Real-time RT-LAMP 法を用いたインフルエンザウイルスの 迅速的

Real-time RT-LAMP 法を用いたインフルエ ンザウイルスの
迅速的遺伝子診断法に関する研究
日大生産工 (PD) ○根本 浩史
日大生産工 (院) 坂井 俊哉
日大生産工 小森谷 友絵, 神野 英毅
【緒言】
2009 年 4 月にメキシコおよびアメリカにて
(Yamanashi/166/98) 不 活 化 ウ イ ル ス 粒 子
(Zeptmetrix, USA)を使用した。臨床検体として
確認されたブタ由来の新型インフルエンザウ
2008 年冬から 2009 年秋にインフルエンザ様症
イルスによって、日本でも流行地域からの帰国
状を示した患者から採取した鼻孔ぬぐい液を
者を中心に全国各地で緊急検査が実施された
用いた。
ことは記憶に新しい。交通機関の発達した現代
社会において、今後もこのような感染拡大を未
2.
然に防ぐため、感染者を早期に発見することが
(NCBI)の Influenza virus resource より検索した
重要であり、そのためには迅速かつ正確な診断
インフルエンザ B 型の塩基配列をアライメン
法が求められる。
ト解析し、LAMP 法プライマー作製支援ソフト
現在、POC におけるインフルエンザウイル
スの診断法は、イムノクロマトなどの免疫診断
Primer Explorer ver.4 を用いて 4 本のプライマ
ーおよび 2 本のループプライマー(LP)を作製
法が迅速診断法として用いられている。免疫診
した(Table 1)。また同様に A/H1N1、A/H3N2
断法はその感度性能から感染早期の患者にお
および新型インフルエンザ(Swine, H1N1)に特
いて偽陰性を示す場合があるため、そのバック
アップとして高感度な遺伝子学的測定法が重
異的に反応するプライマーを設計した。
要である。しかし、実験室測定法として標準的
Table 1
LAMP Primer for Influenza B virus
な Real-time RT-PCR 法は設備や測定時間など
Primer
の制約があり、POC にて運用できる診断法に
FluB-M-FIP
は成り得ていない。
そ こで 我 々 は 、新 規 遺 伝 子 増幅 法 で あ る
FluB-M-BIP
Sequence (5'‐3')
GCGTTCCTAGTTTTACTTGCATTGATGAAAGCTCAGCGCTACT
TGCGAGAAACAAGCATCACATTCTGCATTTCTCGTCTCACT
ATTTGAAATAGCAGAAGGCC
TGTTCATAGCTGAGACCATC
CCAGGATTCAGGTACATGACCATG
ACACAGGGCTCATAGCAGAGCA
Loop-mediated Isothermal Amplification (LAMP)
法に着目した。LAMP 法は等温で遺伝子増幅が
行え、迅速に遺伝子を検出できる 1)。また、操
作が簡便で、6 領域を 4 本のプライマーで増幅
することから特異的かつ高感度な測定を行う
ことができる。本研究では、今後も感染が拡大
すると予測される新型インフルエンザウイル
スを対象として、LAMP 法を原理とする高感度
かつ迅速的な遺伝子学的測定法の構築を目的
とした。
【実験方法】
1.
使用したウイルス
検討した標準サンプルとしてインフルエン
ザ A 型 (Singapore/63/04, H1N1 お よ び
Victoria/3/75, H3N2)、インフルエンザ B 型
使用プライマー
National Center for Biotechnology Information
FluB-M-F3
FluB-M-B3
FluB-M-LF
FluB-M-LB
3.
Real-time RT-LAMP 反応性の検討
標準サンプルより抽出した RNA を 102 倍∼
105 倍に希釈し標準 RNA とした。それぞれの
標準 RNA を鋳型とし、各プライマーを用いて
RT-LAMP 法にて測定を行った。また、LP を追
加し、反応の時間変化を検討した。測定は RNA
Amplification Kit (栄研化学)および Loopamp リ
アルタイム濁度測定装置 RT-160C (栄研化学)
を用い、63℃、波長 660 nm での 10 秒毎の濁度
変化を測定した。
Study on Nucleic Acid Test for Rapid Detection of Influenza virus by Real-time RT-LAMP
Hiroshi NEMOTO, Toshiya SAKAI, Tomoe KOMORIYA and Hideki KOHNO
4.
臨床検体測定
以前報告した One-step な multiplex real-time
Turbidity (dAbs)
0.15
RT-PCR により臨床検体のスクリーニングを
行った
2)
。測定には RNA-direct realtime PCR
(TOYOBO)および LightCyclerⅡリアルタイム
測定装置 (Roche Diagnostics, USA)を用いた。
104 copy
103 copy
102 copy
101 copy
0.1
0.05
また、同じ検体を用い、Real-time RT-LAMP 法
により各亜型に特異的に反応するプライマー
0
0
を用いて測定を行い比較した。
【結果および考察】
1. Real-time RT-LAMP の反応性
設計した Influenza B 検出用プライマーを用
10
20
30
40
50
60
Time (min)
Fig. 1 Detection of Influenza B virus by Real-time
RT-LAMP
いて測定した結果、遺伝子増幅による特異的な
Fluorescence (560 nm)
濁度上昇が確認でき、各希釈サンプルで濃度に
応じた検出が行えた (Fig. 1)。また、LP を使用
することで 20%程度反応起点の時間が短縮さ
れ、LAMP 反応の高効率化が確認できた。
2.
臨床検体の測定
Multiplex real-time RT-PCR により測定した
結果、
560 nm の蛍光チャンネルで検体 A,B, C,D
検体D
検体A
検体E
検体F
NC
検体C
検体B
で増幅曲線の立ち上がりが確認できた(Fig. 2)。
Cycle
これより 4 検体が A 型陽性であると確認でき
た。そこで新型インフルエンザに対するプライ
Fig. 2 Detection and screening of Influenza viruses
マーにより LAMP 測定を行った結果、検体 A
にて特異的な濁度上昇を示し、増幅曲線の立ち
by multiplex real-time RT-PCR
Turbidity ( dAbs )
上がりを確認できた(Fig. 3)。そのため検体 A
は新型インフルエンザウイルスであると示唆
0.2
!"A
!"B
!"C
!"D
!"E
!"F
NC
0.15
された。両測定法の増幅曲線の立ち上がりを比
較すると、Multiplex real-time RT-PCR 法では 28
cycle (約 50 分)で蛍光反応が確認できたのに対
0.1
0.05
し、Real-time RT-LAMP 法では約 20 分で濁度
0
上昇が確認できた。これより Real-time RT-
0
10
LAMP 法を用いることで、より迅速にインフル
エンザウイルスが検出できることが示された。
【結論】
20
30
40
50
60
Time (min)
Fig. 3 Detection by Real-time RT-LAMP against
novel Influenza virus
迅速的にインフルエンザの遺伝子学的測定
を行うために、リアルタイム RT-LAMP 法を検
【参考文献】
討した。本法は逆転写反応から遺伝子増幅まで
を等温・ワンステップで行えて、新型インフル
1)
ことから、POC 用途の遺伝子定量法として用
いることができ、今後拡大が予測される新型イ
ンフルエンザにおける多角的な対策の一つに
なると期待できる。
Notomi
et
al,
Loop-mediated
isothermal amplification of DNA, Nucleic Acids
Research, 28, No.12, 2000, e63
エンザウイルスの測定では迅速的な反応性を
示した。さらに本法は濁度変化にて測定可能な
Tsugunori
2)
日本大学大学院生産工学研究科生命工学・リ
サーチ・センター平成 20 年度研究報告