脳部位間の機能的結合と位相同期:Neural mass モデルによる検討

脳部位間の機能的結合と位相同期:Neural mass モデルによる検討
○武田 裕司
(産業技術総合研究所)
キーワード: 位相同期, 機能的結合, Neural mass モデル
Functional connectivity and phase synchrony between brain regions: analysis of a neural mass model
Yuji TAKEDA
(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST))
Key words: Phase synchrony, Functional connectivity, Neural mass model
細胞におけるスパイク密度 z0i は Di = wi (z0i (t − τ) − βi ) とし
目 的
脳部位間の情報伝達(機能的結合)はニューロン活動の同
期によって実現されていると考えられている。また,近年の
研究では,認知課題の種類によって同期する周波数が変化す
るという報告がある。例えば,Buschman & Miller (2007) は
サルが視覚探索課題を行っている間の local field potential を
測定し,特徴探索課題は 36–56 Hz 帯域で,結合探索課題は
22–34 Hz 帯域で位相同期性が高くなることを明らかにした。
て細胞群 j に,細胞群 j の z0 j は D j = w j (z0 j (t − τ) − β j ) と
して細胞群 i に伝達された。一方向結合条件の情報伝達の重
み付けは wi = 0.5, w j = 0 とし,双方向性結合条件の情報伝
達の重み付けは wi = w j = 0.33 とした。また,伝達時間の遅
れ τ は 10 ms とした。各細胞群の錐体細胞の膜電位 v0 を脳
波とみなし,Lachaux, et al. (1999) に基づいて phase-locking
value(PLV)を位相同期性の指標として算出した。
この結果はボトムアップ制御は高 γ 帯域で,トップダウン制
結果および考察
御は低 γ 帯域で機能的結合があると解釈されているが,その
Neural mass モデルによるシミュレーションの結果を Fig-
背景にある同期周波数の決定メカニズムは明らかにされてい
ない。視覚探索中の脳内情報伝達様式を考えた場合,特徴探
索では頭頂から前頭への一方向的な結合が,結合探索では双
方向的な結合による再帰的な処理が想定される。そこで本研
究では,一方向的結合は高 γ 帯域で,双方向的結合は低 γ 帯
域で同期性が高くなると仮定し,neural mass モデルを用いた
検証を行った。
ure 2 に示す。一方向結合と双方向結合の比較において,
36–56 Hz 帯域は一方向結合の PLV が高く,22–34 Hz 帯域は
双方向結合の PLV が高いことが明らかになった。この結果
は,Buschman & Miller (2007) で観察された周波数帯域とほ
ぼ一致しており,特徴探索では一方向の情報伝達・非再帰的
処理が,結合探索では双方向の情報伝達・再帰的な処理が行
われていた可能性を示唆している。
方 法
Unidirectional (wi = 0.50)
抑制性介在細胞から構成された(Figure 1)。細胞群 i の錐体
POP i
-1000
-500
0
500
1000
1500
2000
1000
1500
2000
1000
1500
2000
connected
-1000
-500
0
500
Bidirectional (wi = 0.33, wj = 0.33)
POP i
connected
Unidirectional
-1000
Pop i
wi
-500
0
Pop j
500
56
52
48
44
40
36
32
28
24
20
16
-200
connected
POP j
-1000
Frequency (Hz)
奮性介在細胞,およびインパルス応答特性の異なる 2 種類の
connected
POP j
Zavaglia, et al. (2006) に従い,各細胞群は,錐体細胞,興
-500
0
500
Time (ms)
0
200
connected
1000
1500
2000
Differential PLV
-0.4
400
600
Time (ms)
0
Figure 2 シミュレーションで得られた脳波の例(左)およ
び双方向結合と一方向結合の PLV の差分(右)
。
Bidirectional
wi
Pop i
Pop j
wj
引用文献
Buschman & Miller (2007) Science 315:1860–1862
Figure 1 本研究で用いた neural mass モデル。
Lachaux, et al. (1999) Hum Brain Mapp 8:194–208
Zavaglia, et al. (2006) J Neurosci Methods 157:317–329
0.4