大都市地震時における避難シミュレーション解析

145
総 合 都 市 研 究 第 5号
1
9
7
8
大都市地震時における避難シミュレーション解析
堀口孝男本
要
小坂俊吉ネ
約
地震時を想定した住民の最適避難について,人間行動と都市の構造的な特質を組み込んだシミュレー
ション手法を開発しその基本的なモデノレを構成する諸国子,すなわち,
(
1
) 避難住民の発生分布
(
2
) 避難する方向
(
3
) 避難途上の制約
について検討を行なった。
さらに,このモデルを大都市の中心部を想定した地域と 1
9
4
8年の福井地震火災に適用することによ
り,都市部の避難行動でどのような点が問題となってくるか,その一部を数量的に表現して,選択され
るべき対策への一助となることを切らかにした。
1.はじめに
を行なったものである。
初めに,地震時の人間行動を規定する要因として,避
主に木造家屋密集市街地によって構成されている我国
難開始の時期とその後の発生避難人口の推移,避難方向
の都市においては,大地震発生とともに火災が多発する
および避難住民の流れとしての制限の三点、を取り上げ,
ことが,関東地震あるいは福井地震の例を挙げるまでも
基本的な考えを述べる。次に,本来,市街地が持つ構造
なく予想される。この地震に起因する多発火災から,い
的特性が,避難行動にいかなる影響を及ぼすか,模擬避
かに住民の安全を確保するかが緊急の課題となっている
難シミュレーションを行ない考察する。さらに,昭和二
ことは衆知の事実である。住民の安全確保は,言いかえ
十三年の福井地震の都市火災について,新たに得られた
れば,地震火災の危険性を探求することであり,その危
険性は,出火危険,延焼危険および避難途上における危
知見を述べ,当該地域における,火災の延焼動態に伴な
う,経時的な最適避難についてのシミュレーションの結
険に分類することができる。避難に関する工学的研究
果を報告するものである。
は,東京都防災会議の調査研究 (
1
9
6
7
) が最初であり,
また,電子計算機を利用して,実市街地と避難場所をネ
2
.避難行動について
ットワークに置き換えて,住民の最適避難についてシミ
ュレートしたのは防災美化協会 (
1
9
6
7
) が初めてと思わ
れる。以後,メッシュ分割による延焼過程を組み込んだ
(
1
) 基本的な考え方
災害時の避難行動を規定する要素として,避難開始の
避難シミュレーションによる人的被害など,工学的な研
時期とその後の発生避難人口の時間特性,避難の方向
究がし、くつか発表されている。一方,地震時における住
性,および避難途上の移動特性の三つに分類することが
民の心理学的研究は,新潟地震を契機とする「地震と人
でき,地域毎に異なるこれらの特性をもって, より広域
間行動Jと題して,警視庁の研究報告が発表されてい
的な避難行動を表現することができる。そして,これら
る
。
本稿は,これら工学的,行動心理学的研究の成巣を取
三つの要素は,物理的障害要因である火災延焼,水害,
建物倒壊,路面破壊,事輔の避難路占有,群集の渋滞等
の状況によって時々刻々変化し,その中で最適な避難行
り入れ,避難住民の動きを比較的明確に表現し得るメッ
シュ分割手法を用いることにより,人間行動と市街地の
動を人聞が行なうものと考えることができる。しかしな
両特性を考慮した,地震火災時の最適避難について検討
がら,本研究では避難障害要因として,これらのうちか
*東京都立大学都市研究センター,工学部
1
4
6
総合都市研究
ら影響の大きい火災の延焼および群集の渋滞を第一段階
として取り上げることとする。
激に増加しある時期にピークに至り,以後なだらかに
減少する傾向を示している。このような傾向は火災時に
おいても同様であって,発生避難人口は時間経過ととも
に凝似的な正規分布形を描き,その分布形状は,被災経
験の有無,防災意識の程度による行動特性と,火災延焼
y
o
長口︿相棒州端剖禅
避難開始時期とその後の発生避難人口の特性は,新潟
地震の津浪襲来の際の例をみると,地震発生後津浪の第
一波が達した三十分位から,避難行動を起こす人々は急
第 5号
B
の接近による緊急避難とによって変化し,三つの変曲点、
C
を持つようになっている。地震の発生後まもない時期
に,災害情報が余り得られれていないか,または,火災
の発生が不明であっても避難行動を起す人々が漸次増加
車軽震 T
愛の経過時間
する初期(図 1のA まで) ,情報の質,量とも増加,火
図 1 発生避難人口分布型
丈
災の発生を伝えたため,あるいは,火災延焼を確認する
か,接近してきたため,急激な避難人口の増加を示す上
昇期(同図の Aから Bまで)そして避難人口が最大とな
ってのち,家財への執着が最も強い人々,あるいは避難
を当初から考えていない人々が,直前の火災から退避す
wY(工
, J)
J
るまでの後期(同図の Bから Cまで)に,分けることが
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きる幅員の充分に大きな道路上と,その他の市街地の場
合とに分け,前者は,比較的余裕のある状態であるので
避難場所へ直接向う単一方向をとるものと考え,後者で
は選択性が生ずるものとして,二方向をもって前者の路
線に到達,経由して避難場所に至る過程を取るものと仮
定する。
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次に避難の方向は,火災の延焼を防ぎ,多数の住民避
難を可能にしかつ状況判断をより的確に下すことがで
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できる。
W 1((工.J+I)
J宇 l
また,避難途上の群集移動特性は,群集移動速度,通
行可能幅員,および収容可能限界の要素によって表現さ
工
れるものと考えられる。移動速度は老人,子供の歩行速
工+1
図 2 メッシュの表現
度を限界速度とし,路上群集密度が大きくなるにつれて
速度の低下をきたしある密度(最大群集密度)に至っ
て歩行不能となる。収容可能限界は,通行可能幅員と最
大群集密度によって決定する。
先のメッシュを決定し,予定移動人口を計算する。次に
それらのメッシュの境界上の群集密度による移動速度を
このような特性をもとにして,経時的な人口変動を把
計算し,移動人口を算定する。この時,流出先のメッシ
握するため,電子計算機によるシミュレーションの手法
ュの収容可能限界による制限を受けて,最終的なメッシ
を検討してみよう。
まず始めに地域をメッシュ分割し,メッシュ番号 0 ,
1)における方向別避難人口比(日, s) ,道 路 幅 員
(WX,WY) (
図 2) ,避難開始時刻,発生避難人口
分布形,メッシュの単位長さおよび計算単位時聞をデー
タとして与え,計算単位時間毎に,発生避難人口と収容
可能限界を考慮したメッシュ間移動人口を算定する。
この算定方法は,発生避難人口分布から計算単位時間
に新たに発生する避難人口を求め,避難方向により移動
ュ聞の移動人口が算定される。これら一連の計算の流れ
を図 3に示す。これによって,避難途上人口あるいは避
難完了人口と未避難人口のそれぞれを求めることができ
る
。
ここで避難方向に関しては,次の関係を満足してい
る
。
│α1+I
s1=1
符号の正負によって向きを表現し,方向別避難人口は,
a, sの絶対値に比例する。移動速度は歩行者密度が O
大都市地震時における避難シミュレーション解析
147
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図 4 メッシュの特性値
図3 流 れ 図
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3
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ここで
い市街地を想定して,発生避難人口分布の相違による避
難途上人口,避難完了人口の推移を三つのケースについ
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(
2
) 模擬避難シミュレーションモデルによる検討
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は歩行不能とここでは考えることにする。
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2以上で
生じ始め,歩行速度は直線的に減少し 2人/m
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図 5 発生避難人口比分布型
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内以内
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脱線鏑
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避難場所における避難完了人口の推移(図 6) によれ
ば,避難を開始した人々が,早期に集中する分布形を持
つケース程,完了人口は急勾配を描いて急増するが,そ
8
0
専を寵後の経過同制
て検討してみる o それによって最適避難方法を求めるた
めの問題点を明らかにしてみよう。
メッシュに分割された市街地の各特性値のうち,避難
方向,道路幅員は図 4に,全域の発生避難人口分布は図
5に示す。居住人口は各メッシュとも 500人
, メッシュ
2としている。
間隔は 100m,収容可能限界は 2人/m
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)
の勾配がある時刻より低下し始め,三ケースとも, 75分
頃に完了人口は同程度となり,その後逆転する傾向を示
す。これは,各メッシュの収容可能人口の制限に帰国す
るものであり,ケース1, 2, 3における避難場所直前
2
0,1
2
) の収容制限を受けた時刻は,それ
のメッシュ (
ぞれ, 45~50 分, 60~70 分, 70~75分である。すなわち
o
i
「一面
203040
50
60
70
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-
早世寵 f
量的経過時間
図 6 避難特性
ほぼ,図 6の変曲点あたりと一致する。次にもう一つの
へ至るが,ケース 3では合流地点より前方,すなわち避
合流地点であるメッシュ (
1
1,1
2
) (
図 7参照)周辺の
難場所に近いメッシュの収容制限の影響を強く受け,そ
のために渋滞,通行停止の現象が現われる。そしてケー
避難途 k人口の推移をみよう。避難途上人口が収容可能
人口の%以上に達すると渋滞が始まると考えれば,ケー
ス 1では合流地点の収容制限によって渋滞から通行停止
ス 2では,合流地点とそれより前方のメッシュの経時的
な避難途上人口を検討すると,ほぼ同時期にこれらの現
総 合 都 市 研 究 第 5号
1
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図 7(
2
) ケース 2
60分
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ける。この時,延焼メッシュを取り巻く非延焼メッシュ
地震の 1ヶ月前に撮影された福井地方の航空写真から
作成した福井市中心部の建物配置の復元図を図 8 に 示
延焼範囲を午后 9時の延焼動態図として,メッシュ上に
それを重ね合わせ,メッシュを延焼あるいは非延焼に分
(
1
) 福井市中心部の火災
(
2
) 延焼避難シミュレーション
いて考察を加えたものである。
福井市と同様に樹木の延焼阻止効果が期待できない冬期
福井地震についての調査報告は,当時の関連学会を筆
は,少くとも 10m以上となることが推定できる。すなわ
3
. 福井地震の火災避難
減
措
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街地特性による避難上の問題点を把握することが可能と
ケース 3
90分
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いて実際の市街地に適用すれば,住民行動をも含めた市
したので、ある。延焼動態図から分析して,道路あるいは
空地を越えて延焼した場合と,焼け止まった場合の距離
を,風向に対する傾きについて表わしたのが図 9 で あ
摘することができょう。このような避難プログラムを用
•.
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以上のことから,地域が河川,堤防,あるいは鉄道線
%,大部分の建物が板葺,下見板張りであり,また航空
路などによって分断されている市街地では,避難行動を
写真から,緑地が極めて乏しい市街地であることが推定
起こす人々が短時間のうちに急増すると,合流地点で渋
される。かかる市街地で、八ケ所から出火し,風速およそ
3m/sec の南々東の風を受けて, 3
3万m2の範囲を延焼
滞する可能性が大きく,パニッグへつながる危険性を指
す。当時の調査報告によれば,建物倒壊率はおよそ 8
0
象を呈示するような結果となっている。
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み
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1
4
9
大都市地震時における避難シミュレーション解析
なり,その地域特有の最適避難を論じるのに有効な一方
る。図中の点線は,風速 3m/sec における浜田博士の
法となりうることを示唆しているといえる。
延焼限界距離に延焼動態図形が卵形になることを考慮し
て描いたものであり,図から,風横方向の延焼限界距離
ち日本の都市では街路樹として溶葉樹を槌えるために,
頭に,市から町村に至るまで数多く発表している。しか
で
, しかも木造倒壊率の大きい直下型地震を想定する場
しながら避難行動を主題とした報告ないしは資料の存
合には,風速が低くても風横方向の延焼限界距離は 10m
在は伝え聞いていない。この項目では,これまでの文献
を検討し,特に福井市中心部の火災延焼と住民避難につ
以上となる可能性を示している。
復元図を単位長さ 50mのメッシュに分割し,最終的な
総 合 都 市 研 究 第 5号
150
図 8 福井市復元図 (
1
9
4
8年 5月2
1日)
に,避難開始時刻として 9時を与え,また避難方向とし
て,避難場所へ近づくか,または道路幅員がより大きい
方へ避難する方向を与える。二方向が選択可能であれ
ば
, I
α
I=
=I
sI
=0.5 とする。次に時刻を逆進させ
て,同様の操作を 30分ごとに繰返し,全メッシュに避難
開始時刻と避難方向を与える。(地震発生午後 5時1
3分)
避難場所は延焼地域の周辺を考慮して,八ケ所を選定
し,避難場所周辺のメッシュは,計算上の制約のために
適宣方向の補正を行なう。(図 1
0
) 以上の諸数値を第一段
風機
図 9 延焼限界距離 (m)
階として与え,本来の問題である火災動態に伴う避難の
シミュレーションを行ない,充分安全となるまで,避難
開始時刻,発生避難人口分布型,避難方向などを変動し
1
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1
大都市地震時における避難シミュレーション解析
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図1
1 避難特性
↑→→→
↑↑→じ
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← ↓ oB
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を与えて(図 5のケース 1に相当)避難のシミュレーショ
を行ない,その避難完了人口の推移を検討してみた。た
だし各メッシュの居住人口を 70
人とし,避難開始時刻は
G
1
q
図1
0 避難地別地域分布
発震 5分後とし,終了時刻は 35分とする。その結果は図
て最適避難を求めていく。
まず初めに,かかる条件のうちで延焼動態によって決
急激な上昇を描き, 40分後にはほとんど全員が避難を完
定される各メッシュの避難開始時刻を全て同ーとして,
了している。これは避難途上の渋滞が 1ケ所もなく, し
当該市街地の避難特性を求める。すなわち 2
.(
2
)で述べ
たうちで,合流点での欠陥が現われ易い発生避難人口比
かも避難場所が数多いうえに,そこに至る直線距離が最
大となるメッシュでも 5
0
0m位で、あるために, 1
0分も歩
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0分後から
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)発震後 35分
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)発震後 1
3
5分
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図1
2
(
2
)発震後 1
0
5分
大都市地震時における避難シミュレーション解析
けば避難場所に到達するという好条件をもっ市街地であ
ることを,数量的に表現している。
次に,各メッシュに前述したように午后 9時
8時30
分 8時などを避難開始時刻として,最悪な条件を与え
てシミュレーションを行ない,延焼区域とそれに隣接す
るメッシュの避難開始時刻,あるいは発生避難人口分布
型を変動させて避難の最適性を検討した。
得られた結果の一部を図 1
2に示す。他方,図 1
1の B曲
1
5
3
ろう。見方を変えれば,現在の東京のように木造家屋の
密集した市街地が延々と連なる都市にあっては,周辺の
安全地帯に逃げ込める住民は距離ならびに出火点の関係
から限られるので,福井市の例からみるように,大体数
十h
aに分割された区域を運命共同体と考え, この単位毎
に地域防災計画が立案されるべきものとなるであろう。
4
. むすび
線はこの結果の経時変化を表わしており,避難完了人口
比からみると,避難は比較的順調に行なわれたことを示
メッシュ分割の有利性に着目して,人間行動と市街地
しているが,ただ 105分から 135分にかけて,その割合
が低下し始める。これは図 1
2
(
2
),(
3
)を見ると,延焼範囲
特性を織り込んだ地震火災時の最適な避難方法,すなわ
ち経時的な最適避難経路の選択を求めるシミュレーショ
がほとんど拡大しなかったためで,これによって避難行
ンの基礎的な概念を示した。また,この手法を都市内部
動を起す人々が減少したことによる。また,単位面積当
でしかも避難場所が限定された想定地域と福井地震の多
発火災に適用することによって,人間行動と市街地特性
たりの居住人口に対する延焼範囲内に残る人数の割合を
残留人口比とすれば,この数値が高いことは,避難開始
あるいは終了時刻が遅いことを示す。このシミュレーシ
ョン結果では, c
曲線で表わされる 1
5分の時に34%と高
い値を示している。したがって,この残留人口比の高い
の関連について若干の考察を行ない, この種の手法の有
用性の一端を明らかにした。
例えば,避難群集の合流地点と発生避難人口の特性に
よる渋滞の危険性について,あるいはまた防災的観点か
メッシュの避難開始(または終了)時刻を早めることに
らみた都市の規模と避難場所との関連について,定量的
よって, この時刻における安全は満足される。この方法
な解釈を可能にすると思われる。今後,このような手法
を各時刻に適用していくことにより,除々に最適避難方
法が求まってし、く。その他の時刻では,残留人口は非常
が都市構造と住民行動の危険な点を明らかにして,避難
場所の選定及び建設,安全な避難路への改良,動的な避
に少ないため,仮定条件による避難方法以外でも問題は
生じてこなくなる。以上のシミュレーションの結果から
みると,火災延焼が 5
0rr.先に接近してから退避しでも,
難路の確保と住民誘導等,ハード, ソフト両面の地域防
目的とする避難場所さえ誤らなければ,安全の確保が可
能であることを示しているようである。この地域での死
亡者は約 940人であるが,その大多数が建物倒壊によっ
て逃げ出せずに延焼したものであり,火災そのものによ
る死者は非常に少なかったものと推定できる。よって,
当時の福井市民の多くは,少くとも安全に避難を完了し
たので、あり,その避難完了人口の推移は図 1
1のA曲線と
災計画の基礎資料を提供するであろう。
しかしながら,現段階は研究の緒に着いたばかりであ
り,種々の仮定の検証,メッシュ分割による地域表現の
不連続性など,手法の改良点は数多い。今後は,これら
の問題を,各方面の研究を取り入れて検討を重ね,一層
現実的な手法の開発をめざして努力することと L てい
る
。
文献一覧
B曲線の中間にあるものといえよう。
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n
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一方関東地震の場合でみると,本所区ではおよそ 1!
当りの出火点数が 1
2であり,福井市の場合と同程度であ
るが,被服廠跡における焼死者を除いても,各所でかな
1)警視庁警備心理学研究会
1
9
7
1 大震対策のための心理学的調査研究
2) 日本都市センター
りの数の人々が火災によって死亡している。 こ の 差 異
は,それぞれの都市構造と市街地規模の相違が原因して
いるものと考えられる。すなわち都市構造として,本所
・深川区では河川,水路が避難路を減少させ,また,同
1
9
7
1 拠点の安全性の検討に関する調査研究 1
3)北陸震災特別調査委員会
1950 昭和二十三年福井地震々害調査報告, I
I建
築部門。
時に阻止要因になっていることは明らかであり,市街地
規模の大きさは,福井市に比べれば歴然とした差があ
る
。
特に市街地規模について考えてみれば,もし同程度の
出火延焼規模で,その周辺に空地(建物が散在する場合
も含める=避難場所)があり,しかも避難路上に避難阻
止要因がなければ,生命の安全はかなり確保できるであ