Title 現代社会における自傷行為の類型化とその課題 - HERMES-IR

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現代社会における自傷行為の類型化とその課題
菊池, 美名子
一橋研究, 33(2): 29-48
2008-07
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/17985
Right
Hitotsubashi University Repository
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現代社会における自傷行為の類型化とその課題
菊 池美名子
はじめに
ここ数年,「リストカット」が社会現象となっている。ネットアイドル南条
あやが習慣的手首自傷の果てに大量服薬で命を落とし,彼女が自身のホームペー
ジに掲載していた日記が活字媒体として出版されたことは記憶に新しいが,そ
の頃から現在に至るまで,いわゆるr自傷サイト」や自傷行為に関する記述は
増加し続けている。しかしその一方,自傷行為に関する学術的な研究の蓄積は
浅く,その傾向は特に本邦において著しい。
本邦において.r自傷」という言葉がいっから使用され始めたものであるのか
確かな資料はないが,大正初期に精神医学者の呉秀三が,精神病者や精神薄弱
者の自己破壊的な行動(「首ヲ経リ,眼球ヲ換り出シ,舌ヲ咀ミ,喉頭ヲ扶ル
等ノゴトガアル」P210;「自分ヲ殴打シ咬ミ傷ケ頭ヲ羽目板二打付ケルナド
モアル」P212)に対して「自傷」の用語をあてている(呉,1915).。しかしそ
の後,自傷行為に関する記述や事例報告,動機づけ研究が散見され始めるのは
特殊教育学,精神医学,行動主義心理学などの分野において,1970年代から
のことである。その中で目傷行為を研究対象にするとひとくちに言っても,自
傷行為には確立された診断基準や定義なるものがあるわけではく,独立の臨床
単位として扱うかそれとも症状のひとつとして扱うかにっいてすら,専門家の
間でもコンセンサスは得られていない。また,実際の症例では様々な分類の特
徴が散見されるのが普通でその区別は難しく,病態,診断名,動機,傷の深さ・
つけ方など様々である。したがって本稿では,自傷行為の類型に関わる先行研
究をレビューしながら現代社会において顕著に現れる自傷行為の概念と特徴を
整理し,その課題を明らかにすることで,今後の自傷行為の研究の基礎資料と
することを目的とする。
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1.現代社会における白傷行為の概念整理
①付随する精神病理
1960年代にアメリカで流行した自傷行為は早くから欧米の精神科医の関心
を集め,1970年代以降多数の研究が報告されている。一方本邦では,1970年
代後半に西園昌久と安岡誉(1979)によって「wfi。←。ut㎞g.ynホ。』。(手首自
傷症候群)」が紹介され,以後精神科医や心理療法家などの手による研究が散
見されるようになる。従って自傷行為とそこに含まれる「リストカット」とい
う現象はごく最近の流行というわけではない。
柏田地の報告によれば,1913年L.Em.f。。nが扱った症例ω以来自己破壊行為
一般の中で記述されてきたw・ist・ut㎞gは・1960年代の症例増加により1つの
臨床単位として注目されるようになった。それら諸外国における文献展望の中
で共通する特徴を柏田は次のようにまとめている。r(1)青年期の女性に多いこ
と,(2)臨床診断が伝統的な乾田壽に入れにくいため多様な診断がなされている
こと,(3)自殺とは異なった自己破壊的行為とされていること,(4)他にも多く
の問題行動がみられること,(5)性格の発達形成過程に問題があることなどで
ある」(柏田,1988)。ただし近年の本邦における報告では,1999年以降の自
傷行為はそれ以前よりも若年化し,うっ病や精神分裂病より起こるものから人
格障害に変化し,希元年慮や将来の不安により自殺を図るケースから自殺目的
ではないものすなわち依存・逃避から衝動的な行為を習慣化する状態への変化
がみられるなど,病態の質的な変化を指摘する研究もある(鮎田地,2002)。
この研究報告は1996年から2001年の問に自傷行為を起こし精神科病棟に入院
した患者を対象にし,前期3年間と後期3年間を比較したものであるが,対象
人数が6年間で17人とデータの妥当性に疑問はあるものの,診断名や年代に
よって傷の深さや動機などに変化が見られ,それぞれを区別しうることを示唆
している。
たとえばR N.P邊。は深く単発的に。utdngを行う。o趾。。。u廿。fと表層的な
。utせngを繰り返すd。正。。t。。utt.fを区別し,前者は35歳以上,後者は16歳から
24歳までと報告しているし,C.B.Sch。伍。正ら(1982)はw.ist.ut㎞gぽ境界性
人格障害に特異的であって,分裂蹴ヨに基づく奇妙でグロテスクな自傷行為と
表層性のS1.Shngや1。。。。。㎡。nを区別することを主張している。その他にもE M
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P.td。。nとj.K.h.n(1983)は眼球摘出・耳架切断など含めた22項目の自傷行
為の中より肉体へ繰り返される直接的損傷かっ致死性が低い場合を特別一にd。一
Hb。。。t。。。1仁h砒m.ynd.om。と呼び,ひとつの臨床単位として取り扱うことを提
唱した。
一方,本邦の研究においても,安岡誉(1996)は
もともと自傷は,通常は重篤な精神病者にみられ,精神分裂病の末期状
態のとき,進行麻痺や非定型精神病の情動興奮状態のときなどで生じる。
とくに,分裂病の場合,頭髪や眉毛をむしり取る,舌をかみ切る,眼球を
えぐり抜く,ハサミで舌,耳架,陰茎などを切断する,カミソリで体中を
切傷する,手や身体の一部を火で焼く,煙草の火を体に押しつける,といっ
た凄惨で残酷な手段で行われることが多い。この自傷を患者自身がさほど
苦痛に感じていないことが特異的である。
こうした自傷行為の動機として,幻覚・妄想に支配された衝動行動と解
釈されたり,その症状機制を自己犠牲的で自己懲罰的傾向の象徴的行為と
して理解される場合もあるが,意味が不明のことも多い。また,ヒステリー
患者にみられる演技的行為,詐病的行為として行われる場合がある。
とし,これらは昔からよく知られたものであるのに対して,ここ2,30年の問に
主として思春期・青年期の情緒発達障害の状態にある子どもや青年たちが些細
な失意体験に誘発されて主に手首をカミソリなどで傷つける行動が出てきてお
り,これは特異な自己破壊行動であると述べている。また西園目久(1983)も
同様の考察をし,分裂病者やうっ病者の自傷行為は「本質的にごく個人的なも
のである」のに対し,今日の手首自傷症候群には状況依存性,対象への意思表
示が認められ,手首自傷で状況を巻きこむことを目的としていることが異なる
ところであるとしている。だがこれに関しては,自傷行為者が自身の行為を恥
に思い秘密にする傾向もあること,とくに解離性障害に付随して起こる自傷行
為は見えない場所を傷つけたり,治療者にさえ自傷行為をしたことを明かさな
いことが指摘されている(細澤,2004)から,対象へのアピールの意図を現代
社会に顕れる自傷行為の特徴とするのは早計である。このように,重篤な精神
障害に付随しておきる自傷行為と,その他を区別できると考える臨床家が多い
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ことがわかる一方,ではrその他」の内実とは何かはほとんど明らかにされて
いない。
竹内籠雄ら(1986)による臨床類型ではそこがもう少し詳しく説明されてい
る。彼らはw士i.t.utdngのみられた自験30例の臨床診断類型を,rヒステリー
群」「抑うっ群」r青年期の行動異常群」「その他」に分け,次のように述べて
いる。ヒステリニ群は疾病症状やそれをめぐる対人関係の不満が動機となり,
自殺企図の色彩は希薄だが周囲に救いを求めるアピールの意図が濃厚で,短期
問に頻発するが一過性の傾向を有している。抑うっ群は自殺企図の意思が比較
的明らかでその予備的試行とみられ,習慣化する傾向は乏しい。青年期の行動
異常の群は登校拒否や摂食障害に伴うものが多く,青年期心性を背景とした自
己の内的なあるいは家庭における親子関係の葛藤が動機となり,自殺企図の意
思は乏しいが長期にわたって散発的に繰り返される傾向があ乱その他の群に
は欧米で多いとされる少数の精神分裂病やいわゆるWdSt Cut由g Syndromeの特
徴からはずれた心因反応の症例が含まれている,とのことである。
この中で「抑うっ群」は,習慣化する傾向が認められないことや自傷行為そ
のものよりも自殺企図の予備的段階として衝動的に自傷を行うことなどから,
それ以外の群がら性質的に区別されるようにも思うが,しかし,あらゆるWriSt
.u出ngに際して微小なりとも抑うっが認められない症例はまれであるし,その
程度や性質の差を加味する必要があるだろう。
また自殺企図と自傷行為の違いについては曖昧な部分が多い。r自傷行為は
それが緊張を低める目的でなされ,死にたいという願望とは多くの場合無関係
です。[中略1彼らにとっての自傷行為はちヰうど精神安定剤を服用するような
ニュアンスがあることが多いのです。」(岡野,2001)とはいうものの,常習的
自傷行為者がその果てに自死にいたり,自殺かたまたま死んでしまったのか誰
にも一本人にも?一わからないというケースはよくあることだし制,自殺
企図歴があることも多い。したがって明確に一線を画すことは難しいと思われ
る。ただし基本的に,自傷行為は典型的には青年期に始まり多くのエピソード
や方法の多様性を持ち(・u由ng,火傷の他に,・1・shing,b・n釦g,picking,骨を
折ることなど),対する自殺企図は自傷行為と対照的に解放感をも一たらさず,
繰り返し実行されることは少なく,何かを伝えたいと.いう意義に.乏しい
(P.td.on他,1983)という特徴については確認しておく必要があるω。
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②PTSDとの関連
このように,精神障害に付随するもの以外の自傷行為はその実態がよく把握
されておらず,加えて「些細な失意体験に誘発」されて気まぐれに周りの人間
を巻き込もうとするようなr自己愛的で未熟な性格」(安岡,1996)がその特
徴であるというような批判的な記述が多い。しかしこれは事例研究から指摘さ
れた特徴であって・定量的に検討されたものではない。岡田斉(2003)による
質問紙を用いた定量調査では,自己愛傾向と自傷行為の闇に相関関係はなく,
攻撃性との相関はあるものの有意ではなく㈲,むしろ抑うっ傾向,解離性,空
想への没入性との相関が指摘されている。一方欧米では,r解離」’という言葉
が一般的に用いられなかった当時から,認知の不連続性や離人状態への指摘
(P.o,ユ969)がなされており,自傷行為と解離傾向,PTSDなどとの関連性に
ついての研究が進んでいる。H.Nijmnら(1999)によれば幼児期における虐
待経験,解離傾向と自傷行為には有意の相関があり,しかし衝動の制御とはそ
れほど強く関わらないとの報告がある。またP.Mufisら(199王)の報告では,
町SD体験と空想没入性,不安神経症との関連性が指摘されている。このよう
に,PTSDや被虐待経験と自傷行為の関連は重要な視点のひとっであるのにも
かかわらず,本邦の研究は大幅に遅れをとっているといわざるを得ない。判田
正典ら(2004)による自傷行為と被虐待経験との相関を示す近年の調査や,松
本俊彦らによる数々の卓抜な研究報告中での指摘などわずかながら散見される
が,今後は本邦においても被虐待経験,特に身体的虐待だけでなく性的虐待経
験と自傷行為の関連性嘔〕,また自傷行為を嗜癖行動(。舳。せ。n)のひとつとし
て捉える視点からの研究など多岐にわたった実証的・理論的研究が蓄積され,
実態を正確にっかんでいく努力がなされる必要がある。またその際,複雑性
pTSDなどの概念を含めたpTSD概念(およびその他のトラウマ疾患)のバリ
エーションと…自傷行為の頻度や重度等との相関関係,対応関係について考察
することで,それぞれの臨床類型の特徴についてより理解が深まるであろう。
③ジェンダーとセクシュアリティの側面から
また,自傷行為の実態を把握するにあたって,PTSDの他にも重要だと思わ
れる変数がジェンダーやセクシュアリティ,そして身体病の既往などである。
まず性差と年齢であるが,これらは個別に把握するのではなく,、この2つに
自傷回数,傷の深さなどの自傷パターンを組み合わせた総合的な判断が不可欠
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であると思われる。前出の竹内ら(1986)の報告によれば,年齢別では10ん20
歳代が全体の80%以上を占めており,また30例中25例が女性であり,自傷行
為は若年の女性に多いという数々の報告冊と一致する。W㎡。t.utdngが行われた
回数は1回だけのものが13例,2∼5回のものが13例,10回以上に及んだもの
が4例であり,1回のみの場合が多いことも見逃せない。この一回のみの場合
は他の精神障害や問題行動にたまたまWi.t.ut七ngが加わったものとみること
ができ機会性であるのに対し,数回からユ0回以上も繰り返すものはw.ist
.u命ngが主要の問題行動となった習慣性のものであり,全例若年の女性であっ
た。この報告では男性例5例中4例(平均年齢41.8歳)が1回のみの施行で,
自殺企図,希元念慮,自殺未遂歴がみられ,診断も精神分裂病や心因反応など
であり女性例との質的な違いがみられる。岡田文彦(1987)の報告も男子学生
5人の症例を挙げ,女性に多い手首自傷に対して男性の自傷行為は自殺企図と
して行われることが多いと結論づけている。また服部隆夫らの報告㈹によれば,
総合病院の手首自傷を伴った症例56名(男性22名,女性34名)を検討した結
果,約半数を占める30歳未満の症例(76%が女性)では女性の適応障害が多
いが,30歳以上の症例(56%が男性)では男性の気分障害と女性の分裂感情障
害,短期反応精神病が中心で,30歳未満の症例よりも自殺の危険度は高いと
思われるとのことであった。川谷大治による近年の調査(2004)でも,ユ997−
2003年の問に著者が治療を担当した患者2293例のうち自傷患者94例,そのう
ち治療が終結した53例の調査結果では,平均年齢が24.5歳で12∼4!歳の幅が
あり20歳代が32例(60.4%),10歳代が12例,30歳代の8例と続き53例中47
例が女性という報告がある。ただしW..W.C1end・dnら(1971)の報告やM.M.
W・i・・㎡㎜(ユ975)によって,男性においてもw・i・t・ut曲gは自殺企図の方法と
してよく用いられWfi.t.utdngはむしろ男性に多いという主張がなされ,また
広範な疫学的調査の結果から見るとひとっの独立した症候群とみるには疑問が
あるとされ,若年女性に特徴的な症候群が存在することへのこういった反論も
1970∼1980年代の欧米の実証的研究調査の中に散見される。ただしC1.nd。㎞
らの扱った65症例中wd.t.utdngを複数回繰り返したものは5例(2回:3人,
3回:ユ人,4回:ユ入)のみであり,W.i。。m㎜の調査では回数には言及してお
らず,自殺企図とは別の,複数回。u出ngを繰り返す症例について同じことが言
えるのかどうか疑問が残る。また1990年代に行われた自傷行為文献のメタァ
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ナリシス(T㎜t.m他,1992)は,男性は重篤な自傷行為を行っており女性は
心理的治療を受けているという特徴を明らかにしている。以上のことから,習
慣的に自傷行為を行い若年齢に多い女性例に対して,男性例は年齢層が高く自
殺企図のための単発的で重篤な自傷行為を行う傾向があるといえるかもしれな
い。しかしもちろん若年男性の習慣性のある自傷行為例も報告されており,ま
たこれらは全て病院臨床における手首自傷に限定した調査という限界もあり帽j,
先行研究から一般人口における現状を結論づけることは難しい。例外として,
手首に限らず身体のさまざまな部位に広範囲に自傷行為は行われるという欧米
での研究報告を受けて構成された,一般大学生を対象にした本邦では希少なあ
る調査伽=では,6.9%の学生が少なくとも1回の自傷行為を経験しており,自傷
行為の経験率に男女差はなかった。回数は複数回に渡って(最も多いものでは
50回以上)繰り返すものが多く,自傷の内容では刃物などで皮膚表面を傷つ
けるCut㎞gが約半数を占めていたが,内容は尖った物で皮膚表面を突き通す,
頭を物にぶつける,通常はピアスをつけない場所にピアッサーや釘などで穴を
あける,煙草などで皮膚表面を焼き焦がすなど,また白傷する身体部位は手首
のほかに腕,手掌,手指,脚,耳,頭,爪など多岐にわたり,自傷理由はr死
にたいと思ったから」「傷つけると気分がスーツとしたから」がそれぞれ27.O
%を占める。また自傷開始年齢の平均は13.9歳であった。自傷内容を。utゼngの
みに限定しても男子学生3.1%,.女子学生3.5%とほとんど性差はなく,興味深
い調査結果である(山口他,2004)。なお,本邦の少年拘留施設における調査
(M.tsumotb他,ユ993)では,女子の。。1仁。ut㎞g経験率60.9%(23人中14人),
男子の経験率10,7%(178人中19人)であった。男女共に一般人口における調
査と比べ01=かなりの高率であること,また極端な男女差があることなど注目す
べき調査結果である。今後は本邦においても,年齢や職業なども考慮に入れた
一般人口に対する実証研究や,病院臨床だけでなく矯正施設における自傷率胴
などの研究の蓄積が必要である。
次に,自傷行為者の既往歴,随伴する症状として,幼少期における身体病や
手術の既往歴,また月経異常に関する視点を指摘しておこうと思う。前出の竹
内(1986)の諌査によれば幼少期に身体病や手術の既住があるものは30例中7
例,無月経や月経不順のあるものは10例であり,これは凡J.Ro・・nthオらの報
告(1972)と一致する。また前出の川谷の調査(2004)でも女性患者で月経上
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の問題を抱えているものは47例中13例であった。Ro。。nthオは他にも性的同一
性の障害について言及しており,また不感症や同性愛などの性的葛藤について
の指摘(G.fdn。。,1975)もなされている。柏田(工988)の扱った23症例のう
ちには1例r他の問題行動」の欄に同性愛の記載があり、植村彰(1975)は症
例報告の中でr今回わたくしは自傷行為と性倒錯的向性愛行為というふつうの
思春期の発達には異常なある女子患者を治療する機会を得た」と記し,対面法
による治療により「この年令にふさわしい男女交際をもてるようになった」結
果,自傷行為は消失したという報告をしている。同性愛が「問題行動」かどう
かは別として岨,セクシニァリティと自傷行為の間には何らかの関わりがある
と考えてよいだろ㌔
2.広範なセルフ・ハームという.文脈で
ところで,自傷行為の分類に関する記述に「病的な自傷行為(se1長mu曲don)
は以下の3つに分類することができ孔…」(山口他,2004,傍点は筆者によ
る)という一文を見つけたとき,自傷行為に病的/病的でないという軸がある
のなら,病的でないものには何が想定されているのかと考えさせられた。美容
整形,タトゥ,ピアッシング…外科手術を受けることも入るかもしれない。こ
れらはすべて他者を介して行われることが一般的だ(ピアッシングは自分でも
可能だが)。ならば性的マゾヒズム,虐待的パートナー,性的逸脱はどうだろ
うか。他者の手は借りないアルコール依存,薬物依存,摂食障害はしばしば
・u出ngに付随する行動として列挙され広義の意味での自傷とも言いうる・か,こ
れらはDSMにより診断基準が明記されているから病なのだろうか。。しかし喫
煙は「体に悪い」らしし.・のに病とはされていないし,少年たちの「若気の至り」
とも表現される自暴自棄な行為はどう考えることができるのだろうか側。やく
ざの指詰めや根性焼きなどもある。こう言うと,性的マゾヒズムはともかく
(r個人的な趣味嗜好だから」),美容整形にはr美しくなるため」という目的が
あり,ましてや外科手術を自傷行為にふくめるなど論外だと言われるかもしれ
ない。だが。u㎞ngを行う者に「美学」がないとは限らない。自傷系サイトに書
き込みをする自傷行為者の発言などをみていると,r汚い世界,イノセントで
美しいわたし」という対比が見え隠れする鵬し,血を流すことで自分の中の汚
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れを浄化する医術的なイメージはよく聞かれる。
これらの考えについて,医療社会学が展開してきた医療化論などを援用しな
がら自傷行為の定義の社会性,歴史性,政治性について論じることはその主題
の大きさから別稿に譲らざるを得ない。だが自身の身体の破壊・加工といった
行為,またそれらを許容するという現象は歴史的にみても文化人類学的視点か
らも普遍的なものである。従ってここでは,現代社会における自傷行為の周辺
現象について傭鰍し,その相違点と共通点について整理してみたい。
まず医術的視点からである。A.Faw枷(1987)によれば自傷的な儀式と習
慣は,人類が登場してかなり初期から病の治癒や予防として利用されてきた。
例えばパプアニューギニアの事例では女性は月経のために健康を保てると考え
られており,男性は健康や強さや魅力を手に入れるために女性の自然なサイク
ルを擬態して自ら周期的に鼻血を出すことによって自浄する。南プブリカのあ
る部族では病気を防ぐために睾丸を1っ取り指先を病気の処置のために切った
りする。穿孔や頭蓋の溝を切りっけることはもともとは病人の頭から悪魔を追
い出すことによって頭痛を緩和させるところからきている。血を流すことによっ
て浄化されるイメージや,自らの内の悪魔的なものを追い出すという考えは現
代社会に生きる自傷行為者にも見られることがあり(細澤,2004)普遍的なも
のを感じさせる。ただし彼らは治療目的で自傷するわけではない 無意識に
はそう試みているのだとしても。また自傷系サイトなどにおいて,医学や薬物
に関する知識を過剰に披露したり,自身の身体を「解剖」してみたかったと告
白する記述はよく見られ,何か関係がある一のかもしれない。
次に宗教現象との関連である。様々な社会において超自然的なスピリット例
えば神や悪魔のようなものが,収穫高や戦闘での勝利に至るまで様々に関与し
てきたのはよく知られていることである。災害を避けたり幸運をもたらしたり
するためにスピリットとのよりよい関係を創り維持することは人間の行動の主
要な動機であり,生蟄の儀式や罪の償いなどの自傷行為はスピリットを満足さ
せ,また人々をエクスタシーなどの特別な状態に導くものである。たとえばイ
スラム教シーア派のアシュラという祭りでは,非業の死を遂げたシーア派3代
目イマームの悲劇を忘れないためにシーア派教徒が剣で胸を打ち鎖で背中をた
たき練り歩く。そうして痛みによりイマームヘの同一化を・果たすのだ。また!8
世紀ロシアのスコプト派は自らを去勢していたことで知られているが(吉岡,
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1989),そうすることによって彼らは罪深い性的関係を避けアダムとイブが堕
落する前の状態を取り戻そうとした。インドの聖人は,超越的な精神を手にす
るために凄まじい苦行をし体中にピンを刺したりペニスを伸ばしたりする。修
道士や修道女が罪の購いとして背中をたたかれることを懇願することも常であっ
たし,罪の蹟いということであれば日本にも切腹という文化がある 目傷で
はなく自殺の手段ではあるが。他にも例を挙げれば枚挙に暇がなく,これらの
ことは,身体を傷つけるという行為が逸脱視される環境のほうがいかに特異で
あるかを教えてくれる。自傷行為が逸脱視されるこの時代は同時に神の不在の
時代でもあり,何か魔術的なものへの同一化が自傷行為の中心的な目的ではな
いようにみえるが,一部の自傷行為者が得ている陶酔感(柏田,1988)を説明
する上では何かの対象との同一化を疑ってみることもできよう。いずれにせよ
神や悪魔など,世界に対して意味を付与する参照点のようなものが自傷行為と
関わっていることは覚えておいていい。
また文化人類学において身体加工と呼ばれる習俗も至る.ところで散見される
(坂井,1988)。刺青や耳へのピアッシングに始まり,鼻棒,抜歯,癩痕傷身,
コルセットの長期装着,纏足,割礼とその加工は全身に及び,種族や時代によ
り実施形態,機能にも違いがある。どれひとっとして身体の生存に役立つもの
ではないにもかかわらず,古くからこれらの身体加工が行われてい・たことに言
及して三浦雅士(1994)は,L M㎜ford(1967=197ユ)の
ギリシア神話は,現代の心理学者に先んじて,人問が青年期に自分の姿
に恋こがれる(自己陶酔)ことを発見しているが,初期の人類は,奇妙に
も,もって生まれた自分の姿に恋こがれなかった。むしろ,自分自身を特
別にr改良」するための素材として扱い,それによって自分の性質を変え,
他の自己を表現しようとした。本来の自己を確認する前に,自分の身体の
外観を矯正しようとした,と言ってもよいであろう。
という言葉を引用し,
まじな
ほとんど呪いのようなそれらの身体加工は,環境に埋没した動物の世界
から,人間が身を引き離す契機として,決定的なものだったというのであ
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る。…[中略]。
身体そのものであると同時に,その身体を他人のもののように感じ,そ
れを意識的に引き受けるかたちでしか自分自身になることができない人問
のありかたが,自身の身体を傷つけさせ,あるいは装身具を身にっけさせ
たと考えることができる。
と述べている。またそういった歴史の流れの中できわめて異質なものとして現
代社会における人間身体を捉え,現代人も化粧・ピアス・刺青など施すことも
あるが,
にもかかわらず,人間の身体とは何かと問われれば,人は一般に「裸で
何も塗らず,形を変えず,飾らない人問の身体」であると答えるであろう。
それが現代人の人間の身体についてのイメージであるといっていい。医師
の視線にさらされた身体がそれであり,病気も異常も,そのイメージとし
ての身体からの隔たり,変異として捉えられているのであ孔
とし,そういった現代社会における人間身体を「身体の零度」と呼ぶ。また大
澤真幸(2003)は現在の身体は,しかし,そういった零度の身体の理想からも
はや隔たったところにあるとし,ピアス,刺青,整形,人工臓器を含む多様な
人工補弼,リストカット,クリトりス切除,またはZk.kを引用してロポコッ
プやスティーブン・ホーキングを例に挙げる。そして原始共同体の身体加工を,
象徴的な役割を書き込み自然的な水準から文化的な水準に登らせるための過程
で,共同体に受け入れられるために欠かせないものであるのに対し,生の裸に
加工を施すという現代の傾向は,支配的な規範からの逸脱を示しているようだ
と述べている。
一方,近藤四郎(1993)は耳輪も鼻輪も魔物が耳や鼻の穴から入り込まない
ようにするためのまじないであろうと述べた㈹が,確かにピアッシングが行わ
れる場所は大抵身体の開口部 眉,唇,舌,麟,性器などであり,自分以外
の存在とっながっていく.場所である。小山鉄郎(200!)もそのことに言及し,
ピアスの恐怖は,外側から安易に侵入しようとする者を針のもつ危険性
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で,強く拒み返すというところから生まれているのかもしれない。しかし,
一方で,それを越えでやってくる,ほんとうの「他者」を求めてい肴徴と
してピアスは,今在るのではないだろうか。
と述べている。従ってピアスや刺青を施すという行為も,美を追求するという
一義的なものとは限らず,自己と他者の関係にかかわる問題であり,後述する
ようにそれは自傷行為との共通点でもある。ただし大澤も触れているとおり原
始共同体における身体加工が共同性を担保し自己と他者をっなぐものであるの
に対し,現代におけるそれはその機能がなく,逸脱にこそ機能している。だが
それに加えて,自己の身体へのナルシスティックな視線,身体を介した同一性
への希求。田,反対に今の自分と違う自分になりたいという願望にもそれはきっ
と関わっている。もちろん,痛みを伴わないタトゥ・・シールや1∼2週間で消え
るペナ・タトゥなどがある程度安定した市場を形成している様子を見ると,刺
青などといってもあくまでアート,ファッション,流行であって特に注目すべ
きことでもないと思われるかもしれない。今一生(2001)によれば,しかし,
r痛みを伴う一生モノの本物」とrフェイク」のどちらを志向するのであれ,
それらにはrオリジナリティの希求」,r視線の回避」。(普段人に見せずにすむ
場所に刺青を施すこと),「絵柄の抽象化による呪術指向」という共通点があり,
それゆえ日常性を超越した感覚や自分らしさや強さを手に入れたという自己肯
定感をもたらすものとしてはその2つは同等である。この意味では,現代社会
における失われた通過儀礼としての役割を,自傷行為という身体加工が果たし
ていると考えることもできる。また,身体の表現や美を通じて自己を同定する
作業は今や女性だけのものではなく,若者を中心に広く人々に共有されっっあ
るように思う。
これらの他にもアルコール依存,薬物依存,摂食障害,性的マゾヒズム,虐
待的パートナー,性的逸脱などと自傷行為の関係について,ただ「付随する病
理」として列挙するだけではなく,それらの質的な違いと自傷行為の細かい分
類や機序との関係のしかたを探求する必要がある。またいわゆるr反社会的な」
青少年の自暴自棄な行為や,根性焼き,指詰めのような行為はいずれも男社会
に多い。自傷行為者には圧倒的に女性が多いとされていることは既述のとおり
だが,それには男性がすることの多いこのような行為やアルコール依存等が本
現代社会における自傷行為の類型化とその課題
41
人にも医療従事者にも「病」とは思われなかったり,セルブ・ハームとしてカ
ウントされにくいことも関係していると考えられ乱また行きずりのセックス
を繰り返すなどの性的逸脱は女性がすれば「病」だが男性ならむしろ自慢の種
とされるかもしれない。何が自傷行為であるとされ,何はされないのか。また,
いっ,話なら自傷行為であるとされ,されないのか。目傷行為の範囲を少し広
げてみることで分かること,その属性,特徴と狭義の自傷行為の関係について
も,今後詳しい分析が待たれるといえよう。
おわりに
リストカットなどの自傷行為に関する研究は,先にも述べた通り欧米では
1960年代,本邦では1970年代より特殊教育学,精神医学,行動主義心理学な
どの分野において細々と始まった。しかし今なお自傷行為には確立された診断
基準や定義なるものがあるわけではく,2000年代に入ってからやっと文献が
増え始め,今まさに実態が明らかにされようとしているが,まだまだ研究は端
緒についたばかりである。
A.P盆v枷。ら(2001)は,・行動,組織のダメージ,自傷の回数,自傷パター
ン,障害の特徴から導き出された臨床類型に基づいて導き出された現代社会に
おける自傷行為の特徴は,比較的軽度で必ずしも自殺を目的とはせず,気分を
変える目的などから繰り返し意図的に自身の身体の一部に損傷を負わせる行為
であるとした。現在わかっている知識から共通点を割り出していけば比較的妥
当な定義である。しかし,本稿で述べて来たように,自傷行為と自殺企図の違
いに関する考え方,自傷行為の目的と背景,またジェンダーという視点からみ
たときの男性の自傷行為のカウントされにくさに関する問題など,より精緻な
議論が必要とされており,課題は多い。
また,精神科医などの臨床家を中心に研究の始まった自傷行為であるが,そ
のっかみどころのなさや先行諸世代にとっての理解不可能性からか,r未熟」
でr依存的」,「自己愛的」な性格からこうした行為が引き起こされるというネ
ガティブな理解が非常に多く,個人の人格の問題として考えられている様子が
伺われる。しかしそうした理解の背景には,町SDやトラウマ,またそれらに
付随する症状と自傷行為の関係に対する知識の薄さや,社会構造的な要因等が
42
一橋研究第33巻2号
加味されていないことがあるのではないか。今後,精神医学や心理学だけでな
く,社会学や脳神経科学などをふくめた学際的な分析により,現代社会の構造
的側面と身体の関係性をもとにした新たな自傷行為論が発展していくことに期
待したい。
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(1〕23歳の女性がカミソリで左前腕を30回以上自傷する。激しい頭痛や不規則な月経で生じる不快
な気分から解放されるため・とされ孔彼女は精神病ではなく,家族との問にp畠y・ho昌・…1な外傷
体験が認められるなど現在における自傷行為者と共通する特徴がすでにこの報告において見られる。
Emef呂。n,L“Tho ca昌。 of M呂昌A=乱pre1mim岬top0ft of乱p冨y〔bo…m■巾〔;tudy㎜d拉e邊tment of邊。盆昌e
of昌e胆mud1aせ。n”Pψ加m〃Rev.,ユ,19!3,P4!−54
12〕周知の通り,2002年に訳語を統合失調症と変更されたが,年代的に引用文献の多くがこの言己述
を用いていることから,本稿ではこのまま便用する。
13〕南条あやがその典型例であろう。
;4〕また・自傷行為とくに・・舳・gと解離症状との相関は,自殺企図や他の自傷行為との関連よりも有
意に高いとの報告があり,解離症状が自傷行為の特質を理解する上で重要なのは言うまでもない。
Vm虹Kolk BA。,他,佐野信也訳「自己破壊的行動の子供時代の起源」『im乱go』7(1),1996,
P198_2!1
15)ただし質問紙の自傷項目の中に「わざと怖い番組を見る」r物を殴ったり,蹴ったりする」rかさ
ぶたやささくれを取る」r指をしゃぶる」といった比較的穏やかな行為も含まれており,r刃物で体
を傷つける」「血を見るのがすき」という項目に限定すると攻撃性との有意な相関も確認されるこ
とに留意すべきであろう。
16)自傷行為者の診断名として多い境界性人格障害の患者に,性的虐待被害者が多いとの報告がある。
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児期の外傷」『im乱go』5(8),ユ994,P44−51
17)Gf副f£H・・nd M汕叫R・・Th・Syndrome of曲e wi冨t cutt0f・ノ舳∫Pψ肋,124.1967,P74−80,西
園,安岡,前掲注18,P1310など参照。その他報告は多数ある。
18)対象は丁病院(名古屋市近郊793床の総合病院)神経精神科において1970−1990年の間,手首自
傷が1回以上みられた症例である。疾患分類はDSM一皿一Rに従っている。服部隆夫,竹谷」雄「総
合病院における手首自傷を伴う症例の臨床的検討」r精神医学』35(3),1993,P257.264
19)ジェンダー役割の影響か,女性に比べ,男性が病院等で心理面接を受けようとすることは少なく,
従って病院臨床のデータには顕れにくいと考えられる。
ω2C01年10月,某公立総合大学の全学部必修科目r体育」を受講した1年次の生徒を対象とした
48
一橋研究 第33巻2号
自己記入式質間表による調査で,有効調査票は54C(男子学生:286,女子学生1254),回収率
97.6%。山口亜希子,松本俊彦,近藤智津恵,他「大学生における自傷行為の経験率」『精神医学』
46(5),2004,P473−479
ω 欧米における一般人口における調査を参考にしても,それらにかなりばらっき.があるものの,高
率なもので4%程度である。
02〕矯正施設に収容された少年の自傷率40%という高率の報告が外国でもなされている。Fddm㎜,M.
D。“The ch汕巳nge of記1f muti1丑tion=a t前。〉’α卯πPψ栃刎29.1988,P252−269
03〕同性愛を問題行動,異性愛を適応状態とし,異性愛に誘導するような単純なアプローチを用いた
心理面接は,倫理的にも,また同性愛に対する寛容度が増した(とされる)現代の社会的状況とい
う側面からも,近年ほとんどなされないようになってきたとある心理カウンセラーに闘いたことが
ある。しかし現代においても,そうしたセクシャルマイノリティを排除しようとする社会状況が完
全に是正されたとは決して言えないし,そのことが彼らの自傷を引き起こす原因になるのかもしれ
ず,また(特に日本において)すべての心理臨床家がセクシャルアイデンティティに関する訓練を
十分に受けてそれに考慮しながら面接を行っているのかどうかは疑わしい。セクシャルマイノリティ
の自傷行為については今後更なる研究が必要である。
ω たとえば松本大洋の短編集『青い春」には,学校の屋上の手すりから身を乗り出してつかまり,
手を離してまた掴むまでの間に何回手を明けるかという度胸試しに興じたり,手に入れた拳銃で意
味もなくロシアンルーレットをする若者の姿が描き出されている。松本大洋『青い春1松本大洋
短編集」小学館,1993
05〕 「リスカで血まみれになろうとも,その向こうにはかって彼らがそうであったイノセントがある。
無垢だからこそ,苦しい。純粋だからこそ,この世が受け入れられない。[中略1受苦は聖性として
輝いでい乱そして,それはすでにミロンが指摘している一マゾヒストは苦痛を被ることによっ
て自らを高貴な存在とする密かな自己満足を味わっている,と」。矢幡洋「ネオ・マゾヒズムに走
る若者たち1リストカット・ゴズロリ・ムック」『世界」,2004,P173−181
06〕近藤四郎rひ弱になる日本人の足』草思杜,1993。さらに近藤は首輪や腕輪のような装身具はそ
れらで身体を縛ることによって身体の壮健を願う緊縛崇拝のために施され,刺青文様や衣装もその
役目をしていただろうと述べている;このような例や纏足,コルセット,ピアッシングのことを思
い出すまでもなく,身体加工や自傷とr美」にまつわる事柄には多くの共通点があるように思う。
われわれは通常それを,美しくなるために施すのだと考え乱しかし逆に,それを施す何らかの必
要性があった後にそれに「美」という記号が付与されるのではないか。もしくはそれを「美」と感
じるような身体が形成されるのではないか。美容整形にはいまなお抵抗の声が聞かれるが,それは
「自然」に反するものであって「美」は「自然」でなければ意味がないからだとされる。そこに纏
足,コルセットの歴史をフェミニストたちが批判してきたような,ある身体を「自然」の「美」と
して称揚する転倒をみ乱「美」はこのように文化的な装置でありながらその構築性を隠蔽し一
美醜の感覚は身体的なものとして経験される一,虚構性は決して見破られてはならない。それと
同時に自分の世界の外部すなわち聖性を表象し,開かれていく力もまたr美」にはある,というご
と。自傷と審美性の関係についてはまだ改めて論じたい。
o7〕金原ひとみの著書『蛇にピアス』では,主人公にとって刺青がrお互い決して裏切られる事はな
いし,裏切る事も出来ないという関係」であると告白されている。金原ひとみr蛇にピアス』集英
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