鰻池の水質状況に関する考察 *貴島宏1,宮元誠1 ,羽子田真吾1 ,湯田達也1 ,尾辻裕一2 ,須納瀬正1 1鹿児島県・環境保健センター, 2鹿児島県・環境放射線監視センター Introduction 鰻池は薩摩半島南端の池田湖の東に位置する火口湖である 湖岸東側は温泉地帯となっており,重要な観光資源である 鰻池の湖水は指宿市山川町の上水道水源として利用されている 1970年代には,鯉の養殖業や鰻地区の温泉排水及び生活排水が湖に流入 していたことなどから,春先に淡水赤潮が発生していた 1980年以降は集水域内の温泉排水及び全生活排水を湖に流入する直前に 集めて処理し,流域外に放流する対策をとったことなどから,淡水赤潮の発 生は見られなくなっている 鰻池や池田湖の水質について は,1975年以降公共用水域の 水質常時監視として継続した調 査が実施されてきた DOについて 水温について 閉鎖型の湖沼では,一旦流入 した汚濁は底質・水中などの系 内に留まり,長期にわたり湖沼 環境に影響を及ぼす • 鰻池における長期的な水質の変化について把握 • 底層における溶存酸素と栄養塩の状況について報告 池田湖 鰻池 山川湾 池田湖(参考) 鰻池 湖面積 10.95 km2 1.15 km2 周囲長 15.1 km 4.2 km 最大水深 233 m 56.5 m 平均水深 125.5 m 34.8 m 標高 66 m 120 m 流域面積 12.34 km2 2.45 km2 貯水量 1470000 千m3 40020 千m3 類型 A類型 A類型 指定時期 1977.6 1982.11 DOの月別平均値 水温の月別平均値 表層水温は7~9月に約28℃まで上昇,1月に約11.5℃まで低下する 水深20m層の水温は11月頃に最も高くなり,3月に年間で最も低くな る傾向にある。表層水温との温度差は3~11月まであり,この期間は 成層化しているものと推察される 水深50m層の水温は年間を通して比較的安定している 表層のDOは5月に過飽和(飽和度112%)となる。他の項目で5月の 水の状態が悪くなっているのは内部生産によるもの考えられる 水深50m層のDOは,例年3月に大幅に上昇する。これは全層循環 によるものと考えられる。循環後はDOが徐々に減少していき,年間 で1mg/L付近まで低下する傾向にある(8か月で4.9mg/L減少) 1. 鰻池の水質の状況について 1-1. Methods 調査地点 採水層 湖心(環境基準点) 表層,20m層,50m層 対象期間 1975~2012年度とし,原則として年6回奇数月に実施*1 対象項目 透明度,水色, COD,T-N*2,T-P*2,水温,DO 水深50m層の水温及びDO,指宿気象台1,2月平均気温の推移 *1 1975年度は年3回,1976年度は年4回,1979,1980年度は年12回測定 *2 1982年のT-N,T-Pは欠測 バンドーン採水器等で採水したものを,実験室にてJIS K 0102により測定 定量下限値未満の値を定量下限値の値とした 1-2. Results and Discussion 水深50m層の水温は,1980年代までは約9~10℃の範囲内で,1990年代以降は約10~11℃の範囲内で推移している 例年3月までに全層循環が生じて底層のDOが回復しているが,全層循環が発生しない年や循環が不十分な年もある。このことは,吉村*による分 類(厳冬には完全全循環,暖冬には部分循環する)と一致していた。循環が不十分な年の後には底層のDOが低い状態が継続する 全層循環は発生せずに部分循環となった年には,指宿気象台の1,2月平均気温が水深50m層の水温よりも高い,または近い値となっている *吉村(1937) 南九州火山湖の冬季における循環状態(2),海と空,17,第7号 1-3. Summary 表層については,1970年代から1980年代前半にかけて水質の悪化が見られたが,近年は徐々 に回復してきている傾向にある 表層T-Nについては期間を通して徐々に減少しているが,表層T-Pについては減少傾向を確認す ることができなかった 例年循環後の5月に水の状態が悪くなる傾向にあり,これは内部生産によるものと推察される 例年3月までに全層循環が生じるが,全層循環が発生しない年や循環が不十分な年もある。その 年の後には底層のDOが低い状態が継続する 透明度,水色について 2. 底層におけるDOと栄養塩類の挙動について 透明度,水色(年平均値)の推移 透明度,水色の月別平均値 透明度は1980年代前半まで低い値であったが,1980年代半ばから 回復し,2000年頃からさらに高くなっている傾向にある 水色は1990年代まで高く,2000年頃からは低い値となっている 表層の水に関する透明度,水色は3月から5月にかけて悪くなる傾向 にある 透明度,水色はいずれも9月に年間で最も良い値となる 2-1. Methods 1996年3月~2002年3月とし,全層循環前後に栄養塩類の大きな変動が 見られた2000年1月5日,3月1日には鉛直データを示した 対象期間 水深50m層のみとした。鉛直分布には表層,10m層,20m層,30m層,40m 1975~2005年度までは上の6層を毎回採水 層,50m層の結果を用いた 採水層 2006年度以降は表層、20m層、50m層の3層のみ採水 DO, T-P, PO4-P, T-N, NH4-N, NO3-N 対象項目 CODについて その他については1-1. Methodと同様である 2-2. Results and Discussion 底層のDOとりんについて COD(75%値、表層年平均値)の推移 底層のDOと窒素について CODの月別平均値 COD75%値は1983年以降環境基準値3mg/Lを下回っている COD表層年平均値については,1980年代始めまでは3mg/Lよりも 高い値であったが,それ以降は2.5mg/L付近で推移している 表層CODについては5月に年間で最も高くなる傾向にある。これは 透明度,水色と同様の傾向であった 気温が低下する1月に年間で最も低くなっている 1996年3月~2002年3月における水深50m層のT-P,PO4-P, DOの推移 表層のT-Nについて 1998年及び1999年の1~3月は循環によるDOの回復が小さくなって おり,2000年1月まで底層が無酸素に近い状態が継続していた 底層の無酸素状態が継続した際にはT-P, PO4-Pが高濃度となる 全層循環によりDOが供給されるとりんは低下する 全層循環前後の水質の鉛直変化 1996年3月~2002年3月における水深50m層のT-N,NH4-N, NO3-N, DOの推移 底層のDOが低い状態が継続した際にT-N,NH4-Nが高濃度になっ ている 全層循環によりDOが供給されると NH4-Nが減少し,徐々にNO3-N 濃度が上昇している 循環前 循環後 循環前 T-N(表層年平均値)の推移 T-Nの月別平均値 表層T-Nは1980年代前半までは高かった 1980年代以降は徐々に減少している傾向が見てとれる。このことは 坂元ら*が重回帰解析により得た結果と一致していた 表層T-Nについても,透明度,水色,CODと同様に5月頃に年間で最 も高くなっている 9月から1月までは低い値となる傾向にある 循環後 *坂元ら(2012)鰻池及びダム湖における水温と水質の状況について,鹿児島県環境保健センター所報,13,109-113 表層のT-Pについて 2000年循環前後のDOの鉛直分布 循環前(2000年1月5日)におけるりん,窒素の鉛直分布 循環後(2000年3月1日)におけるりん,窒素の鉛直分布 DOの結果より,循環前には水深50m層のみ無酸素状態となっている。2000年3月1日にはDOが全層で一様になっており,全層循環が生じている 循環前には,水深50m層のみT-P,T-Nが高濃度になっており,その多くがPO4-P,NH4-Nであった。水深50m層が還元性状態となっていると推察さ れ,これらは底泥から溶出してきたものと考えられる 窒素について,循環前には水深50m層でNH4-Nが高くなっているがNO3-Nは低い。酸素の溶存する水深40m層ではNO3-Nが高いがNH4-Nは低く なっている。水深40m層では酸化性状態となり硝化が生じているものと考えられる。尾辻ら*によると,池田湖では長年底層での無酸素状態が継続 していた際にDOが無酸素となる層で脱窒現象が生じていたとしているが,鰻池でもこの現象が底層付近で生じている可能性が推察される 循環後にはりん及び窒素が全層で均一に近くなっており,多くが底泥へ沈降,または生物に取り込まれたものと考えられる。鰻池では,成層期の底 泥からの栄養塩類の溶出と循環期の沈降等を繰り返している *尾辻ら(2012) 池田湖における全層循環について,鹿児島県環境保健センター所報,13,41-49. 2-3. Summary T-P(表層年平均値)の推移 表層T-Pは1980年代前半まで環境基準値0.01mg/Lを超過していた が,それ以降は基準の超過は見られない 表層T-Nのような減少傾向は確認することができなかった T-Pの月別平均値 表層T-Pについても,透明度,水色,COD ,表層T-Nと同様に5月頃 に年間で最も高くなっている 9月頃に低くなる傾向にある。これは透明度,水色と同様の傾向で あった 底層の無酸素状態が継続した際には底層が還元性状態となり、高濃度のPO4-P、NH4-Nが底泥 から溶出する。これらは全層循環によりDOが供給されると低下する 鰻池では,成層期における底泥からの栄養塩類の溶出と循環期の沈降等を繰り返している 今後,底層での無酸素状態が継続した際などには分析項目や採水層の追加が望ましい
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