(CFD)に関する研究動向 ~空力性能予測

(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要 25-1】
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航空機機体数値流体解析技術(CFD)に関する研究動向
~空力性能予測、空力騒音予測、EFD/CFD 融合について~
1.
概要
計算技術と計算機の発展に伴い、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力
学)
は、
風洞試験や飛行試験と共に必要不可欠な航空機空力設計ツールとなってきている。
例えば 2009 年に初飛行した Boeing 787 の設計には CFD が数多く使われ、風洞試験によ
り評価した主翼形状は 11 種類にとどまっている 1)。1980 年代に開発された Boeing 767
と比較すると、その数は 7 分の 1 となっている 1)。現在日本では 1 秒間に 1 京回(10 ペタ
フロップス)の計算ができるスーパーコンピュータ「京」が稼動し、2020 年にはその 100
倍の演算性能を有するエクサフロップス級の計算機が現れると予想されており、航空機機
体設計における CFD の適用範囲は更に拡がっていくと考えられる。本稿では民間旅客機
の機体開発に利用する CFD 解析技術に関して、最近の研究例を紹介しながら、現状と課
題、今後の展望に関して解説を行う。
2.
はじめに
航空機空力形状設計では、構造、製造性、整備性などの制約条件の下で、設計要求を満
足する形状を設計する。巡航時の空力抵抗は燃費に大きな影響を与えるため、主翼面積を
基準面積とした抵抗係数 CD において 1 抵抗カウント(CD=0.0001)、全抵抗の 0.3%~0.5%
以内の巡航時抵抗予測精度が必要であるとも言われている。また、前縁スラットや後縁フ
ラップといった高揚力装置を展開した離着陸時の低速性能も空力設計において重要である。
あるエンジン双発の大型機では、
離陸時の揚抗比 L/D と着陸時の最大揚力係数 CLmax を 1%
向上させることにより、それぞれ約 1.3 トン、約 2 トンのペイロードを増加させる事がで
きると言われている 2)。また、空力設計では、安定性・操縦性、構造・装備設計のために、
離陸から着陸停止までの広範な飛行条件における空力データと空力荷重のデータベースを
作成する必要があるが、航空機開発全体に必要な空力評価数は数十万から数百万ケースに
ものぼると言われている。その中で CFD により評価しているのは一部のケースのみであ
り、残りは簡易的な推算や風洞試験によるデータを利用している。しかしながら、風洞試
験データには風洞壁や模型支持の影響や、レイノルズ数の違いによる影響が含まれる。近
年の旅客機開発では、高圧・極低温環境を利用して実機レイノルズ数を模擬する風洞も使
われてきているが、そのコストは非常に高い。また、エンジンの高バイパス比化のためエ
ンジン直径が大型化し、エンジンと主翼の空力干渉設計の重要性が増してきているが、風
洞試験において実機エンジン推力効果などを模擬して空力特性を正確に評価する事は難し
い。そのため、競争力のある機体を開発する上では、CFD の計算精度や計算効率を上げて
設計適用範囲を広げると共に、風洞試験や飛行試験と CFD を組み合わせて実機性能推算
精度を向上して、設計精度を上げて行く事が重要である。本稿では民間旅客機の機体開発
に利用する CFD 解析技術に関して、高速飛行時/離着陸時の空力性能と機体空力騒音予
測、風試結果との融合(EFD/CFD 融合)について最近の研究例を紹介しながら、現状
と課題、今後の展望に関して解説を行う。
1
3.
高速飛行時の空力性能予測
高速巡航時の空力性能予測では、物体表面の非常に薄い乱流境界層の小さなスケールの
乱 流 非 定 常 変 動 は 解 か ず 、 乱 流 モ デ ル を 用 い た 圧 縮 性 RANS (Reynolds-Averaged
Navier-Stokes:レイノルズ平均ナヴィエ・ストークス)方程式を解く解析が行われる。高速
形態の RANS 解析による空力性能予測精度に関しては、AIAA(The American Institute of
Aeronautics and Astronautics:米国航空宇宙学会)の CFD 抵抗予測ワークショップにて
盛んに議論されてきている。ワークショップは 2001 年から始まり、2012 年には第 5 回目
のワークショップが開催され、
米国 NASA、
ドイツ DLR、フランス Onera、
日本では JAXA
などの各国の航空研究機関、機体メーカー、CFD ソフトウェア会社、大学など 22 のグル
ープが図 1 に示す共通の民間旅客機形状に対して CFD 解析を行い、予測精度に関して議
論された
3,4)。CFD
計算を行うためには、物体の周りに計算格子を生成し空間を離散化し
て計算を行う。主に計算格子として機体表面にそって規則正しい計算格子構造を使用する
構造格子と、四面体・プリズム・ピラミッド・六面体などの要素を組み合わせて使うこと
により、複雑形状周りの解析が容易な非構造格子というものがある。非構造格子は構造格
子と比較して計算機メモリ性能や計算時間が増加するなどの計算効率や計算精度の課題が
あったが、計算機の発達と計算アルゴリズムの改良により、近年では格子生成の容易さの
ために数多く用いられている。ワークショップでは計算格子の点数を 60 万点から 1 億 4
千万点まで系統的に変化させて格子密度に応じた抵抗の変化を調べて、必要な精度と計算
格子密度との関係が議論された。
主翼表面格子
翼胴接合部の空間格子
構造格子
(a)解析結果例(表面圧力分布)
非構造格子
(b) 計算格子例
図1 第 5 回 AIAA CFD 抵抗予測ワークショップに用いられた NASA Common
Research Model の解析結果例 4)
10 年近く前は空力性能を示す揚力-抵抗曲線を計算誤差 3%~5%程度の精度で求めるた
めに 1000 万格子点規模の計算格子を用いて約 3 週間を要したが、現在ではマルチグリッ
ド法などの収束加速法や陰解法などの解析手法の改良、計算機性能の向上により解析時間
が大幅に短縮し、JAXA で開発・改良が進められている流体解析コード 4)を使用し、大型
計算機 100 コア程度の計算資源を用いると、1 日で揚力-抵抗曲線を得られるようになって
きている。絶対精度を 0.5%程度で議論できる 1 億格子点規模の解析は、現在ではまだ計
算時間がかかり代表的な条件における評価にとどまるが、計算機の進歩を考えると今後日
2
常的に使えるようになっていくと考えられる。
最近のワークショップでは設計条件のみならず、バフェット現象が起こるような剥離が
大きい流れ場に対する計算精度も議論されている。計算格子密度を増加させた詳細な解析
が行われるようになり、これまで粗い計算格子が用いられていたことにより見過ごされて
いた翼胴接合部の流れの剥離に対する乱流モデルの適用性に関する問題も顕在化してきて
いる。
航空機機体周りの解析では、
乱流モデルとして Spalart-Allmaras モデル 5)や Menter
の SST モデル 6)などが主に使われているが、渦粘性近似を用いた場合、翼胴接合部の角の
流れの物理を十分に表現できない。最近の研究では、これらの乱流モデルに対して非等方
性を仮定した効果を組み合わせることにより角部の剥離の過大評価を抑制する、実用的な
乱流モデルの研究が進められている 4,7,8)。またフラッター予測のための空力/構造連成解析
に関しても 2012 年に AIAA において第 1 回目の国際ワークショップが開催され、高レイ
ノルズ数の風洞試験データを用いた解析を通じて、現状と課題に関して議論が始められて
いる 9)。
精度良い空力特性解析が可能になると、Winglet などの翼端デバイスの詳細形状設計や、
非設計点での衝撃波剥離を抑制して空力特性を改善する主翼上の Vortex Generator(以降
VG)の設計など、精度良い空力特性予測が必要な空力特性改善デバイス設計への適用が期
待される。図 2 に VG を用いた衝撃波剥離抑制の解析例 10)を示す。VG は主翼に対して非
常に小さな小片であるが、境界層内に渦を作り出し、境界層外側の速い流れと境界層内の
流れを混ぜることで流れの剥離を防ぐ。VG 効果を解析するためには、非常に薄い境界層
厚さ程度の渦を精度良く解像する必要がある。図 2 の例では、VG から発生する渦を精度
良く捉えるのに適した計算格子を効率良く生成する格子生成法を開発し、失速特性改善の
様子を解析している。
VG付き形態
衝撃波剥離の抑制
クリーン形態
大きな衝撃波剥離
が見られる
VG周りの計算格子例
:VG設置位置
図 2 Vortex Generator を用いた衝撃波剥離抑制解析例(VG 位置は赤い筋上の先端)
:表
面摩擦係数分布 10)
4.
離着陸時の空力性能予測
CFD は高速巡航時の設計への適用が中心であったが、複雑な 3 次元形態周りの流れの解
析技術が確立されることに伴い、離着陸時の高揚力形態の設計への適用も進められている。
図 3 に示すように、前縁スラットや後縁フラップのような高揚力装置を展開した離着陸形
態の周りの流れ場は、形状の複雑さに加え、境界層乱流遷移や再層流化、剥離、各翼素の
3
後流の干渉など現象自体も複雑となる。CFD を用いた設計高度化を行う上では、その複雑
な流れ場に対する CFD 解析技術の信頼性向上が必要であり、プロジェクトや CFD ワーク
ショップ等を通じて、解析技術の改良が進められている。
例えば、欧州の EUROLIFT(2000 年~2003 年)11)/EUROLIFT2(2004 年~2007 年)12)プ
ロジェクトでは、単純化された形状からエンジンナセルをもつ実機に近い形状まで様々な
高揚力装置展開形態に対するレイノルズ数 100 万程度の低レイノルズ数と 1500 万程度の
高レイノルズ数風洞試験データを用いて、研究開発が行われた。近年の HINVA プロジェ
クト 13)では DLR が所有する A320 の機体を使った飛行試験データ、CFD データ、高レイ
ノルズ数風洞試験データの 3 つのデータを利用して、実機に対する失速予測精度向上に関
する研究開発が進められている。日本では図 4 に示す JAXA の高揚力装置研究形状 JSM
の風洞試験データを用いた CFD 予測精度に関するワークショップが 2006 年に開催されて
いる 14)。AIAA では 2010 年と 2013 年に国際 CFD ワークショップ HiLiftPW が開催され、
現状の予測精度と技術課題に関して議論がされている 15)。
前縁スラット
後縁フラップ
3次元高揚力装置展開時の表面圧力分布と空間総圧分布
遷移
音速近くまで加速
遷移
境界層-Wake干渉
フラップ上の剥離
遷移
剥離流れ
遷移
剥離流れ
遷移
前縁スラット、後縁フラップを展開した際の2次元断面内の流れ場(マッハ数分布)
図 3 高揚力装置展開時の流れ場
図 4 JAXA 高揚力装置研究形状 JSM(左:風洞試験、右:CFD)
高揚力装置周りの流れ場解析では、形状の複雑さのために非構造格子を用いた解析が主
となっている。AIAA の HiLiftPW ワークショップ 15)では、計算格子生成法、計算格子密
度や乱流モデルの影響、境界層乱流遷移予測が議論の中心となっている。遷移予測に関し
4
ては CFD との組み合わせや自動化が容易な簡易的なモデルの予測精度評価と改良が進め
られている。また、EUROLIFT プロジェクトでは、高揚力装置の展開支持金具や圧力計
測チューブ、風洞壁などを模した解析も進められ風洞試験データと詳細に比較し、風洞試
験結果の信頼性と共に議論が進められている。現状、3000 万格子点規模の計算格子を用い
た場合、揚力の予測精度は 2~3%程度であり、1 億格子点規模の解析でも特に最大揚力予
測に対する格子収束性を議論する上では十分とはいえない状態である。また、これまで定
常計算による解析が主に行われているが、失速付近の流れ場は剥離が生じ非定常的な流れ
場になっているため、非定常流解析による失速付近の流れ場予測も行われてきている。最
近では RANS ではなく格子ボルツマン法という手法を用いて、最大揚力付近の非定常性を
議論している例も見られる。
近年では離着陸時の複雑な高揚力形態の設計への適用に加え、図 5 に示すように着陸停
止時のスラストリバーサ空力設計のような解析も行われ 16)、離陸⇒上昇⇒巡航⇒下降⇒着
陸⇒着陸停止という航空機の一連の運用ミッションに適用する例もあり 17)、航空機機体設
計における CFD の適用範囲が更に広がっている。
(a) スラストリバーサ全機 CFD 解析結果例 (b)全機全ミッション CFD17)
(機体表面 Cp・流線・総圧等値面)16)
図 5 全機全ミッション CFD
5.
EFD/CFD 融合
航空機空力設計では、風洞試験などの EFD(Experimental Fluid Dynamics:実験流体
力学)や CFD の結果を元に、実機の性能推算を精度良く行うことが求められる。EFD と
CFD のそれぞれの技術レベルを向上させる事に加え、
EFD と CFD の両者の連携を強化す
る事により、設計効率や性能推算精度の向上が期待できる。事前に CFD を実施して風洞
試験模型設計や試験計画を策定する事により風洞試験準備の効率化を図ることができると
共に、試験結果の妥当性をリアルタイムに検討できる。また、風洞試験における壁・支持
干渉、模型変形の影響排除や、風洞試験では模擬する事が難しいレイノルズ数効果やパワ
ー効果など、実機性能推算に必要な効果を把握する事にも期待されている。EFD/CFD 融
日本国内では 2008 年より EFD/CFD
合に関して、
2003 年から 5 回の国際シンポジウム 18)、
融合ワークショップが 5 回 19)開催され、EFD/CFD の相互補完的な利用法の他、計測結果
を利用して CFD データを更新し高精度化する研究など、EFD/CFD 融合法に関する研究
が議論されている。JAXA では、DAHWIN(Digital/Analog-Hybrid Wind Tunnel:デジ
5
タル/アナログ・ハイブリッド風洞)と呼ばれるシステムを開発し研究開発を進めている 20)。
上述のような風洞試験の効率化や実機性能推算精度向上を図ると共に、自動計算格子生成
ソフトと高速 CFD ツールの開発を行い、ユーザーフレンドリーな CFD 解析環境とデータ
生産性を向上させる活動を行っている。
6.
機体空力騒音予測
最近の機体ではエンジン騒音が大幅に低減し、エンジン出力を抑えた着陸時には高揚力
装置や脚を音源とする機体空力騒音がエンジン騒音を越える事もある。今後の旅客機開発
においては、将来更に厳しくなると予測される騒音規制値に対応するために、機体空力騒
音の予測精度向上と低騒音化技術の確立が重要な課題となっている。
音波
剥離の
再付着
逆流域
音波
Cusp
Cuspからのせん断層
(a) スラット内部の流れ
(b) フラップ端の流れ
(c) 脚車間の流れ
図 6 機体空力騒音の主要騒音源
機体騒音は図 6 に示すような、前縁スラットや後縁フラップなどの高揚力装置や前脚や
主脚といった降着装置周りから生じる剥離・乱流せん断層が物体と干渉する事により生じ
る。物体から離れた遠方の騒音観測点まで音波の伝播を直接計算する事は計算コストの観
点で現実的ではなく、物体近傍の音源となる非定常流れ場の詳細な解析と遠方場への音の
伝播解析を分離して解析を行う分離解法が用いられている。音の伝播解析には FW-H
(Ffowcs Williams-Hawkings)法が一般的に用いられる。物体近傍の音源解析には高精
度の非定常流解析が必要であり、大きなスケールの渦に関しては直接計算し、計算格子よ
りも小さなスケールの渦に関してはモデル化を行う LES(Large Eddy Simulation)によ
る解析が用いられてきている。しかしながら、実機レイノルズ数の全機周りの解析におい
て、薄い境界層を含めた全領域を高精度 LES により解析することは、10 ペタフロップス
級の計算機をもってしても現実的ではない。そのため、物体近傍では RANS や壁関数を用
いて計算コストを緩和した LES とのハイブリッド的手法に関する研究が盛んに行われて
いる
21)
。 RANS/LES の 切 り 替 え に 関 し て は DDES(Delayed-Detached Eddy
Simulation)22)という切り替えにおける計算格子幅の影響を減らした手法が近年では良く
用いられている。
6
騒音解析を行う際には、数値誤差による音波の減衰を極力減らす必要があり、コンパク
トスキーム等の高次精度スキームの使用が望ましい。但し、高次精度スキームは構造格子
では比較的適用が容易であるが、高揚力装置や降着装置の形状が複雑なため、高精度な非
定常流れ場解析用の計算格子生成が難しい。そのため、構造格子では物理の本質を捉える
ことができる程度に単純化された形状や部分的な解析を実施しており、複雑な形状周りの
解析には形状融通性に優れた非構造格子や直交格子法をベースとした解析手法の研究が行
われている。ペタフロップス級の計算機が日常的に用いられる時代を考えて、複雑形状に
対しても短時間で容易に格子生成が可能、高次精度計算が容易、大規模並列計算が容易、
入出力ファイルの圧縮や後処理が容易、といった要求を満足する BCM(Building-Cube
Method)というブロック構造直交格子法的なアプローチを用いた次世代計算機にむけた
解析手法も提案され、研究が進められている 23)。
機体空力騒音予測精度に関しても、国際ワークショップを通じて共通の課題に対して計
算を行い、現状と技術課題に関して議論が行われ始め、計算効率や計算精度の改善が進め
られている。2011 年から開催されている BANC (Benchmark problem for Airframe Noise
Computations)ワークショップ 24)では、機体空力騒音予測精度を議論するための基礎的な
形状の検証問題から、複雑な高揚力装置や脚の形状の検証問題を提供している。高精度数
値計算法の検証に用いるために、比較として用いる風洞試験データも質の良いデータが必
要であり、風洞試験と CFD/CAA(Computional AeroAcoustics:計算空力音響学)のグルー
プが密接に協力して議論が進められている。
7.
まとめと今後の展望
剥離が少ない設計点における空力特性予測に関しては、計算精度と必要とされる計算規
模の関係が明確になってきた。また、データの生産性が向上し、現実的な期間において数
百~数千ケースの計算ができるようになり、CFD の適用範囲拡大により、一連の飛行ミッ
ションの中の代表的なケースを解析できるようになってきた。一方で、必要な空力評価ケ
ース数は数十万~数百万にものぼり、飛行エンベロープ端では大きな剥離を含む。そのた
め、格子生成の自動化や CFD ツールの高速化、解析結果処理のシステム化などにより解
析効率を上げると共に、乱流モデルや乱流遷移モデルの改良、高精度 RANS/LES 解析等
により剥離が大きな流れ場や非定常流の解析の信頼性を向上させていく活動が今後も継続
的に必要である。
最近では、非常に複雑な形状をもつ脚や高揚力装置から発生する空力騒音に関しても解
析できるようになってきているが、計算時間や予測精度は未だ十分なレベルではなく、そ
の改善が求められる。また、近年、燃費を大幅に改善するが騒音レベルが大きなオープン
ロータエンジン機や、機体の遮蔽効果を積極的に利用して静粛性を大幅に向上させる機体
コンセプトなど、従来型の機体と比べて環境性能を飛躍的に向上させる機体コンセプトが
提案されているが、そういった新たな機体コンセプトの実現性や環境性能を精度良く評価
するために、エンジン-機体干渉騒音や騒音遮蔽効果などの複合効果を精度良く推算する研
究も進めていく必要がある。
計算機の性能は今後も向上を続けると予想されるが、大規模並列計算における並列効率
や大規模データに対する計算前処理/後処理法など、現在の計算法の拡張だけでは限界もあ
7
る。将来の計算機アーキテクチャの変化に合わせた計算アルゴリズム開発も必要である。
8.
参考文献
1) Ball, N. D., “Contributions of CFD to the 787 – and Future Needs,” IDC HPC User
Forum, 2008
2) Meredith, P. T., “Viscous Phenomena Affecting High-Lift Systems and Suggestions
for Future CFD Development,” AGARD CP 315, 1993.
3) Levy, W. D., et al., “Summary of Data from the Fifth AIAA CFD Drag Prediction
Workshop,” AIAA 2013-0046, 2013.
4) Murayama, M., et al., “Summary of JAXA Studies for the Fifth AIAA CFD Drag
Prediction Workshop Using UPACS and FaSTAR,” AIAA 2013-0049, 2013.
5) Spalart, P. R., et al., “A One-Equation Turbulence Model for Aerodynamic Flows,”
AIAA 92-0439, 1992.
6) Menter, F. R., “Improved Two-Equation k-omega Turbulence Models for
Aerodynamic Flows,” NASA TM 103975, 1992.
7) Spalart, P., R., "Strategies for turbulence modelling and simulations," Int. J. Heat
and Fluid Flow, Vol. 21 (2000).
8) Yamamoto, K., et al., “Effect of a Nonlinear Constitutive Relation for Turbulence
Modeling on Predicting Flow Separation at Wing-Body Juncture of Transonic
Commercial Aircraft,” AIAA 2012-2844, 2012.
9) https://c3.nasa.gov/dashlink/projects/47/
10) Ito, Y., et al., “Efficient and Accurate Evaluation of Aircraft in Different
Configurations with Automatic Local Remeshing,” AIAA 2013-2711.
11) Hansen, H., et al., “Overview about the European High Lift Research Programme
EUROLIFT,” AIAA 2004-0767, 2004.
12) Neitzke, K. P., et al., “Low Speed Validation Tests on Engine/Airframe Integration
Within the EC Project EUROLIFT II,” AIAA 2005-3704, 2005.
13) Rudnik, R., et al., “HINVA – High lift INflight VAlidation – Project Overview and
Status,” AIAA 2012-0106, 2012.
14) 村山,他「JAXA 高揚力装置風洞模型を用いた CFD ワークショップのまとめ」第 39 回
流力講演会/ANSS2007, 2007.
15) http://hiliftpw.larc.nasa.gov/
16) 村山,他「民間航空機空力設計への適用のための大規模空力シミュレーション技術の開
発-エンジンスラストリバーサ空力解析技術開発-」SENAC, Vol. 43, No.2, 2010.
17) 前田「CFD の小型旅客機設計適用に関する研究」平成 22 年度 JAXA スーパーコンピ
ュータシステム利用成果報告書
18) http://integration2012.jaxa.jp/
19) 「第 5 回 EFD/CFD 融合ワークショップ」, JAXA-SP-12-002, 2012.
20) 口石, 他「JAXA デジタル/アナログ・ハイブリッド風洞(DAHWIN)の開発(その1)
:
システム概要と活用例」第 45 回流体力学講演会/ANSS2013, 2013.
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この解説概要に対するアンケートにご協力ください。
21) Kawai, S., et al., “A Non-equilibrium Dynamic Wall-model for LES of High
Reynolds Number Airfoil Flow near Stall Condition,” AIAA 2013-0683, 2013.
22) Spalart, P. R., et al., “A New Version of Detached Eddy Simulation, Resistant to
Ambiguous Grid Densities,” Theor. Comp. Fluid Dynamics, 2006.
23) 中橋「ペタフロップス計算機時代における CFD」第 45 回流体力学講演会/ANSS2013,
2013.
24) https://info.aiaa.org/tac/ASG/FDTC/DG/BECAN_files_/BANCII.htm
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