最新中国自動車販売動向 外資ブランド車の販売シェア上昇 ~中国民族系ブランドはちょう落~ 亜州IR株式会社 執行役員 編集部長 永井 茂氏 はじめに 図表2. 中国乗用車販売ブランド国別シェア2012年8月~2014年7月 今年1~7月までの中国自動車市場は、 ドイツ系ブランド車の勢い が強まったほか、 緩やかながら日系ブランド車も回復した。逆に、 中国 系ブランドの販売は総じて伸び悩む展開を強いられた。消費者の高 級志向を裏付ける結果だが、 政府は 「独占禁止法」 の運用強化など の行動を取り始めており、 海外の大手自動車メーカー、 部品メーカーに とっては見逃せない政策変化となっている。以下、 新車販売の動向を 振り返りながら、 今後の行方を考察したい。 50% 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 民族系 独系 日系 米系 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 2012年 2013年 2014年 出所:中国汽車工業協会 伸ばしている。以下、 日系の15.5% (同20万9,600台) 、 米系の13.6% 足元の販売動向 (同18万4,400台) 、 韓国系の9.2% (同12万5,200台) 、 フランス系 中国汽車工業協会によると、 今年1~7月の新車販売台数は、 累 の4.2% (5万6,800台) などと続く。 ブランド別でみると、 一汽-大衆汽 計で8.2%増の合計1,330万1,700台に上った。中期動向も明るい。 車 (ドイツ・フォルクスワーゲン社との合弁) の1〜7月累計前年同期 2014年通年の販売台数について、同協会は8~10%増の2,374 比が19.7%の93万9,139台。上海大衆汽車 (ドイツ・フォルクスワー 万~2,418万台に拡大すると予測している。 ゲン社との合弁) は同じく22.2%増の89万5,527台。上海通用 (米 昨年の販売台数は、 前年比13.9%増の2,198万台に達し、 2,000 /GMとの合弁) は14.3%増の80万6,943台。長安福特 (米国・フォー 万台を超えた。世界一の国内販売台数である。昨年の生産台数は ド社との合弁) は26.6%増の34万952台と、 欧米勢の好調さが見え 14.8%増の2,211万台と、 ほぼ国内需要のみをまかなっている。 る。反面、 日系では東風日産が9.5%増の42万7,717台。一汽豊田 が1.1%増の21万9,430台と欧米勢に見劣りしている。 ブランド別シェアの推移 急成長が続く中国の自動車販売だが、 民族系 (中国系) ブランド車 独占禁止法による制裁 の存在感が弱まる傾向にある。同ブランド乗用車の7月販売台数は、 中国系ブランドの劣勢が表面化するなか、 中国当局は独占禁止法 前年同期比で7.7%増の46万9,100台に伸びたものの、前月比で による制裁に着手したとみられる。複数の中国メディアが8月中旬ま は17.2%減とマイナス。乗用車販売全体に占める比率は34.6%とな でに伝えたところによると、 フォルクスワーゲン (VW) と第一汽車集団 り、 前月比で1.68ポイント、 前年同月比で0.64ポイントずつ低下してい が合弁設立した一汽-大衆汽車公司に対し、 中国当局が18億人民元 る。通年ベースでも、 過去数年にわたって縮小傾向が持続。2011年 (約300億円) の罰金を科す方針を決めた。独占禁止法に違反した で42.2%、 2012年で41.9%、 2013年で40.4%に低下した。 と判断したためである。VWグループ傘下の高級車 「アウディ」 につい 一方、海外ブランド乗用車の販売は、欧米勢を中心に伸びが目 て、 部品などの価格を不当に吊り上げていると認定した。2013年売 立った。乗用車販売シェアの首位は22.8%のドイツ系 (販売台数は 上高の1%相当を徴収するという。中国で独占禁止法が導入された 30万9,400台) 。2012年9月以降、 日系と順位が入れ替わりシェアを 2008年以降で最高罰金額を更新する見込みだ。 図表1. 中国自動車販売2014年1月〜7月 おわりに 250 200 今後、 民族ブランドは一時的に盛り返す局面がみられそうだが、 消 150 100 費者の志向が変わらない限り、 長期的な外資優位の構図に変化は 50 生じないとみられる。 また、 高額販売にメスが入れられるなか、 外資メー 0 ■商用車 ■乗用車 1月 31.0 184.7 2月 28.4 131.2 3月 45.9 171.0 4月 39.5 160.9 5月 32.1 159.0 出所:中国汽車工業協会 16 mizuho global news | 2014 NOV&DEC vol.76 6月 28.2 156.4 7月 26.0 135.8 カーが販売価格を引き下げた場合、 消費者がこぞって外資ブランド車 に買い替える可能性もある。独占禁止法の取り締まり強化は、 中国 政府にとって 「もろ刃の剣」 になる可能性があるといえそうだ。 中国自動車市場の拡大と日系部品メーカーの非日系ビジネス みずほ銀行 国際営業部 調査役 湯 進 中国では工業化の進展による自動車生産の拡大や国民所得の る部品共通化戦略「メガプラットフォーム」 により、 部品メーカーに対 増加を受けて、 マイカーブームが広がっており、 自動車市場は2013 するさらなるコスト削減や値引き要請がなされる可能性がある。 年に2,198万台を記録し、 日米自動車市場の合計に匹敵する規模 まで拡大している。 日系完成車メーカーの増産の他、 中国自動車市 日系部品メーカーの非日系ビジネス 場での部品需要の増加にともない、 日系部品メーカーは中国事業 2013年春以降日系部品メーカーは日系車の販売回復を受け に一層力を入れている。本稿では中国における日系部品メーカーの て、 フル稼働が続いており、 追加の設備投資により生産能力を強化 非日系ビジネスの現状と可能性をレポートする。 している。一方、 最近の中国系部品メーカーの台頭や欧米系部品 メーカーの拡張等が日系部品メーカーの収益にマイナス影響をもた 日系完成車メーカーの成長鈍化 らすことが懸念されている。 さらには日系完成車メーカーがコストダウ 尖閣問題による日本車販売の低迷は、 ライバルの欧・米・韓系 ン相当分をTier1メーカーに転嫁し、 それがTier2メーカー以下の収 メーカーにとっては好機となり、 GM・VW・現代は日系の主力車種と 益力低下につながるリスクもある。 ライバル関係にある一部車種を値下げし、 攻勢を強めて、 日系ブラン こうした環境下、欧米系を含む非日系車マーケットは日系車マー ドのシェアを奪っている。 日系車販売台数は年々増加しているもの ケットと比較して伸び率が高く、 新たな販売先として多くの日系自動 の、 欧米系車の伸び率より低かったため、 中国乗用車市場全体の 車部品メーカーから関心も寄せられている。現地調査によれば、企 シェアは低下傾向にある (図表1) 。 業形態や市場環境によって、 日系部品に対する非日系完成車メー 図表1. 中国乗用車市場の国別シェア カーの関心度合いは異なっており、特に外資系高級車メーカーの 調達条件は厳しいものとなっている (図表2) 。 50(%) 40 30 現地メーカーと同等な素材を使用し、同等なコスト管理を行う必要 27% があり、 日本型生産システムと中国型工場管理・労務管理のノウハ 独系 22% 20 ウを融合させ、品質を維持しながら徹底的なコスト削減に取り組む 日系 15% 米系 13% 韓国系 9% 仏系 4% 10 0 今後、 日系部品メーカーが非日系ビジネスを拡大させるためには、 中国系 38% 必要もある。高品質かつ低価格の部品を非日系完成車メーカーに 納入できれば、 価格競争力の向上から日系完成車メーカーへの納 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 1~8月 入拡大も可能と考えられる。 出所:中国自動車工業協会の発表より、 みずほ銀行 国際営業部作成 また非日系ビジネス拡大には能力増強や現地調達率の拡大だ こうした中、 日系完成車メーカーは工場増設や販売網の拡充、 新 けでは限界があり、 R&D機能の設置や現地に対応した商品の開 モデルの投入および小型車の開発等を通じて低下したシェアの奪 発強化等、 生産以外に開発の面でも現地化が必要になると考えら 回に向けた動きを強めている。一方、 小型車市場では、 低価格車の れる。今後日系部品メーカーは、欧米系・中国系部品メーカーに対 コスト競争は激化しており安価な部品の需要が高まっている。 日系 抗するために、 代金回収・技術流失等のリスクを考慮したうえで非日 完成車メーカーはこれまで系列部品メーカーからの調達を優先して 系を含む他社と連携して、 モジュール部品事業へ転換したり、非日 いたが、 コスト競争力強化の観点から非日系部品メーカーからの調 系納入先・提携先向けの営業力・提案力の向上も図っていく必要 達拡大も進めている。 また近年、 日系完成車メーカーが取り組んでい がある。 図表2. 非日系完成車メーカーによる日系自動車部品メーカーへの関心 企業形態 市場環境 企業例 民族系 厳しい 奇瑞汽車、江淮汽車 外資系 (合弁) 良い 大手自動車集団 非常に良い 外資系高級車 (合弁) 非常に良い 日系への関心 提携可能性・条件 大 対象企業を挙げ提携検討を希望 上海GM、東風PSA 中 検討可、欧米での取引有無は重視 上海汽車、東風汽車 やや小 検討可、既存サプライヤー重視 BMW、Audi 小 検討可、業界地位・欧米での取引有無は重視 出所:みずほ銀行 国際営業部 中国現地調査より mizuho global news | 2014 NOV&DEC vol.76 1 7
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