上部工の施工中における落雪対策

上部工の施工中における落雪対策
~国道13号における冬期の安全な交通確保について~
中島博行※1
1.はじめに
国道13号は、福島市を起点とし、米沢市、山形市、新庄市
当該地域は豪雪地帯であり 、 冬期間は桁下は交通量の多い
等、山形県内の主要都市を結び、秋田県内陸を縦断して秋田
国道13号( H22年センサス: 13,263台/日台) 及び市道の落雪
市に至る総延長309.8kmの東北地方の主要幹線道路である。
等、 橋梁の検査路への落雪が懸念さ れるため、 落雪対策を検
山形県を南北に縦貫する主要幹線道路の国道13号沿線地域
討・ 実施し た。
では、先端技術や精密技術をはじめとする工場の立地が進展
し、これらの産業活動に伴う交通需要の増大のほか沿線都市
位 置 図
間の交流等により交通混雑が顕著になり、沿線の環境の悪化
を招いている。
特に、尾花沢市~新庄市間は昭和30年代の一次改築当時の
ままであることから、道路幅員も狭く、国道13号の中でも隘
路区間となっている。
このため、昭和61年度から「舟形バイパス」として改築事
業に着手したが、第4次全国総合開発計画(昭和62年6月30日
閣議決定)において、福島県相馬市~秋田県横手市間が「東
北中央自動車道」として、国土開発幹線自動車道(国幹道)に
位置づけられた。
事業進捗図
秋田県
岩手県
2.現地条件
山形県
山形県尾花沢市
野黒沢高架橋は全長約 600m(14 経間非合成鈑桁橋 3 主桁)
宮城県
あり 、 国道 13 号( ①) 、 尾花沢市道( ②) 、 野尻川等を高
架し 、 国道 13 号と 市道と はそれぞれ P11-P12 間、 P12-P14
間で交差し ている。
平 面 図
福島県
これに伴い、国幹道と並行する舟形バイパスを「尾花沢新
庄道路」と変更し、高規格道路としての機能を持たせて整備
を進め、平成26年11月に暫定2車線による全線供用した。
山形県尾花沢市内において、尾花沢新庄道路の野黒沢高架
橋を施工した際、国道13号と尾花沢市道Ⅰ-9号線が交差する
箇所において、予算・工程上の都合から上部工架設後に床版
工事を行わず越冬せざる得なかっ た。
※1国土交通省 東北地方整備局 山形河川国道事務所 工務第二課
・ 桁上に敷鉄板等を設置し 、 桁下の道路に落と さ ない
①国道 13 号部
・ 道路上に簡易スノ ーシェ ッ ト を設置する
1 ) 2 ) については、 固定金具部・ 水平補鋼材部等の積雪
はに対応が困難であるう え、 端部着雪、 短時間大雪時に際し 、
国道への落雪が懸念
国道への落雪が懸念
足場等がないため対応できない。
また、 2 ) については、 融雪水が氷柱になり 新たな危険物
と なるこ と が懸念さ れる。
3 ) については、 国道・ 市道部を完全に覆う ため、 落雪の
危険性はないが、 積雪深により 除雪が必要と なる。 また、 ス
ノ ーシェ ッ ト 案は、 施工条件( 桁下作業等) やコ スト 面から
現実的な対策ではない。
②市道Ⅰ-9 号線部
以上のこ と から 、 3 ) の敷鉄板設置案に決定し た。
なお、 橋梁検査路の除雪は適時人力により 実施するも のと
市道への落雪が懸念
市道への落雪が懸念
し た。
次に、どの程度の積雪を想定するかを検討した。(表1参
照)
現地の設計積雪深152.4cmだが、山形河川国道事務所の観
測データによれば、歴代の最大積雪深は260cm(昭和51年)
であり、特に直近3 年間の最大積雪深は200cmを 超えている 。
これらのデータから、歴代最大積雪深260cmに耐えうる構
造を採用した。
3 . 落雪対策の検討・ 設計
表-1:現地気象条件等
落雪対策の検討・ 設計にあたり 、 使用目的、施工規模共に
類似する落雪対策の事例を調査したものの、参考事例となる
ようなものが全国的に見られなかった。
落雪対策として、次の3案について比較検討を行った。
1)雪を溜めない
国道13号
設計積雪深
H22交通センサスより
尾花沢市 152.4cm
東北地方の降雪深・積雪深に関する統
計調査票(平成元年)より
尾花沢市 260.0cm(昭和51年)
歴代最高積雪深
半割管等を桁上に設置し、着雪させずに桁下に落とす。
2 ) 雪を溶かす
13,263台/日
※直近3年積雪深
(平成22年:221.0cm、平成23年:247.0cm、平成24年:243.0cm)
平均最低気温(5年) 尾花沢市 -12.8℃
山形河川国道事務所尾花沢ステーショ
ン測データより
気象観測データより
床用ヒ ーティ ング等を桁に設置し 、 熱により 融雪する。
落雪対策図
4.対策工の詳細
3 ) 雪を落と さ ない
対策工は、 桁の上にH 鋼を横断上に載せ、 その上に敷鉄
施工状況(H25.10.2)
板を設置する。 施工は桁架設から 冬期前の短期間で完成さ せ
る必要があるこ と から 、 資材等は現場と 調整の上、 工程に間
に合う 資材を使用するこ と と し た。
横から の落雪を防ぐ ため、 横柵を設置し た。 柵高は尾花沢
地区の2 年設計積雪深 152. 4cmを参考に、 余裕高 30cmを目
安に設定し た。
完成(H25.11.27)
対策工横断図
敷鉄板配置図
また、 桁と H 鋼のズレ止め対策と し てワイ ヤー、 落下防止
ピース、 シャ コ 万を実施し た。 さ ら に、 H 鋼と 敷鉄板をシャ
コ 万、 H 鋼と 敷鉄板を HTBでの接続、 小プレート による溶接
止めを実施し た。
HTB接続部詳細図
細部状況
5.冬期間の対応
当初計画では、横柵の高さが1.8mのため、柵越えの落雪
防止のため、1.5m程度の積雪に達した場合に除雪を実施す
シャコ万・溶接部詳細図
るものとした。
除雪作業は、ハンドガイド式除雪機による機械除雪を基本
現地施工は国道13号と市道を切り回しながら作業を進めた。
とし、機械除雪横柵サポートや取付金具等がある端部は人力
除雪とした。
本格的な降雪期が訪れると、現地は一日で30cm以上積雪す
る日も多く、規定の1.5mに達する前に処理していく必要が
除雪状況(H26.1.14)
あった。
積雪状況(H26.1.14)
これらの対策を実施した結果、冬期間において、13号及び
市道に落雪する被害はなかった。
各部積雪状況(H26.1.14)
積雪後に除雪せず放置した場合、雪は根雪となって固くな
シート設置状況
り、ハンドガイド除雪機等では除雪が困難となることから、
現地は積雪の初期段階で断続的に除雪を行わなければならな
かった。
また、横柵外側への着雪は、少量でも落雪する危険性が高
いため、早期対応が必要となる。天候によっては一日複数回
除雪を行うこともあった。
そのため、横柵にシートを被せて常時着雪を防ぐ対策を実
施した結果、当該箇所を除雪する回数が格段に減少した。
6.最後に
前述したように、本対策は全国的にも前例がなく、手探り
の状態から検討を開始した。
今回の事例では、 根雪を避けるため積雪初期段階から 除雪
を行っ たこ と から 、 現場の除雪作業に対し 、 設計積雪深が過
大になっ てし まっ たが、 安全側かつ想定による設計ではやむ
えないも のと 考える。
同様の事案があっ た場合には、 さ ら なる検討が必要と 思わ
れるも のの、 本来なら ば、 落雪対策を実施する状況は避ける
べきであるが、 今回の事例が他の地区で、 同様の状況が生じ
る場合の一助になれば幸いである。