脱・通信会社へ、3つの大きな課題

特集
NTTの
世界戦略
脱・通信会社へ、3つの大きな課題
海外 ICT企業の相次ぐ買収で世界戦略を進めるNTT。国内通信事業が苦戦を強い
られる中、グローバルクラウド事業を今後の成長の柱に据える。目指すは
「脱・通信会
社」
。2007年度に20 億ドル規模だった海外売上高は2011年度に100 億ドルを
突破。2016 年度には200 億ドル規模に拡大する構想を描く。はたして世界のICT
大手と伍していけるのか。NTTの勝算と課題を探った。
(榊原 康)
14
NIKKEI COMMUNICATIONS January 2015
[パート1:現状把握]
グループで各社各様の戦略も
クロスセル進展で成長に手応え
・・・・・
18
[パート2:課題分析]
上位レイヤーの強みが不足
ガバナンスの強化も道半ば
24
・・・・・・・・・・・・・
(億ドル)
250
(%)
50
NTTの海外売上高の推移
200億ドル
200
海外売上高
30
122億ドル
119億ドル
114億ドル
25
100
50
0
40
35
150億ドル
150
45
20
15
48億ドル
29億ドル
26億ドル
20億ドル
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
年度
年度
年度
年度
年度
年度
年度
全体の売上高に占める海外比率
(折れ線は全体の売上高に占める海外比率)
10
5
2014
年度
(予想)
2016
年度
(目標)
0
January 2015 NIKKEI COMMUNICATIONS
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[特集]NTTの世界戦略
本文中☞の付いた用語を解説
過去の反省点▶ 2000 年に
NTTドコモが蘭 KPNモバイ
ルと米 AT&T ワイヤレス、
NTT コミュニケーションズ
が米ヴェリオに対する大規
模出資をそれぞれ発表。合
計 2 兆円以上を投資したが、
2001 年度には 1 兆 4000 億
円以上の特別損失(内訳は
ヴェリオ関連損失で 5415
億円、AT&Tワイヤレスの株
式評価損で5056 億円、KPN
モバイルの株式評価損で
3601 億円など)の計上を余
儀なくされた。
「☞過去の反省点はあるが、国際事業に積極
NTTグループの顧客という。
的に取り組んでいきたい。将来の成長戦略に必
「我々はテレコムキャリアではなく、ITカン
要とあれば、大胆な投資も辞さない」
。
パニーである」─。NTT持ち株の鵜浦博夫
2007年6月の社長就任会見。NTTの世界戦
社長は近年、海外の投資家にこう説明している。
略は三浦惺・前社長のこの宣言から再開した。
国内では厳然たる「元国営の通信事業者」だが、
その後、NTTグループ各社は海外ICT企業を
海外では違う顔を見せている。国内の通信市場
次々に買収(表1)
。2008年以降の買収・出資総
は成熟化に加え、今後は少子高齢化で縮小さえ
額は本誌推定で1兆1000億円以上に及ぶ。
も懸念される。海外に活路を求めるのは自然な
2007年度に20億ドル規模だった海外売上高
流れと言える。ただ、得意としてきた通信専業
は、2013年度に6倍超の122億ドルまで伸びた。
ではなく、今後も市場の拡大を見込めるICT分
79の国・地域に拠点を持ち、日本を除いた海外
野で勝負に打って出る。
の従業員数は約7万1000人。NTTグループ全
Fortune Global 100 ▶
米国の経済誌「Fortune」に
よる世界の企業ランキング
の上位 100 社のこと。
体(約24万人)の約3割を占める。ネットワー
「早期に1兆円」のシナリオを2007年に策定
クのサービス提供エリアは196の国・地域にま
世界戦略の主役は、NTT持ち株が2年以上に
で広がった。
わたる交渉を経て2010年10月に買収した南ア
主なターゲットは法人市場。ICT(情報通信
のディメンションデータ。海外進出の本格展開
技術)関連のコンサルティングをはじめ、システ
には非日系の顧客基盤を保有する中核企業が不
ムやネットワークの構築・運用、通信回線やデー
可欠と考え、狙いすまして取得した1社だ。
タセンターの提供、セキュリティ対策などをワ
NTT持ち株が2008年5月の中期経営戦略で
ンストップで手掛ける点を強みとする。海外の
打ち出した2010 年度の海外売上高の目標は、
顧客基盤は2007年度の1800社から1万社以上
2007年度から2倍増の4000億円。だが、2007
に拡大し、
「☞Fortune Global 100」の80%は
年の段階で内部では「早期に1兆円」を掲げて動
表1 NTTグループが2008年以降に実施した主な買収・出資案件 コンサルティングやシステム構築を手掛ける企業が中心。データセンターやセキュ
リティ関連も目立つ。■は1000億円以上の大型案件。
買収・出資時期
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
買収・出資元
買収・出資先(国名)*1
1月
NTTデータ
アイテリジェンス(ドイツ)
SAP関連のコンサルティング、システム構築
10 月
NTTデータ
サークエント(ドイツ)
コンサルティング、システム構築
3月
NTTドコモ
タタ・テレサービシズ(インド)*3
携帯電話サービス
10 月
NTTコミュニケーションズ
インテグラリス(ドイツ)
セキュリティ
11 月
NTTドコモ
ネット・モバイル(ドイツ)
モバイル向けコンテンツ配信
7月
NTTデータ
インテリグループ(米国)
コンサルティング、システム構築
8月
買収・出資金額*2
約 240億円
約 238億円
約 2667億円
約 76億円
約 88億円
約 180億円
NTTコミュニケーションズ
セコード(スウェーデン)
セキュリティ
10 月
NTT持ち株
ディメンションデータ(南アフリカ)
ネットワーク構築、システム構築
約 2860億円
12 月
NTTデータ
キーン(米国)
システム構築
約 1100億円
6月
NTTデータ
バリューチーム(イタリア)
コンサルティング、システム構築
約 300億円
6月
NTTコミュニケーションズ
コンサルティング、システム構築
約 100億円
7月
ディメンションデータ
5月
NTTコミュニケーションズ
フロントライン・システムズ・オーストラリア
(オーストラリア)
約 20億円
オプソース(米国)
クラウドサービス
約 72億円
ジャイロン・インターネット(英国)
データセンター
約 50億円
*1 買収・出資当時の社名。その後、社名を変更したものも多い *2 日経コミュニケーション推定を含む
*3 NTTドコモは2014年4月、タタ・テレサービシズの保有株を全て売却すると発表
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主な分野
NIKKEI COMMUNICATIONS January 2015
き始めていた。従来のように日系企業の海外進
外売上高は2011年度の時点で達成済み。2014
出を支援するだけではとても届かない。小規模
年度予想の150億ドルはほぼ達成できる見通し
な買収の積み重ねでも達成に程遠く、ディメン
で、2016年度目標の200億ドルも視野に入って
ションデータの買収で一気に6000社以上の顧
きた。2016年度の時点で海外売上高は全体の2
客を手に入れた。ディメンションデータを中核
割程度、法人売上高の海外比率は50%に達する
にNTTデータやNTTコミュニケーションズな
勢いである。
どのグループ企業が連携しながら成長を図って
とはいえ、厳しい見方をすれば、現状は1兆円
いく。これが当初に描いた成長シナリオになる。
超に及ぶ買収攻勢で売上高を単純に積み上げた
実際、海外売上高の☞約半分はディメンション
だけとも言える。今後は、鵜浦社長も課題とし
データが稼ぎ出している。
て掲げる通り、利益の拡大を求められる。米
NTTデータやNTTコミュニケーションズの
IBMや米アクセンチュア、米ベライゾン、米
海外展開も著しい。NTTデータは2010年12月
AT&Tといった世界のICT大手と伍していく
の米キーンの買収で北米の地盤を固めると、
には、コンサルティング能力をはじめ、商品や
2011年6月に伊バリューチームの買収で欧州を
サービスのラインアップ、技術力などもさらに
強化し、2014年1月には西エヴェリスの買収で
磨き上げていく必要がある。
南米への橋頭堡を築いた。NTTコミュニケー
本特集では、NTTの世界戦略を徹底分析し
ションズもデータセンターやセキュリティの分
た。海外企業の買収ばかりが目立つが、日本の
野を中心に買収攻勢で規模の拡大を図っており、
ユーザーには詳しい状況が分からず、評価が難
アジアでは通信回線やデータセンターの分野で
しい。クロスセルの受注額も着実に伸びている
既に高い評価を受けている。
とするが、グループ各社がバラバラに動いてい
こうした取り組みにより、足元の進捗は至っ
る印象も受ける。以下、パート1で世界戦略の
て順調。当初、目標としていた100億ドルの海
実情、パート2で今後の課題を見ていく。
買収・出資時期
2012 年
2013 年
2014年
買収・出資元
買収・出資先(国名)*1
主な分野
約半分▶ 2013 年度の海外
売上高 122 億ドルのうち、
NTT データは 2987 億円、
NTT コミュニケーションズ
は2024 億円、ディメンショ
ンデータは5810 億円。
買収・出資金額*2
7月
NTTドコモ
ボンジョルノ(イタリア)
モバイル向けコンテンツ配信
約218億円
8月
NTTコミュニケーションズ
ネットマジック・ソリューションズ(インド)
データセンター
約100億円
11 月
NTT持ち株
センタースタンス(米国)
クラウド関連のコンサルティング
5月
NTTドコモ
MCVグアム(グアム)
CATV、インターネット接続
約127億円
約200億円
8月
NTT持ち株
ソリューショナリー
(米国)
セキュリティ
10 月
NTTドコモ
ファイン・トレード(オーストリア)
ネット通販向け決済・債権回収
1月
NTTデータ
エヴェリス(スペイン)
コンサルティング、システム構築
約40億円
数十億円
約500億円
1月
NTTコミュニケーションズ
アルカディン・インターナショナル(フランス) テレビ会議サービス
1月
NTTコミュニケーションズ
バーテラ・テクノロジー・サービス(米国) 通信サービス
約515億円
1月
NTTコミュニケーションズ
レイジングワイヤー・データ・センター(米国)
データセンター
約340億円
2月
ディメンションデータ
ネクスティラワン(フランス)
ネットワーク構築
4月
ディメンションデータ
ネクサス・アイエス(米国)
ネットワーク構築
11 月
ディメンションデータ
オークトン(オーストラリア)
コンサルティング
12 月
NTTコミュニケーションズ
インフォトラスト(スイス)
セキュリティ
約400億円
額の
資金
出
・
買収 累計は 以上
億円
00
0
1
1兆
約200億円
約200億円
約162億円
数十億円
January 2015 NIKKEI COMMUNICATIONS
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