印度學佛教學研究第40毬第2號'ZF成4年3月 Alambanaparikaに 寺 0. お け る原 子論 批 判 石 悦 章 唯 識 学 派 が 外界 の非 存 在 を論 証 す る方 法 は さ ま ざま で あ る が, そ の 中 の 重 要 な もの の1つ と して,「 外 界 を 構 成 す る原 子 が 存 在 し な い(も しくは認識 できな い等)」 とい うこ とを 導 くこ とに よ って, それ を論 証 す る方 法 が あ る。 こ の方 法 は い くつ か の論 書 に採 用 され て お り, デ ィ グナ ー ガのAlambanaparika(以 下 『観 所縁論』)も そ の よ うな論 書 の1つ で あ る。 各論 書 に取 り上 げ られ て い る原 子説 の 対 応 関 係 につ い て は, 既 に研 究 が な され て お り, 『観 所 縁 論 』 で取 り上 げ ら れ て い る3つ の学 説1)に つ い て も, そ れ ぞれ に対 応 す る学 説 が示 され て い る。 しか し 筆 者 は, これ らは いず れ も デ ィ グナ ー ガ に よっ て設 定 され た も の で, 対 応 す る学 説 を 持 た な い独 自 の学 説 であ る と考 え て い る。 以 下, こ の点 につ い て論 じた い。 1.『 観 所縁 論 』 は, 初 め て 明確 に 所縁 の2条 件 を示 した論 書 と して知 ら れ て い る。 は じめ に 『観 所 縁 論 』 の叙 述 に従 って, 所 縁 の2条 件2)を 示 してお こ う。 第1条 件: 識 が そ れ とし て顕 現 す る こ と 第2条 件: 識 が そ れ か ら生 じる こ と(=実 体であ ること) こ の2条 件 と3つ の原 子 説 は密 接 な関 係 に あ る と考 え られ る。 まず 第1説(諸 原子-rdul phra rab dag-が 所縁 だとす る学説)は, 諸 原 子 は原 因 で は あ る が, 識 は 原 子 として は顕 現 して い ない, つ ま り第2条 件 は満 た す が第1条 件 は満 た さ な い とい うか た ち で批 判 され て い る。 次 の第2説(集 合-hdus pa一 が所縁 だ とす る学説) は, 識 は集 合 と して 顕 現 して は い る が, そ れ は集 合 か ら生 じた もの で は な い, つ ま り第1条 件 は満 た す が, 第2条 件 は満 た さ な い とい う形 で批 判 され て い る。 こ の よ うに最 初 の2学 説 が, 所 縁 の2条 件 の一 方 の み を満 た し, 他方 は満 た さ な い よ うに な っ て い る の は, これ らが所 縁 の2条 件 を説 明す るた め に, デ ィ グナ ー ガ に よ って 設 定 され た た め であ る, と考 え られ る。 つ ま りデ ィ クナ ー ガ は, 所 縁 の 2条 件 を 説 明す るた め に, 所 縁 と考 え られ て い る も の全 体 を, 第2条 件 を満 た す 諸 原 子 と, 第1条 件 を 満 た す 集 合 とに大 き く二 分 し て, そ れ を 第1説 した の であ る。 『観 所 縁 論 』 の第1・2説 ・第2説 と は, それ ぞれ 単 に 「諸 原 子 」・「集 合 」 と述 べ られ て い るだ け で, 他 に は何 ら具 体 的 な説 明が な い の も, 単 に一 方 の条 件 -909- Alambanaprikaに お け る 原 子 論 批 判(寺 石)(179) のみ を満 た す 学 説, す なわ ち単 な る諸 原 子 も し くは集 合 で なけ れ ば な ら なか った た め で あ る。 そ してそ れ 故 に 『観 所 縁 論 』 の第1・2説 は, 所 縁 が諸 原 子 も し く は集 合 だ とす る あ らゆ る学 説 を含 む こ とが で き る の で あ る3)。 2.『 観 所縁 論 』 の 第3説 は, 第2条 件 を 満 たす 原 子 の 上 に, 第1条 件 を 満 た す 集 合 のakaraが あ る とす る もの で, 第1説 る。 よ って, こ の第3説 と第2説 を 組 み 合 わ せ た もの で あ も実 在 す る学 説 で は な いか ら4), 対 応 す る学 説 を 持 た な い はず で あ る。 そ こ で従 来, 『観 所 縁論 』 の 第3説 てみ る と, まず 『成 唯 識 論 』 の第4説5)に と同 一 と され て きた 学 説 を 見 は, 諸 原 子 が 「助 け合 う」(相 資)と い う表 現 が あ り, 『唯 識 三 十 頒 安 慧 釈 』 の 第4説 に は, 諸 原 子 が 「互 い に 関 係 す る」 (paraspara・apa)と い う表 現 が あ る。 また,『 中 辺 分 別 論 安 慧 釈 』 の第2説6)に は, 諸 原子 が 「別 々 で な く」(napratyekam)と 『唯 識 三 十 頬 安 慧 釈 』 の 第4説 い う表 現 が あ る が, こ の 学 説 は と同 一 で あ る ら, この 表 現 は 「互 い に関 係 す る」 (paraspara・apeka)と 同 じ こ とを 意 味 して い る。 一 方 これ ら 「関 係 す る」 等 の表 現 は,『 観 所 縁 論 』 の第3説 には 見 られ な い た め, これ ら3つ の 学 説 と 『観 所 縁 論』 の 第3説 は別 の 学説 と 考 え ら れ る。 し か し, 『観 所縁 論 』 の玄 奨 訳(『観所縁縁 論』?))や護 法 釈(『 観所縁論釈』8))には, この 「関 係 す る」 等 の表 現 が 見 出 され る。 これ は な ぜ で あ ろ うか。 『観 所 縁 論 』 の第3説 及 び そ れ と同一 と考 え られ て き た 3学 説 を 整 理 して み る と,『 観 所 縁 論 』 の第3説 識 三 十 頬 安慧 釈』 の 第4説 が 「集 合 のakaraが 所 縁 」, 『唯 と 『中辺 分 別論 安慧 釈 』 の 第2説 が 「諸 原 子 が 関 係 し た もの が 所縁 」,『成 唯 識 論 』 の 第4説 が 「諸 原 子 が 関 係 した もの が 生 じた 集 合 の akaraが 所縁 」 とい う説 で あ る。 この こ とか ら 『観 所 縁論 』 の 第3説 三 十頸 安慧 釈 』 の 第4説(=『 中辺分別論安 慧釈』 の第2説)と は,『 唯 識 は 別 の 学 説 で あ り, ま た 『成 唯識 論 』 の 第4説 は, これ ら2種 類 の 学説 を 組 み 合 わ せ た もの で あ る こ とが わ か る。 つ ま り, デ ィ グナ ーガ が 設 定 した 『観 所縁 論 』 の 第3説 『唯 識 三 十 頒 安 慧 釈 』 の第4説(=『 中辺分別論安慧釈』の第2説)が とは 別 に, 存 在 し, そ の 2種 類 の 学説 を組 み 合 わ せ た もの が 『成唯 識 論 』 の 第4説 な の で あ る。 同 様 に, 『観 所 縁 論 』 の玄 突 訳 や 護 法 釈 に 「関 係 す る」 等 の表 現 が み られ る の も,『 観 所縁 論 』 の 第3説 に, 本 来 は 別 な 学 説 で あ る 『唯 識 三 十 碩 安慧 釈』 の 第4説(=『 辺分別 論安 慧釈』 の第2説)を 3.本 中 組 み 合 わ せ た た め で あ る と考 え られ る。 来 の 『観 所 縁論 』 の 第3説 は 『成 唯識 論 』 の 第4説 と 共 通 点(akaraを 所縁 とする点)を 持 ち、 また 『観 所 縁 論 』 の 玄 奨 訳 や 護 法 釈 は3学 説 と共 通 点(諸 原 子が 「関係す る」 とす る点)を 持 つ。 しか し以 上 で 明 らか にな った よ う に, 本 来 -908- (180) Alambanaprika に お け る 原 子 論 批 判(寺 石) の 『観 所縁 論 』 の 第3説 は, それ ら と同 一 の 学説 で は な い。 よ って 『観 所縁 論 』 に取 り上 げ られ て い る3つ の 学 説 は, い ずれ もデ ィ グナ ーガ に よ って 設定 され た もの で, 対 応す る 学説 を 持 た な い独 自の 学説 とい うこ とに な る。 1)『 観 所 縁 論 』 の3つ の学 説 は次 の とお り。 dehi rgyu pa skye bahi yin phyir pahi phyir rdul de hdua pa phra yin par kha cig hdus pahi rnam pa dag//sgrnb 2)第1条 rab rto dag yin gran pa ham der na/(デ snap bahi ses ル ゲ 版 因 明 部186a6-7). pa yin par Mod par byed//(86b3) 件 ・第2条 件 とい う名 称 は, デ ィ グナ ー ガ 自 身 が用 い た もの で は な い の で, ど ち らが 第1条 件 で あ って も差 し支 え な い が, これ が 原 子論 を批 判 す る根 拠 と し て 提 出 され て い る こ とか ら, こ こで は 第1説 を批 判 す る 条件 を 第1条 件, 第2説 を 批判 す る条 件 を 第2条 件 と呼 ぶ。 護 法 釈 も, この 順 に初 支, 第 二 〔 支 〕 と して い る。 「於極 微 処 即 閾 初 支 於 第 二 邊 便 亡 第 二 」(大 正 巻31P.890c). 3) 宇 井 伯 寿 氏 は, 『観 所 縁 論 』 の 第1・2説 は 特 定 の学 説 で は な く, そ れ 故 に 議 論 も一 般 的 にな る と して い る。 宇 井 伯 寿 『陳 那 著 作 の 研究 』 岩 波 書店, 1958, p.93参 4) 原 田和 宗 氏 は, 『観 所 縁 論 』 の 第3説 「 表 示 ・含 意 ・期 待 の 理 論(皿)一 第168号, 1990, PP.78-43参 照。 は実 在 す る学 説 で な い と し て い る。 原 田和 宗 デ ィグナ ー ガvs.ノ ミル トリハ リ(2)一 」『密 教 文 化 』 照。 5)『 唯 識 三 十 頒安 慧 釈』 の 第1説 を, 1つ の学 説(へ の批 判)と み な し得 るか ど うか 疑 問 もあ る が, 『成 唯 識 論 』 の相 当 部 分 が, 伝 統 的 に正 量 部説(へ い る た め,“便 宜 上 ”こ れ を 第1説 の批 判)と み な され て とみ な し, それ に 続 く学 説 を順 に 第2・3・4説 と 呼 ぶ(こ れ を1つ の学 説 とみ な し得 るか ど うか の 判 断 は保 留 して お く)。 6)従 来,『 中 辺 分 別 論 安 慧 釈 』 で は2つ の 学 説 が 取 り上 げ られ て い る とされ て きた が, 「諸 原 子 が所 縁 で あ る」 とす る説 に は2つ の学 説 が あ るの で,「 集合 が所 縁 で あ る」 と す る説 と合 せ て3つ の学 説 が あ る こ とに な る。 こ の 『中辺 分 別 論 安 慧 釈 』 の3つ 説 は, 順 に 『唯 識 三 十 頒 安 慧 釈 』 の 第3・4・2説 の学 に 対 応す る。 7)「 有 執。 色 等 各 有 多 相 於 中一 分 是 現 量 境。 故 諸 極 微 相 資 各 有 一 和 集 相。 此 相 實 有 各 能 嚢 生似 己相 識。 故與 五 識 作 所 縁 縁。」(大 正 巻31p.888b). 8)「 縦 令實 事 別 別 禮 殊 然 此 相 状 但 於 集庭 更相 籍 故而 可 了知。」(大 正 巻31p.891a). <キ ー ワー ド>Alambanaparika, 観 所 縁論, 極 微論 (筑波 大 学 大 学 院) -907-
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