床革を使用していた 「高級牛革」ビジネスバッグ 国民生活センター 商品テスト部 牛革の表示があるビジネスバッグを購入したが 10 回ほどの使用 とこ がわ で破損し、牛革の表示が疑わしいので調べたところ床革を使用 していたことが分かり、返品・返金となった事例を紹介する。 相談内容 面を電子顕微鏡で観察した。 その結果、8カ所すべて繊維構造を持たない インターネットの通信販売を見て気に入り、牛 革と表示があるビジネスバッグ (以下、バッグ) 滑らかで薄い表面層 ( 拡大鏡観察における茶色 を購入した。10 回ほど使用したところ、バッグ の層 写真1) と、革特有の繊維構造を持った下 の収納口を止めるかぶせ部分 (以下、フラップ 層( 拡大鏡観察における白色の層 写真1)の2層 部 図1)が縫い目に沿って破れた。表示どおり 構造が観察された。この繊維構造を持った下層 の牛革のバッグとは思えなかった。販売店に返 からは、繊維が太い、床面*1は観察されたが、 品・返金を申し出たところ、購入後5日までは 繊維が細く緻 密 な銀面 ( 乳頭層 ) は観察されな 返品・返金に応じるが、それ以降は応じられな かった。しかし、牛特有の比較的均一で充実し いと言われたものの、 新品と交換してもらえた。 ている繊維組織であったことから、この皮革は しかし、新品も牛革とは思えない。販売店が新 牛の床革*2( 図2) と判別された。 品とともに破損したバッグも送り返してきたの ⑵表示および広告調査 とこ ち みつ で、表示に問題がないか調べてほしい。 苦情品および当センターが別途同じ店から購 商品テストおよび調査 裏面に縫合されていた フラップ部が破断して いる 相談を受けた消費生活センター(以下、受付 センター) は、国民生活センター(以下、当セン ター)に商品テストを依頼した。 図1 ⑴皮革の判別 苦情品の破断部分 破れたバッグ(以下、苦情品) の材質が牛革で 茶色の表面層(塗装膜) あるかを調べるため、苦情品の本体表面、本体 白色の下層 ( 床面 ) 裏面、本体裏面ポケット、本体左側面、本体右 側面、本体底面、フラップ部表面、フラップ部 裏面の計8カ所から皮革片を切り出し、その断 (牛の床革と判別) 写真1 材質の断面 2014.6 国民生活 30 入した苦情同型品の材質等に関する表示を調べ 広告表示で販売することは、不当景品類及び不 た。苦情品および苦情同型品に付属していたタグ 当表示防止法 (景品表示法) 上問題となるおそれ や添付文書を確認したところ、タグには手入れ方 があると考えられた。 法に関する注意表示のみが記載されており、添付 ⑶フラップ部の観察 文書にも材質等に関する表示は見られなかった。 苦情品の破断した部分を観察したところ、本 一方、苦情品の販売サイトの広告表示を確認 体裏面およびフラップ部ともに縫合部に沿って したところ 「牛革最高級」 「牛革素材」 「本革使用」 破断しており、縫い糸は本体裏面に切れずに残っ 「高級牛革」などの記載が見られた。 ていた (写真2) 。 家庭用品品質表示法雑貨工業品品質表示規程 また、苦情同型品のフラップ部は1度の直線 では 「かばん (牛革、馬革、豚革、羊革又はやぎ革 縫いのみで本体と縫合されていた。縫合部の皮 を使用したものに限る) 」の表示については 「皮 革は縫合の際に直線状に並んだ穴が開くため、 革の種類の表示に際しては、その品質を適正に 他の皮革部分より強度が低下すると考えられる。 表示すること」とされており「外面積の 60%以 また、 フラップ部の柔軟性が比較的乏しいため、 上が牛、馬又は豚の床革」のかばんは 「床革」の 縫合部を支点にしてフラップの開閉操作をする 用語を用いて表示することとされている。また 際には縫合部に大きな力が加わるものと考えら 「表示は、かばんごとに、消費者の見やすい箇所 れた。 にわかりやすく記載すること」 とされている。な 以上のことから、縫合により強度の低くなっ お、 「牛革」の用語を用いることができるのは、 ているフラップ部の縫合部に力が集中しやすい 外面積の 60%以上が表皮付き (銀付革*3)の牛 構造で、開閉操作を繰り返した場合、苦情品の 革の場合のみである。 ように縫合部を中心に破断する可能性があり、 設計上好ましくないと考えられた。 外面積の 60%以上に牛の床革を使用してい る苦情品では、見やすい箇所に 「床革」 と表示す 結果概要 る必要があるが、そのような表示は確認できな かったことから、同法上問題となるおそれがあ 受付センターが上記の商品テスト結果を販売 ると考えられた。また、 「牛革」 の表示を用いる 店に伝えたところ、仕入先からの情報に基づき ことができない牛の床革を使用している苦情品 表示しているので仕入先に連絡してほしいと言 を「牛革最高級」 「牛革素材」 「高級牛革」 などの われた。受付センターが仕入先 (製造業者)に連 毛 表皮 真皮 乳頭層 網状層 皮下組織 銀面 銀面層 床 ※製革の工程で、毛、表皮、 皮下組織は除去される 図2 絡したところ、根拠を示すように言われ、商品 と表示 銀付革 ※「牛革」 テスト報告書のコピーとそれに対する見解を求 める旨の書面を送った。その後、報告書につい ての回答はなかったが、相談者に販売店から返 と表示 床革 ※「床革」 金があり、相談者は所有していたバッグを販売 塗装膜 (新たに塗装) 店に返送した。苦情品の販売サイトの広告表示 牛の皮革断面構造モデル は 「床革」 に変更された。 *1 皮革を層状に分割した場合の下層の網状層部分 縫合部に沿って破断し 縫い糸が残っている *2 皮革をそいだ場合の、表皮の付かない内側の革を指し、表面に 塗装仕上げをする、型押しをする、表面を起毛させるなどの加 工がされ、さまざまな用途に用いられる *3 皮革の表皮側には、銀面といって、特徴的な模様のある面があり、 この面を生かして仕上げられた革 写真2 苦情品のフラップ部の拡大観察 2014.6 国民生活 31
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