供給理論 参考文献:「ミクロ経済学増補版」,武隈愼一,新世社,第3章,4 節~7 節 1. 生産技術 ■ 生産関数─────────────────────────── 企業の生産技術は関数によって表現することができる。 [一生産物のケース] z:生産要素の投入量,q:生産物の産出量 q=f(z) z1, z2:二種類の生産要素の投入量,q:生産物の産出量 q=F(z1, z2) ・関数 f,F は生産関数と呼ばれる。 ・生産関数は要素投入量と生産物産出量との効率的組合せ を表す。 [結合生産のケース] z:生産要素の投入量,q1, q2:二種類の生産物の産出量 G(z, q1, q2)=0 ・このような関数 G は陰関数表示の生産関数と呼ばれる。 1 ■ 生産集合─────────────────────────── 企業の生産技術を集合によって表現する。 [2 財の場合] y1:第1財の(純)生産量 y2:第2財の(純)生産量 Y={(y1, y2)|y1 と y2 は生産可能な組合せ} 実行可能な生産計画: (y1, y2)∈Y 生産量 yi が正の値ならば,第 i 財は生産物であり,負の 値ならば生産要素であり,その絶対値が投入量を表す。 2 ・ 生産集合には効率的ではない生産計画も含まれ,効率的 な生産計画は生産集合のフロンティア上の点である。 ■ 生産集合の形状─────────────────────── [一般的な生産集合の特徴] 1) O∈Y,原点 O を含む。 2) 第 1 象限の点を含まない。 3) 境界線が右下がりである。 4) 凸性:生産集合 Y が凸集合である。 限界生産性が逓減することに対応する。 5) 自由処分性:含まれる点の左下の点を含む。 3 ・ 図 3.15 では,A 点では第1財から第2財が生産されて おり,B 点では第2財から第1財が生産されており,生 産の可逆性も表現できる。 [n 財の場合] yi:第 i 財の(純)生産量 (i=1,・・・, n) Y:生産集合 Y={(y1, y2,・・・, yn)|生産量 yi の実行可能な組合せ} [生産関数との関係] (1) q=f(z)の場合 Y={(y1, y2)|q=f(z),0≦y1≦q,y2=-z≦0} (2) q=F(z1, z2)の場合 Y={(y1, y2, y3)|q=F(z1, z2),0≦y1≦q, y2=-z1≦0,y3=-z2≦0} (3) G(z, q1, q2)=0の場合 Y={(y1, y2, y3)|G(z, q1, q2)=0,0≦y1≦q1, 0≦y2≦q2,y3=-z≦0} ・ 生産集合は同時に 2 種類以上の財が生産される結合生 産も容易に表現することができる。 2. 生産者の行動 企業の利潤最大化行動を説明する。 4 ■ 利潤最大化───────────────────────── [2 財のケース] (ある企業の生産集合) Y={(y1, y2)|y1 と y2 は生産可能な組合せ} π:利潤 p1:第1財の価格 p2:第2財の価格 (y1, y2)∈Y, π=p1y1+p2y2 (2.1) [利潤最大化問題(p1, p2 は一定)] max p1 y1 + p2 y2 y1 , y2 subject to (y1, y2)∈Y ・企業は,所与の価格 p1, p2 のもとで,利潤が最大となる 生産計画(y1, y2)を選択する。 [n 財の場合] (生産集合) yi:第 i 財の(純)生産量 (i=1,・・・, n) Y={(y1, y2,・・・, yn)|実行可能な生産量の組合せ} (利潤) pi:第 i 財の価格 (i=1,・・・, n) π:利潤 (y1, y2,・・・, yn)∈Y, 5 π=p1y1+p2y2+・・・+ pnyn [利潤最大化問題(p1,・・・, pnは一定)] max p1 y1 +L + pn yn y1 , L, yn subject to (y1,・・・, yn)∈Y ■ 2財の場合─────────────────── 以下では 2 財のケースについて議論するが,使われる手 法は一般の場合においても適用可能なものである。 限界変形率Marginal Rate of Transformation: 生産集合のフロンティアの傾き(の絶対値) MRT21(横軸が第1財,縦軸が第2財), 第 1 財 1 単位の代わりに第 2 財何単位が生産されるか。 6 [利潤最大化の条件] p1 MRT21= p 2 (2.2) ・ 利潤最大化の点は図 3.19 の Q 点のように生産集合のフ ロンティアと傾きが価格比 p1 である直線が接する点で p2 ある。 例:生産集合のフロンティアが以下の式で表されるとする。 f(y1, y2)=0 ① このとき,f1(y1, y2) := ∂f ∂f ,f2(y1, y2) := とすると, ∂y1 ∂y2 利潤最大化の条件は f1 ( y1 , y2 ) p1 MRT21= f ( y , y ) = p 2 1 2 2 ② であり,①と②から利潤が最大となる生産計画(y1, y2)が決 定される。 ■ 供給関数─────────────────────────── 供給関数 S1,S2: 価格 p1,p2 と利潤を最大にする生産量 y1,y2 との関係 y1=S1(p1, p2), y2=S2(p1, p2) (2.3) ・生産量 yi が正ならば生産物の供給量を表し,負ならば, その絶対値が生産要素の需要量を表す。 7 供給曲線,要素需要曲線:各価格 pi と供給量 yi との関係 ・供給関数 S1,S2 は 0 次同次の関数である。 ∀λ>0,Si(λp1, λp2)=Si(p1, p2) (i=1, 2) ■ 利潤関数──────────────────── 最大利潤は,(2.1)と(2.3)より,以下で示される。 π=p1S1(p1, p2)+p2S2(p1, p2) (2.4) 利潤関数:上の最大利潤と価格との関係 π=Π(p1, p2) (2.4)’ ・関数Πの値は,価格 p1, p2 であるとき,企業が得られる 利潤の最大値である。 ・ 利潤関数 Π は 1 次同次の関数である。 ∀λ>0,Π(λp1, λp2)=λΠ(p1, p2) 供給関数の微分: S ij ( p1 , p 2 ) = ∂S i ( p1 , p 2 ) ∂p j ⎡ S11 ( p1 , p 2 ) 行列で表現すると, ⎢ S ( p , p ) ⎣ 21 1 2 (i, j=1, 2) S12 ( p1 , p 2 ) ⎤ S 22 ( p1 , p2 ) ⎥⎦ ・ 各財の価格変化について,利潤(供給の価値)の変化は ゼロである。すなわち, ⎡S ( p , p ) ( p1 , p 2 ) ⎢ 11 1 2 ⎣ S 21 ( p1 , p 2 ) S12 ( p1 , p 2 ) ⎤ = ( 0, 0 ) S 22 ( p1 , p 2 ) ⎥⎦ 8 証明:(p1, p2)のとき,(S1(p1, p2),S2(p1, p2))は利潤を最大に するから,第 1 財の他の価格 x について, p1S1(p1, p2)+p2S2(p1, p2)≧p1S1(x, p2)+p2S2(x, p2) したがって,x=p1 のとき右辺が極大となる条件として,x で微分したものがゼロ,すなわち p1S11(p1, p2)+p2S21(p1, p2)=0 を得る。□ ・供給の変化のベクトル(S11(p1, p2),S21(p1, p2))と価格ベク トル(p1, p2)は,直交している。 ・図 3.20 において,価格ベクトル(p1, p2)と方向 QQ’がほぼ 直交することに対応している。 9 [利潤関数と供給関数の関係] Hotelling の補題: Π i ( p1 , p2 ) = S i ( p1 , p2 ) ただし, Π i ( p1 , p 2 ) = (i=1, 2) ∂Π ( p1 , p 2 ) 。 ∂p i 証明:(2.4)の利潤関数を p1 について微分すると, Π1(p1, p2)=S1(p1, p2)+p1S11(p1, p2)+p2S21(p1, p2) ここで,右辺の最後の2項の和はゼロである。□ ・価格(p1, p2)のもとで供給量が(y1, y2)であるとき,第 i 財 の価格が 1 円上昇すると利潤は近似的に yi 円上昇する。 実際,同じ供給量(y1, y2)を維持すると,利潤は yi 円上昇 する。 1. 交差効果は対称である。すなわち, S ij ( p1 , p 2 ) = S ji ( p1 , p 2 ) (理由)Hotelling の補題により, ∂Π ( p1 , p 2 ) = S ij ( p1 , p 2 ) であ ∂ p i ∂p j り,2 階の偏微分は微分の順序に依存しない。 2. 自己効果は非負である。すなわち, S ii ( p1 , p 2 ) ≥ 0 (i=1, 2) (理由)供給量が,(p1, p2)ときは(y1, y2), ( p1′ , p 2 ) ときは ( y1′ , y ′2 ) とすると,それぞれ利潤が最大であることから, p1y1+p2y2 ≥ p1 y1′ + p 2 y 2′ , p1′ y1′ + p 2 y 2′ ≥ p1′ y1 + p 2 y 2 10 これらより, ( p1′ − p1 )( y1′ − y1 ) ≥ 0 , すなわち, S11 ( p1 , p 2 ) ≥ 0 である。□ 3. 費用関数 企業の費用関数は生産関数から導出される。 ■ 費用最小化─────────────────── [1 生産要素のケース] 生産関数: q=f(z) w:生産要素 z の価格 g:関数 f の逆関数,q=f(z) C0:固定費用 c:総費用 ⇔ z=g(q) c=C0+w×z=C0+w×g(q) [2 生産要素のケース] 生産関数: q=F(z1, z2) (3.1) wi:第 i 生産要素の価格 (i=1, 2) c:費用 c=w1z1+w2z2 (3.2) 11 [費用最小化問題(qとw1, w2は一定)] min w1 z1 + w2 z 2 z1 , z 2 subject to q=F(z1, z2) ・企業は,所与の生産量 q と所与の価格 w1, w2 のもとで, 費用が最小となる要素投入量(z1, z2)を選択する。 [n 生産要素のケース] (生産関数) q:生産物の産出量 zi:第 i 生産要素の投入量(i=1,・・・, n) q=F(z1, z2,・・・, zn) (費用) wi:第 i 生産要素の価格 (i=1,・・・, n) c:費用 c=w1z1+ w2z2+・・・+ wnzn [費用最小化問題(qとw1,・・・, wnは一定)] min w1 z1 +L + wn z n z1 , L, z n subject to q=F(z1,・・・, zn) ■ 2生産要素の場合──────────────── 以下では 2 生産要素のケースについて議論するが,使わ れる手法は一般の場合においても適用可能なものである。 等産出量曲線:同じ生産量が得られる2生産要素の投入量 の組合せ 12 ∂F ∂F 限界代替率:等産出量曲線の傾き,MRS21= ∂z ÷ ∂z 1 2 [費用最小化条件] ∂F ∂F w1 MRS21= w ,すなわち ∂z ÷ ∂z 2 1 2 w1 = w2 (3.3) ・ 費用最小化の点は図 3.13 の P 点のように等産出量曲線 と傾きが価格比 w1 である直線が接する点である。 w2 q q 要素需要関数(生産量一定) D1 , D2 :所与の生産量のも とで,要素価格と費用を最小にする要素投入量との関係 13 z1 = D1q ( w1 , w2 ) , z 2 = D2q ( w1 , w2 ) (3.4) ・(3.1)と(3.3)から要素需要関数が求められる。 q q ・ 要素需要関数 D1 , D2 は 0 次同次の関数である。 q q ∀λ>0, Di (λ w1 , λ w2 ) = Di ( w1 , w2 ) (i=1, 2) 最小費用:所与の要素価格のもとで,所与の産出量を実現 するのに必要な最小の費用 費用関数:産出量と最小費用との関係 q q C(w1, w2, q)= w1 D1 ( w1 , w2 ) + w2 D2 ( w1 , w2 ) (3.5) ・ 費用関数 C は 1 次同次の関数である。 ∀λ>0, C (λ w1 , λ w2 , q ) = λ C ( w1 , w2 , q ) 需要理論における補償需要と全く同じ論理構造である。 要素需要関数は補償需要関数に,費用関数は支出関数に対 応しており,以下が成立するが容易に分かる。 [費用関数と要素需要関数の関係] Shephardの補題: Ci ( w1 , w2 , q ) = Diq ( w1 , w2 ) ただし, Ci ( w1 , w2 , q ) = (i=1, 2) ∂C ( w1 , w2 , q ) 。 ∂wi [要素需要関数の性質] 1. 要素需要の代替効果は対称である。すなわち, 14 Dijq ( w1 , w2 ) = D qji ( w1 , w2 ) (i ≠ j ) 2. 各要素価格変化について,代替効果の価値の総和はゼロ である。すなわち, ⎡ D11q ( w1 , w2 ) ( w1 , w2 ) ⎢ q ⎣ D21 ( w1 , w2 ) D12q ( w1 , w2 ) ⎤ ⎥ = ( 0, 0 ) D22q ( w1 , w2 ) ⎦ 3. 自己代替効果は非正である。すなわち, Diiq ( w1 , w2 ) ≤ 0 (i=1, 2) 4. 2財のケースでは,交差効果は非負である。すなわち, Dijq ( w1 , w2 ) ≥ 0 (i ≠ j ) 4 短期と長期 企業の短期と長期の行動を説明する。 ■ 短期と長期の費用────────────────────── K:資本設備 L:労働の雇用量 q:生産物の産出量 q=F(K, L) (4.1) r:資本賃貸率(一定) w:賃金率(一定) c:総費用 15 c=rK+wL (4.2) 短期 short-run:K を変更できない。 長期 long-run:最適な K を選ぶことができる。 短期費用関数:所与の資本量 K もとで,費用 c と生産量 q との関係 L=G(K, q) ⇔ q=F(K, L) (4.3) とすると, c=rK+wG(K, q) (4.4) 短期総費用(STC)曲線:図 3.9 の各 K に対応する曲線 16 長期費用関数:最適な資本量を選択したときの費用 c と生 産量 q との関係 [費用最小化の条件] ∂c =r+wGK (K, ∂K ⇔ q)=0 K=Ψ(q) ただし,GK(K, q) := (4.5) (4.6) ∂G ( K , q ) ∂K ・Ψ(q)は q だけ生産するときの最適な(費用が最小となる) 資本量を表す。 (4.6)を(4.4)に代入 c=rΨ(q)+wG(Ψ(q), q) (4.7) 長期総費用(LTC)曲線:図 3.9 の OL 曲線 ・LTC 曲線は STC 曲線群の(下方からの)包絡線である。 ・K0=Ψ(q0)ならば,K=K0 の STC 曲線は q=q0 のところで LTC 曲線と接する(図 3.9,図 3.10)。 長期平均費用(LAC)曲線:図 3.11 の LAC 曲線 長期限界費用(LMC)曲線:図 3.11 の LMC 曲線 ・図 3.9 より,LAC 曲線は SAC 曲線群の(下方からの) 包絡線である。 17 18 ・限界費用と平均費用の関係から,SMC 曲線は SAC 曲線 の最低点を,また LMC 曲線は LAC 曲線の最低点を通過 する。 ・K0=Ψ(q0)のとき,図 3.10 より,K=K0 の SAC 曲線は q=q0 のところで LAC 曲線と接し,K=K0 の SMC 曲線は q=q0 のところで LMC 曲線と交わる。 ■ 短期と長期の供給────────────────────── (4.4)より,短期の利潤は pq-[K+wG(K, q)] [短期の利潤最大化条件] p=wGq(K, q)(=SMC) ⇔ (4.8) q=SK(p) (4.9) ∂G ( K , q ) ) (ただし,Gq(K, q) := ∂q 短期供給関数:関数 SK (4.7)より,長期の利潤は pq-[rΨ(q)+wG(Ψ(q), q)] [長期の利潤最大化条件] p=rΨ’(q)+w[GK(Ψ(q), q)Ψ’(q)+Gq(Ψ(q), q)] (=wGq(Ψ(q), q)) ((4.5)と(4.6)より) 19 ∴ p=wGq(Ψ(q), q)(=LMC) ⇔ q=S(p) (4.10) (4.11) 長期供給関数:関数 S 短期供給曲線:図 3.12 の SK 曲線(SMC 曲線) 長期供給曲線:図 3.12 の SS’曲線(LMC 曲線) ・(4.6),(4.8),(4.10)より,図 3.12 において,K0=Ψ(q0)と K すると,短期供給曲線 S 0 (K=K0 の SMC 曲線)と長期 供給曲線 SS’(LMC 曲線)は q=q0 で交差する。 20 [企業の短期と長期の行動] 企業の資本量を K0,生産物価格を p0 とする。 価格が p0 ならば,企業は生産量 q0 を選ぶ。 価格が p1 に上昇すると, ⇒短期では生産量 q0′ を選ぶ。 ⇒長期では資本量 K1=Ψ(q1)と生産量 q1 を選ぶ。 21
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