1 2014 年 10 月 24 日 専門科目1「マーケットとファイナンス(前半)」(松島斉) 2-3. 「選択の科学」としての経済学 参考資料:ギルボア「意思決定理論入門」(NTT)2011 記述的理論: 個々人は現実にどのような選択をしているか 価値判断なし 規範的理論: 個々人はどのような選択をするべきか 経済学者が良し悪しについて価値判断する ⇒ 「このように行動するといいですよ」と忠告 ⇒ 「なるほどそうしよう」 Good Theory 「いやだ」 Bad Theory →Need modification 2 個人の選択問題 選択肢集合 B の中から一つの選択肢 x を選択する x C ( B) B 例: 山田さんは選択肢集合 B {みかん、イチゴ、トマト} から、みかんを選 んだ。 ∴ C ( B) みかん 3 様々な選択肢集合 B 、 B 、 B 、…について 実際に何が選択されたかについてのデータがある 選択肢全体の集合 X B X 、 B X 、 B X …… 選択肢集合全体の集合 2 X B 2 X 、 B 2 X 、 B 2 X …… 選択ルール(Choice Rule) C : 2X X where we assume C ( B) B for all B 2 X . 4 例:選択肢全体の集合 X {みかん、ばなな、いちご、とまと} C ( B) とまと B {みかん、いちご、とまと} C ( B) みかん B {みかん、いちご} B X {みかん、ばなな、いちご、とまと} C ( B) ばなな 5 顕示選好の弱公理(Weak Axiom of Revealed Preference) 選択ルール C についての最重要要求条件 [ C ( B ) B and C ( B) C ( B ) ]⇒[ C ( B) B ]] 選択肢集合 B からは C ( B) が選択された。 では、別の選択肢集合 B からは何が選ばれるのか。 C ( B) が B に入っているならば、 C ( B) が選ばれるかもしれない。 C ( B) が選ばれない場合には、 B の中の選択肢は選ばれない。 つまり、差集合 C ( B) \ C ( B ) の中にある選択肢が選ばれる 例: 例: みかんとバナナ: みかんとバナナとイチゴ: バナナ みかん? NO! みかんとバナナとイチゴ: バナナとイチゴとトマト: バナナ イチゴ? NO! 6 現実的な事例:医療補助金制度の廃止 (神取ミクロ第1.4節+アルファ) s 「今まで医療サービス補助金を単位当 円に設定していました。 今後は補助金制度を廃止します。 ただし、あらかじめ現金支給することで、 従来通りの医療サービスを受ける際に生じる追加負担は 100%補填されます。」 1年後…… ニュースキャスター(経済学音痴) 「今年の医療サービスは、前年度より下回りました。 どうやら補助金制度廃止の悪影響が見られますね。」 これ正しい? 7 8 B :医療サービス単価 p 円、補助金 s 円の時、予算Y 円以下で選択できる(医療サービス、 所得)全体の集合 x* ( x1* , x2* ) C ( B ) B : * 医療サービス単価 p 円、補助金ゼロ円、現金支給 sx1 円の時の、予算Y 択できる(医療サービス、所得)全体の集合 sx1* 円以下で選 顕示選好の弱公理より C ( B) x* あるいは C ( B) B 予算線上の点であろうから、赤ライン上のどこかに C ( B) が位置することになる 重要ポイント: C ( B) よりも C ( B) を好んで選択した つまり、 C ( B ) と同じ医療サービスを受けられたにもかかわらず より低い医療サービスである C ( B) を好んで選んだ。 ∴ キャスターの説明は不適切である。 *ただし、医療サービスのレベルを、健康上適切なレベルより低く選択する傾向にある場合 には、キャスターの言い分にも一理ある:後述 9 2.4.効用関数(Utility Function)の導出 経済学では ベンサムの快楽的効用と「全く異なる」効用概念を用いる 序数的効用 10 顕示選好の公理をみたす場合には 選択肢に好き嫌いのランクをつけることができる 例:選択肢全体の集合 X {みかん、ばなな、いちご、とまと} C ( B) とまと B {みかん、いちご、とまと} C ( B) みかん B {みかん、いちご} B X {みかん、ばなな、いちご、とまと} C ( B) ばなな 1位: 2位: 3位: 4位: ばなな とまと みかん: イチゴ: 4点(あるいは 56 点、100 点、などなど) 3点(あるいは 54 点、40 点、などなど) 2点(あるいは 53 点、33 点、などなど) 1点(あるいは 52.5 点、-40 点、などなど) 点数の値はどうでもいい。「大小」関係さえ正しければいい 序数性のみ重要(cf. 基数性) 11 u (banana ) 56 u (tomato ) 54 u ( mikan ) 53 u (ichigo ) 52.5 効用関数の一例 この個人の選択行動は「効用最大化問題」として定式化できる C ( B ) arg max u( x ) xB つまり u (C ( B)) u ( x) for all x B \ {C ( B)} (cf. 無差別の場合は?) 12 規則性の仮定 過去のデータは不規則に(でたらめに)選択された結果ではない。 過去のデータから導かれた効用関数 u ( x) は、 この個人の「これからの」選択行動をよりよく記述するものである。 経済学者は、この個人のこれからの選択行動の予測を 効用関数 u ( x) の最大化としてモデル化する。 この個人は効用関数 u ( x) にしたがって今後実際に選択するか? する場合: この人は合理的だ。理論は正しかった。 しない場合: そうするべきだ(規範理論) 「そうしよう」: 非合理な個人に有益なアドヴァイス 「そうしたくない」: 個人は非合理? それとも モデルを修正すべき? (第 2.5 節へ) 13 2.5.行動経済学: 合理的な個人、非合理的な個人 (次回に続く)
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