ニホンジカの森林内行動の研究

ニホンジカの森林内行動の研究
予算区分:国庫1/2
研究期間:平成25~27年度
担当:企画・自然環境係
坂庭浩之
(1)リアルタイムGPS首輪の開発
Ⅰ
はじめに
ニホンジカの行動を把握するため、GPS首輪が利用されている。既存GPS首輪は、その行動を把握す
るため、首に装着した首輪からデータを回収するため、近距離(200m程度)に接近するか、起爆装置
により首輪を落下させ、その首輪本体からデータを回収する方法が一般的であった。しかし、この方
法は、データの回収に多大な労力がかかること、装着したシカが行方不明になりデータが回収不能と
なること、回収されたデータの記録が古くなることなど、GPS首輪を用いた行動把握にはいくつもの限
界がある。
そのため、首輪からリアルタイムにデータを回収できる方法の開発が求められてきた。(株)数理設
計研究所(群馬県太田市)で特許技術を持つスペクトラム拡散通信方法を用い低電力で遠距離までデ
ータ送信できる技術が確立されていることから、その技術をベースに、ニホンジカに装着可能な首輪
のデザインについて設計、装着、実証試験を行った。なお、この研究は、(株)数理設計研究所との共
同研究として実施している。
Ⅱ
方
法
○研究分担と研究内容
(株)数理設計研究所は、GPS首輪チップを搭載したスペクトラム拡散通信基盤(GPS-TX)を作成、首
輪への組み込みを行う。また、首輪から発信された電波を受信するための専用受信機の設計・開発、
受信データの解析ソフトの開発等を担当した。
林業試験場では、首輪の基本デザインを設計し、GPS-TXを組み込んだ首輪の装着、追跡、動作確認、
首輪デザインの見直し提案を行う。また、ニホンジカを追跡するため必要となる専用受信局の設置、
運営・管理を担当した。
Ⅲ
結果及び考察
1
GPS-TXの開発
(株)数理設計研究所では、ニホンジカの首輪に装着
可能で、(一般法人)電波産業会が定める「特定小電
力無線局150MHz帯動物検知通報システム用無線局の無
線設備」(ARIB-STD-T99規格)に適合したGPS-TXを開
発した。
2
首輪デザインの見直しと個体挙動の把握
初期モデル(Ver.1)として、座標測位効率の向上
のためGPSチップの首輪上部への配置、電波を遠距離
まで飛ばすためのベルト芯構造、異なるシカサイズに
図-1
初期モデル首輪
1つの首輪で適合する両側バッテリー、短時間での装着を可能とするワンタッチバックルの装着を行
った(図-1)。
この首輪により、平成24年度より4頭のシカに装着したところ、体重の軽い当歳個体では首輪装着
- 14 -
感などが良くないため、装着後のシカがあまり動かないことが確認された。
次期モデル(Ver.2)として、装着感を向上した首輪として、ベ
ルト部分がしなやかな素材(繊維入り塩化ビニール製)を用いデザ
インした(図-2)。
首輪デザインの変更に伴い軽量化を図った。初期モデル1300gか
ら650gとし、50%の軽量化と首輪の装着感を向上しながら、当初の
目的である、短時間での装着を実現した。
平成24~25年度の間に、9頭のニホンジカに首輪を装着した。首
輪のデザインを変更したことで個体体重の小さな当歳個体(No7、No
図-2
次期モデル首輪
8)に装着しても、順調な行動が確認された(表-1)。
表-1
GPS首輪装着実績
首輪型式
捕獲年月日
性
年齢(推定)
状態
終了年月日
Ver1
2012/9/10
メス
2才以上
左前肢飛節部切創(伸腱一部断裂)
2012/9/11死亡
(1日間)
Ver1
2012/9/29
オス
4才以上
右前肢飛節部切創・4尖
2012/12/29死亡
(91日間)
Ver1
2012/12/19
オス
当歳
左前肢飛節上部切傷(伸腱一部断裂)1尖
2012/12/27死亡
(8日間)
Ver1
2013/1/15
メス
当歳
左後肢飛節上部で切断
行方不明
Ver1
2013/11/7
メス
4-5才
外傷無し
2013/11/16死亡確認
(9日間)
Ver1
2013/11/24
メス
当歳
左前肢手根部関節不良
2013/11/24殺処分
(1日間)
Ver2
2014/12/12
オス
当歳
外傷無し
2014/2/14死亡
(64日間)
Ver2
2014/3/29
メス
当歳
外傷無し
継続調査中
Ver2
2014/3/30
メス
4-5才
外傷無し
妊娠中 2014/4/2死亡
(3日間)
(3)受信局の準備と設置
首輪からのデータを受信するため、太陽電池で稼働する自立受信局のための設計、実働試験を行っ
た。100w太陽電池(MA-100)×2枚、100Ahバッテリー(SMF31MS-850)×2個、充電コントローラー(E
T2415)により電源部分を設計した(図-3)。太陽電池を南南東(165°)方向、仰角40度で設置し、2
013年4月1日から12月31日までの間に稼働試験を行った。
ノートパソコン、専用受信機、携帯ルーターの最大消費電力は3500mAで、常時1000~1200mAの消費
電力であった。100wの太陽電池1枚での稼働時には、3日間の天候不良(曇りや雨)がつづくと電圧
不足からパソコンの稼働が停止することがあったが、100w×2枚の構成とすることで、5日間の連続稼
働が可能であった。実際に独立受信局を設置する際には、より電源に余裕を持つため蓄電池容量を増
加することで、一年間の連続稼働が可能な構成が可能となることが確認された。
ノートパソコン内で常時連続稼働により生じる稼働停止(フリーズ)に対しては、定期的な再起動
をかけるプログラムを組み込むことで回避可能となった。また、携帯ルーターでの連続接続は携帯電
話側からの強制遮断が生じることから、定期的な接続・遮断をパソコンからコントロールすることで
安定的なデータ転送が
可能であることを確認
した。また、遠隔監視
するソフトを組み込む
ことで、事務所から稼
働状況の把握が可能と
図-3
なった。
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受信局の構成