台湾における「クリエイティブライフ産業」の魅力因子に関する研究

台湾における「クリエイティブライフ産業」の魅力因子に関する研究
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范 以欣 1) 高 清漢 2) 范 成浩 3)
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Abstract:Creative-Life elements increase attraction of traditional
industries,c
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on.From 2002
year, Creative Life Industry project is proposed and promoted by
Taiwan government. The goal of this project is to aid factories
and stores to upgrade traditional industrial operation model. To
echo Dr. Schmitt has been proposed the concept of Experience
Marketing Theory, the Creative Life Industry has to follow three
core conditions which include core knowledge, depth of
experience and aesthetic quality. This research investigated the
important Creative Life Industry "The One Nan Yuan" of Taiwan,
to extract the attractive factors from an EGM survey with 10
highly involved Taiwanese consumers.
Key Word:「The One Nan Yuan」、Experience Marketing、The Evaluation Grid Method (EGM)。
1.はじめに
伝統産業の再起を目的に、2
0
0
5年に台湾政府は「挑戦 2
0
08
:
スの利用プロセスにおける満足という観点が強調されるよう
になった。
国家発展重点計画」を発表した。I
T技術に加え、さらに競争
本研究では、時代の流れに応じて成り立つ「クリエイティ
力が強い産業の発展を目的に、各業界における新たな「クリ
ブライフ産業」について、台湾政府に表彰されたその代表事
エイティブライフ産業」の開発計画を打ち出し、既存のベー
例である「T
HEO
N
E南園」を研究対象として調査を行い、評価
スとなる産業に、クリエイティブおよび科学技術、芸術など
グリッド法により調査を行って、人間の感覚や情緒など明確
の概念を導入することにより、整合性の発展と高付加価値が
化が難しい価値要素を含む総合的な顧客満足を追求するとい
生まれ、国民生活のクオリティが上昇することを目的とした
う点において、明らかにしたいと思う。
新しいコンセプトである。
2. 文献調査
「クリエイティブライフ産業」になるため、業者は「核心
知識」、
「深刻体験」、
「高質美感」三つの要素を揃える必要が
ある。つまり、事業中心における元々の専門知識や技術を生
かし、創意の手法に加え、顧客が商品・サービスを購入や利
用する際の体験を意識的にデザインすることで、総合的な顧
客価値を提供する。
この計画の考え方はコロンビア・ビジネススクールのバー
ンド・H
・シュミット教授が提唱していた「経験価値マーケテ
ィング」と一致する。2
0世紀の社会においては重厚長大型の
産業が基幹産業となり、社会の中核にあったが、2
1世紀はそ
うした産業ではなく、ソフト産業あるいは創造的産業と呼ば
れるような産業が基幹的な産業になっていくといわれている。
コンテンツ産業なども含めてそうした産業の生み出している
のは固有の「世界観」であり、「物語」である。消費者は「作
品」に内在する「世界観」や「物語」を楽しみ、あるいはそ
の背後にある「美学」に共感しお金を払うことになる。
かつては顧客が求めるものは、ニーズを充足するための商
品の機能であり、それらがもたらす便益(ベネフィット)で
ある、という考えが主流であった。したがって、マーケティ
ング活動も顧客が何を必要としているかを把握し、それをど
のように満たすか、という点にフォーカスが置かれていた。
しかし、実際の顧客の価値判断や購買意思決定は、ニーズを
充足できればよいという単純なものではなく、感覚、情緒な
ど様々な要因に左右される部分が大きいと考えられるように
なった。
その結果、商品の外観のデザインや高級感の演出などにも、
大きな注意が払われるようになってきた。またサービスビジ
ネスでは、ニーズが充足できたという結果価値だけでなく、
経過価値(プロセスの価値)も重要である、とされ、サービ
2.1「T
HEON
E南園」
台湾新竹に所在する「T
HEO
N
E南園」は元々「聯合ニューズ」
という新聞会社の私有招待所であった。構内は江南庭園であ
る中国伝統的な建築形式を真似して、当地の建材や技術を活
かして建てられたものである。近年には不況のため、
「T
H
EO
NE
」
というデザイン会社に経営権を渡し、観光レジャーとなって
きた。「T
H
EO
NE南園」の経営者はゲストに江南庭園の美景を
見させるだけではなく、オリエンタル文化をアレンジし、感
動できるようなレジャーをデザインして、人々に心癒す場所
を提供したいという信念で、普通の民衆にも開放している。
20
09年、台湾政府に「クリエイティブライフ産業」の代表業
者として表彰された。
2.2 経験価値マーケティング
経験価値マーケティングとは従来のマーケティングの基本
的な考え方である 4
P
(P
ro
d
uc
t
、Pr
ic
e
、P
l
ac
e
、P
ro
m
ot
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nと
いった価格や性能、そのアピール方法といった合理的な視点
ではなく、S
EN
SE
(感覚的価値)、F
E
EL
(情緒的価値)、T
HI
NK
(創造的・認知的価値)、A
CT
(肉体行動、ライフスタイルに
関わる価値)、R
E
LA
T
E
(準拠集団への帰属価値)という 5つ
の経験領域から、消費者の感情に焦点を置いた考え方と言え
る。
経験価値提供型のマーケティングは、いわゆる20世紀の
工業社会型のマーケティングとは異なる特徴を持っている。
(表1)経験価値と呼ばれる価値は、工業社会的なマーケテ
ィングが志向してきた機能的・利便的な価値に対して、情緒
的、精神的な価値であり、社会や文化の中に暗黙的なカタチ
で埋め込まれている。そのために企業の技術シーズや消費者
の意識されたニーズのような形では捉えられない。言い換え
るなら、価値が生まれる源泉が川上(企業)や川下(消費者)
調査結果による、顧客にとって「T
H
EON
E南園」が魅力が
ではなく、社会や文化という「流域」にあるということであ
ある業者に成り立つのは:自然環境、建築空間、スタッフ、
る。したがって、経験価値のマーケティングの実践とはそう
商品意匠さらにブランドなど五つの要因が顧客を感動させる
した社会や文化から生まれた種を育て、豊かな流域を形成し
ことを明らかにした。(図2)
て行くことに他ならない。
工業社会型のマーケティングの多くにおいては、厳しい市
場の競争環境の中で自社が競争優位を取り、自社(ブランド)
のシェアを拡大して行くという目標が組織員によって共有さ
Abstract
Images
Concrete
Items
蟲と鳥の鳴る声
快適閑静
れる。その結果として、軍隊のような縦型のピラミッド組織
空気清新
唯一無二
心地よい
が志向されて行く。効率を志向するなら軍隊のような無駄の
雲、晴れ、雨、霧
自然環境
山林風景
転化早い
ない組織は理想的であるが、それは目標が決まっていて、あ
とはどうやって「全社一丸体制」を作るかということが問題
Original
Reason
どくとく
風水説
素朴
江南庭園
オリエンタルカラー
になる。
建築空間
中国伝統式建築
クラシック
工芸装飾
落ちづく
文化体験施設
一方、経験価値のマーケティングでは基本的な便益が満た
サービスよい
親切熱心
されている中で、感動、心地よさ、そこでしか味わえない独
特の雰囲気など、より「気分的な価値」による購買意思決定を
行う傾向が強まってきたともいえる。近代の消費市場には、
フ産業」が成り立たれた。
工芸品
商品意匠
ヘルシー
生活用品
自然爛漫
風味料理
宿泊備品
経験価値マーケティング
ブランド弁別システム
ブランド
LAHO
S
感動感性
ホームページ
知性学習
DM。バンフレット
情緒的・精神的価値
機能・利便の価値
ガイド解説
(経験価値・変革価値)
川上型(企業発想)
工芸DIY
五感体験
川下型(消費者発想)
流域型(社会・文化発想)
形式知・客観的事実
暗黙知・主観的真実.
(再現性や法則)
(感動の共感的理解)
競争優位・シェア拡大
美学の追求
依拠するもの
目標
オリジナル商品
心癒し
工業社会マーケティング
価値の源泉
駐園芸術家
精緻な
工業社会と経験価値マーケティングの比較
提供する価値
接客、対応
ユニーク
芸術的な
こういうニーズが多くなってくるため、
「クリエイティブライ
表1
スタッフ
専業
武井寿・岡本慶一共編『現代マーケティング論』(実教出版 2
00
6年)参照
3. 研究方法
図2「THEONE南園」の EGM図
2.経験価値マーケティング
経験価値の論述により、「T
H
EO
NE南園」における経験価値
本研究では、評価グリッド法により十名高関与者を調査し、
の構成内容は、表2のようにまとめた。
「TH
EO
NE
南園」は「クリエイティブライフ」の代表業者とさ
表 2 「T
HEON
E南園」の経験価値タイプ
れる魅力を明らかにしたいと思う。評価グリッド法とは、人
経験価値
間が何を知覚して、どのような評価を下しているのかという
のタイプ
経験価値の構成内容
TH
EO
NE南園の構成内容
認知構造を同定する方法である。手続きとしては、いくつか
視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚
オリエンタル、クラシック、芸
の評価対象を提示し、その対象に対する好ましさを被験者が
を通じて生み出す感覚的経験
術性、精緻、ヘルシー、自然な
価値
ど感覚価値を含む自然環境や
SENSE
まず判定する。好ましさのランクの異なる対象同士について、
商品意匠の魅力
その理由を実験者が被験者に対しラダーリングしてゆくこと
顧客の内面にあるフィーリン
快適、閑静、心地よい、落ち着
で全体的認知構造を効率的に引き出させる。(図1)
グに訴求する感情的経験価値
く、親切熱心、心癒しなど感情
FEEL
価値を含む自然環境、スタッ
フ、建築空間の魅力
Step1: Elicitation of Original Evaluative Constructs
Comparison elements (OEI)
THINK
顧客の想像力を引き出し、顧客
唯一無二、転換早い、独特、素
の知性に訴求する認知的経験
朴、ユニーク、感動感性など知
価値
性価値を含む商品意匠、ブラン
Step2: Laddering
ドの魅力
To lead constructs of
higher level (REI)
Abstract
images
To lead constructs of
lower level (REI)
Original
reason
Concrete
items
Output: Individual Model
図1 Th
eEva
lu
at
ionG
ridM
eth
o
d(
EGM
).
4. 研究結果
1.EGM 図
ACT
肉体的経験価値とライフスタ
LOHAS、知性学習などの行動価
イル全般に働きかける行動的
値を含む商品意匠の魅力
経験価値
RELATE
準拠集団や文化と関連つけに
専業、オリエンタルなど関連価
働きかける関連的経験価値
値を含むスタッフやブランド
の魅力