2015 年山陰の経済展望 ㈱山陰経済経営研究所 【 2015 年 山陰の経済展望 】 ○ 消費税増税の影響が和らぐなかで持ち直しの基調が徐々に鮮明になる山陰経済 2014 年の山陰経済は、消費税増税の影響をうけながらも緩やかに持ち直してきたものの、方向感が 定まらない状況が続いた。家計部門をみると、駆け込み需要の反動が大きく出た格好となっており、4 月以降は新設住宅着工戸数の前年割れが続き、個人消費についても耐久消費財の売れ行きが冴えない など、全体として停滞気味に推移した。 もっとも、増税に伴う需要減退は当初から予想されていたことであり、公共投資の増加や政策効果 によって駆け込み需要の反動減を緩和できるものとみられていた。ところが、増税及び物価上昇分に 見合った賃金水準の上昇がみられなかったことや天候不順により客足が伸び悩んだことなどを背景に 反動減が長引く結果となった。企業部門においても、在庫圧縮のために一部の製造業が生産調整を迫 られたり、反動による収益悪化が見込まれるサービス業などで設備投資を抑制するなどの対応を生じ させることとなった。 続く 2015 年については、増税による影響が一巡し、これまでの持ち直しの基調が徐々に鮮明になる ものとみられる。家計部門では、雇用の緩やかな持ち直しや賃金引き上げの動きなどをうけて、個人 消費を中心に回復に向うものとみられる。企業部門においても、海外市場向け製品が好調な電子部品・ デバイスなどの製造業で引き続き高水準の生産が見込まれるうえ、所得環境の改善を背景に小売・サ ービス業などで収益悪化に歯止めがかかるのではないかと考えられる。ただ、円安に伴う輸入原材料 コストの負担増などにより業績回復のペースは緩慢になるとみられるため、設備投資は業種の広がり を欠いた形で増加するものと考えられる。 主要項目別に見ると、次のような動きを予想する。 ①個人消費・・全体では緩やかに上向く 2014 年の大型店(百貨店+スーパー)売 図表 1 いるものの、消費税増税後の節約志向の強 まりや天候不順等により、前年比減少とな 0.0 ▲ 0.8 島根県 ▲ 0.7 ▲ 3.8 ▲ 2.4 ▲ 0.4 ▲ 0.6 ▲ 0.7 ▲ 0.1 ▲ 0.8 ▲ 3.9 ▲ 10.0 (%) 2008 09 10 11 要の反動が長引いたことや天候不順等によ 図表 2 35.0 20.0 8.6 ▲ 10.0 は、消費税増税前の駆け込み需要の反動減 ▲ 25.0 は残っているものの、新型車効果や堅調な ▲ 40.0 (%) となっている。(図表 3)。 1 3.3 12 島根県 14年1∼11 月 ▲ 1.3 1.0 中国5県 14.5 0.2 14.2 ▲ 2.4 ▲ 14.8 ▲ 15.7 2008 13 家電量販店販売額前年比 鳥取県 5.0 2)。乗用車新車販売台数(年累計 1-11 月) 軽自動車販売が下支えになり、前年比増加 ▲ 1.0 ▲ 5.6 の、4 月以降、消費税増税前の駆け込み需 両県合計で前年比減少となっている(図表 0.4 ▲ 1.3 資料:経済産業省、当社調べ り、白物家電を中心に不冴えとなり、山陰 全国 ▲ 3.3 ▲ 5.0 っている(図表 1)。家電販売額(年累計 1-10 月)は、1-3 月に駆け込み需要があったもの 鳥取県 5.0 上(年累計 1-11 月)は、緩やかに持ち直して 大型小売店売上高前年比(百貨店+スーパー) 09 10 資料:中国経済産業局 11 ▲ 15.6 ▲ 16.6 12 ▲ 2.6 13 ▲ 3.5 14年1∼10 月 2015 年については、大型店売上は、賃金の 図表 3 乗用車新車販売台数前年比 ベースアップやボーナス増を通じて実質所得 が改善することで節約志向が和らぎ、緩やか 35.0 に上向いていくものと期待される。家電販売 20.0 は、期初は前年の駆け込み需要のピーク期に 5.0 対応する為、前年水準を上回るのは難しいも ▲ 10.0 のの、消費者の省エネ家電やAV関連の新製 ▲ 25.0 品などへの関心は高く、緩やかなテンポで持 ▲ 40.0 鳥取県 全国 29.7 8.3 ▲ 0.5 ▲ 2.0 25.3 ▲ 13.4 3.9 ▲ 6.9 ▲ 4.8 2008 (%) ち直していくことが見込まれる。自動車販売 島根県 は、期初は新型車効果や軽自動車税の引き上 0.5 4.5 0.3 3.9 13 14年1∼11 月 ▲ 13.5 09 10 11 12 資料:中国運輸局鳥取運輸支局、同島根運輸支局、 日本自動車販売連合会、全国軽自動車協会連合会 げに伴う駆け込み需要が期待されるものの、 消費税増税前の駆け込み需要を含め、近年の 販売水準が高かったことなどを考えると、通 年では弱めの動きとなることが見込まれる。 ②住宅投資・・駆け込み需要の反動一巡後もしばらくは低水準で推移 2014 年の新設住宅着工戸数の 図表 4 状況(年累計 1∼10 月)をみると、 持家で消費税増税前の駆け込み需 要の反動がみられ、前年を大きく 新設住宅着工戸数(山陰両県) 住宅着工戸数(左軸) (戸) 12,000 13.7 3,000 全体(貸家等を含む)でも前年比 0 5,300 3,711 6.6%減少(年累計 1∼10 月)とな 3,740 4,254 10年1∼10月 11年1∼10月 ▲ 3.9 4,090 4,624 ▲ 6.6 4,318 ▲ 30.0 2008年1∼10月 20.0 0.0 ▲ 7.3 下回った(同、前年比 15.8%減) 。 (%) 13.1 0.8 9,000 6,000 前年比(右軸) 09年1∼10月 ▲ 20.0 ▲ 40.0 12年1∼10月 13年1∼10月 14年1∼10月 資料:国土交通省 っている(図表 4) 。このような持家を中心とする駆け込み需要の反動減は、家電など付帯する耐久消 費財の需要減にも波及するなど、足元の個人消費の落ち込みにも影響を及ぼしている。 2015 年は、前年対比では駆け込み需要の反動による影響が一巡するものの、人口・世帯数の減少基 調、また、消費税率 10%への引き上げが 1 年半延期となり、再度の駆け込み需要も先送りと考えられ ることから、しばらくは持家を中心に低水準での推移が見込まれる。 ③公共投資・・経済対策等により堅調に推移 2014 年度の公共工事請負額(年 図表 5 度累計 4-11 月)をみると、山陰道 公共工事請負額(山陰両県、カバリッヂ約 70%) 公共工事請負額(左軸) (億円) 関連をはじめ、災害復旧や耐震補 強、防災関連工事を主体に前年比 4,000 ▲ 0.5 4.9%増加となっている(図表 5)。 2,000 1,737 1,982 2008年4∼11月 09年4∼11月 2014 年度前半は補正予算等によ り増勢となったが、予算執行の前 20.0 14.1 6,000 (%) 前年比(右軸) 9.6 3.4 10.3 4.9 0.0 ▲ 23.9 2,050 1,560 1,710 1,886 1,979 12年4∼11月 13年4∼11月 14年4∼11月 0 ▲ 20.0 ▲ 40.0 10年4∼11月 11年4∼11月 資料:西日本建設業保証㈱ 倒し、人手不足や資材価格の高騰などを背景に後半は徐々に勢いを落とし、年度累計では緩やかな伸 びにとどまっている。前年発生した島根県西部豪雨災害に対する復旧工事も本格化したものの、人手 不足による入札不調などがみられた。 2015 年度は、政府の新たな経済対策等により堅調な推移が見込まれるものの、供給制約等の影響で 下振れする可能性もある。 2 ④設備投資・・2014 年度はプラスの計画 当社が 2014 年 9 月に実施した「山陰地方企業動向調査(2014 年度計画) 」では、製造業全体で前年 度比 31.0%の増加( 「鉄鋼・金属」、 「木材・木製品」、「繊維品」などの増加)となり、同 11.3%の減 少見通しの非製造業と合わせると、全体では同 13.7%の増加となる見込みである。 来年度(2015 年度)の企業の設備投資計画(2014 年 8 月 日本政策投資銀行「山陰地方設備投資動 向調査」 )をみると、2013 年度、2014 年度と高い伸びが続いた反動もあり、製造業が前年度比 11.7% の減少、駆け込み需要の反動が長引いている非製造業でも同 34.5%(除く電力)の減少となり、全体 では同 13.8%(同)の減少計画となっている。 ⑤生産活動・・緩やかな持ち直しが続く 図表 6 鉱工業生産指数(2010 年=100、14 年 10 月は季節調 整値) 足元、鉱工業生産指数は、鳥取県は 95.3、 島根県は 111.8 となっている。駆け込み需 要への対応で 2013 年後半から高水準の生 産が続いていたが、4 月以降は反動減が長 鳥取県 120.0 110.7 110.0 105.7 100.0 102.2 101.6 86.5 97.8 108.8 111.8 97.0 98.4 95.3 97.2 100.0 90.2 93.2 79.4 80.8 70.0 て生産活動の繁閑に差が表れており、鳥取 全国 102.7 引いたことなどから在庫調整圧力が高まり、 90.0 89.0 80.0 一進一退の動きが続いた。 2008 海外需要が堅調な品目の有無などによっ 島根県 09 10 11 12 13 14年10月 資料:経済産業省、鳥取県統計課、島根県統計課 県に比べて海外市場向け製品を手がける事業所が多い島根県は、電子部品・デバイスや輸送機械など を中心に緩やかな持ち直しの動きが続いた。2015 年については、日銀の量的・質的緩和の継続などを 背景に円安基調が続くとみられるなかで、北米を中心とした海外需要や堅調な設備投資需要などを背 景に緩やかな持ち直し傾向が続くものと考えられる。 ⑥雇 用・・一進一退ながら緩やかな持ち直しの動きが続く 足元、有効求人倍率が鳥取県は 0.92 倍、島 根県は 1.16 倍と、リーマン・ショック以降、両 県ともに持ち直し基調が続いている。 2015 年の新規学卒者 (2015 年 3 月卒業予定者) の求人者数は増加しており、両県ともに就職内 定率は前年を上回り、改善傾向となっている。 2015 年については、引き続き緩やかな持ち直 図表 7 1.20 有効求人倍率(14 年 10 月は季節調整値) (倍) 鳥取県 1.00 0.40 0.61 0.70 全国 1.05 0.95 0.85 0.80 0.60 島根県 0.92 0.68 0.85 0.70 0.60 0.47 2009 10 11 12 13年 資料:鳥取・島根労働局、厚生労働省 しの動きが続くと考えられ、高齢化の進展を背 景に医療・福祉関連をはじめ、建設業、運輸業など人手不足の業種の求人を中心として堅調な推移が 見込まれる。また、正社員の有効求人倍率は両県ともに改善しつつあるが、業種・職種毎で求人・求 職者数に偏りがみられるなど、雇用のミスマッチは今後も続くと考えられる。 ※図表データ(①∼⑥)は 2014 年 12 月 20 日時点での統計数値、公表情報等を基に作成しています。 ※なお、業種別の業況見通しについては、後掲の「2015 年上期(1 月∼6 月)山陰地方業種別天気図」を ご参照ください。 3 1.16 1.10 14年10月 【 2015 年の注目点 】 以上みてきたように、国内および山陰地方ともに経済環境は、足元、基調としては持ち直しの動き が続いている。当面、消費税率再引き上げ延期による消費持ち直しや、2014 年度補正予算による経済 対策の実施による景気下支え効果が期待される。こうしたなかで、2015 年の注目点を挙げておきたい。 ①地域の特性、独自性を活かした地方創生の取り組みを 山陰両県は、急速に人口減少が進行しており、現政権が「地方創生」を重点施策に掲げるなかで、 地域を支える人材の確保が急がれる。既に、コミュニティーの存続が危ぶまれる地域も珍しくなく、 対策は喫緊の課題である。地域経済再生の核となる若者・女性、さらには高齢者など多様な人材につ いて、従来にも増して人づくりや労働力確保を地道に推進していくことが必要である。また、大都市 から地方へ人の流れをつくりだす上で欠かせないのが、雇用の場の創出である。 例えば、山陰両県においても、地域資源を活かした雇用創出への取り組み(鳥取県伯耆町:大山地 ビール、倉吉市:ご当地リーキュル、智頭町:麻栽培、島根県海士町:海産物の販路拡大、肉牛のブ ランド化、飯南町:A級グルメ事業等)などが進められており、大規模雇用を生み出すには至ってい ないものの、地域の特性、独自性を活かした雇用創出の取り組みが進められている。山陰両県は、農 林水産業を主体とする地域であり、これら取り組み事例に着目しつつ、画一対応ではない地域の実情 に応じた官民一体となった取り組みが期待される。 ②TPP交渉の行方を注視 政府は、環太平洋経済連携協定(以下TPP)の交渉妥結にむけて関係国との事前協議を進めている。 TPPは、農林水産分野はもとより、国民生活の様々な分野に影響を与えることが想定されることか ら、これまでの交渉参加国との協議で明らかになった内容などについて、引き続き、適宜、必要な情 報の提供と明確な説明が求められる。 山陰両県は、産業構造、就業者数に占める一次産業の割合が全国に比べて高く、交渉妥結した場合 の影響は小さくないものと考えられる。後継人材の育成、法人化、品質の向上等を通じ、競争力強化 や生産性向上に着実に取り組むとともに、海外を視野にいれた食のマーケット開拓等も課題となる。 また、過疎化・高齢化が進行している中山間地域においては、環境や多面的機能(安全で良質な食料 の安定供給、国土や環境の保全、文化の伝承など)維持などの観点から一定の所得補償や、規制改革 等の政府による後押しが求められるなど、交渉の行方が注目される。 一方、製造業を中心とする中小企業にとっては、アジア諸国との交易が行いやすくなるなど、メリ ットも指摘されるところであり、海外への進出や海外企業との連携など、環境変化に対応した動きな ども注目される。 ③介護人材確保に向けた対策強化を 政府の推計(2012 年)によれば、団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年には介護サービスの需要の 増加によって、現状から約 100 万人の介護人材が必要とされており、介護人材の確保は喫緊の課題で ある。 一方、山陰両県においても、介護分野は他の産業と比べ、賃金水準があまり高くない、離職率が高 い等の構造的課題を抱え、人材の確保は難航している。介護人材の確保については、介護報酬改定を 通じた給与の改善等により労働環境の改善に努めるとともに、将来を見据えて計画的な人材育成が重 要である。地域で育てた人材が地域に定着し、継続的に雇用されること(地産地消型)で介護ノウハ ウが蓄積され、地域の実情にあった工夫が活かされる。既に、全国でも有数の超高齢地域であり、労 働力人口が減少する山陰においては、官民が連携しながら課題解決に取り組むことが一層重要となる。 以 4 上 2015年上期(1月∼6月) 山陰地方業種別天気図 製造業 業 種 鉄 鋼 方 向 予想天気 概 況 特殊鋼生産は、情報通信機器向けや自動車向けの需要が安定し、横 ばい圏内での動きが続くものと見込まれる。工作機械用鋳物は、企業 設備投資が一巡するなかで徐々に増勢が鈍化すると考えられる。 一般機械 国内外の企業設備投資が一巡することなどをうけて、徐々に増勢が 鈍化するものと見込まれる。海外経済の減速により受注が伸び悩むよ うであれば、下押し圧力が強まることも考えられる。 電子部品・ デバイス 情報通信機器向けや自動車向けを中心に受注が堅調に推移し、緩や かな増加基調が続くものと予想される。ただし、海外経済の減速や同 業他社との競合激化に伴って下振れする可能性もある。 自動車部品 消費税増税後の低調な自動車販売を背景に国内向けは伸び悩むもの の、海外市場向けが堅調に推移するとみられることから、横ばい圏内 での動きが続くものと見込まれる。 窯業・土石 生コンおよびコンクリート二次製品は、経済対策による公共投資の 増加などをうけて持ち直すものと予想される。石州瓦は弱さが残る住 宅建設などを背景に横ばい圏内での動きが続くものと見込まれる。 紙・パルプ 洋紙については、国内出荷が伸び悩むものの、円安を背景とした輸 出の増加が下支えとなり、堅調に推移するものと見込まれる。 維 被服製品は、海外製品との価格競争が続く一方、国内においても業 界内での厳しい競争にさらされており、生産量も漸減傾向にある。当 面は現在の水準で推移するものと予想される。 食料品 家計の節約志向の影響をうけながらも堅調に推移するものと予想さ れる。観光土産品については、出雲大社の遷宮効果による上振れの反 動が一巡し、遷宮前の水準で安定するものと見込まれる。 木材・木製品 外材から国産材への回帰の傾向がみられるものの、弱さが残る住宅 建設を背景に木材需要が低迷しており、在庫も高水準で推移するとみ られることから、増勢を取り戻すのは下期以降になると予想される。 繊 非製造業 百貨店・ スーパー 家計の節約志向が続くなか、客足の増加や客単価の上昇は緩やかに とどまるものの、所得環境の改善の動きなどから、基調としては緩や かに上向いていくものと見込まれる。 自動車販売 税制の変更(軽自動車税の増税等)に伴う駆け込み需要や新型車の 投入効果などにより、期前半はやや持ち直すとみられるが、期後半は 前半の反動などにより弱含みで推移すると見込まれる。 家電販売 主力の白物家電で消費税増税などの影響が残る一方、省エネ家電や AV関連の新製品などへの引き合いが徐々に増えており、全体として 期後半にかけて持ち直しの動きが出てくるものと見込まれる。 建 設 公共工事については、経済対策による工事の追加発注なども期待さ れることから堅調に推移すると見込まれる。一方、民間工事について は、弱さが残る住宅建設などを背景に低水準で推移するとみられる。 観 光 集客が見込める大規模なイベントなどもなく、出雲大社の遷宮効果 も薄れつつあるため、島根県東部を中心に入込客数は遷宮前の水準へ 徐々に戻っていくものと見込まれる。 ※天気マークの定義 明るい 一部に明るさ 停滞 不 振 厳しい 5
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