低炭素特別委員会第2次提言

<提言>
官民連携によるエネルギー対策の推進
平成26年9月29日
公益社団法人日本都市計画学会
低炭素社会実現特別委員会
はじめに
我が国の都市では、都市の低炭素化を目指す観点に加え、2011 年に発生した東日本大震災の経験
を踏まえ、都市の防災・減災の観点からもエネルギー対策を考える必要性が認識されています。
そのような中で、2014 年に政府が発表した第 4 次エネルギー基本計画では、多層化・多様化した
柔軟なエネルギー需給構造を目指す事が示されました。そこでは、供給サイドからのエネルギーシ
ステムに加え、需要サイドが主導し、地域が主体となって分散型エネルギーシステムの構築を推進
していく事が期待されています。分散型エネルギーシステムの構築にあたっては、国と地域のエネ
ルギーセキュリティの観点からも、地域に存する未利用・再生可能エネルギーを地域において最大
限に活用することが求められています。
一方、エネルギー市場の自由化や発送電分離といった議論も進んでおり、また ICT によるエネル
ギー分野の技術革新も進展し、スマートメーターに代表される、需要側のきめ細かな情報把握、変
換、蓄積を可能とする技術が普及しつつあります。
こうしたエネルギー分野での大きな変化を適切に捉え、地域独自のエネルギー対策を考えること
は、自治体の責務でもあり、また、これからの都市・地域政策にとっても重要です。特に、国際競
争力の強化を図る都市再生や、人口減少・高齢社会への対応を図る集約型市街地づくりなどの都市
づくりの場においてエネルギー対策に積極的に取組むことは非常に重要です。
日本都市計画学会では、上記の認識を基に、都市づくりの中でのエネルギー対策について議論を
進めてまいりました。その成果を基に提言を行います。
Ⅰ
都市づくりの中でのエネルギー対策の考え方
1.視点の整理
○都市の低炭素化と防災性能向上を出発点にエネルギーシステムを考える
・都市の低炭素化を図るためには、省エネの推進や、温暖化ガスを出さない未利用・再生可能
エネルギーの活用を推進するなどのエネルギー対策が最も重要です。このため、都市づくり
の場において積極的にエネルギー対策に取組むことが重要です。
・一方、東日本大震災以降、我が国におけるエネルギー供給構造が大きな転換点を迎えていま
す。災害時にも BCP・LCP の観点からエネルギー供給を継続できる自立型のエネルギーシス
テムの構築を図ることが求められています。災害によってエネルギー供給が途絶える事は、
都市活動に大きな影響を与えます。そのため、都市の安全性や信頼性を確保する都市のエネ
ルギーシステムのあり方について、これまで以上に積極的に考えていく事が必要となります。
○都市計画・都市づくりとエネルギー対策の一体的推進を考える
・国のエネルギー基本計画におけるエネルギー供給の多様化では、これまでの大規模集中型・
一方向型の供給に加え、地域ごとの分散型エネルギーシステムの導入が期待されています。
1
・分散型エネルギーシステムを考える場合、面的な都市づくりの場は重要な検討の場になりま
す。都市空間の中でどのように整備していくか、土地利用・施設配置や交通計画などに関す
る検討とエネルギーに関する検討を構想・計画段階から一体的に進めることが必要です。
・また、エネルギー供給の自由化が始まり、需要側のニーズに応じた選択・組合せが可能にな
ります。上記に述べた都市の防災性、分散型エネルギーといった視点を踏まえて、都市づく
りにおいてどのようなエネルギー需給システムを選択していくべきかについて考える事が必
要となります。
・更にエネルギーの管理・運営システムは、エリアマネージメントの新たなテーマになるもの
であり、地区計画等による検討において、都市づくりの内容とエネルギー対策を一体的に考
えることが必要です。
○熱と電気を総合的に取り扱い、マネジメントする
・固定価格買取制度の導入やスマートシティの実証など、近年のエネルギーに関する議論は、
電気を中心に進んでいます。しかし熱は最終エネルギー消費の多くの割合を占めるため、こ
れからの効率的なエネルギーシステムを考えるにあたり重要なファクターになります。
・特に、未利用・再生可能エネルギーの活用においては、熱を熱として活用するシステムが重
要になります。地域に存するエネルギー資源を把握し、その最大活用を図る観点から、熱エ
ネルギーのシステムと電気エネルギーのシステムの望ましい組み合わせを考えることが必要
です。
なお、地域に存する熱エネルギー資源を効率的に活用するためには、面的な都市づくりの場
での活用が特に重要です。
・なお、熱の面的利用には、熱導管の設置やプラント設置等、都市空間の活用が必要になりま
す。また、都市機能の集約化は熱の効率的利用に寄与します。そのため、熱エネルギーのシ
ステムを考えることは都市づくりとの関連性が高い取組みと言えます。
○エネルギー対策を通じて多面的・総合的な価値を追求する
・都市づくりにおいてエネルギーシステムの在り方を考える事は、温暖化問題やエネルギー問
題の解決に資するだけでなく、多様な価値を生み出す事につながると考えられます。すなわ
ち、エネルギーシステムの評価には、エネルギー削減効果(EB:Energy Benefit)だけでなく、
以下のような多様な価値(NEB:Non Energy Benefit)も組み込むことが重要です。
<大都市:都市の競争力向上>
・国内及び国際的な業務機能が高度に集積する大都市においては、都市の BCP の高度化が重要
な課題となります。自立運転機能を備えた分散型エネルギーシステムを、都市の重要拠点に
配置する事は、一定のエリアにおいて、都市の高度な BCP に寄与します。
このことは国際的な都市間競争の観点からも価値を生み出す事となります。
<地方都市:地域活性化>
・地方都市においては、地域経済の疲弊が課題となっています。未利用・再生可能エネルギー
は、地域にある貴重な資源です。地域にあるエネルギー資源を自らの地域で活用する事は、
その分地域外からのエネルギー購入コストをカットすることが出来、地域マネーが外に流出
せず、地域内で循環する事になり、地域経済の活性化につながります。
2
・また地域エネルギービジネスや木質バイオマスの活用による農林業の活性化など、新たな事
業機会の創出やそれに伴う雇用の創出にも寄与する事となります。
Ⅱ
都市づくりの中でのエネルギー対策の実践
・分散型エネルギーシステムの導入等都市づくりの中でのエネルギー対策の推進にあたっては、行
政のイニシアティブと官民連携が重要です。ここでは、具体的なアクションにつなげるための取
組み方針と新たな調査・計画ツールおよび態勢と場の整備について提言します。
1.エネルギー対策の推進にむけた都市計画・都市づくりの取組み
(1)自治体エネルギー施策の策定
・エネルギー政策基本法第6条では、地方公共団体の責務として、「エネルギーの需給に関し、
国の施策に準じて施策を講ずるとともに、その区域の実情に応じた施策を策定し、及び実施
する責務を有する」としています。即ち、未利用・再生可能エネルギー資源の賦存量やエネ
ルギー使用の現状等を踏まえ、各地方公共団体は独自の地域エネルギー施策を策定すること
が求められています。その場合、地域に根差したエネルギー対策としては、特に都市におけ
るエネルギー対策が重要です。そして、そこにおいては、都市計画・都市づくりの場におけ
るエネルギー対策が重要なポイントになります。
・このため、都市計画・都市づくり部局は、下記の都市づくりの場における「エネルギー対策
の方針」を策定し、自治体のエネルギー基本計画やその実現をめざす実行計画等の策定に積
極的に貢献することが必要です。
・なお、地域におけるエネルギー対策を確実に推進していくため、都道府県および市町村にお
いて地域(都市)エネルギー対策推進条例の策定を検討することも考えられます。
(2)都市計画・都市づくりにおける「エネルギー対策の方針」の策定
・自治体エネルギー基本計画がある場合にはそれに基づき、ない場合は、低炭素都市づくりを
目指す独自の観点から、都市計画・都市づくりにおける「エネルギー対策の方針」
(都市づく
りエネルギーマスタープラン)を策定し、都市計画のマスタープラン等への反映を図るとと
もに、個別都市計画業務(地区計画や市街地開発事業、開発許可事業等)へも反映させ、実
践を図ることが重要です。
・
「エネルギー対策の方針」においては、未利用・再生可能エネルギーの積極的活用と分散型エ
ネルギーシステムの導入および面的な省エネルギー対策が主なテーマになります。
・その内容としては、都市再生区域や市街地開発事業、開発許可事業、団地再生事業、地区計
画の区域など面的都市づくりを実施するエリアを対象(アクションエリア)として、未利用・
再生可能エネルギーの活用と分散型エネルギーシステムの導入を確実に検討すること、また
検討は土地利用計画や都市施設計画等と一体的に実施することや検討態勢等について示すこ
とが必要です。
・この場合、地域エネルギー資源の賦存量や上記の自治体エネルギー施策を踏まえて、重点的
に検討(または推進)すべき未利用・再生可能エネルギーや分散型エネルギーシステム(例
えば、大都市でのコジェネによる面的供給や下水熱・排熱等の活用、地方都市での木質バイ
オマスによる面的熱供給など)が整理・特定されている場合には、その内容を出来るだけ具
体的に示す事が望まれます。
3
・なおこれらの検討にあたっては、電力だけでなく、熱エネルギーに関する検討が重要です。
そして、
「エネルギー対策の方針」に基づいた検討・協議の実施を、都市計画の決定・変更や
開発許可をする際の内容または条件として明示しておくことが必要です。
・面的な省エネルギー対策としては、上記のエリアのほか、中小ビル街区や商店街、駅前街区
などの既存市街地も対象になります。これらのエリアで、地区計画等を活用した街区単位で
の建替え誘導に合わせた設備機器の更新や共同利用、エネルギーエリアマネージメントシス
テムの導入などが検討メニューになります。
・なお、パッシブなエネルギー対策として、ヒートアイランド対策についての方針も重要です。
・これらをまとめるにあたっては、当該都市における、未利用・再生可能エネルギーの賦存量
やエネルギーの利用実態、エネルギー機器やシステムの現状等の把握・分析が必要です。
・このため、下記に述べる「都市における総合的エネルギー体系調査」の実施が望まれます。
(3)面的都市づくりの場等における実践とコーディネート機能の整備・活用
・特に都市再生区域や開発許可事業、市街地開発事業等の面的な都市づくり、大規模な住宅団
地やニュータウンの区域、また工場等の跡地開発事業区域においては、未利用・再生可能エ
ネルギーの活用を図り、また、分散型エネルギーシステム導入の検討を積極的に進めること
が重要です。
・このため、上記の場における都市計画の検討において、エネルギー対策を、土地利用・施設
配置計画、交通計画、公園緑地計画等と一体的に検討する調査・計画業務実施フローを整備
しておくことが必要です。
・また、分散型エネルギーシステムの導入を円滑に進めるためには、
新たなエネルギーシステムのメリット・デメリットやコスト負担の在り方を含めた合意形成
が重要になります。
・エネルギー供給主体や管理・運営主体についても併せて検討し、合意することが必要です。
こうした合意形成を円滑に進めるためには、これまでの都市づくりに関するコンサルティン
グ・コーディネート機能のほか、これと連携・協働する新たなコンサルティング・コーディ
ネート機能が必要になります。
・低炭素都市づくりや都市エネルギー対策の推進にむけ、都市づくりの現場で必要となる、こ
うした新たなコンサルティング・コーディネート需要に対応するため、日本都市計画学会は、
新たな機能を果たす専門家の育成や、都市計画とエネルギーに関する分野横断的な連携・協
働態勢の構築を支援し、また全国の自治体からの相談に積極的に対応することにしています。
(4)設備や導管等エネルギーインフラの整備および運営・管理への対応
・エネルギーインフラを都市の中で整備していくにあたっては、公共空間の使い方(道路、公
園等の占用)が重要になります。また、占用にあたっては、整備されたシステムを円滑かつ
効率的に活用していくための運営・管理主体と運営・管理システムも重要です。
・こうした課題に円滑に対応していくためにも、まず、上記した「自治体エネルギー施策」や
「都市計画・都市づくりにおけるエネルギー対策の方針」を策定し、都市計画のマスタープ
ラン等での公的位置付けをしておくことが重要です。
・また、個別エリアでのエネルギー対策の具体化にあたっては、
「低炭素まちづくり計画」や「地
区計画」等を積極的に活用し、関係者による合意形成と、公的な計画としてのより具体的な
位置付けを行うことが効果的です。
4
2.都市づくりとエネルギー対策の一体的推進にむけた新たな調査・計画ツール
・上記の取組み方針を具体化するにあたって、以下のような新たな調査・計画ツールと場の活用
を提案します。
(1)新たな調査・計画ツール
・上記に述べたように、都市計画・都市づくりにおける「エネルギー対策の方針」の策定にあた
っては、地域に存する未利用・再生可能エネルギーの賦存量やエネルギー使用状況等についての
把握・分析が必要です。
・都市交通計画の策定において総合都市交通体系調査を実施するように、都市における新たなエ
ネルギーシステムの在り方を検討するにあたり、エネルギー・建物・設備等に関する総合的な調
査(総合都市エネルギー体系調査)の検討も必要です。その主な内容としては、エネルギー消費
量や未利用・再生可能エネルギー賦存量、エネルギーシステムの状況等の把握と将来予測等が中
心となります。なお、都市における総合的なエネルギー調査の手法と調査データに基づく計画ツ
ール等の開発に関しては、まずモデル都市における実践が効果的であり、その成果を踏まえて全
国の自治体への展開を進めることが必要です。
・全国における温暖化対策およびエネルギー対策の推進の観点から、こうしたモデル調査事業の
実施にむけ、国は先導的役割を果たす事が重要であり、また関連学会は連携・協働して、調査手
法や計画ツールの開発に関して積極的に取組み、モデル調査事業の企画を策定し、その実施に積
極的に参画することが必要です。
・なお、計画ツールとして、都市計画・都市づくりの場におけるエネルギー対策の推進の観点か
ら、特に、面的都市づくりのエリアにおける「地区エネルギーデザイン手法」の開発が必要です。
3.都市づくりとエネルギー対策の一体的推進にむけた場の活用と専門的支援の推進
(1)場の活用
・都市づくりの中で、分散型エネルギーシステムの導入などのエネルギー対策を進めていくにあ
たっては、多くの主体が関係し、合意形成を円滑に進めることが重要です。そのため、エリアの
関係者がエネルギー対策や防災対策といった課題に対しても、対話を繰り返し、意識を共有しな
がら、必要な取組みについて検討していく場が重要になります。
・そのような対話の場としては、以下のような場が考えられます。
○都市づくりに関する協議会の場の活用
・中心市街地活性化や都市再生の場においては、官民が対話する協議会が制度的に位置づけら
れております。このような場を活用し、都市づくりに関する空間計画の検討と一体的に、エ
ネルギーや防災についての検討を行うことが重要です。
・また、市街地開発事業に際して設置する街づくり協議会においても、土地利用や都市施設に
関する検討と合わせて、エネルギー対策についても、計画協議の早い段階から一体的に検討
することを原則とすることが重要です。
○防災や地域再生などのテーマをきっかけとした対話の機会創出
・分散型エネルギーシステムを考える事は、都市の防災性能の向上や新たな産業創出などの地
域再生につながります。そのため、防災や地域の経済再生といった事をきっかけに対話の場
5
を設け、その中で都市づくりとエネルギー対策について議論していく展開も考えられます。
(2)取組みの入口における専門的支援とその活用
・都市づくりの中で、エネルギー対策を推進していくためには、都市づくりの主体となる自治
体や民間都市開発事業者が先導的役割を果たすことが重要です。
・しかし、特に自治体が実施する都市づくりにおいては、エネルギー対策は新しいテーマであ
り、専門的知識も十分ではなく、取組み方についても、まだ、参考とする事例が少ないのが
現状です。このため、自治体での取組みをどのように進めるのか、入口での進め方に関して、
外部からの専門的支援も必要になっています。
・その支援策としては、都市計画・都市づくりの担当職員に対する「特別研修」
(低炭素都市づ
くりのメニューや手法、エネルギーに関する基礎知識や都市づくりの場におけるエネルギー
対策などに関しての集中的研修や、自治体内で一定の人材ストックを形成するための継続的
研修)や取組み方に関する「相談・指導」が考えられます。
・日本都市計画学会では、こうした支援策を、関連学会や関連の公益法人、民間専門家および
エネルギー関連企業とのネットワークを整備し実施していくことにしています。
・各自治体は、学会等によるこうした支援策を十分活用して、低炭素都市づくりおよび都市エ
ネルギー対策の推進に積極的に取組んでいくことが期待されます。
6