2014/4/15 日本心理学会第75回大会 発表概要 2011年9月16日(金) WS065 弁解としての嘘の 社会的機能 ●背景と目的 ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 ●総合的考察 ●今後の検討課題 菊地 史倫 (公財)鉄道総合技術研究所 ※本研究は,東北大学大学院文学研究科所属当時のものである 1 / 45 WS065 嘘の一般的な印象 発表概要 ●背景と目的 ネガティブな印象(Backbier et al., 1996) ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 道徳・社会規範からの逸脱行為(Bok, 1978 ) ●総合的考察 “嘘つきは泥棒の始まり” ●今後の検討課題 搾取的な嘘(e.g. 詐欺) 2 / 45 WS065 3 / 45 WS065 嘘使用の日常性 なぜ嘘をつくのか? 嘘 「嘘をついてはいけない」 一日に1回以上,人は「嘘」をつく コミュニケーション方略の一つ (Buller & Burgoon, 1994; Miller & Stiff, 1993) 嘘(をつく)⊂目的達成 (DePaulo et al, 1996; 村井,2000) “嘘も方便” 嘘の動機 利己>利他 1.損失(不利益)回避 2.(新)利益の獲得 「嘘」の有用性や必要性 日常的な「嘘」とは? WS065 = (DePaulo, et al., 1996; Vrij, 2008) 4 / 45 WS065 5 / 45 1 2014/4/15 嘘をつくときの動機と目的 日常的な嘘の使用状況 他者との葛藤が予測される状況(Vrij, 2008) 嘘の話し手 嘘の聞き手 動機 利他的 利己的 目的 損失回避 利益獲得 利他・回避 利己・回避 利他・獲得 利己・獲得 搾取的な嘘 調和維持を目指した嘘 必要以上の葛藤回避を目指した 損失回避の嘘が使用されやすい 6 / 45 WS065 日常的な嘘の特性 目的 損失回避 発言内容の欺瞞性に関する研究 ◆村井(1998)の研究 動機 利他的 < 利己的 検討対象 社会的潤滑油 弁解 7 / 45 WS065 なんだか 色々あって (DePaulo, et al., 1996) (Saxe, 1991) 寝てたので電話に 気づかなかった ●社会的潤滑油としての嘘 ●弁解としての嘘 恋人の料理がおいしくないとき 寝坊して遅刻したとき 「おいしいよ!」 「おばあちゃんが 倒れちゃって・・・」 嘘っぽい 昨日は どうして電話に でなかったの? 話し手 聞き手 曖昧度・生起頻度・立証可能性 ⇒欺瞞性の認知に影響 ◆Kikuchi, Sato, & Nihei (2005)の研究 欺瞞性認知に生起確率が最も強い影響 ※生起頻度・生起確率ともに“事象の起こりやすさ”を示すものだが、 前者はGriceの質の公準の下位公準であることを想定している。 8 / 45 WS065 生起確率と目的達成の関係 生起確率と目的達成の関係 生起確率低⇒欺瞞性高(kikuchi et al., 2005; 村井,1998) 生起確率低の嘘だとゆるしてもらえるのはなぜ? 生起確率と目的達成(不利益回避)の関係は? ◆菊地・佐藤・阿部・仁平(2008)の研究 生起確率の異なる嘘の欺瞞性/信憑性と不利益回避について検討 バスが事故に 巻き込まれて しまって・・・ しょうが ないね 話し手 嘘っぽい 生起確率は様々な認知と関連あり 生起確率と重大性の認知には負の関係(Lichtenstein et al., 1978) 生起確率と責任性の認知には負の関係(Fincham & Jaspers, 1991) バスが事故に 巻き込まれて しまって・・・ しょうが ないね 嘘っぽい けど… 聞き手 生起確率低の嘘⇒不利益回避(ゆるしてもらえる) WS065 9 / 45 WS065 10 / 45 話し手 WS065 聞き手 大変だし、 責任もない 11 / 45 2 2014/4/15 感情調整方略としての嘘 嘘をつくときの前提 生起確率低の嘘だとゆるしてもらえるのはなぜ? 嘘をつくには「相手」が必要 生起確率低の嘘⇒怒りを抑制(菊地他,2008) バスが事故に 巻き込まれて しまって・・・ 嘘っぽい けど… しょうが ないね 話し手 聞き手 嘘の話し手 大変だし、 責任もない 欺瞞的コミュニケーション 腹立たない 怒りとゆるしに強い負の相関(菊地他,2008) 責任性の認知⇒感情調整⇒不利益回避? Weiner (2006)の認知・感情・行動モデル 12 / 45 WS065 (deceptive communication; Miller & Stiff, 1993) 嘘に関わる立場の違いを考慮する必要性 菊地他(2008)は嘘の聞き手の立場からの検討 13 / 45 WS065 本研究の目的 発表概要 嘘に関わる立場を区別し、生起頻度が異なる弁解としての 嘘の欺瞞性/信憑性と不利益回避の関係を検討。 生起確率の 低い嘘 信憑性低・損失回避大 生起確率の 高い嘘 生起確率の 低い嘘 信憑性高・損失回避小 話し手 聞き手(研究1) ●背景と目的 ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 ●総合的考察 研究1:嘘の実際の効果 研究2:嘘の想定の効果 生起確率の 高い嘘 嘘の聞き手 ●今後の検討課題 話し手(研究2) 14 / 45 WS065 方法 研究1:嘘の聞き手の立場 生起確率の 低い嘘 ●シナリオ法を用いた質問紙実験 信憑性低・損失回避大 生起確率の 高い嘘 信憑性高・損失回避小 話し手 15 / 45 WS065 聞き手 遅刻場面を用いたシナリオ ●参加者 大学生144人(男性84人・女性60人)。 平均年齢18.55歳(SD = 1.31)。 ●独立変数 嘘の実際の効果の検討 嘘の生起確率(低・高;参加者間要因) 生起確率低の嘘:バス事故に巻き込まれて遅れた 生起確率高の嘘:バス渋滞に巻き込まれて遅れた WS065 隠す心理を科学する(1)―欺瞞的コミュニケーションの観点から― 16 / 45 17 / 45 3 2014/4/15 本研究のシナリオ 従属変数 参加者 知人A 友人 ・大学のレポート課題の打ち合わせのため 待ち合わせをする。 ・約束の時間に知人Aが来ないが、 連絡先を交換しなかったので連絡つかず。 ・結局、Aは30分遅刻してくる。 ・Aが遅刻理由を伝える。生起確率低:バス事故 生起確率高:バス渋滞 ●遅刻理由の生起確率 ⇒操作チェック項目 ●遅刻理由の信憑性 ●遅刻理由の責任 ●遅刻に対する怒り感情 ●遅刻に対するゆるし ●怒り表出行動 全て6件法(0~5) 19 / 45 18 / 45 結果:嘘の聞き手_生起確率 よく 起こる 本当 5 らしい 5 4 主効果が有意 信 憑 性の 評 価 生 起 確 率の評 価 あまり 起こら ない 結果:嘘の聞き手_信憑性 3 2 1 0 確率低の嘘 嘘 らしい 確率高の嘘 図1 遅刻理由別の生起頻度の評価 20 / 4 3 2 1 0 45 結果:嘘の聞き手_責任 責任 あり 腹が たつ 怒り の 評 価 責 任 の評 価 3 2 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図3 遅刻理由別の責任の評価 21 / 45 5 4 主効果が有意 1 責任 なし 確率高の嘘 確率低の嘘 図2 遅刻理由別の信憑性の評価 結果:嘘の聞き手_怒り 5 4 主効果が有意 腹が 立た ない 22 / 45 主効果が有意 3 2 1 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図4 遅刻理由別の遅刻に対する怒りの評価 4 2014/4/15 結果:嘘の聞き手_ゆるし ゆ る しの 評 価 ゆるさ ない する 5 4 1 怒 り表 出 行 動の 評 価 ゆるす 結果:嘘の聞き手_怒り表出行動 0 しない 0 5 主効果が有意 4 3 2 確率高の嘘 確率低の嘘 図5 遅刻理由別の遅刻に対するゆるしの評価 主効果が有意 3 2 1 確率高の嘘 確率低の嘘 図6 遅刻理由別の遅刻に対する怒り表出行動の評価 結果:変数の相関 結果のまとめ 嘘の聞き手の立場における変数の相関 責任 怒り ゆるし 怒り表出 行動 嘘の聞き手の立場からの検討 ⇒嘘の実際の効果 信憑性 生起確率 低の(嘘) 怒り ゆるし 怒り表出 行動 信じやすい 生起確率 高の(嘘) ※青枠は正の相関、赤枠は負の相関 26 / 45 発表概要 怒り ゆるし 信じにくい 怒らない 怒る ゆるす ゆるさない 負の相関 嘘の聞き手 嘘の話し手 する( (1)―欺瞞的コミュニケーションの 観点から から― WS065 隠 す 心理を 心理を科学する 科学する 欺瞞的コミュニケーションの観点 コミュニケーションの観点 27 / 45 研究2:嘘の話し手の立場 ●背景と目的 ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 生起頻度の 低い嘘 生起頻度の 高い嘘 信憑性高・損失回避小 話し手 ●総合的考察 聞き手 嘘の想定の効果の検討 ●今後の検討課題 WS065 信憑性低・損失回避大 28 / 45 WS065 隠す心理を科学する(1)―欺瞞的コミュニケーションの観点から― 292//45 5 2014/4/15 方法 本研究のシナリオ ●シナリオ法を用いた質問紙実験 ●参加者 大学生150人(男性60人・女性90人)。 平均年齢18.47歳(SD = 0.59)。 ●独立変数 嘘の生起確率(低・高;参加者間要因) ●従属変数 発言の生起確率・信憑性・責任の程度・怒り ゆるし・怒り表出行動 参加者 知人 ・大学のレポート課題の打ち合わせのため 待ち合わせをする。 ・寝坊したため約束の時間に間に合わず、 連絡先交換していないので連絡できず。 ・結局、30分遅刻してしまう。 ・参加者が嘘の遅刻理由を伝える。 31 / 45 30 / 45 結果:嘘の話し手_生起確率 よく 起こる 5 本当 5 らしい 4 4 3 信 憑 性の 評 価 生起確率の評価 あまり 起こら ない 結果:嘘の話し手_信憑性 主効果が有意 2 1 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図7 遅刻理由別の生起確率の評価 32 / 嘘 らしい 3 2 1 0 45 結果:嘘の話し手_責任 責任 あり 腹が たつ 主効果が有意 怒 り の評 価 責 任の 評 価 3 2 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図9 遅刻理由別の責任の評価 45 5 4 1 責任 なし 確率高の嘘 確率低の嘘 図8 遅刻理由別の信憑性の評価 33 / 結果:嘘の話し手_怒り 5 4 主効果が有意 腹が 立た ない 34 / 45 主効果なし 3 2 1 0 確率低の嘘 確率高の嘘 図10 遅刻理由別の遅刻に対する怒りの評価 6 2014/4/15 結果:嘘の話し手_ゆるし 結果:嘘の話し手_怒り表出行動 主効果なし ゆ る しの評 価 4 3 2 1 ゆるさ ない 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図11 遅刻理由別の遅刻に対するゆるしの評価 する 5 怒 り表 出 行 動の 評 価 ゆるす 5 4 主効果なし 3 2 1 0 確率高の嘘 確率低の嘘 図12 遅刻理由別の遅刻に対する怒り表出行動の評価 しない 結果:変数の相関 結果のまとめ 嘘の話し手の立場における相関 責任 怒り 怒り表出 行動 ゆるし 嘘の話し手の立場からの検討 ⇒嘘の想定の効果 信憑性 怒り 怒り表出 行動 ゆるし 怒り 38 / 45 信憑性 ゆるし 怒り 信じにくい 怒らない ゆるされる 信じにくい 怒らない 信じやすい 怒らない ゆるされる 信じやすい 怒る 負の相関 嘘の話し手 ゆるし ゆるす ゆるさない 負の相関 39 / 45 WS065 ●背景と目的 ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 ●総合的考察 ●今後の検討課題 生起確率 高の嘘 嘘の話し手 嘘の聞き手 発表概要 生起確率 低の嘘 WS065 生起確率 高の嘘 負の相関 研究1・研究2の結果まとめ 怒り 生起確率 低の嘘 信じやすい 怒らない ゆるされる ※青枠は正の相関、赤枠は負の相関 信憑性 ゆるし 信じにくい 怒らない ゆるされる 嘘の聞き手 40 / 45 WS065 41 / 45 7 2014/4/15 総合的考察 総合的考察 ●嘘に関わる立場に関わらず生起頻度と 信憑性には正の関係。 ⇒信じてもらうためには生起頻度が高い嘘が有効。 ●嘘の聞き手において生起頻度と不利益 回避には負の関係。 ⇒目的達成には生起頻度が低い嘘が有効。 生起頻度→責任性の認知→感情→不利益回避? 生起頻度低の嘘は信憑性が低いので、嘘の露見する リスクは高い→聞き手の探索行動増加(菊地他,2009) 42 / 45 WS065 ●嘘の話し手は生起頻度に関わらず不利益回避 できると想定。 自己利益的バイアス? 設定状況の影響? (参照:菊地他,2009) ●弁解としての嘘の社会的機能 必要以上の葛藤を回避し、調和を維持する機能。 本来的には真実を伝えて謝罪するのが望ましい…。 相手との関係性や状況を考えながら使用している? 嘘をつく人:好き vs. 真実を話す人:尊敬 (Pontari & Shelenker, 2006) 43 / 45 WS065 発表概要 今後の検討課題 ●本研究は嘘が「露見」していない状態 ●背景と目的 ⇒嘘が露見したときに社会的機能はどうなるのか? 機能しない:弁解としての嘘(菊地・佐藤,2010; 菊地他,2010) 機能する:欺瞞的ユーモア(Kikuchi et al, 2011) 未検討:社会的潤滑油としての嘘 ●研究 研究1:嘘の聞き手からの検討 研究2:嘘の話し手からの検討 ●本研究はワンセッションのコミュニケーション ●総合的考察 ⇒通常コミュニケーションは累積的。 長期的なコミュニケーションにおいての効果は? ●今後の検討課題 ※本発表は博士論文を構成する研究の一部を再構成したものです。 共同研究者の佐藤拓氏、指導教官の阿部恒之教授に深く感謝いたします。 44 / 45 WS065 45 / 45 WS065 引用文献1 引用文献2 Backbier, E., Hoogstaten, J., & Terwogt-Kouwenhoven, K. M. (1997). Situational determinants of the acceptability of telling lies. Journal of Applied Social Psychology, 27, 1048-1062. Bok, S. (1978). Lying: Moral choice in public and private life. New York: Pantheon Books. (ボク,S.吉田暁(訳)(1982).嘘の人間学 TBSブリタニカ) Buller, D. B., & Burgoon, J. K. (1994). Deception: Strategic and nonstrategic communication. In J. A. Daly & J. M. 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Lichtenstein, S., Slovic, P., Fischhoff, B., Layman, M., & Coombs, B. (1978). Judged frequency of lethal events. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4, 551-578. Miller, G. R., & Stiff, J. B. (1993). Deceptive communication. Newbury Park: Sage. 村井 潤一郎(1998).情報操作理論に基づく発言内容の欺瞞性の分析 心理学研究, 69,401-407. 村井潤一郎(2000).青年の日常生活における欺瞞 性格心理学研究,9,56-57. Pontari, B. A., & Schlenker, B. R. (2006). Helping friends manage impressions: We like helpful liars but respect truth tellers. Basic and Applied Social Psychology, 28, 177-183. Saxe, L. (1991). Lying: Thoughts of an applied social psychologist. American Psychologist, 46, 409-415. Vrij, A. (2008). Lying: A selfish act and a social lubricant. Detecting lies and deceit: Pitfalls and Opportunities (2nd ed.). Chichester: John Wiley and sons, pp.11-35. Weiner, B. (2006). Social motivation, justice, and moral emotion: An attributional approach. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates. (ワイナー, B. I. 清水 敏彦・唐沢 かおり(監訳)(2007).社会的動機付けの心理学 北大路書房) 8
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