松尾 英典 - 名古屋大学

論文審査の結果の要旨および担当 者
報告番号 ※
第
氏
論
名
文
題
号
松 尾
英 典
目
Development of highly immunogenic vaccine by using dendritic
cell-targeting bio-nanocapsule
( 樹 状 細 胞 標 的 化 バ イ オ ナ ノ カ プ セ ル を 用 い
た 高 免 疫 原 性 ワ ク チ ン の 創 製 )
論 文 審 査 担 当 者
主 査
名古屋大学教授
黒 田
俊 一
委 員
名古屋大学教授
中 野
秀 雄
委 員
名古屋大学教授
松 田
幹
委 員
名古屋大学准教授
委 員
名古屋大学准教授
アンドレス・マツラナ
柴 田
秀 樹
別紙1−2
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
病原体の構成成分の一部を遺伝子工学により大量生産させて抗原としたサブユニッ
トワクチンの使用が拡大している。しかし、病原体の断片化による低免疫原性化が頻
発 す る た め 、 抗 原 を 取 り 込 ん で ナ イ ー ブ T 細 胞 に 提 示 す る 樹 状 細 胞 ( DC) の 成 熟 化 を
促 し 、自 然 免 疫 を 惹 起 す る ア ジ ュ バ ン ト( 免 疫 賦 活 剤 )と の 併 用 が 必 須 と な っ て い る 。
しかし、多くのアジュバントは作用機序が明らかでなく、宿主に過剰な免疫応答を惹
起する危険性も懸念されている。そこで、アジュバントを使用せずに自然免疫と獲得
免 疫 を 同 時 に 効 率 よ く 誘 導 す る た め に 、DC の 抗 原 提 示 を 促 す「 DC 標 的 化 能 」と 安 全 に
自 然 免 疫 を 惹 起 す る「 DC 成 熟 化 能 」を 併 せ 持 つ ナ ノ キ ャ リ ア の 開 発 が 期 待 さ れ て い る 。
1 . DC 標 的 化 ナ ノ キ ャ リ ア の 開 発
生 体 内 ピ ン ポ イ ン ト 薬 剤 送 達 用 ナ ノ キ ャ リ ア・ バ イ オ ナ ノ カ プ セ ル( BNC)は 、B 型
肝 炎 ウ イ ル ス( HBV)表 面 抗 原 L タ ン パ ク 質 を 出 芽 酵 母 で 過 剰 発 現 さ せ て 得 た 平 均 直 径
約 50 nm の 中 空 ナ ノ 粒 子 で あ る 。 こ れ ま で に BNC 外 周 に 存 在 す る ヒ ト 肝 臓 特 異 的 セ ン
サ ー を Protein A 由 来 イ ム ノ グ ロ ブ リ ン G ( IgG) Fc 結 合 ド メ イ ン 2 量 体 ( ZZ タ グ )
と 置 換 し て 、 提 示 抗 体 の 特 異 性 依 存 的 に 薬 剤 送 達 で き る ZZ タ グ 提 示 型 BNC( ZZ-BNC)
が 開 発 さ れ て き た 。 松 尾 英 典 は 、 種 々 の DC 特 異 的 抗 原 に 対 す る 抗 体 を ZZ-BNC 表 層 に
提 示 さ せ 、 マ ウ ス 脾 臓 由 来 DC へ の in vitro 接 着 能 を 検 討 し 、 in vivo で マ ウ ス 脾 臓
内 DC の 約 62% に ZZ-BNC を 送 達 で き る 抗 CD11c-IgG( clone N418) を 得 た 。 こ れ は 既
報 ナ ノ キ ャ リ ア と 比 べ て 極 め て 高 い DC 標 的 化 能 で あ っ た 。ま た 、本 抗 CD11c-IgG 提 示
ZZ-BNC を マ ウ ス 皮 下 及 び 筋 肉 内 に 投 与 し た と こ ろ 、 所 属 リ ン パ 節 内 DC に 高 度 に 取 り
込 ま れ た 。 さ ら に 、 カ チ オ ン 性 リ ポ ソ ー ム に 日 本 脳 炎 ウ イ ル ス ( JEV) 由 来 D3 抗 原 を
封 入 し て 、本 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC と 複 合 体 化 し 、マ ウ ス 尾 静 脈 内 に 投 与 し た と こ
ろ 、 他 の 対 照 ワ ク チ ン と 比 較 し て 効 率 的 な D3 特 異 的 抗 体 が 産 生 さ れ た こ と か ら 、 抗
CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC は DC 標 的 化 ナ ノ キ ャ リ ア と し て 有 望 で あ る こ と が 示 さ れ た 。
2 . 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC の DC 成 熟 化 能
モ デ ル 抗 原 オ ボ ア ル ブ ミ ン ( OVA) を 化 学 修 飾 し た 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC 複 合 体
を 、 マ ウ ス 脾 臓 由 来 DC に in vitro で 作 用 さ せ 、 DC 活 性 化 マ ー カ ー で あ る T 細 胞 副 刺
激 因 子( CD80/CD86)お よ び 腫 瘍 壊 死 因 子 受 容 体( CD40)の 発 現 を フ ロ ー サ イ ト メ ー タ
ーで解析したところ、対照分子群は活性化マーカーに影響を与えなかったが、同複合
体 が 活 性 化 マ ー カ ー の 発 現 を 最 も 誘 導 し た 。こ れ は 、ZZ-BNC の 有 す る マ ン ノ ー ス 型 糖
鎖 、 Z ド メ イ ン 、 抗 CD11c-IgG が 、 DC 表 層 の パ タ ー ン 認 識 受 容 体 、 Ig 様 受 容 体 、
CD11c/CD18( 補 体 レ セ プ タ ー 4 型 ) と そ れ ぞ れ 相 互 作 用 し た 結 果 と 考 え ら れ 、 同 複 合
体が自然免疫活性化能(アジュバント活性)を有することを示していた。
3 . OVA 表 層 提 示 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC の 獲 得 免 疫 誘 導 能
OVA を 化 学 修 飾 し た 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC 複 合 体 を マ ウ ス に 皮 下 投 与 し て 、脾 臓
細 胞 内 の OVA 特 異 的 な 細 胞 傷 害 性 T 細 胞( CTL)の 誘 導 を フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー で 、OVA
特 異 的 な ヘ ル パ ー T 細 胞( Th 細 胞 )に よ る 液 性 免 疫 を サ イ ト カ イ ン ELISA で 評 価 し た 。
そ の 結 果 、 同 複 合 体 投 与 群 の OVA 特 異 的 CTL の 割 合 及 び Th1 細 胞 に よ る OVA 応 答 性
IFN-分 泌 量 は 、対 照 分 子 群 よ り も 高 か っ た こ と か ら 、同 複 合 体 は 細 胞 性 免 疫 及 び 液 性
免疫の誘導において有効であることが示された。次に、同複合体を皮下投与したマウ
ス の 血 清 に 含 ま れ る 抗 OVA-IgG1 価 と 抗 OVA-IgG2a 価 を ELISA に よ り 解 析 し た と こ ろ 、
い ず れ も 対 照 ワ ク チ ン よ り も 高 か っ た 。 IgG1 及 び IgG2a は 、 Th2 性 の IL-4 及 び Th1
性 の IFN-に よ り そ れ ぞ れ 誘 導 さ れ T 細 胞 性 免 疫 応 答 の 指 標 で あ る こ と か ら 、 同 複 合
体 は 抗 原 特 異 的 抗 体 産 生 、 Th1 性 免 疫 応 答 、 及 び Th2 性 免 疫 応 答 を 強 力 に 誘 導 す る こ
とが判明した。
4 . D3 表 層 提 示 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC に よ る 感 染 防 御 誘 導 能
前 述 の JEV 由 来 D3 抗 原 を 化 学 修 飾 し た 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC 複 合 体 を 調 製 し 、
マ ウ ス に 皮 下 投 与 し 、 血 清 中 の 抗 JEV-IgG 価 を ELISA に よ り 解 析 し た と こ ろ 、 同 複 合
体 だ け で な く 、 対 照 ワ ク チ ン 群 も 充 分 な 抗 JEV-IgG 価 を 示 し た 。 そ の 後 、 半 数 致 死 量
の 50 倍 量 の JEV を チ ャ レ ン ジ し た と こ ろ 、 同 複 合 体 投 与 群 は 80% の 個 体 が 生 存 し 、
D3 提 示 ZZ-BNC 複 合 体 は 50% 、D3 結 合 CD11c-IgG は 33% で あ っ た 。こ の 結 果 は 、同 複
合 体 が 、抗 JEV-IgG の 効 率 的 な 産 生 に 加 え 、DC 成 熟 化 及 び 各 種 T 細 胞 性 の 効 率 的 な 免
疫 応 答 を 対 照 ワ ク チ ン よ り も 強 力 に 誘 導 し 、 JEV 感 染 防 御 に 寄 与 し た と 考 え ら れ た 。
本 研 究 で 開 発 し た 抗 CD11c-IgG 提 示 ZZ-BNC 複 合 体 ( DC 標 的 化 BNC) は 、 ① ZZ-BNC
が 有 す る マ ン ノ ー ス 糖 鎖 、 ZZ ド メ イ ン 、 抗 CD11c-IgG に よ る 高 度 な DC 標 的 化 能 、 ②
BNC の 多 様 な 抗 原 搭 載 能 力 、 ③ BNC の HBV 由 来 の 細 胞 ( 質 ) 内 侵 入 能 、 ④ ZZ-BNC が 有
す る マ ン ノ ー ス 糖 鎖 、 ZZ ド メ イ ン 、 抗 CD11c-IgG に よ る DC 成 熟 化 能 、 を 併 せ 持 つ 高
度なワクチン用ナノキャリアであることが判明した。その結果、アジュバントを使用
す る こ と な く 、 DC に 対 し て 自 然 免 疫 を 効 率 的 に 惹 起 可 能 で 、 そ の 後 の 抗 原 特 異 的 CTL
お よ び Th 細 胞 の 分 化 誘 導 、抗 原 特 異 的 IgG の 産 生 に 代 表 さ れ る 獲 得 免 疫 も 効 率 的 に 誘
導 可 能 で あ っ た 。 ま た 、 JEV 感 染 防 御 に お い て 、 DC 標 的 化 BNC は 従 来 型 ワ ク チ ン よ り
も細胞性免疫誘導に効果的であったことから、今後は細胞性免疫誘導が重要なガン免
疫療法、液性免疫誘導だけでは治療が望めない各種感染性疾患などへの応用展開が期
待される。したがって、本審査委員会は、これらの研究業績は博士(農学)の学位を
授与するに充分価値あるものと認め、論文審査に合格と判定した。