産業組織論 II 第 6 講: 製品差別化 3 三浦慎太郎 2014 年 11 月 10 日・11 日 神奈川大学 1 本日の概要 ⃝ 二段階ホテリングモデル: ➢ これまでのあらすじ ❒ ベルトラン@差別化財 ➜ 価格競争のみ.差別化は所与. ❒ ホテリング ➜ 差別化競争のみ.価格は所与. ➢ 差別化・価格の双方がコントロールできる場合,どうなる? 1. 同時手番で差別化の程度を決定 2. 差別化の度合いを所与として価格競争 ➢ 均衡で実現する差別化の程度・価格とは? ➜ 価格競争があっても中央に収束する? 2 二段階ホテリングモデル 3 ⃝ Q.「価格競争を含むホテリングモデルで差別化は起こるか?」 ➜ A.「 」 ⃝ 牛丼競争再々考 ➢ すき家 (S) と松屋 (M) は牛丼市場@六角橋の複占企業. ➢ 両社とも六角橋オリジナル牛丼を開発し,販売する. ❒ つゆのベースとなる味を同時手番で選択. ❒ 選択肢は以下の 3 種類: 甘口・バランス・辛口 ❒ すき家・松屋の味をそれぞれ xS , xM で表す. ➢ 製品特徴の周知が徹底した後,両社は価格を同時手番で選択. ❒ 各社の味を両企業・消費者がきちんと認識した後の話. ❒ すき家・松屋の価格をそれぞれ pS , pM で表す. ➢ キャパシティ制約なし・同一の生産技術を仮定する. ➜ 費用関数: C(qi) = 200qi (qi: 企業 i の生産量) 4 ➢ 消費者は “理想的な牛丼の味”について好みを持つ. ❒ 好みは甘口 (x = 0) から辛口 (x = 1) までグラデーション. ❒ 0 から 1 までの任意の味を支持する消費者は同数. ➜ 消費者の好みは [0, 1] 区間に一様に分布していると仮定. ➜ 消費者の総数は 1 で基準化する. ➢ 消費者は各社の味・価格を観察した上で購入先を決定. ❒ 消費者 x がすき家から購入した場合の効用: ux(S) = (1) ❒ 消費者 x が松屋から購入した場合の効用: ux(M ) = (2) ❒ 800: 牛丼消費からの効用 ❒ 360(xi − x)2: 理想からの乖離に伴う不効用 ❒ 各消費者は (1) と (2) を比較し,高効用の牛丼を 1 単位消費 5 二段階ホテリングモデル ⃝ ゲーム的状況をゲームの木を用いて定式化する. ➜ まずはゲームの流れをおさらい: 1. すき家と松屋が を選択. ➢ 甘口 (xi = 0)・バランス (xi = 1/2)・辛口 (xi = 1) 2. 両社の味が公になった後, ➢ 0 以上の任意の値を価格として選択可能. を選択. 3. 味・価格がオープンになった後, 4. 利潤 πS (xS , xM , pS , pM ),πM (xS , xM , pS , pM ) が決定. ➜ 展開形ゲームだが, ➢ シュタッケルベルク競争のような先手・後手の構造ではない. ➢ 各段階でのプレイヤーの行動タイミングは同時. ➢ 前段階における相手の行動については正しく把握. 6 ÜË ¼ ÜŠ˽ ÜË ¼ ÜÅ ½ ¾ ÜË ÜÅ ½ ¾ ÔË ½ Ž ½ ˾ ž ÔÅ Ë ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ Å ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ ⃝ ゲームの木 (簡略版) は上のようになる. 7 ÜË ¼ ÜŠ˽ ÜË ¼ ÜÅ ½ ¾ ÜË ÜÅ ½ ¾ ÔË ½ Ž ½ ˾ ž ÔÅ Ë ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ Å ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ ⃝ 意思決定ノードを囲む楕円を と呼称. ➢ ➢ 相手が行動したのは分かるが,何を選択したかは不明. 8 ÜË ¼ ÜŠ˽ ÜË ¼ ÜÅ ½ ¾ ÜË ÜÅ ½ ¾ ÔË ½ Ž ½ ˾ ž ÔÅ Ë ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ Å ´ÜË ÜÅ ÔË ÔÅ µ ⃝ このようなゲームを と呼称. ➢ 同時手番ゲームは不完全情報ゲームとして表現可能. ➢ 要は「相手の選択を知る前に自身の行動を選択する」構造. 9 二段階ホテリングモデル ⃝ 部分ゲーム完全均衡ではどのような差別化・価格が実現するか? ➜ 後向き帰納法で解く. ➜ 二段階目のナッシュ均衡 ➪ 一段階目のナッシュ均衡 ⃝ 一段階目 (差別化競争) の結果を前提として価格競争を分析. ➢ xS , xM は前提条件として扱う. ➢ ベルトラン競争 (第 2・4 講) と同様に解く: 1. 各社の を導出. ❒ xS = xM ➜ ❒ xS ̸= xM ➜ (xS < xM を仮定) ➪ x ˆ(スイッチ点) を導出. 2. 各社の を導出. 3. を導出し,ナッシュ均衡を求める. 10 二段階ホテリングモデル ⃝ 二段階目 (価格競争) におけるナッシュ均衡を求める. ケース 1. xS = xM = x (同質財のケース) ステップ 1. 各社の需要関数を導出する. ➢ 同質財なので, ➢ すき家の需要関数 DS (pS , pM ; x, x) は, if pS < pM if pS = pM DS (pS , pM ; x, x) = if pS > pM ➢ 同様に松屋の需要関数 DM (pS , pM ; x, x) は, if pS < pM if pS = pM DM (pS , pM ; x, x) = if pS > pM (3) (4) 11 二段階ホテリングモデル ステップ 2. 各社の利潤関数を導出する. ➢ すき家の利潤関数 πS (x, x, pS , pM ) は, πS (x, x, pS , pM ) = ➢ 松屋の利潤関数 πM (x, x, pS , pM ) は, πM (x, x, pS , pM ) = if if if if if if pS < pM pS = pM (5) pS > pM pS < pM pS = pM (6) pS > pM ➢ 明らかに両社の利潤関数は不連続.➜ 一階条件は 12 二段階ホテリングモデル ステップ 3: 最適反応を導出し,ナッシュ均衡を求める. ➢ すき家の最適反応 PS∗(pM ; x, x) は, { if ∗ PS (pM ; x, x) = if ∗ (p ; x, x) は, ➢ 松屋の最適反応 PM S { if ∗ PM (pS ; x, x) = if (7) (8) ➢ (7) と (8) のグラフの交点がナッシュ均衡. 13 Ô Ë Å Ë È £ ´Ô Ü Üµ Ë Å È £ ´Ô Ü Üµ ¾¼¼ ナッシュ均衡 ¼ Ô ¾¼¼ ➢ ケース 1(xS = xM ) におけるナッシュ均衡は, Å . 14 二段階ホテリングモデル xS ̸= xM (差別化財のケース.xS < xM を仮定) ステップ 1. 各社の需要関数を導出する. ➢ xS と xM の間に 消費者 x ˆ が存在. = ケース 2. 2) + p = 360(x2 − 2x x 2) + p − 2x x ˆ + x ˆ ˆ + x ˆ ⇔ 360(x2 S S M M S M 2 +p + p = −720x x ˆ + 360x ⇔ −720xS x ˆ + 360x2 M S M M S ⇔ 2 ) − (p − p ) 720(xM − xS )ˆ x = 360(x2 − x S M M S したがって (9) 15 すき家 ÜË 松屋 Ü ÜÅ ¼ ½ ➢ すき家の需要関数 DS (pS , pM ; xS , xM ) は, DS (pS , pM ; xS , xM ) = ➢ 松屋の需要関数 DM (pS , pM ; xS , xM ) は, DM (pS , pM ; xS , xM ) = ➢ おまじないとして |pS − pM | ≤ 90 を仮定. 16 二段階ホテリングモデル ステップ 2. 各社の利潤関数を導出する. ➢ すき家・松屋の利潤関数は以下のようになる: ➜ スペースの関係上,単に πS , πM で表記する. πS = (pS − 200)DS (pS , pM ; xS , xM ) = πM = (pM − 200)DM (pS , pM ; xS , xM ) = ➜ 利潤関数は価格 pS , pM について連続 (滑らか) である. 17 ステップ 3. 最適反応を導出し,ナッシュ均衡を求める ➜ 利潤関数は連続 (滑らか) なので一階条件が使える! ➢ 利潤最大化の一階条件より, ∂πS = ∂pS 即ち: pS − 200 = 360(xM + xS )(xM − xS ) − (pS − pM ). ⇔ 2pS = pM + 200 + 360(xM + xS )(xM − xS ). したがってすき家の最適反応 PS∗(pM ; xS , xM ) は, PS∗(pM ; xS , xM ) = (10) 18 ➢ 利潤最大化の一階条件より, ∂πM = ∂pM 即ち: 720(xM − xS ) − 360(xM + xS )(xM − xS ) +pS − pM − pM + 200 = 0. 2pM = pS + 200 − 360(xM + xS )(xM − xS ) + 720(xM − xS ). ∗ (p ; x , x ) は, したがって松屋の最適反応 PM S S M ∗ (p ; x , x ) = PM S S M (11) 19 二段階ホテリングモデル ➢ (10) と (11) より,ナッシュ均衡価格 (p∗S , p∗M ) は, = 1 ∗ = pS + 150 + 90(xM + xS )(xM − xS ) + 180(xM − xS ) 4 即ち, 3 ∗ pS = 150 + 90(xM − xS )(2 + xS + xM ) 4 ⇔ (12) 20 二段階ホテリングモデル ➢ (12) より, = = 100 + 60(xM − xS )(2 + xS + xM ) + 100 −180(xM − xS )(xM + xS ) + 360(xM − xS ) = 200 + 60(xM − xS )(2 + xS + xM − 3xM − 3xS + 6) = (13) 21 二段階ホテリングモデル ⃝ 二段階目の結果まとめ ケース 1. xS = xM (同質財の場合) ➢ p∗S = p∗M = 200 ケース 2. xS < xM (差別化財の場合) ➢ p∗S = 200 + 120(xM − xS )(2 + xS + xM ) ➢ p∗M = 200 + 120(xM − xS )(4 − xS − xM ) ➜ 第 2 講・4 講で学習したように,同質財の場合は まで下がり,差別化財の場合は される. ➜ この結果を踏まえた上で第一段階のゲームを考察する. 22 二段階ホテリングモデル ⃝ 一段階目の差別化競争を分析する. ➢ 二段階目の帰結を用いて一段階目のゲームを縮約する. ➜ 利潤関数が xS , xM にのみ依存する形に書き直す. ➜ π ˆi(xS , xM ) ≡ πi(xS , xM , p∗S , p∗A) とする. ➢ 縮約ゲームのナッシュ均衡を求める. ケース 1. xS = xM (同質財の場合) ➢ 同質財のケースが起こるのは以下の 3 通り: ➜ (xS , xM ) = ➢ 上記のケースでは均衡価格が限界費用まで低下. ➢ したがって同質財のケースにおける各社の利潤は, (14) 23 ケース 2. xS < xM (差別化財のケース) ➢ π ˆS (xS , xM ) と π ˆM (xS , xM ) を導出する. ➢ まず,ナッシュ均衡価格における x ˆ∗ を求める. p∗M − p∗S = 200 + 120(xM − xS )(2 + xS + xM ) −200 − 120(xM − xS )(4 − xS − xM ) = 120(xM − xS )(2 + xS + xM − 4 + xS + xM ) = (15) ➢ したがって, ∗ − p∗ p x + x M M S x ˆ∗ = S − 2 720(xM − xS ) = = (16) 24 ➢ 縮約ゲームにおけるすき家の利潤関数 π ˆS (xS , xM ) は, π ˆS (xS , xM ) = (p∗M − 200)ˆ x∗ = = (17) ➢ 縮約ゲームにおける松屋の利潤関数 π ˆM (xS , xM ) は, ˆ∗) π ˆM (xS , xM ) = (p∗S − 200)(1 − x = = (18) 25 二段階ホテリングモデル ➢ (17) と (18) より,差別化による各社の利潤は以下の通り: ❒ (xS , xM ) = (0, 1/2) の場合 * π ˆS (0, 1/2) = = 62.5 * π ˆM (0, 1/2) = = 122.5 ❒ (xS , xM ) = (0, 1) の場合 * π ˆS (0, 1/2) = * π ˆM (0, 1/2) = = 180 = 180 ❒ (xS , xM ) = (1/2, 1) の場合 * π ˆS (0, 1/2) = * π ˆM (0, 1/2) = = 122.5 = 62.5 26 Å Ë ¼ ¼¸ ¼ ¼ ½ ¾ ½ ½ ¾ ½¾¾ ¸ ¾ ¾ ½ ¼¸ ½ ¼ ¸ ½¾¾ ¼¸ ¼ ¾ ¸ ½¾¾ ½ ½ ¼¸ ½ ¼ ½¾¾ ¸ ¾ ¼¸ ¼ ➢ 以上の結果を利得行列にまとめると上のようになる. ❒ xS > xM のケースでは,ケース 2 の利得を入れ替えればよい. ❒ ナッシュ均衡は? 27 Å Ë ¼ ¼¸ ¼ ¼ ½ ¾ ½ ½ ¾ ½¾¾ ¸ ¾ ¾ ½ ¼¸ ½ ¼ ¸ ½¾¾ ¼¸ ¼ ¾ ¸ ½¾¾ ½ ½ ¼¸ ½ ¼ ½¾¾ ¸ ¾ ¼¸ ¼ ➢ すき家の最適反応を求める: ❒ xM = 0 ならば, ❒ xM = 1/2 ならば, ❒ xM = 1 ならば, 28 Å Ë ¼ ¼¸ ¼ ¼ ½ ¾ ½ ½ ¾ ½¾¾ ¸ ¾ ¾ ½ ¼¸ ½ ¼ ¸ ½¾¾ ¼¸ ¼ ¾ ¸ ½¾¾ ½ ½ ¼¸ ½ ¼ ½¾¾ ¸ ¾ ¼¸ ¼ ➢ 松屋の最適反応を求める: ❒ xS = 0 ならば, ❒ xS = 1/2 ならば, ❒ xS = 1 ならば, 29 Å Ë ¼ ¼¸ ¼ ¼ ½ ¾ ½ ½ ¾ ½¾¾ ¸ ¾ ¾ ½ ¼¸ ½ ¼ ¸ ½¾¾ ¼¸ ¼ ¾ ¸ ½¾¾ ½ ½ ¼¸ ½ ¼ ½¾¾ ¸ ¾ ¼¸ ¼ ➢ ナッシュ均衡 (x∗S , x∗M ) は二つ存在する: ❒ (x∗S , x∗M ) = ❒ 均衡では と言える! 30 ⃝ 部分ゲーム完全均衡における帰結: 一段階目: 最大限の差別化, i.e., (x∗S , x∗M ) = (0, 1) or (1, 0) 二段階目: 差別化財のベルトラン競争: ➢ 均衡価格 (p∗S , p∗M ): p∗S = p∗M = = 560 = 560 (19) (20) ➢ 均衡における各社の需要量: ((16) より導出) 1 = (21) 2 DS (0, 1, 560, 560) = DM (0, 1, 560, 560) = 1 = 2 (22) ➢ 均衡における各社の利潤: ∗ = π∗ = πS M = 180 (23) 31 二段階ホテリングモデル ⃝ 価格競争を見越した差別化競争では ➢ と呼称. が起きる. ⃝ Q.「何故企業は製品差別化をするインセンティヴを持つのか?」 ➜ A.「続く価格競争を緩和するため. 」 ➢ 差別化で “信者”を獲得すれば多少高額でも買ってくれる. ➢ 価格競争を緩和し,正の利潤を確保.(4 講) ➢ 即ち, を行う! ➜ 反対に競争回避効果が見込めない場合,差別化しない. ➢ (一段階) ホテリングモデルでは差別化が起きなかった. ➢ ➢ 「シェア最大化 = 利潤最大化」 ➪ 最大公約数的特徴に収束. ➜ (5 講) 32 ⃝ 一般的に競争回避効果とマーケットサイズ効果は共存する. ➢ 競争回避効果: 差別化を 効果 ➢ マーケットサイズ効果: 差別化を 効果 ➢ これらの効果は にある. ❒ 差別化が大 (i.e., 企業間の立ち位置に差がある) 場合: ➜ 競争回避効果は ,マーケットサイズ効果は ❒ 差別化が小 (i.e., 企業間の立ち位置に差がない) 場合: ➜ 競争回避効果は ,マーケットサイズ効果は ➢ 効果の大小関係はケースバイケース: ❒ 差別化の小さい産業 ➪ ❒ 差別化の大きい産業 ➪ ❒ 大小関係の決定要因の一つは, が支配的 が支配的 . 33 二段階ホテリングモデル ⃝ 製品差別化モデルの関係性 差別化選択 出来ない ´固定µ 出来る 価格競争 差別化財 あり 同質財 なし 価格競争 あり 二段階 ホテリング ´ 講µ ホテリング 差別化財 ベルトラン ´ 講µ ´ 講µ 価格競争 なし 独占的 競争 あり ベルトラン 競争 ´¾ 講µ なし 共謀 34 まとめ 1. 企業が製品差別化を行うインセンティヴを持つ理由は, 出来るようにするため. ➜ . 2. 競争回避効果が小さい環境,例えば では, が重要となり, によって製品差別化が起きない. 3. 競争回避効果とマーケットサイズ効果は 状況 . 4 製品差別化の度合いが大きい産業と小さい産業の違いは,競争 回避効果とマーケットサイズ効果の大きさに依存する: ➢ 前者が支配的 ➜ 差別化が ➢ 後者が支配的 ➜ 差別化が 35
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