発揮」と「オペレーション(事務・
2. グローバル化の波 : グローバル・
知」があしかせとなる。インターネット・ オペレーティングモデルの構築
モバイルの進展は「チャネル展開」の
ミャンマー、3 メガに銀行免許―。
障壁を相対的に低いものとした。一方、
「ブランド認知」については依然悩まし
い問題だ。
構図が続いている。
先般、ミャンマー政府は外国銀行 9 行
に銀行免許を交付したが、日本は 3 メ
システム)部門、プロダクト部門やリス
ク管理部門の高度化・効率化」の 2 つだ。
各行ともますます国際業務の比重が増
える中、「縦串」重視の姿勢から、「横
串」のインフラ整備が重要なタイミン
4
図表 2 グローバル化の波
グローバル銀行のITソーシング
100%
Bank A
9,400
Bank B
24,000
Bank C
43,400
Bank D
11,500
内製化比率
Bank E
25,700
Bank F
38,000
50%
Bank G
16,000
Bank H
20,000
Bank I
15,050
Bank J
8,400
0%
0%
50%
100%
オフショア比率
出所:
Everest Researchよりアクセンチュア作成
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グにあるのではなかろうか。邦銀では、
IT インフラ整備の実行スピードアップ このような取組みを銀行の経 営 幹 部
海 外 シ ス テ ム も 東 京 で 開 発・ 維 持、
のお手伝いができればと考えている。
の方にご紹介すると強い関心が寄せら
それ以外はローカルの裁量という体制
れる。銀行の IT の考え方について変化
も珍しくない。これは、昨年弊社が実
施したグローバルプレイヤーのソーシ
ングの実態調査結果と趣を異にするも
のだ。内製(インソース)か外製(アウ
トソース)かは各金融機関の戦略に依
存しているものの、一貫してオフショ
3. デジタル化の波 :“脱”銀行の
発想転換 - “Everyday Bank”
Digital Disruption(デジタルがもたら
す破壊的な変化)―。
グローバル・オペレーティングモデルの
スの融合を企図するものだ。注目すべ
構築は弊社にとって最も実績があるテー
きテーマとして、
「ビッグデータ・アナリ
マの一つだ。また、弊社はインド・中 ティクス」
「モバイル・ワイヤレス」
「決
国・フィリピン等に大規模なデリバリー 済」
「セキュリティ・コンプライアンス」
センターを抱えている。弊社の実績・人 「ソーシャルメディア・コラボレーション
5
来、銀行の IT といえば「大量処理の自
動化」「安定稼働」「コスト削減」がま
ずもって重要であり、成熟した技術の
最後のキーワードとして、地域銀行・ 採用が常であった。しかし、「新技術
メガ銀行の共通テーマとなる「デジタ
アのデリバリーセンター(IT や事務の ル 化 」 を 挙 げ た い。 ア ク セ ン チ ュ ア
提供センター)の徹底活用を進めてい
では、昨年アジア・パシフィック金融
る(図表 2)。これは、「①コスト効率
テクノロジーラボ(Fin-Tech Innovation
向上」や「②ビジネス展開のあしかせ
Lab Asia Pacific)という取組みを香港
とならないキャパシティーの安定確
で開催した。この取組みは、ニューヨー
保」に加え、
「③デリバリーセンターを
ク・ロンドンで既に成功を収めたもの
集約する事での業務・システム自体の
でアジアで初めての開催となった。新
標準化(=各国で類似の事務やシステ
技術をもったベンチャー企業と大手金
ムを作らせない事)」を企図している。
融機関が参加し、新技術と銀行ビジネ
材を梃子に、邦銀のグローバル業務や
の潮目が来ていることを実感する。旧
技術」等があった。
を活用して新たなサービスやオペレー
ションを構築できないか」といった視
座でプロジェクトや専任部署を立ち上
げる例が増えている。背景には「テク
ノロジーの進展」を「顧客理解力」
「商品
提供力」「顧客リーチ力」といった銀行
の基本機能の強化につなげようという
企図がある。同時に、
「業界構造の破壊」
にいかに対応するかという問題意識の
高まりがある。(図表 3)
”Everyday Bank”――。 弊 社 は、 デ ジ
タル化時代のリテール銀行の 将 来 ビ
ジョンとして「あらゆるものをつなぐ
銀行」という考え方を提唱している。
当然のことながら「お金」にまつわる
図表 3 デジタル化の波
銀行の基本機能の強化
あらゆるものをつなぐ銀行への深化
Everyday Bank
電子機器 食品
顧客理解力の強化
• 大量データを活用した与信精度向上
• 位置情報を活用したイベント捕捉
• SNSからのニーズ把握
• クレジットカードの消費行動データ等から顧客嗜好捕捉
•・
・
・
衣料/靴
ペット
不動産(購入・賃貸)
消費財
電気/ガス
住
居
関
機
通
交
交通機関/
駐車場
ホームセキュリティ
クーポン/
引換券/
ポイント
エコシステム内のサービス
大企業
小売業者/中小企業/企業
シ
行
対象を
絞った
広告
情報
&教育
ー
とし
するソリュ
ての銀
足
の調
充
に対
の
ン
ビ ス ニ ーズ
新聞/
雑誌/
書籍
トレーニング/
教育
の
銀
行
と
め
ズ
ー
役
ニ
航空便
ー
ョ
の
し
て
サ
融
と
顧客リーチ力の強化
チケット
発券
者
自動車保険
金
暮らし
支援
防
健康&予
アクセス
医療サービス
整
各種支払い
形態
個人・家族保険
• オムニチャネルの構築
• ソーシャルメディア・モバイルバンキング
• デジタル化店舗
• コラボレーション技術を利用した非対面相談
•・
・
・
比較機能
購入提案
家具
• 金融商品のパッケージ化とダイナミック・プライシング
• 声紋認証での本人確認、
音声認識による画面遷移
削減等、
新技術を活用したサービス提供
• 銀行商品+他業種サービスのバンドル
•・
・
・
自動車(購入・修理)
ザーとしての銀
バイ
行
アド
家屋の修理
ハウスクリーニング/
ホームケア
商品提供力の強化
家電
燃料
Dマーケット
プレイス
旅
行&
レジ
ャー
イベント
ホテル
価
値
の
ま
通信
スポーツ活動
レジャー活動
レストラン/バー
電話/インターネット
テクノロジーの進展 + 業界構造の破壊
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ニーズはそれ単独で存在するものでは の重要な一端を担う。他企業との特別
経済圏」
のワンストップメリットを訴求。
なく、教育・医療・健康などの「コト」 な提携やパートナーシップにより顧客
③小売だけでなく金融取引もダイレク
消費や消費財などの「モノ」の購買に
付随する。一方で一般の顧客からする
と旧来の銀行は遠い存在と感じられて
い る ケ ー ス が 多 い。 弊 社 で は、 経 済
活 動 の あ ら ゆ る も のをつなぐ銀行と
して、顧客の経済活動の第一接点で 3 つ
の 価 値 を 提 供 し よ うとする考え方を
(図表 3)
”Everyday Bank”と称している。
①アドバイザーとしての銀行:銀行は
信頼できるアドバイザーとしての従来
の立場を活かす。ただし、「お金」のみ
ならず、「コト」「モノ」を含めたニー
に経済的メリットをもたらす。
トで完結できる仕組みを導入。(*1)
③アクセス支援者としての銀行:銀行
イオン銀行は、①実店舗から得られる
は顧客との関係を利用して、医療機関・ 顧客購買データに基づく顧客理解、②
教育産業・・・等、他のサービス業と
ローン顧客にイオンでの小売割引等の
の繋がりを築く。顧客のニーズやライ
経済的メリットを還元、③店舗内の銀
フスタイ ルに合わせた特別な商品や
行併設、みずほ銀行等との ATM 相互開
サービスをワンストップで提供する。
放等による利便性向上、など。(*2)
昨今の他業態からの金融ビジネスの参
このように業態を超えた競争が激化す
入も、彼らの本業を起点として、上記
る中、銀行ビジネスを ”Utility
図するものと理解できる。
置付けるか――。
「テクノロジーの進展」
Service”
3 つの価値提供で業界構造の破壊を企 と位置付けるか、”Everyday Bank” と位
ズに対して顧客の比較検討から購入・ 例えば、楽天銀行。①小売(e コマース)
ファイナンスまでを支援する。
②価値のまとめ役としての銀行:銀行
は顧客のエコシステムやコミュニティ
から得られる顧客購買データから顧客
と「業界構造の破壊」が銀行の選択を
迫っているといえよう。
理解を深め、顧客へのレコメンドに活 (*1)(*2) はいずれも公知情報に基づく
用。②ポイントを積極活用した「楽天
6