第 4 回レポート解答 注 1: [1](iii) の答えの有効数字は 3 桁だが、[1](i)(ii) の答えの有効数字は 1 桁しかない ことに注意。 有効数字以上の桁数を表示することは、実際の精度よりも高い精度で数値を表示している、つまり「ウソ」をついて いることになるので減点をした。例えば、[1](ii) の答えは 9×10−2 [J] だが、これを 9.0×10−2 [J] と記すと有効数字 2 桁 の表記になり、実際の精度より高い精度の表記になってしまっている(2 桁目のゼロがウソの数値)ので、減点した。 有効数字については、物理化学実験の物理パートのガイダンスでも勉強しているはずなので、復習しましょう。2014 年度の E+CA 向けの上記のガイダンスで用いた資料のうち関係する部分を第 4 回レポートの参考資料として HP に載せ る。(以下、これを単に ’参考資料 ’と呼ぶ。) [1] の問題文で水の密度が 0.99984 g/cm3 と「有効数字 5 桁」のデータになっているのに対し、氷の密度は 0.917 g/cm3 と「有効数字 3 桁」しかないデータであることに注意。したがって、[1](i),(ii) の計算では前述の’ 参考資料’ で注意した 「桁落ち」が起き、このため有効数字の桁数が 1 桁にまで減少する。 もしも、氷の密度も有効数字 5 桁でぴったり 0.917 g/cm3 であったならば 0.91700 g/cm3 と表示しなければならない。 0.917 g/cm3 と表示している以上(この表示は理科年表のものをそのまま書き写したもの。実はわりとぴったり 0.917 な のかもしれないが、それは理科年表を作った人や実際に測定した人に聞かなければわからないことで、表示を見る限りは 有効数字は 3 桁しかない。)、これは有効数字 3 桁しかなくより精密に測定すれば 0.9173 g/cm3 かもしれないし、0.9168 g/cm3 かもしれないし、とにかく有効数字 4 桁目以降は未知である。言い換えれば、最大 ±0.0005 の誤差を含んだ数値 であり、これを明示するならば 0.917 (± 0.0005) g/cm3 である。 注 2: [1] の問題文は「SI 単位を用いて答えよ」、と指示している。各答えの SI 単位は問題文中に [] で囲んで示した。これ以 外の単位を使ったものは不正解にした。例えば、cm3 は体積の CGS 単位であって SI 単位ではないので、[1](i) の答えを cm3 だけを使って示しているときは不正解。 注 3: SI 単位とは、「SI 単位の 7 つの基本単位 (m, kg, s, A, mol, K, cd)、およびそれらの乗除でできる単位」のことであ るが、この乗除で「1 以外の係数をかけてはならない」。したがって、注 2 でも述べたように m や m3 は SI 単位だが、 cm(=10−2 m) や cm3 (=10−6 m3 ) は SI 単位では ない。同じ理由で、J は SI 単位だが、kJ(=103 J) は SI 単位ではない。 注 4: 注 2, 注 3 で述べたことは、いつでも SI 単位を使うことがよいことだという意味では ない。理工学の分野で SI 単位が 重要であることは間違いないが、理科年表を見るとわかるようにそれ以外の単位も理工学の分野でもかなり使われてい る。今回のレポート問題の指示がたまたま「SI 単位を用いよ」だったというだけ。問題文の指示はよく読み、それに応 じて柔軟に臨機応変に対応することが大事。 ある一つの単位系、例えば SI 単位系、ですべての問題を扱うということは実用的な観点からいうと難しい。必要に応 じて、異なる単位系間の換算計算が適切にできることが望ましい。 [1](i),(ii) は符号を間違えないように注意。普通の物質は、融解するとき体積は増加するのだが、大気圧下での H2 O は 融解すると体積は減少する。大気圧下では H2 O は摂氏 4 度付近で密度最大(1 グラムあたりの体積最小)になる。 [1] (i)ΔV = (10.000/0.99984) − (10.000/0.917)[cm 3] = 10.002 − 10.9[cm3 ] = −0.9[cm3 ] ここで、(10.000/0.99984)[cm 3] = 10.002[cm3] の有効数字の桁数は 5 桁、一番下の桁は 10−3 の位。(10.000/0.917)[cm 3] = 10.9[cm3 ] の有効数字の桁数は 3 桁、一番下の桁は 10−1 の位。 引き算で、上の注1で注意した「桁落ち」が起き、ΔV [cm3 ] 有効数字の桁数は 1 桁、一番下の桁は 10−1 の位。SI 単 位に換算すると、 ΔV = −0.9 × 10−6 [m3 ] で有効数字の桁数は 1 桁、一番下の桁は 10−7 の位。 (ii) いまの場合、体積変化が負なので外部から 受けた 仕事は正。 −pΔV = −1.013 × 105 [Pa] × (−0.9 × 10−6 [m3 ]) = 9 × 10−2 [J] 有効数字 4 桁のデータと有効数字 1 桁のデータの掛け算の有効数字は 1 桁。 単位:Pa· m3 =Nm−2 · m3 =Nm=J (iii) 融解熱が 79.7 cal/g より、10 g 融解するとき外部から吸収する熱 Q は Q=797 cal = 4.19 × 797 J =3.34 ×103 J このとき、外部から受けた仕事を W とすると (ii) の答えより W = 9 × 10−2 [J] よって、このときの内部エネルギーの変化 ΔE は ΔE = Q + W = 3.34 × 103 + 9 × 10−2 = 3.34 × 103 [J] (この答えの有効数字は 3 桁なので、W の影響は無視できる。) [2] ファンデルワールス気体の内部エネルギーの式 E=n T 0 CV (T )dT − n2 a V (1) を用いる。 p.49 のジュールの実験では、気体は真空にむかって膨張しており、気体が外部 (=真空) から受ける力はゼロ、したがっ て気体が受ける仕事もゼロである。これから、内部エネルギーの変化 ΔE と気体が外部から得る熱 Q に間には、熱力学 の第一法則より、 ΔE = Q が成り立つ。これと (1) より、 Q = ΔE = n T2 T1 (2) CV (T )dT − n2 a n2 a + V2 V1 (3) [a は気体の物質の種類(H2 , H2 O など分子式)で決まる正の定数] 本問題では、 「温度 T が T1 と T2 の間については」定積比熱 CV (T ) が定数 C で近似できる場合を考える。すなわち、 「(3) の計算で使う温度領域では」定積モル比熱が定数 C で近似できる場合を考えるので、 (5) は Q = ΔE = n(T2 − T1 )C − n2 a n2 a + V2 V1 (4) と近似できる。 (i) 断熱 (Q = 0) 変化のとき Q = 0. これと (4) より 0 = n(T2 − T1 )C − よって、 T2 − T1 = na C n2 a n2 a + V2 V1 1 1 − V2 V1 (5) (6) が求まる。この (6) と V2 > V1 より、温度は下がる (T2 < T1 ) ことがわかる。 (ii) T1 = T2 のときの (4) より、 Q = ΔE = − n2 a n2 a + V2 V1 (7) この (7) と V2 > V1 より、気体はその周りから(正の)熱を吸収する (Q > 0) ことがわかる。 (補足)理想気体の場合と異なり、ファンデアワールス気体の真空への自由膨張では、温度変化と熱の出入りのどち らか一方は必ず起きる。しかし、この温度変化や熱の出入りは(ジュールが測定することが出来なかったように)通常 は非常に小さい。気体を理想気体とみなしてよいかどうかは、どの精度までを問題にするかに依存する。気体の密度が 薄くなるほど、理想気体からのずれは小さくなる。 参考:第 3 回プリント [3-2],[3-3] に基づく、[2] の解答の解釈 気体の膨張に伴い、分子間距離 r の平均値が増加し、それに伴い分子間ポテンシャル u = u(r) の平均値が増加する (第 3 回プリントの図 1(a) の引力領域を参照)。したがって、u からくる E への寄与 −n2 a/V も増加する。(ここの ’増 加 ’は、負の値がその大きさを減少させること、すなわち、負の値がゼロに近づくこと。) (i) の場合、内部エネルギー E が一定(ΔE = 0 )なので、上述の増加を相殺する減少が n T 0 CV (T )dT でおき、そ れに伴い「温度が減少」する。 T ここで、n 0 CV (T )dT = Etra + Erot + Evib = (分子の並進運動や分子内の回転運動と振動運動からくる E への寄 与)が温度の増加関数になっている1 ことを、「温度は分子運動のはげしさを表す」と表現できる2 分子間ポテンシャルが増加する(ゼロに近づく)点は (i),(ii) 共通。(i) の場合、分子間ポテンシャルの増加を相殺する T ため「分子運動のはげしさ」は減少する。(ii) の場合、温度が一定なので「分子運動のはげしさ」n 0 CV (T )dT も一 定。したがって、(ii) では分子間ポテンシャルの増加分を熱として外部から吸収しなければならない。 1 ただし、温度に比例するのは Etra = 3nRT /2 だけで、これ以外の Erot , Evib は温度に比例は「しない」。 2 この表現だけでは温度を定量的には定義できないが、 「温度とは簡単に言えば結局何なのか」という質問に対する定性的な答えにはなる。
© Copyright 2024 ExpyDoc