UN 北朝鮮人権事実調査委員会(COI)報告の研究

北朝鮮難民救援基金 NEWS May 2014 № 088
UN 北朝鮮人権事実調査委員会(COI)報告の研究
「中国人の種をもってきた女」「朝鮮人の血を汚す」 !!
人種差別主義に中国政府抗議せず、国際法無視の不可解
加藤 博
国際刑事裁判所(ICC)に付託
あるいは特別法廷を設置すべき
UN 人権理事会が、北朝鮮の人権侵害の
事実を調査する事実調査委員会(Commis
-sion of Inquiry )が 2014 年 2 月報告
書を採択した。COI は、北朝鮮の深刻で、
広範囲で、組織的な人権侵害が、「人道に対
する罪」に相当する、と結論付けた。国際社
会は黙することなく、安全保障理事会が
ICC(国際刑事裁判所)に審理を付託する
ことを決議すべきであると勧告している。
また安全保障理事会が付託しない場合は、
国連総会が UN の特別法廷を設置し、問題
を裁くべきことも可能としている。
COI 報告書は、北朝鮮の人権侵害につい
て調査結果を 372 頁の報告書として明ら
かにした。
COI のカービー委員長は、この報告書が
各国で翻訳され、できるだけ多くの人の目
に触れてほしいと願っている。
人のホロコーストを容認する国と同等であ
る」との評価を受ける覚悟をしなければな
らない。
中国政府、COI 報告の安保理付託に反対
この COI 報告書が、北朝鮮の国家指導者
を ICC で裁くためには安全保障理事会で
「ICC に付託する」決定を経なければなら
ない。安全保障理事会の常任理事国である
アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロ
シアには、
「拒否権」があり、決議を拒む権
利を認めているので、ICC への付託に一国
でも反対すれば、どんなに重要な決議であ
ったとしても、葬り去られ紙くずになって
しまう。
すでに中国政府は、COI 報告の内容を安
保理に付託すること自体に反対しているの
で審理の議題になるかどうかも危うい。
「人道に対する罪」を ICC に付託するのは
さらにハードルが高く ICC への道は険しい。
しかし、中国がこの態度をあくまで堅持す
るためには、
「ナチスドイツが行ったユダヤ
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北朝鮮、看守の様々な非人間的振る舞い
この報告書の中に私が特に注目した項目
の一つは、Ⅳ「COI の事実認定」の(c)に
ある。
(c)は、
「自国を去る自由の権利と送
還禁止を含む、移動と居住の自由の侵害」
に触れている<報告書 99-144 頁>のと
ころだ。46 頁に渡って詳細に述べている。
看守のさまざまな非人間的な振る舞いに
よって、送還された女性たちが受けている
仕打ちが詳細に記述されている。女性器の
膣を不衛生な方法で調べるなど、想像を超
える野卑で野蛮な取り調べが詳述されてい
る。
(d) 拷問、非人間的取り扱い及び朝鮮
民主主義人民共和国から逃亡を試みた者の
投獄<405-422 項>で具体的に詳述され
ている。
(e)送還された母親の強制堕胎と嬰児殺
し<122 頁>、また第 424、425、426
の各項で以下のように述べている。
臨月の妊婦は強制堕胎させる。―「北朝鮮全
巨里教化所」
(北朝鮮難民救援基金発行)より
「国内法、国際法に違反し送還された母親
や子どもたちに対して強制堕胎や嬰児殺し
が広範囲に行われていると事実調査委員会
は認めている」
「臨月で子どもを出産したい
と願う女性が、自らの意思に反して強制堕
胎させられることが起きている。嬰児殺し
は、出産後すぐに殺されていると母親や母
親以外の人たちが明らかにしている」
規定)を尊重する義務に反している」との
見解である。<490 項>
つまり、中国政府は、国際難民条約や人
権法に違反してまでも中国人の子どもが強
制堕胎されるのを容認していることになる。
それも、
「中国の種をもってきた女」とし
て侮辱され「朝鮮人の血を汚す」とののし
られ中国人の嬰児が殺されているのを知っ
ていながら、北朝鮮を批判したことを、一
言も国際社会は聞いたことが無い。中国政
府は自国民の生命を守らず、人種差別主義
を認めていることにならないか。
「中国の種をもってきた女」
「朝鮮人の血を
汚す」と侮辱
その中でも第 489 項では次のように触
れている。
「・・・(北朝鮮に)妊娠して送還された女
性は、例外なく堕胎を強制され、中国から
の人間に対して人種差別主義者からの仕打
ちが実行され、さらに国を離れたという重
大な違反を犯した罰が科せられている。そ
れで嬰児が生まれた場所で、当局によって
殺される。・・・」
推定 2 万人の子どもたちの出生登録が無い
膨大な数の女性たちは強制的に、あるい
は騙されて、朝鮮民主主義人民共和国から
中国へ、あるいは中国国内で強制結婚、妾
囲いの風習、威圧的な環境の下での売春に
よる搾取の目的のために人身売買されてい
る。
現在中国国内で、およそ推定 2 万人の子
どもたちを産んだ朝鮮民主主義人民共和国
の女性たちは、実際上出生登録、国籍、教
育や健康診断をうける権利が奪われている。
なぜならば中国の現在の政策の下では、子
どもたちの誕生は、母親が朝鮮民主主義人
民共和国にノン・ルフールマンの原則に
反し、送り返されてしまう危険があるから
である。
流産させるために妊婦に重い石を持たせて走
らせる。―「北朝鮮全巨里教化所」より
中国政府の反論は弱々しい
「人種差別主義者」のレッテルを剥がせ
中国のこうした振る舞いは、発展する中
国に対する尊敬を確実に損なう。COI 報告
書は、北朝鮮の人権状況について「深刻で、
広範囲で、組織的な人権侵害」とし、
「人道
に対する罪」と断じている。
この報告書に対する中国政府の反論はと
ても弱々しく、到底、国際世論の納得は得
られまい。ユダヤ人のホロコーストにも比
肩されている北朝鮮の人権侵害について、
中国は事実上の加害者という評価を受けた
以上、「人種差別主義者」のレッテルだけは
何とか剥がさなければならないだろう。
中国は自らの意思によってレッテルを剥
がすことができるだろうか。その成功無し
には習近平中国共産党書記・国家主席の「大
中華民族の復興」は、果てしのない夢でしか
ないだろう。
これは、
「北朝鮮の人種差別主義で中国人
の子どもが強制堕胎させられている」と認
定しているのに他ならない。脱北に失敗し
た人々が一時的に集められる集結所を経験
した女性が、
「中国の種をもってきた女」と
して侮辱され「朝鮮人の血を汚す」とのの
しられていたと、日本に定住した脱北者は
証言している。
これは1、2の例ではなく広く聞かれる
証言である。
non-refoulement(ノン・ルフールマン)
の原則に違反する
事実調査委員会は、
「中国政府が強制的に
北朝鮮国籍者を送還することが、国際難民
法と人権法の下で、ノン・ルフールマンの
原則(送還された場合に生命の危険を含む
社会的、宗教的差別を受ける恐れがある場
合は送還してはならないという難民条約の
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