棒渦巻銀河における星形成 - CfCA

国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書
棒渦巻銀河における星形成
遠野恭平(東北大学)
利用カテゴリ
XC-Trial
渦巻き銀河を観測すると、渦状腕に沿ってダークレーンが見つかる。このダークレーンは、渦
状腕のポテンシャルに落ち込んだ星間ガスの衝撃波で生じたものであり、衝撃波を通過し圧
縮されたガスが星形成する場であると考えられている。この考えは、観測をうまく説明できるた
め、渦巻き銀河の星形成シナリオとして一般的なものとなっている。しかし、棒渦巻銀河の星
形成は、このプロセスだけでは説明できない問題がある。棒渦巻銀河のbarと渦状腕は、どち
らもはっきりとしたダークレーンを持つ。このことから、2つの領域では同様の星形成が生じると
考えられる。しかし実際は、渦状腕では星形成が見られるのに対し、barではそれがほとんど
見られず、2つの領域で星形成率(SFR)や星形成効率(SFE)に2倍程度の差があることが分
かっている(Momose et al.,2013)。 この星形成の違いは何によって生じるのか?これをシミュ
レーションを用いて明らかにしようというのが本研究のテーマである。
上記の研究を行うため、本研究ではSmoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法とtree
法を用いている。各手法のコーディングは既に完了しているため、今回はXC30-Trialカテゴリ
にて適切な解像度やタイムステップの見積り作業を行い、1 つのモデルの計算に要する時間
を算出した。以下、その概要を述べる。
初めに計算に必要な粒子数について考える。星形成は、衝撃波によって形成される巨
大分子雲(GMC)等の構造内で行われる。よって、星形成について調べる本研究では、分
解能の目安として、1 つの GMC を数十個の SPH 粒子で構成できるだけの粒子数を
得る事が望ましい。一般的な巨大分子雲(GMC)の質量は
究では、ガスの総質量が
は
と言われており、本研
であるような銀河を想定する。よって、適切な粒子数
個となる。
次に、適切なタイムステップの長さについて考察する。本研究は、ガスが bar や
spiral を通過する際の運動に着目するため、ガスがそれらの構造を通過するおおよその
タイムスケールである 10Myr よりも十分短いタイムステップが求められる。よって今
回はタイムステップを 0.1Myr として計算を行う。1 モデルの計算時間として、銀河
が数回転するタイムスケールである 1Gyr を採用すると、全ステップ数は
となる。
以上の条件下でテスト計算を行った結果、1 ステップあたりの計算時間は 128 並列
で 19s であった。これより、1 モデル(10000 ステップ)の計算時間は約 53h となる。
XC-Trial のコア数の上限より正確な値は検証できないが、XC-MD カテゴリの Large
キューを用いた場合、1 モデルの計算時間は 640 並列で最高 11h まで短くなること
が期待される。
この見積もりでもってモデルを構築し、研究を進めていく予定である。