ゲリラ豪雪対応 ~小型ドップラーレーダーと地上インフラ利活用~ 辻岡直也*1 金子章吾*1 有賀哲夫*1 金子眞一*2 1. はじめに 北海道では局地的な豪雪や吹雪により、視程が悪化するこ とがある。特に、平成25年度は石狩湾から岩見沢方面に向か って、東西に延びる発達した雪雲(以下、石狩湾収束線)が 流れ込みやすく、道路や鉄道など交通インフラに大きな影響 をもたらした。(図1) 図3. 石狩湾収束線を発生させる地形特性 上空の寒気が強い場合、大気が不安定となり雪雲をさらに 図1. 北海道新聞より (左図:H26年2月1日、右図:平成26年3月7日) 発達させる。石狩湾収束線の直下ではゲリラ豪雪が発生し、 強雪や吹雪による視程障害が起きやすい。 また、石狩湾収束線は局地的に強雪をもたらす現象である。 本書では、ゲリラ豪雪をもたらす石狩湾収束線を的確に捕 捉するため、小型ドップラーレーダーと地上のインフラとの よって、岩見沢市内ではドカ雪となっても、隣の江別市では 晴れていることもある。(図4) 関連性について報告する。 2.石狩湾収束線 石狩湾は暑寒別岳や手稲山など1,000m級の山に囲まれてい る。冬季は西高東低の気圧配置となることが多く(図2)、 これらの山を避けるように、石狩湾上で北西と西北西の風が ぶつかり(収束)、雪雲が発達する。(図3) 図4. 平成26年1月10日 図2. 平成26年1月10日12時(可視画像) 上図:道央道江別東IC付近(岩見沢方面通行止) 下図:岩見沢市内 *1 株式会社ウェザーニューズ 道路気象コンテンツサービス *2 株式会社ウェザーニューズ 気象解析センター 3.石狩湾収束線の観測 時間帯は比較的風速が弱まる傾向がみられた。図中の矢印は 3.1 小型ドップラーレーダーによる観測 風速の変化傾向を示す。(図7) 石狩湾収束線によるゲリラ豪雪をより的確に捉えるため株 式会社ウェザーニューズ(以下、WNI)では、道内各地に独 自の小型ドップラーレーダーを設置し観測を行っている。 (図5, 6) なお、気象庁レーダーや、平成25年度から観測 を開始した国交省が設置するMPレーダーとの性能の比較は表 1に示す。 図5. WITHレーダー外観 図7. 平成25年11月12日アメダス時間降雪および風速 (上からアメダス美唄、岩見沢、厚田、札幌) 図6. WITHレーダー設置状況 WITHレーダーでは南下する雲の動きを捕捉している。特に 表1. レーダー性能比較 4時から4時5分にかけて短時間でエコー強度が発達している 様子がわかる。(図8.1, 8.2) 11/12 4:00 なお、表1以外のWITHレーダーの特徴として、 ・鉛直方向の監視による雲頂高度の観測 ・ドップラー観測による雲の移動速度の観測 岩見沢 図8.1 WITHレーダーによる観測結果(11/12 4:00) 11/12 4:05 が可能である 3.2 平成25年11月12日の観測事例 石狩湾収束線は美唄から岩見沢方面に向かって南下した。 5時から9時頃までは岩見沢付近で停滞し、その後、美唄方面 へ北上した。札幌方面では影響がなかった。また、降雪観測 岩見沢 図8.2 WITHレーダーによる観測結果(11/12 4:05) 活発な雲は5時過ぎから岩見沢付近にかかり、10時頃まで 雲頂高度2,000m、黄緑色のレーダーエコーがかかり続けた。 (図8.3, 8.4) 3.3 平成26年1月10日の観測事例 石狩湾収束線は岩見沢を中心にかかり続け、美唄や札幌ま での南北の移動はなく経過した。(図10) 11/12 5:00 雲頂 2,000m 岩見沢 図8.3 WITHレーダーによる観測結果(11/12 5:00) 11/12 10:00 岩見沢 図8.4 WITHレーダーによる観測結果(11/12 10:00) 11時頃になると、岩見沢付近のエコー強度も青色まで落ち てきたことがわかる。(図8.5) 11/12 11:10 岩見沢 図8.5 WITHレーダーによる観測結果(11:10) 気象庁レーダー、MPレーダーともに石狩湾から流れ込む収 束線を捕捉している。特に、MPレーダーは観測範囲は限られ 図10. 平成26年1月10日 アメダス時間降雪および風速 るが、解像度が小さいため、雪雲の分布状況を詳細に確認す (上からアメダス美唄、岩見沢、厚田、札幌) ることができる。(図9) WITHレーダーでは1時頃には雲頂2,000mの雲がかかる。その 後、4時頃にかけて黄緑色~黄色のエコー強度の雲がかかり 続けた。(図11.1, 11.2) 1/10 1:00 岩見沢 図11.1 WITHレーダーによる観測結果(1:00) 図9. 気象庁レーダー(左)とMPレーダー(右)の観測結果 (上図:4時 下図:10時) 1/10 4:00 4.まとめ 石狩湾収束線は気象庁レーダーやMPレーダーにも映りやす い。このため、石狩湾収束線の分布状況はこれらのレーダー 雲頂 2,000m からも把握することができる。ただし、降雪強度をより的確 岩見沢 に捉えるためには、WITHレーダーによる雲の断面観測(雲頂 図11.2 WITHレーダーによる観測結果(4:00) 高度)を加味するとなお良いと考えられる。 また、図7, 10から、時間強度が5cm/hを超えるゲリラ豪雪 5時頃になると、岩見沢付近で活発な雲がかかりにくくなり、 時は比較的風速が弱まっている。ただし、その周辺では強風 アメダスの観測でも強雪の観測はなくなった。(図11.3) を伴うため、石狩湾収束線周辺では吹雪による視程悪化に注 1/10 5:00 意が必要である。 今後、ゲリラ豪雪、吹雪視程悪化をより的確に捉えるため に以下の3点が有効であると考える。 ① 石狩湾沿いにWITHレーダー追加設置し、海上の石狩湾収 岩見沢 束線の雲頂高度、エコー強度を直接観測し、陸上への影 図11.3 WITHレーダーによる観測結果(5:00) 響に対してリードタイムを確保する。 エコー強度は気象庁レーダー、MPレーダーともに、1月10 日(図12)よりも11月12日の方が強かった(図9)。ただし、 アメダス岩見沢では両日とも時間強度は最大で7cm/hで差異 がなかった。エコー強度だけで降雪強度の判定は難しいと言 える。 ② 既設のアメダスの風速の変化から、石狩湾収束線の位置、 移動方向などを把握する。 ③ ウェザーリポートを活用した実況把握(図13) ドカ雪/吹雪 晴れ 図12. 気象庁レーダー(左)とMPレーダー(右)の観測結果 (上図:1時 下図:4時) 図13. ウェザーリポート(平成25年11月12日) 今年度は、WITHレーダー、MPレーダーに、地上アメダスの 観測値なども組み合わせて活用する。ゲリラ豪雪や吹雪によ る視程障害を捕捉し、東日本高速道路株式会社北海道支社が 管理する高速道路の通行止時間の短縮に取り組んでいく。
© Copyright 2024 ExpyDoc