高齢者向けの住まいへの転居者を対象とした転居前

高齢者住宅研究所
2014 年 12 月
高齢者向けの住まいへの転居者を対象とした転居前の生活状況に関する調査
~在宅生活の継続を困難とした状況の分析~
社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所
平成 22 年度内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」によると、自分の身体
が虚弱化したときに住まいをどのようにしたいと思うかについて、「現在の住居に、特に
改造などせずにそのまま住み続けたい」「現在の住宅を改造し住みやすくする」は平成 13
年から平成 22 年では 57.5%から 63.8%へと増加、同様に、特別養護老人ホーム、有料老人
ホームのような施設を希望する割合も 14.6%から 28.7%と約 2 倍に増加している。また、特
別養護老人ホームの入所申込者は、約 52.4 万人(平成 26 年 3 月厚生労働省が集計)、そ
の内、入所の必要性が高い要介護 4 及び 5 の在宅生活者の入所申込は約 8.7 万人であり、
入所申込者全体の 2 割に達しない状態である。自宅に住み続けたいと希望する高齢者が多
い一方、何らかの理由で自宅での生活が困難となり、施設への入所を希望する割合が高く
なっていることが分かる。
団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年を目標に、要介護状態となっても住み慣れた地域
において在宅生活を継続できるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提
供される地域包括ケアシステムの構築の実現が急がれている。現在、医療と介護の統合ケ
アの推進を中心に勧められているが、地域での居住継続を進めていくためには、根源的に
在宅生活の継続を可能とする要因を探る必要がある。そこで、当研究所では、その要因の
探索に向けて、サービス付き高齢者向け住宅を中心とした高齢者向けの住まいへ転居した
高齢者の転居前の生活状況の調査を行い、転居に至った状況分析を実施した。地域包括ケ
アシステムを構築するための一資料とすることを目的としている。
1
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1.調査の方法
近畿圏内の大都市圏及びその周辺都市(大阪市、京都市、豊中市、宝塚市)、中国圏内の
都市圏(岡山市)にあるサービス付き高齢者向け住宅 11 件、介護付き有料老人ホーム 3 件
の居住者を対象とし、それらの住まいへの転居に至った状況分析を行った。
(A)調査対象者:調査開始時(2014 年 6 月)から遡って 1 年以下の期間に転居した者
(B)調査時期: 2014 年 6~11 月
(C) 調査内容: 調査対象者の転居の経緯と転居前の在宅生活の状況を把握するために、
表 1 に示す内容を調査した。
表 1 調査内容
調査項目
(a)基本属性
(b)転居の経緯
(c)在宅時の家族・世帯状況
(d)在宅時の住宅状況
(e)在宅時の経済状況
(g)在宅時のサービス・
サポート状況
(h)生活歴
調査項目の詳細
性別、年齢、調査時の介護度、介護認定時期、転居時の介護度
転居時の障害老人の日常生活自立度・認知症(痴呆性)老人の日常生活自立度
転居時のBADL・IADL、現病歴・既往歴、入院の経験の有無・時期・疾病名
転居までの転居歴、転居時期、
転居決定に関わるキーパーソン・転居の原因(ケアマネ等から聴取)
転居直前の世帯状況、配偶者の有無、家系図
転居直前の自宅の住宅所有形態、建物形態
年金所得、親族等のから経済的支援の有無
転居前1年間のフォーマルサービスの利用状況、インフォーマルサポート状況
在宅時のサービス利用に関わるキーパーソン
①疾病、②入院、③世帯変化、④入院の発生を中心としたライフコースの確認
(D)調査方法: 次の2つの方法を実施した。
① ケアプラン等文書調査・介護支援専門員(ケアマネ)等への聞き取り調査
住宅併設の居宅介護支援事業所で居宅介護支援を受けている対象者については、
ケアプランから情報を取得した。自立または住宅併設以外の居宅介護支援事業所か
ら居宅介護支援を受けている対象者については、住宅事業者が転居前の面接で収集
した情報の記録資料から情報を取得した。また、いずれの対象者についても、資料
から十分な情報が得られない場合、また、表1に示している(b)転居の経緯のうち
2 項目については介護支援専門員または住宅管理者から聞き取り調査を実施した。
② 自立の居住者を対象とした聞き取り調査
転居時に自立であった 29 名の内、協力が得られた 16 名(男性 7 名、女性 9 名)
を対象に、a)転居の理由、b) 転居の必要が発生した状況の変化、c) 転居に関わ
るプロセスにおける意思決定等主体の 3 点について、聞き取り調査を行った。
2
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2. 調査結果について
2-1 基本情報の分析
2-1-1 調査対象者の転居時の基本的属性
男性119名(38%、N=313)、女性194名(62%)、平均年齢84.5歳であった。転居当時の介護
度認定の状況は、軽介護者(自立~要介護2)の転居が206名、66%を占めている(表2)。
また、世帯状況として、単独世帯が最も多く175名(56%)であった(図1)。世帯別の介
護度平均*をみると、単独世帯1.44、夫婦のみ世帯2.26、子夫婦と同居2.24となり、単独世
帯は低い。
*平均介護度は、要支援1=0.375、要支援2=1、要介護1~5については、その介護度、すなわち要介護1=1、要介護2=2…、
要介護5=5として計算
10, 3%
表2 転居者の介護度(N=313)
軽介護者
重介護者
その他
自立
要支援1
要支援2
要介護1
要介護2
要介護3
要介護4
要介護5
申請中
不明
29(9%)
38(12%)
28(9%)
55(18%)
56(18%)
33(11%)
22(7%)
18(6%)
27(9%)
7(2%)
単独
2, 1%
6, 2%
20, 6%
夫婦のみ
同居:子世帯
小計
同居:子のみ
45, 14%
55, 18%
175, 56%
206(66%)
同居:その他親族
同居:非家族
不明
73(23%)
主要世帯種別平均要介護度:
単独:1.44、同居(夫婦のみ):2.26、同居(子世帯):2.24
34(11%)
図 1 対象者の転居前世帯状況と主要世帯
種別平均要介護度 (N=313)
どのような経緯で転居に至ったか、転居前の 2
週間をどこで過ごしたかについて、全数では、自
3, 1%
3, 1%
宅が最も多く 143 名(46%)、次いで医療機関 114
名(36%)であった(図 2)。在宅に戻ることなく、
自宅
40, 13%
家族宅等*1
143, 46%
医療機関からそのまま転居している。
転居時の世帯状況に関わらず同傾向であった。
医療機関
施設*2
114, 36%
複数の居場所*3
不明
10, 3%
*1: 家族宅近くのマンションに居住も含む
*2:老健、特養、有料、サ高住等
*3:自宅・家族宅・医療機関など
図 2 転居 2 週間前の居住場所(N=313)
3
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2-1-2 転居の経緯・生活歴の分類
調査項目のうち、ケアマネに確認した転居の原因と生活歴を分析した。それらを分類し
(以下、「転居の状況」と呼ぶ。(表3))、在宅生活継続をすることなく、転居をした状
況について、当てはまる大項目全てに1をつけ、データ数を集計した。
転居した高齢者本人の状況に起因するもの、本人以外の状況に起因するものに大きく分
類すると、高齢者本人、本人以外の両方の事由に該当する者が172名(55%、N=313)、高
齢者本人のみの事由に該当する者が107名(34%)、本人以外の事由に該当する者が22名(7%)
であった。本来、高齢者本人の事由に該当することであるはずだが、本人以外の事由にの
み該当する者が存在している。
表3 「転居の状況」分類
大項目
本
人
の
状
況
中項目
内科系疾患の発生
内・外科系疾患 外科系疾患の発生
障害の発生
精神的疾患、認知症の発生
精神系疾患
記憶障害の発生
不安感・心配の発生
意欲の低下
心理
他者の負担への配慮
負担感の発生
行動
行動の問題
医療措置
医療措置の必要
介護
ADLを中心とした基本的生活機能の低下
サービス
にかかるサービスの必要
IADLを中心とした生活機能低下にかか
生活支援サービス るサービスの必要
緊急時対応、安否確認、相談の必要
物理的
生活環境の物理的障害
生活環境
自宅の管理が困難
近隣住民との人間関係の問題
経済的負担
その他
住宅の状況
退院後の生活環境・身心状況の調整
疾病
本
人
以
外
の
状
況
家
族
の
状
況
*
心理
介護等の
対応・管理
物理的
生活環境
その他
家族
以外
の
状況
疾病
心理
介護等の
対応・管理
小項目
内科系疾患の発生
外科系疾患の発生
ADLの低下、事故による障害の発生
認知症、うつ病等、それらに伴う生活困難状況の発生
物忘れ、記憶障害、それらに伴う生活困難状況の発生
独居・心身状況・緊急時等への不安感の発生
閉じこもり、精神的落ち込み等
介護者に負担をかけたくない、人の世話になりたくない等
家族との生活本人にとって負担感がある、近隣関係が本人にとって負担感がある等
ごみの管理、部屋の散乱、火の不始末、過度の呼び出し、サービス拒否等
自宅における医療措置が困難・必要、自宅における医療措置の管理が困難・必要
食事や排泄等の基本的な生活機能に関わるサービスの必要
買い物、家事等の生活機能に関わるサービスの必要
夜間の緊急時対応、見守り、安否確認、相談機能の必要
段差・利便性等の自宅・地域・生活圏の物理的環境の障害
自宅が大きい・老朽化等の環境面で管理が困難
近隣住民との人間関係の悪化
サービス利用費の経済的負担が重い
賃貸住宅の契約期間切れ、自宅改修による一時的転居の必要
退院後に適した生活環境を求めて、退院後の身心状況の調整
疾病の発生、障害の発生
不安感・心配の発生
負担感・疲労の発生
介護対応・医療対応、生活支援の提供
それらの管理が困難
内科系疾患の発生、外科系疾患の発生、精神疾患の発生、入院
被介護者の独居に対する不安感の発生
同居・介護に対する負担感、介護疲れの発生
家族による適切な介護・医療措置・生活支援の提供・管理が困難
夜間対応・認知症等の影響による行動障害への対応が困難
別居による物理的距離の障害
遠方に居住等の理由での対応が困難
家族間の関係の悪化
経済負担
高齢化等に伴う状況発生
就労による状況発生、転居の発生
疾病の発生、障害の発生
不安感・心配の発生
負担感・疲労の発生
介護対応・医療対応、生活支援の提供、
それらの管理が困難
家族間の不仲、家族による介護拒否・DV
介護費用等の経済負担が困難
高齢化、死去、施設入居等
就労状況・転居などにより対応が困難
内科系疾患の発生、外科系疾患の発生、精神疾患の発生、入院
被介護者の独居に対する不安感の発生
同居・介護に対する負担感、介護疲れの発生
家族による適切な介護・医療措置・生活支援の提供・管理が困難、夜間対応・認知症等の影響
による行動障害への対応が困難
*:6親等以内
4
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高齢者本人の状況、本人以外の
内・外科系疾患
状況すべてに起因するものを集
家族の状況
計した結果、内・外科系疾患要因
精神系疾患
が最も多く 201 件(N=313 、複数
生活支援サービス
回答)、次いで家族の状況要因、
心理
54
36
物理的生活環境
34
行動
18
その他
いる(図 3)。
24
医療措置
14
家族以外の介護者の状況
7
0
「軽介護者」に注目しながら、
「家
族形態」
「介護度別」に在宅生活
99
61
介護サービス
191 件、心理要因、99 件と続いて
以下、数が多い「単独世帯者」
、
201
191
50
100
150
200
250
300
図 3 転居の在宅生活の状況(N=313)
の継続を困難とした「転居の状況」
を考察する。
2-2 世帯形態別の特徴
2-2-1 世帯形態を超えて家族への支援の重要性
転居当時の世帯別状況により、
「転居の状況」を比較してみると、
内・外科系疾患
単独世帯(N=175)は、高齢者本人
の内・外科系疾患要因 114 件、家
族の状況要因 89 件、高齢者本人の
心理的要因 65 件であるが
(図 4)
、
114
家族の状況
89
心理
65
生活支援サービス
38
その他
14
物理的生活環境
17
介護サービス
18
精神系疾患
夫婦世帯(N=55)、子夫婦と同居
行動
(N=45)の場合、それぞれ、家族
家族以外の介護者の状況
27
11
医療措置
の状況要因 46 件、30 件、高齢者
本人の内・外科系疾患
要因 42 件、25 件、高齢者 自身
0
50
150
家族の状況
46
内・外科系疾患
42
精神系疾患
も高齢者本人の内・外科系疾患要
19
心理
18
因は在宅生活を継続することを困
物理的生活環境
5
介護サービス
難にする基本要因である。当要因
5
生活支援サービス
5
行動
は医療・介護サービスの利用にも
4
その他
関係し、適切な在宅支援の中心的
要因といえる。
100
図 4 単独世帯の転居の在宅生活の状況(N=175)
の精神系疾患要因 19 件、8 件であ
った(図 5、6)。どの世帯において
8
5
2
医療措置
1
家族以外の介護者の状況
0
0
10
20
30
40
50
60
図 5 同居:夫婦のみ世帯の転居の在宅生活の状況(N=55)
5
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また、家族の状況要因も一定の
家族の状況
割合を占めており、在宅生活継続
30
内・外科系疾患
25
精神系疾患
に影響力があるといえる。家族状
8
心理
況とは「不安感・心配の発生」
「負
7
物理的生活環境
5
介護サービス
5
担感・疲労の発生」
「介護対応、医
その他
療対応、生活支援の提供」等があ
生活支援サービス
り、これらに対する支援の必要が
行動
5
4
医療措置
4
1
家族以外の介護者の状況
ある。
1
0
10
20
30
40
図 6 同居:子夫婦と同居世帯の転居の在宅生活の状況(N=45)
調査対象住宅への転居の決定に
子
関わるキーパーソンは誰かを調査
本人
した(図 7)。転居に関わるキー
パーソンは、子が最も多く 212 件
212
108
配偶者
22
子の配偶者
21
親戚
20
(N=313 )、次いで高齢者本人 108
兄弟姉妹
件である。子の影響力が大きいこ
専門職
とがうかがえた。世帯、介護度に
その他
6
不明
4
関わらず、上記と同傾向であった。
0
転居時自立であった 16 名ついて
は、詳しく転居の決定主体につい
10
6
50
100
150
200
250
300
図 7 転居に関わるキーパーソン(N=313、複数回答)
て本人認識を聞いているが、
「話を出す」
「住宅を探す」「転居の決定」という転居プロセスへの家族の介入が半数以上
見られた。家族に対する転居選択への支援が必要である。
2-2-2 単独世帯者「心理」サポートの重要性
「転居の状況」を世帯別で比較すると、最も多数を占める、単独世帯は、夫婦のみ世帯、
子夫婦と同居世帯とは傾向が異なり、心理的要因、すなわち、高齢者本人の不安感・心配
の発生、意欲の低下が第 3 位を占めていた。内・外科的疾患要因、家族の状況要因に加え
て、心理的要因へのサポートが必要である。不安の詳細については個々で異なるために、
細やかな相談対応は必須であると考えられる。
2-3 介護度別の特徴
2-3-1 軽介護者「心理」サポートの重要性
軽介護者、重介護者ごとに「転居の状況」を比較してみた。軽介護者は、家族の状況要
因 63%(129 名、N=206)、内・外科的疾患要因 57%(117 名)、重介護者は、内・外科的疾患要
因 81%(59 名、N=73)、家族の状況要因 55%(40 名)を挙げていた。順位の逆転はみられるも
6
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のの、家族の状況要因はほぼ同割合で挙がっている。ただ、軽介護度者は 39%(80 名)が心
理的要因を挙げているのに対し、重介護者は 18%(13 名)である。軽介護者にはより心理的
要因へのアプローチが必要と考えられる。
転居時自立であった 16 名には、a)転居の理由、b) 転居の必要が発生した状況の変化に
ついて、本人に聞き取り調査を行っているが、転居の理由については、 高齢者本人の心理
的要因と家族の状況要因が各 9 名、高齢者本人の身体的理由、生活環境と考えている者が各
4 名であり、高齢者本人の心理面を詳細にみてみると、不安感を挙げている者が 7 名であっ
た。自立者への聞き取り調査からも心理的要因への支援の重要性を見ることができる。
2-3-2 重介護者、退院支援の重要性
「2-3-1 軽介護者「心理」サポートの重要性」で述べたが、重介護者は転居の状況に内・
外科的疾患要因が多い。また、
「2-1-1
調査対象者の転居時の基本的属性」
で述べたが、どのような経緯で転居
自立
24
要支援1
27
に至ったかについて、介護度別に入
居前 2 週間の居場所を分析すると、
自立・要支援の者は自宅からの転居
の割合が高く、介護度1以上の者は
医療機関か
らの転居の占める割合
が一層増加し
宅復帰が困難になっていた。医療機
関等からの退院支援、特に「要介護
家族宅等*1
要支援2
21
要介護1
21
医療機関
42.9%
要介護2
19
施設*2
45.5%
要介護3
11
63.6%
要介護4
複数の居場所*3
3
83.3%
要介護5 1
ている(図8)。介護度が高いほど 医
療機関から転居する割合が高く、自
自宅
0
不明
10
20
30
40
50
60
*1: 家族宅近くのマンションに居住も含む
*2:老健、特養、有料、サ高住等
%: 医療機関にいた人数/各介護度別人数
*3:自宅・家族宅・医療機関など
図8 介護度別転居前の居住場所(N=313)
1」以上の者は十分に退院後の在宅
支援を行う必要性がある。
2-3-3 重介護者、フォーマルサービスの利用状況
転居1年前から転居までのサービス機関によるサービス(フォーマルサービス)の利用
状況をみると、全数では、利用していない者が 34%(105 人)、週に数回昼間のみ利用のも
のが 37%(107 人)であり、両者で全体の 71%を占めていた。さらに重介護者(N=51、転
居1年前に医療機関、入居施設において包括的サービスを利用していない者のみ抽出)を
詳細にみたところ、毎日フォーマルサービスを利用している者は全体の 14%、夜間のフォ
ーマルサービスを利用している者は全体の 2%、その他として、ショートステイを利用して
いる者が 14%であった。重介護者であっても頻回なフォーマルサービスの利用はごくわず
かに限られる。重介護者の転居状況の第一位は内・外科的疾患要因であり、頻回なサービ
ス利用の需要は高いと予想される。フォーマルサービスの利用については課題があるので
はないだろうか。
7
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3. 結果概要
高齢者が在宅での生活を継続することを阻害する要因として転居前の生活状況の分析か
ら以下のことが導き出された。
① 単独世帯からの入居が約6割を占めている
② 転居のキーパーソンは約5割が子どもである
③ 医療機関への入院をきっかけに転居をする者が約4割を占めている
④ 「転居の状況」として、心理的要因を約3割の者が挙げている
⑤ 重介護者のフォーマルサービスの頻回な利用は20%にも満たない
4. 課題と考察
高齢者が在宅生活を継続するためには、以下のことが課題として挙げられる。
① 世帯形態を超えて「転居の状況」の中で、家族の状況要因が挙がっており、在宅生活
継続に影響力があるといえる。家族の状況要因とは「不安感・心配の発生」
「負担感・
疲労の発生」
「介護対応、医療対応、生活支援の提供」等であり、高齢者が在宅生活を
継続するにあたって家族への幅広い支援も必要ではないかと考えられる。また、転居
のキーパーソンは約5割が子であった。基本的な姿勢として、高齢者本人の意思を必ず
確認すること、さらに、家族にも転居選択の情報を提供するための支援も必要だと考
えられる。
② 医療機関への入院をきっかけに転居をする者が約4割を占めた。退院時は心身の状況の
変化にあったサポート体制や、居住環境の整備が必須であり、適切な医療・介護支援、
家族等のインフォーマルサポートも含めた生活環境全般に対する細やかな対応が求め
られている。
③ 転居の状況として、特に、軽介護者は心理的要因を挙げる者が多くいた。現在、フォ
ーマルサービスには心理的要因へのサポートプログラムはなく、主としてケアマネー
ジャーのソーシャルワーク(相談援助を中心に、総合的かつ包括的な援助を提供する)
で対応されている。しかし、実際のケアマネージャーの業務は介護保険の給付管理が
主となっており、ソーシャルワークが十分に実施されているとはいえない。ケアマネ
ージャーのソーシャルワーク力のさらなる向上、新たなフォーマルサービスの検討も
必要ではないかと考える。
以上
8