制御可能性算出のための ドライバモデルおよび環境モデルの構築

制御可能性算出のための
ドライバモデルおよび環境モデルの構築
伊藤 昌夫†
Construction of the driver and environment model to calculate the
controllability in the automobile field
ITO Masao
ねらい 本論は,自動車に搭載されるシステムにおける安全性解析のための制御可能性を,ドライバモデルおよび環境
モデル(DESH-G)から計算する手法を提案する.ドライバの制御可能性は,ISO 26262 に代表されるように重要な概念で
ある.これまで,この制御可能性を計算することは重視されてこなかった.なぜならば,これまで安全性解析の中心は,
プラントに代表される特定の場所で利用され,かつユーザは訓練を受けた操作者に限定されるシステムであったためであ
る.乗用車は,広範な場所で様々なユーザが利用する.従って,適切なドライバモデル・環境モデルを網羅的に構築し,
ドライバの制御可能性を計算することが重要である.
Target: We propose the method to calculate the driver controllability in the automobile field using the driver model and the
environment model (DESH-G). The idea of controllability is an important concept in this area, especially when we apply the ISO
26262 standard to a system. Most of traditional analysis methods are for unmoving with the trained operators, like chemical or power
plant and so on. The automobile is the opposite. So, we have to create the proper driver and environ model. To do so, we can calculate
the controllability properly.
Keywords: DESH-G model, controllability, safety, driver model, environment model
1.はじめに
4.提案
本論では,自動車に搭載するシステムにおけるドラ
最 初 に , ド ラ イ バ と 環 境 を 位 置 づ け る . DESH-G
イバの制御可能性の計算方法を提案する.特に,概念
(Driver, Environment, Software, Hardware and Goal)モデ
構築段階のリスク評定に使用することを想定している.
ルと呼ぶ概念モデルを図1に示す.ドライバのゴール
2.背景
リスク評定において,ドライバの制御可能性の計算
が必須であるが,定まった合理的な方法はない.
とある部分は,ドライバの目的であり,ドライバモデ
ルと環境モデルに対して影響を及ぼす.
4.1 ドライバのモデル化 ドライバ単独のモデル要素としては,次の 3 種類が
また,先進運転支援システム(ADAS)に代表される
ある.(1)身体的属性(年齢・性別等),(2)経験・知識・
高度なシステムが,普及しつつある.これらシステム
技量,(3)状態(身体的状態:例えば風邪気味,精神的
は,環境から多くの情報を取り込み,ユーザの操作を
状態:例えば落ち込んでいる).その他に,文化的背景
部分的に代替するために,ドライバとの役割分担を定
や個々のドライバの傾向(リスキーな運転を好む)も
める必要がある.
考慮が必要である.ここでは,
「ドライバ状態(心理的・
3.課題
環境モデルに関しては,これまで道路の設計および
精神的)」と「ドライバ技術」に集約して考える
4.2 環境のモデル化 環境のモデル化では,道路・天候・法規等といった
事故解析によるフィードバックという観点から議論が
車両に影響を与える要素を対象とし,経路状況とする.
なされてきた(最も網羅的な文献として,[1]がある).
経路状況の要素は,対象となるアイテムによって異な
ドライバモデルについての議論で最も包括的な文献と
る場合がある(通信を使用するシステムでは電波障害
して,[2]がある.しかし,これらを組合せ,制御可能
の有無を,駐車支援システムではロック板を考慮する
性について示した報告はない.
必要がある).後述するゴールとあわせ合わせて,状況
−シナリオ表(SSM)を構成する.
4.3 ゴールのモデル化 †
株式会社ニルソフトウェア
Nil Software Corp. 2-17-7, Kinuta, Setagaya, Tokyo, 157-0073, Japan
E-mail: [email protected]
1
5.効果
自動車の運転には目標(ゴール)がある.ゴールを
達成するために必要な要素がアクティビティである.
アクティビティは更にアクション(タスク)およびオ
ペレーションに再分割できる.
ゴールは,ドライバモデルおよび環境モデルに影響
を与える.ゴールが,「(約束に間に合うように)急い
で目的地に到着する」である場合,心理的な負荷は高
くなる.また,経路選択が変わる場合があり,異なる
経路状況が適用される.
本論で提案する方法は,環境および手法に関する網
羅的なモデル化が可能である.個別に環境モデルや,
ドライバモデルを構築し,組み合わせることでドライ
バの制御可能性の程度を知ることができる.また,そ
れぞれのモデルは,自動車に搭載するものであれば,
再利用することが可能である.
また,SSM は,制御可能性だけではなく,危害の発
現確率を計算するときにも使用することができる.
4.4 制御可能性の計算方法 先に環境のモデル化で作成した SSM でのシナリオと
ドライバ情報から,負荷(運転要求量:TD,Task Demand)
とドライバ能力(DC, Driver Competence)が定まる.負
荷が能力以内であれば,ドライバは,対処できる
(DC-TD>0)逆の場合は,対処できなくなり,危害を
SSM の目的は,経路状況に関する網羅性にある.対象
する地域における道路種・視程度等の割合を設定する
ことによって,ある時点の道路状況に遭遇する確率を
(例えば,それらの幾何平均として)求めることがで
きる.
6.まとめ
受ける可能性が高くなる.
計算に当たっては,次の方法を用いる.いま,ドラ
イバモデルにおいて,考慮すべき項目(例えば身体的・
心理的なドライバ状態)に n 個の項目があるとする.
∑
=
∑
n
dstate
i=1
n
本論で示す方法により前章に示す効果を上げること
ができる.制御可能性という概念は,自動車特に ISO
26262 の規格特有の概念であるが,今後多くのユーザカ
テゴリを考慮する必要があるシステムでは,同様に利
wi I i
用可能と考える.なお,先の計算では,区分値の代表
w
i=1 i
値は,任意で与えている.今後プローブ交通情報等を
項目の加重平均をとることによって,ドライバ状態
の値とすることができる.平均1に正規化した値を持
ち,分散によって区分した値を用いる.多くの項目は,
そのまま数値化することができないためである.環境
モデルにおいても,同様に項目(道路種,視程度,混
雑度等)により加重平均をとる.これらから計算した,
DC, TD を用いて制御可能性を判定する.例えば,いま
ドライバ能力が(状態:1.2,技量:1.1)から 1.1 と計
算でき,環境が(道路:0.8,混雑状況:0.8 等)から
用いた適切な値の計算が課題である.
文 献
1.
Elvik, R., et al., The handbook of road safety
measures. 2009: Emerald Group Publishing.
2.
Cacciabue, P.C., Modelling Driver Behaviour in
Automotive Environments: Critical Issues in Driver
Interactions with Intelligent Transport Systems.
2007: Springer-Verlag New York, Inc.
【略語】ADAS: Advanced Driving Assist System,
ドライバ・環境を含む概念図
0.94 と計算できるとき,当該状況に対して,制御可能
SSM: Scenario-Situation Matrix
DESH-G: Driver, Environment, Software, Hardware and Goal
と見なすことができる
環境
E
制御と
制御対象
S
H
経路状況(道路・混雑
状況・天候等)
ゴール
ゴール
シナリオ
事前条件
アクティビティ
アクティビティ
アクション
アクション
TASK_A
TASK_A
ACTV A
ACTV_1
ドライバ技量
TASK_B
TASK_B
ドライバ状態
ドライバ
D
G
オペレーション
オペレーション
OP_A1
OP_A1
OP_A2
OP_A2
OP_A3
OP_A3
OP_B1
OP_B1
OP_B2
OP_B2
OP_B3
OP_B3
OP_B4
OP_B4
図1.%ドライバ・環境を含むDESH3Gモデル
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1/21/2015
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