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ソグ ド語 の 『受 八 斎戒 儀』
Pelliotsogdien5及
び17に
吉
つ い て*-
田
豊
Pelliotが 敦 煙 千 仏 洞 か ら将 来 し た ソ グ ド語 文 書 は, 現 在 パ リ のBibliothque
Nationaleに
保 管 さ れ て い る1)。 そ れ ら の う ちP[elliot
請 問 経 』(『大 正 』No.
584)の
完 訳 を 含 む125行
sogdien]5は,
か ら な る巻 子 本 の
を 欠 い て い る 。 こ の う ち 『長 爪 梵 志 経 』(ll. 1-88)は,
res
de
Za
Societe
de linguistique
出 版 さ れ た 。 そ の 後,
81に
於 い て,
P. 5全
E.
1946,
199に
357-67に
W.
Benvenisteが
B.
Memoi-
ょ っ て校 訂
Paris,
1940,
pp.
74-
この本 に対 す る
HemingはBenvenisteの
読 み
翻 訳 し なか った 非 常 に断 片 的 な部 分
Benveniste
op.
CZt., pp.
首 部 を欠 い て い る
Benveniste,
145-7に
。 八 斎 戒 を 説
於 い て 校 訂 さ れ た 。 ま た これ ら
C-dicesSogdiani,
Copenhagen,
1940,
pp.
見 出 され る。
と こ ろ でP.
り, 従 来P.
pp.
TextesS'ogdiens,
か ら な る 巻子本の部で,
二 つ の 文 書 の 写 真 版 は,
160-2,
1912,
部であり末尾
Gauthiot,
英 訳 した 。
17は42行
く こ の 文 書 も,
17,
最 初R.
翻 訳 を 発 表 し た 。Benvenisteの
pp. 713-40)で,
を い く ら か 改 善 す る と 同 時 に,
一 方P.
Paris
Benvenisteは,
体 のtextと
書 評 論 文(BSOAS11,
(P. 5, 110-125)も
de
『長 爪 梵 志
5とP.
17はP.
17は
5の
pp. 357-8;Benveniste, op.
本 来 互 い に くっつ き あ った 状 態 で 発見 され た の で あ
裏 打 ち 用 紙 だ と 考 え ら れ て い た(cf.
CZt. p.
, XIII)。 し か し 筆 者 は 最 近,
Gauthiot, art. CZt.
9
P. 5とP.
17が
実際
に も同一 の文 書 で あ っ た こと を発 見 した。 この こと は い くつ か の証 拠 に よ って証
明 さ れ る 。 第 一 に, P. 17に
は 比 較 的 大 き な 二 つ の 断 片(P.
真 版 か ら は 判 読 が 困 難 な これ ら の 断 片 に は, Benvenisteに
は1982年
にBibliothque
Nationaleを
た 。 こ の 転 写 か ら, P. 17a(ll.
5, 115-124の
ZY sn (stw
pwty rr'yw
実 際 に はP.
あ る2)。 写
よ る転 写 が な い 。 筆 者
そ れ らを転 写 す る機 会 を 得
17に
属 す る の で は な く, P.
右 端 を 補 う も の で あ る こ と が わ か っ た3)。 例 え ばP.
次 の よ うに 補 わ れ る(P.
kt'r
訪 問 した際
10)は,
17a, b)が
5, 119-121は
17aの 部 分 に は下 線 が 施 され て い る)4):.
ZY[
(x) [wrnw psrtw
]ms kt'r (ZY m't)yh
'BYw ptxwst o'r'n kt'r cnn
o'r'n] (k)t'r 'w 'nw'stk pwrsnk' 'ow yxw'k [' ] (kr)tw
-313-
ソ グ ド語 の 『受 八 斎 戒儀 』(吉
δ,
r[n],
wrx, nt[mnyptxwstδ,
田)(104)
r,n]
「或 い は彼 ら を縛 り[… … した な らコ, 或 い は また 両 親 を殺 した な ら, 或 い は仏 陀 の 身 体
か ら[血 を流 し た な ら], 或 い は集 ま っ た僧 伽 を二 つ の部 分 に し た な ら, (或 い は)阿 羅
漢 で あ る[沙 門 を殺 した な ら]。」
この 部 分 は繊 悔 部 で,
がP.
5を
特 に 五 逆 が 問 題 に な っ て い る こ と は 明 ら か で あ り, P. 17a
補 うも の で あ る とす る筆 者 の 説 の 正 し さが 証 明 され る。
第 二 に, P. 17の
nisteのtextよ
最 終 行 は 先 行 の 仏 典 の タ イ トル で あ る が,
この 部 分 もBenve-
り多 く の 文 字 が オ リ ジ ナ ル か ら は 読 み と れ る5)。 この タ イ トル は,
現 在 で は 次 の よ う に 読 ま れ る:
[βrz](n, )x,
nδynδ,rZY(sfsf)k,
ptpwstk,
(y)[wprw,
rt]
「長 爪 梵 志 及 び八 戒 の経 典 一[巻]」
これ は, P. 17に
先 行 す る 部 分 に は 『長 爪 梵 志 経 』 が 含 ま れ て い た こ と を 示 し て
い る。
第 三 に, P. 5及
びP.
17と
類 似 の 内 容 を 持 つ 漢 文 仏 典 が, 敦 燵 か ら多 数 出 土 し
て い る 。 この 種 の 八 戒 関 係 文 書 は, 土 橋 秀 高 『戒 律 の 研 究 』, 京 都, 1980, pp. 745
-50,
772-91に
属 す る 文 書9点
ょ って 研 究 され た
。 彼 は ス タ イ ン 文 書 の 中 か ら,
この ジ ヤ ン ル に
を 選 び 出 し, そ の 内 容 と 構 成 に つ い て 解 説 し て い る6)。 最 近 で は
ま た, 里 道 徳 雄 も こ の 種 の 文 書 を 扱 い(『 東 洋 大 学 大 学 院紀 要』 第19集,
-96),
1982, pp. 77
そ れ ら を 可 能 な 限 りす べ て リス トし て い る7)
。
土 橋 の 研 究 に よ れ ば, 彼 が 『受 八 斎 戒 儀 』 と 呼 ぶ これ ら の 文 献 は, 主 に 次 の5
つ の 部 分 か ら 成 り立 っ て い る:(1)啓
P. 5とP.
17の
請(2)繊
悔(3)三
帰(4)戒 相(5)発 願 。 こ れ を
構 成 と 比 較 す れ ば, 両 者 が 互 い に 酷 似 し て い る こ と が わ か る 。 す
な わ ち, 『長 爪 梵 志 経 』(p. 5, 1-89)に
続 く部 分 で は, P. 5, 90-105が
啓 請 に 当 る。
例 え ば そ の 最 後 の 部 分 は 次 の よ う に 読 め る:
ky' xtw 'xw
r'n'yk'
rws 'skw't ptskw'n
my wyno ZY ky' ZKh xh(sic)
ptr'wso
xwyckp'znyh
(yrtk
rty ms 'ky'
rty
z'ry syozy z'n'ntk /wo' rty my'mnty pwoy mntr pr'ys
wyc'w'k
r'n'yk' csmy 'skw't
my pt jr'w
ZY sm'r
ZY
m't mn' prw rw"n 'nz'n'k
myno (P. 5, 102-105)
「天 耳 の あ る者 は 私 の祈 り8)を聞 い て 下 さい 。 天 眼 の あ る も の は私 を見 て 下 さ い。 ま た
開 かれ た心9)を 得 た人 は私 の こと を想 い, 念 じ, 憐 わ れ み, わ か って下 さい 。 こ の 菩 提
道 場 に や っ て来 て, 私 が 罪 を告 白 し許 しを 求 め る こ との証 人 とな る よ うに 。
」
これ は, 次 の よ う な 漢 文 の 表 現 は 下 敷 き に し て い る も の で あ ろ う:
-312-
(105)ソ
グ ド語 の 『受八斎戒儀 』(吉
田)
有天眼者有天耳者有他心通者威願降 臨証盟(sic)弟 子発露:戯悔(陳 詐龍op. cit., p. 156)
P-5, 105-125は 戯 悔 に当 る部 分 で あ るが, そ の途 中 まで しか残 って い な い 。五
逆 を 扱 う部 分 は既 に上 で 引 用 した 。 こ こで は 繊 悔 の 導 入 部 を 引 用 す る こ とに す る
が, これ につ い て も酷 似 す る漢 文表 現 が 見 出 され る:
rty 'zw [yw] o[rx] (ws)ky
t'nm'n
CM mrwn
'nt'c pr'yw......
nm'ny wn'm ZY 'xsn'm xwz'm cw c'wn 'pwh ["r'z]
mw rw'n
'nz'n'm
mrts'r ywn'y "zwn nwr myo
wyt'wr
kw kory
zmnw prm yw "zwh ZY yp'k rrj'wk-wn'y
sr'yjt'm
'pw "y'm 'xw 'kyty my ZKw CWRH rw j ZY p'zn "y'wzt 'skwn m'o ZY
ZKw wyspw 'krt'nyh
'spt'kw
(sic) ZY wytxwy
'krtw o'r'm (P. 5, 105-110)
「
私弟子某 甲は, 全会衆 とともに……罪 を告 白 し,後悔 し,許 しを求 めます 。 もし無[始]
以来, この生 の今 日-今 まで, 食欲-怒 り-愚 かさ10)及び私 の身 口意 を苦 しめる煩悩 に
終 わ りがな く, すべ ての罪 を完全 に為 したな ら」
弟子某 甲等合道場人 自従無始膿大籾来 及以今生至干今 日無 明所覆煩悩 自縛不識業 因随悪
流転 或作元 間重罪 ……(陳 詐龍, 翫4., p. 158)
P. 5とP.
17の 間 の欠 損 部 に は, 繊 悔 の一 部 と三 帰 依 文 が含 まれ て いた と考 え
られ る。 この欠 落 部 の長 さ は明 らか で は ない が, 他 の部 分 の長 さを 考 慮 す れ ば数
十 行 程 度 と見 て 良い だ ろ う。
戒 相 に該 当 す る部 分(P. 17, 1-33)は ほ ぼ完 全 に保 存 さ れ て い る。 そ こ で 説 か
れ てい る八 戒 の内 容 と順 序 は次 の 通 りで あ る:(1)殺 生 を しな い(2)盗 み を しな い
(3)邪 婬 を行 な わ な い(4)嘘 を つ か ず, 人 を だ ま さず 二枚 舌 で は な い(5)酒 を 飲 ま
ず 五 辛 を 口に し ない(6)尊 大 で は な く, 阿 羅 漢 が座 った席 に も, 母 や 父, 尊 師 の
席 に も座 わ らな い, ま た 動 物 に も乗 らな い(7)楽 器 を演 奏 せ ず, 踊 らず, 歌 わ な
い 。 ま た 花 や 香 で 身 を 飾 らな い で, そ れ ら を 三 宝 に 供 養 す る(8)時 を 知 り[昼
(P)]11)を過 ぎ て か ら食 事 を しな い 。
最 後 の発 願 部(P. 17, 34-41)は 特 に破 損 が ひ ど く, 断 片 的 な翻 訳 しか で きな い 。
今 そ の 一 部 を 引用 す れ ば 次 の通 りで あ る。
rty [pys] (t)rw
cyk owky CM mytr'y
[Z]Kw pwty'kh prn "Jrywn,
[
I 'kw pr[nyrj'n]
pwty
pr'yw
S(yr)'n[ynt'n
(k')w
'PZY p(y)rn[cyk
(. t) [
cnn mytr'y]
Z]Kw tm[y]
oJrw ZY zr'ync'n
I (P. 17, 38-41)
「後 世 弥 勒 仏 に会 い[… …弥 勒]仏 か ら成 仏 の祝 福 を得 た い[...]地
[閉 ざ し, そ こか ら衆 生 を]救 い[…
pwty
獄の門 を
…彼 ら を]か つ て の[仏 陀 た ちが い るコ 般[浬 繋]
に[導 き た い]。」12)
-311-
ソグ ド語 のr受 八斎 戒儀』(吉
田)(106)
報 告 され た漢 文文 献 に は, 冒「
頭 に 『長 爪 梵 志 経 』 を持 つ もの は見 出 され な い。
しか し, この経 典 は それ 自体 八 戒 の功 徳 を説 く もの で あ り, これ らの漢 文 仏 典 に
も し ば し ば 言 及 引 用 さ れ て い る(土 橋, op, cit,P. 775;里 道, art. cit. P. 82)。
従
って, この 経 典 の 存 在 は 決 して 不 自然 で は な い 。
今 の所 この ソ グ ド語 仏典 の 原典 は 見 出 され て い な い 。 勿 論 今 後 原典 が発 見 さ れ
る可 能 性 は な い わ け で は な い が, ソ グ ド人 が この種 の漢 文仏 典 を模 倣 し独 自に作
成 し た もの と も考 え られ る。 上 記 の漢 文 文 献 に は, 全 く同一 のtextを
持 つ もの
が 発 見 され な い こと を考 慮す れ ば, む しろ後 者 の可 能 性 の方 が高 い と言 え よ う。
*小 論 を 完 成 す る に あ た っ て,
竜 谷 大 学 の 土 橋 秀 高 教 授 か ら貴 重 な 助 言 を 得 た 。 こ こ
に 記 し て 謝 意 を 述 べ て お き た い 。 な お,
に つ い て は,
別 に 論 文"On
ments-Pelliot
1)敦
sogdien
the
P. 5の
Sogdian
5 and
17-"を
焼 出 土 の ソ グ ド語 文 書 全 体 の 解 説 に つ い て は,
(iil)](...w)'と
ろ不 明 で あ る 。
み にP.
読 め る が,
17b(ZZ.
4)Textの[]は
た()は,
5)こ
9)は,
the
翻 訳 及 び訳 注
eight
()は
command-
『講 座 敦 煙 』 第 六 巻 に 掲 載 予 定 の
在 す る 。 そ れ ら は 各 々(i)]βrc[,
P. 17或
い はP.
P. 17, 1-9の
欠 損 部 を,
17のtextと
for receiving
用 意 し て い る。
拙 稿 を参 照 され た い。
2)17a,
b以 外 に 極 小 片 が3片(17c)存
3)因
後 半 部 とP.
formula
5の
(ii)](r)n'[,
どの部 分 を補 うも の か 今 の と こ
左 端 を 補 う文 書 で あ る 。
部 分 的 に破 損 した部 分 を示 す。 …
翻訳 で 用 い られ
日本 語 と し て 読 み や す く す る 為 に 筆 者 が 補 足 し た 語 句 で あ る こ と を 示 す 。
の 点 で は,
現 在 東 洋 文 庫 か ら入 手 可 能 な 写 真 も 同 様 で, Benvenisteの
写真版 より
多 く の 部 分 が 判 読 可 能 で あ る。
6)そ
れ ら はS.
7)彼
が リス ト し た も の は 次 の 通 り(た
2689,
4081,
4407,
4438,
4464V,
だ し 注6で
4494,
4610V,
4624,
本
地38,
麓52,
豊64,
衣5,
寒82;Pelliotchinois2147V,
3092, 3235V,
3318V,
3697V,
4522;レ
ニ ン グ ラ ー ド本
意 味 に つ い て は, M.
UniversityofCalifornia,
あ る。
1137;北
京
2403V, 2668V, 2849V,
『メ ン シ コ フ 目 録 』, Nos. 1471
(こ の 文 書 の 写 真 版 は, 陳 酢 龍 『敦 煙 古 抄 文 献 会 最 』, 台 北, 1982,
出 さ れ る), 2623, 2624;守
屋 孝 蔵 氏 蒐 集 『古 経 図 録 』, 京 都, 1964,
8)ptskw'nhの
Christians,
6148で
掲 げ た も の は 除 く):S.
pp.
No.
148-73に
245.
見
Schwartz,
StudiesinthetextsoftheSogdian
Berkeley,
Ph. D., 1967, p. 109参
照。
9)Benvenisteはxwyck pznyh 1'espritouvert"と
二 語 に 解 釈 し て い る 。 し か し両
者 は 分 綴 さ れ て お ら ず, 語 尾 の 一yhも
全 体 が 一 つ の 抽 象 名 詞 で あ っ た こ と を示 し て
い る 。 こ の 抽 象 名 詞 は, "open-mindedness"と
い う意 味 を 持 っ て い る が, こ こ で は 漢
語 の 「他 心 通 」 を 意 訳 し て い る も の と 考 え ら れ る 。 た だ し, ソ グ ド語 の 『維 摩 経 』 で
は こ の 複 合 語 は 「知 慧 」 の 訳 語 と し て 用 い ら れ て い る, cf. D. N. MacKenzie,
The
BuddhistSogdianTextsoftheBritishLibrary,
ActaIranica10,
1976, p. 19. な お 一 地 に よ る 抽 象 名 詞 に つ い て は, N. Sims-Williams,
42, 1981, pp. 14-17参
照。
10)原
文rrwk-wnyは,
考 え た。
Henning,
art. CZt., p. 731に
従 っ てxyr'k-wn'ッ
11)原
文 はcnn'zmnw py(r)[p](y)StYzQ.
或 い はpy(r)[nm p](y)strwと
「そ の 時 間 の 以 前 に も以 後 に も と」 訳 す べ き か 。
12)こ
の 最 後 の 部 分 に 類 似 す る 発 願 は,
わ れ る, e.g. 「VJ100sq.,
etc.
-310-
Teheran-Liege,
ActorOrientalia
ソ グ ド語 のVessantara
の誤 写 と
字甫 っ て,
Jdtakaに
く り返 し 現
(京 都 大 学 研 修 員)