02供給理論

供給理論
参考文献:「ミクロ経済学増補版」,武隈愼一,新世社,第3章,4 節~7 節
1. 生産技術
■ 生産関数───────────────────────────
企業の生産技術は関数によって表現することができる。
[一生産物のケース]
z:生産要素の投入量,q:生産物の産出量
q=f(z)
z1, z2:二種類の生産要素の投入量,q:生産物の産出量
q=F(z1, z2)
・関数 f,F は生産関数と呼ばれる。
・生産関数は要素投入量と生産物産出量との効率的組合せ
を表す。
[結合生産のケース]
z:生産要素の投入量,q1, q2:二種類の生産物の産出量
G(z, q1, q2)=0
・このような関数 G は陰関数表示の生産関数と呼ばれる。
1
■ 生産集合───────────────────────────
企業の生産技術を集合によって表現する。
[2 財の場合]
y1:第1財の(純)生産量
y2:第2財の(純)生産量
Y={(y1, y2)|y1 と y2 は生産可能な組合せ}
実行可能な生産計画:
(y1, y2)∈Y
生産量 yi が正の値ならば,第 i 財は生産物であり,負の
値ならば生産要素であり,その絶対値が投入量を表す。
2
・ 生産集合には効率的ではない生産計画も含まれ,効率的
な生産計画は生産集合のフロンティア上の点である。
■ 生産集合の形状───────────────────────
[一般的な生産集合の特徴]
1) O∈Y,原点 O を含む。
2) 第 1 象限の点を含まない。
3) 境界線が右下がりである。
4) 凸性:生産集合 Y が凸集合である。
限界生産性が逓減することに対応する。
5) 自由処分性:含まれる点の左下の点を含む。
3
・ 図 3.15 では,A 点では第1財から第2財が生産されて
おり,B 点では第2財から第1財が生産されており,生
産の可逆性も表現できる。
[n 財の場合]
yi:第 i 財の(純)生産量 (i=1,・・・, n)
Y:生産集合
Y={(y1, y2,・・・, yn)|生産量 yi の実行可能な組合せ}
[生産関数との関係]
(1) q=f(z)の場合
Y={(y1, y2)|q=f(z),0≦y1≦q,y2=-z≦0}
(2) q=F(z1, z2)の場合
Y={(y1, y2, y3)|q=F(z1, z2),0≦y1≦q,
y2=-z1≦0,y3=-z2≦0}
(3) G(z, q1, q2)=0の場合
Y={(y1, y2, y3)|G(z, q1, q2)=0,0≦y1≦q1,
0≦y2≦q2,y3=-z≦0}
・ 生産集合は同時に 2 種類以上の財が生産される結合生
産も容易に表現することができる。
2. 生産者の行動
企業の利潤最大化行動を説明する。
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■ 利潤最大化─────────────────────────
[2 財のケース]
(ある企業の生産集合)
Y={(y1, y2)|y1 と y2 は生産可能な組合せ}
π:利潤
p1:第1財の価格
p2:第2財の価格
(y1, y2)∈Y,
π=p1y1+p2y2
(2.1)
[利潤最大化問題(p1, p2 は一定)]
max p1 y1 + p2 y2
y1 , y2
subject to
(y1, y2)∈Y
・企業は,所与の価格 p1, p2 のもとで,利潤が最大となる
生産計画(y1, y2)を選択する。
[n 財の場合]
(生産集合)
yi:第 i 財の(純)生産量 (i=1,・・・, n)
Y={(y1, y2,・・・, yn)|実行可能な生産量の組合せ}
(利潤)
pi:第 i 財の価格 (i=1,・・・, n)
π:利潤
(y1, y2,・・・, yn)∈Y,
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π=p1y1+p2y2+・・・+ pnyn
[利潤最大化問題(p1,・・・, pnは一定)]
max p1 y1 +L + pn yn
y1 , L, yn
subject to
(y1,・・・, yn)∈Y
■ 2財の場合───────────────────
以下では 2 財のケースについて議論するが,使われる手
法は一般の場合においても適用可能なものである。
限界変形率Marginal Rate of Transformation:
生産集合のフロンティアの傾き(の絶対値)
MRT21(横軸が第1財,縦軸が第2財),
第 1 財 1 単位の代わりに第 2 財何単位が生産されるか。
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[利潤最大化の条件]
p1
MRT21= p
2
(2.2)
・ 利潤最大化の点は図 3.19 の Q 点のように生産集合のフ
ロンティアと傾きが価格比
p1
である直線が接する点で
p2
ある。
例:生産集合のフロンティアが以下の式で表されるとする。
f(y1, y2)=0
①
このとき,f1(y1, y2) :=
∂f
∂f
,f2(y1, y2) :=
とすると,
∂y1
∂y2
利潤最大化の条件は
f1 ( y1 , y2 ) p1
MRT21= f ( y , y ) = p
2
1
2
2
②
であり,①と②から利潤が最大となる生産計画(y1, y2)が決
定される。
■ 供給関数───────────────────────────
供給関数 S1,S2:
価格 p1,p2 と利潤を最大にする生産量 y1,y2 との関係
y1=S1(p1, p2), y2=S2(p1, p2)
(2.3)
・生産量 yi が正ならば生産物の供給量を表し,負ならば,
その絶対値が生産要素の需要量を表す。
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供給曲線,要素需要曲線:各価格 pi と供給量 yi との関係
・供給関数 S1,S2 は 0 次同次の関数である。
∀λ>0,Si(λp1, λp2)=Si(p1, p2) (i=1, 2)
■ 利潤関数────────────────────
最大利潤は,(2.1)と(2.3)より,以下で示される。
π=p1S1(p1, p2)+p2S2(p1, p2)
(2.4)
利潤関数:上の最大利潤と価格との関係
π=Π(p1, p2)
(2.4)’
・関数Πの値は,価格 p1, p2 であるとき,企業が得られる
利潤の最大値である。
・ 利潤関数 Π は 1 次同次の関数である。
∀λ>0,Π(λp1, λp2)=λΠ(p1, p2)
供給関数の微分: S ij ( p1 , p 2 ) =
∂S i ( p1 , p 2 )
∂p j
⎡ S11 ( p1 , p 2 )
行列で表現すると, ⎢ S ( p , p )
⎣ 21 1 2
(i, j=1, 2)
S12 ( p1 , p 2 ) ⎤
S 22 ( p1 , p2 ) ⎥⎦
・ 各財の価格変化について,利潤(供給の価値)の変化は
ゼロである。すなわち,
⎡S ( p , p )
( p1 , p 2 ) ⎢ 11 1 2
⎣ S 21 ( p1 , p 2 )
S12 ( p1 , p 2 ) ⎤
= ( 0, 0 )
S 22 ( p1 , p 2 ) ⎥⎦
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証明:(p1, p2)のとき,(S1(p1, p2),S2(p1, p2))は利潤を最大に
するから,第 1 財の他の価格 x について,
p1S1(p1, p2)+p2S2(p1, p2)≧p1S1(x, p2)+p2S2(x, p2)
したがって,x=p1 のとき右辺が極大となる条件として,x
で微分したものがゼロ,すなわち
p1S11(p1, p2)+p2S21(p1, p2)=0
を得る。□
・供給の変化のベクトル(S11(p1, p2),S21(p1, p2))と価格ベク
トル(p1, p2)は,直交している。
・図 3.20 において,価格ベクトル(p1, p2)と方向 QQ’がほぼ
直交することに対応している。
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[利潤関数と供給関数の関係]
Hotelling の補題:
Π i ( p1 , p2 ) = S i ( p1 , p2 )
ただし, Π i ( p1 , p 2 ) =
(i=1, 2)
∂Π ( p1 , p 2 )
。
∂p i
証明:(2.4)の利潤関数を p1 について微分すると,
Π1(p1, p2)=S1(p1, p2)+p1S11(p1, p2)+p2S21(p1, p2)
ここで,右辺の最後の2項の和はゼロである。□
・価格(p1, p2)のもとで供給量が(y1, y2)であるとき,第 i 財
の価格が 1 円上昇すると利潤は近似的に yi 円上昇する。
実際,同じ供給量(y1, y2)を維持すると,利潤は yi 円上昇
する。
1. 交差効果は対称である。すなわち,
S ij ( p1 , p 2 ) = S ji ( p1 , p 2 )
(理由)Hotelling の補題により,
∂Π ( p1 , p 2 )
= S ij ( p1 , p 2 ) であ
∂ p i ∂p j
り,2 階の偏微分は微分の順序に依存しない。
2. 自己効果は非負である。すなわち,
S ii ( p1 , p 2 ) ≥ 0
(i=1, 2)
(理由)供給量が,(p1, p2)ときは(y1, y2), ( p1′ , p 2 ) ときは
( y1′ , y ′2 ) とすると,それぞれ利潤が最大であることから,
p1y1+p2y2 ≥ p1 y1′ + p 2 y 2′ ,
p1′ y1′ + p 2 y 2′ ≥ p1′ y1 + p 2 y 2
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これらより,
( p1′ − p1 )( y1′ − y1 ) ≥ 0 ,
すなわち, S11 ( p1 , p 2 ) ≥ 0 である。□
3. 費用関数
企業の費用関数は生産関数から導出される。
■ 費用最小化───────────────────
[1 生産要素のケース]
生産関数:
q=f(z)
w:生産要素 z の価格
g:関数 f の逆関数,q=f(z)
C0:固定費用
c:総費用
⇔
z=g(q)
c=C0+w×z=C0+w×g(q)
[2 生産要素のケース]
生産関数:
q=F(z1, z2)
(3.1)
wi:第 i 生産要素の価格 (i=1, 2)
c:費用
c=w1z1+w2z2
(3.2)
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[費用最小化問題(qとw1, w2は一定)]
min w1 z1 + w2 z 2
z1 , z 2
subject to
q=F(z1, z2)
・企業は,所与の生産量 q と所与の価格 w1, w2 のもとで,
費用が最小となる要素投入量(z1, z2)を選択する。
[n 生産要素のケース]
(生産関数)
q:生産物の産出量
zi:第 i 生産要素の投入量(i=1,・・・, n)
q=F(z1, z2,・・・, zn)
(費用)
wi:第 i 生産要素の価格 (i=1,・・・, n)
c:費用
c=w1z1+ w2z2+・・・+ wnzn
[費用最小化問題(qとw1,・・・, wnは一定)]
min w1 z1 +L + wn z n
z1 , L, z n
subject to
q=F(z1,・・・, zn)
■ 2生産要素の場合────────────────
以下では 2 生産要素のケースについて議論するが,使わ
れる手法は一般の場合においても適用可能なものである。
等産出量曲線:同じ生産量が得られる2生産要素の投入量
の組合せ
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∂F ∂F
限界代替率:等産出量曲線の傾き,MRS21= ∂z ÷ ∂z
1
2
[費用最小化条件]
∂F ∂F
w1
MRS21= w ,すなわち ∂z ÷ ∂z
2
1
2
w1
= w2
(3.3)
・ 費用最小化の点は図 3.13 の P 点のように等産出量曲線
と傾きが価格比
w1
である直線が接する点である。
w2
q
q
要素需要関数(生産量一定) D1 , D2 :所与の生産量のも
とで,要素価格と費用を最小にする要素投入量との関係
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z1 = D1q ( w1 , w2 ) , z 2 = D2q ( w1 , w2 )
(3.4)
・(3.1)と(3.3)から要素需要関数が求められる。
q
q
・ 要素需要関数 D1 , D2 は 0 次同次の関数である。
q
q
∀λ>0, Di (λ w1 , λ w2 ) = Di ( w1 , w2 ) (i=1, 2)
最小費用:所与の要素価格のもとで,所与の産出量を実現
するのに必要な最小の費用
費用関数:産出量と最小費用との関係
q
q
C(w1, w2, q)= w1 D1 ( w1 , w2 ) + w2 D2 ( w1 , w2 ) (3.5)
・ 費用関数 C は 1 次同次の関数である。
∀λ>0, C (λ w1 , λ w2 , q ) = λ C ( w1 , w2 , q )
需要理論における補償需要と全く同じ論理構造である。
要素需要関数は補償需要関数に,費用関数は支出関数に対
応しており,以下が成立するが容易に分かる。
[費用関数と要素需要関数の関係]
Shephardの補題:
Ci ( w1 , w2 , q ) = Diq ( w1 , w2 )
ただし, Ci ( w1 , w2 , q ) =
(i=1, 2)
∂C ( w1 , w2 , q )
。
∂wi
[要素需要関数の性質]
1. 要素需要の代替効果は対称である。すなわち,
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Dijq ( w1 , w2 ) = D qji ( w1 , w2 )
(i ≠ j )
2. 各要素価格変化について,代替効果の価値の総和はゼロ
である。すなわち,
⎡ D11q ( w1 , w2 )
( w1 , w2 ) ⎢ q
⎣ D21 ( w1 , w2 )
D12q ( w1 , w2 ) ⎤
⎥ = ( 0, 0 )
D22q ( w1 , w2 ) ⎦
3. 自己代替効果は非正である。すなわち,
Diiq ( w1 , w2 ) ≤ 0
(i=1, 2)
4. 2財のケースでは,交差効果は非負である。すなわち,
Dijq ( w1 , w2 ) ≥ 0
(i ≠ j )
4 短期と長期
企業の短期と長期の行動を説明する。
■ 短期と長期の費用──────────────────────
K:資本設備
L:労働の雇用量
q:生産物の産出量
q=F(K, L)
(4.1)
r:資本賃貸率(一定)
w:賃金率(一定)
c:総費用
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c=rK+wL
(4.2)
短期 short-run:K を変更できない。
長期 long-run:最適な K を選ぶことができる。
短期費用関数:所与の資本量 K もとで,費用 c と生産量 q
との関係
L=G(K, q) ⇔ q=F(K, L)
(4.3)
とすると,
c=rK+wG(K, q)
(4.4)
短期総費用(STC)曲線:図 3.9 の各 K に対応する曲線
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長期費用関数:最適な資本量を選択したときの費用 c と生
産量 q との関係
[費用最小化の条件]
∂c
=r+wGK (K,
∂K
⇔
q)=0
K=Ψ(q)
ただし,GK(K, q) :=
(4.5)
(4.6)
∂G ( K , q )
∂K
・Ψ(q)は q だけ生産するときの最適な(費用が最小となる)
資本量を表す。
(4.6)を(4.4)に代入
c=rΨ(q)+wG(Ψ(q), q)
(4.7)
長期総費用(LTC)曲線:図 3.9 の OL 曲線
・LTC 曲線は STC 曲線群の(下方からの)包絡線である。
・K0=Ψ(q0)ならば,K=K0 の STC 曲線は q=q0 のところで
LTC 曲線と接する(図 3.9,図 3.10)。
長期平均費用(LAC)曲線:図 3.11 の LAC 曲線
長期限界費用(LMC)曲線:図 3.11 の LMC 曲線
・図 3.9 より,LAC 曲線は SAC 曲線群の(下方からの)
包絡線である。
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・限界費用と平均費用の関係から,SMC 曲線は SAC 曲線
の最低点を,また LMC 曲線は LAC 曲線の最低点を通過
する。
・K0=Ψ(q0)のとき,図 3.10 より,K=K0 の SAC 曲線は q=q0
のところで LAC 曲線と接し,K=K0 の SMC 曲線は q=q0
のところで LMC 曲線と交わる。
■ 短期と長期の供給──────────────────────
(4.4)より,短期の利潤は
pq-[K+wG(K,
q)]
[短期の利潤最大化条件]
p=wGq(K, q)(=SMC)
⇔
(4.8)
q=SK(p)
(4.9)
∂G ( K , q )
)
(ただし,Gq(K, q) :=
∂q
短期供給関数:関数 SK
(4.7)より,長期の利潤は
pq-[rΨ(q)+wG(Ψ(q),
q)]
[長期の利潤最大化条件]
p=rΨ’(q)+w[GK(Ψ(q), q)Ψ’(q)+Gq(Ψ(q), q)]
(=wGq(Ψ(q), q))
((4.5)と(4.6)より)
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∴
p=wGq(Ψ(q), q)(=LMC)
⇔
q=S(p)
(4.10)
(4.11)
長期供給関数:関数 S
短期供給曲線:図 3.12 の SK 曲線(SMC 曲線)
長期供給曲線:図 3.12 の SS’曲線(LMC 曲線)
・(4.6),(4.8),(4.10)より,図 3.12 において,K0=Ψ(q0)と
K
すると,短期供給曲線 S 0 (K=K0 の SMC 曲線)と長期
供給曲線 SS’(LMC 曲線)は q=q0 で交差する。
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[企業の短期と長期の行動]
企業の資本量を K0,生産物価格を p0 とする。
価格が p0 ならば,企業は生産量 q0 を選ぶ。
価格が p1 に上昇すると,
⇒短期では生産量 q0′ を選ぶ。
⇒長期では資本量 K1=Ψ(q1)と生産量 q1 を選ぶ。
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