論文要旨・審査の要旨

学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
猪狩
主
査
岡﨑
睦
副
査
下門
顕太郎、大橋
Quantitative
論
文
題
目
evaluation
公宏
勇
of
the
outcomes
of
revascularization
procedures for peripheral arterial disease using indocyanine green
angiography
(論文内容の要旨)
<要旨>
末梢動脈疾患患者において、インドシアニングリーン血管撮影検査(indocyanine
green angiography; ICGA)を用いて、末梢循環を評価するための定量的指標となるパ
ラメーターの確立と、この検査法の有用性について検討した。末梢動脈疾患症例 21
例に対し血行再建術前後に ICGA を施行した。定量的指標としてインドシアニングリ
ーン(indocyanine green; ICG)の最大輝度(Imax)、ICG が蛍光を発してから最大輝度
に到達するまでの時間(Tmax)、また最大輝度の半分に到達するまでの時間(T1/2)など
を 用 い た 。 こ れ ら を 従 来 の 末 梢 循 環 評 価 方 法 で あ る 足 関 節 上 腕 血 圧 比 (ankle
brachial pressure index; ABI)、足趾上腕血圧比(toe brachial pressure index; TBI)
および足趾血圧(toe pressure; TP)と比較検討した。さらに ICG 蛍光を測定する範囲
として関心領域(region of interest; ROI)を設定し、従来の指標との相関について
検討した。定量的指標としては、T1/2 が TP との相関が最も高く、ICGA で最も信頼た
る指標であった。また ROI の部位に関しては ROI 3(第 1 足趾中足骨レベル)が、従来
の指標と比較すると、他の ROI と比較してより高い相関関係を示した。さらに TP <
50mmHg が重症下肢虚血の診断基準であり、ROI 3 における T1/2:20 秒以上が TP:50mmHg
未満に相当した (感度;77%、特異度;80%)。よって ICGA は末梢循環評価に有用であり、
ROI 3 の T1/2:20 秒以上が重症下肢虚血の診断基準となり得ると言える。
<緒言>
末梢動脈疾患の病勢を評価するために様々な非侵襲的検査法が行われている。その
代表としては足関節上腕血圧比、足趾上腕血圧比、足趾血圧や経皮的酸素分圧などが
挙げられる。しかしこれらの検査法はいずれも様々な要因、例えば潰瘍を有する症例
では経皮的酸素分圧は接着型プロブを使用するため測定が不可能であり、また高度の
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動脈硬化性病変を有する症例では正確な足関節上腕血圧比を測定することは不可能
である。ICG は肝機能検査に用いられる薬剤であるが、近年局所の循環評価に用いら
れ始めている。末梢動脈疾患に対しても ICGA は応用されはじめているものの、現状
では定性的評価にとどまっている。よって今回われわれは末梢動脈疾患に対し ICGA
を施行し、定量的検査方法の確立と、重症下肢虚血の診断基準を確立することを目的
とし本検査を施行した。ICGA での定量的指標を従来より行われている非侵襲的検査
法の各種指標と比較検討することにより有用性を検証した。
<方法>
対象は、2012 年 11 月より 2013 年 2 月までに当科で血行再建術を施行した末梢動
脈疾患 36 例のうち、治療前後に ICGA を施行し得た 21 例 23 肢を対象とした。検査方
法は足部より 20cm 離れた箇所に CCD カメラ(Photodynamic Eye™, Hamamatsu Photonics
K.K., Hamamatsu, Japan)を設置し、肘静脈より 0.1mg/kg の ICG 溶液を静脈注射した後、
約 5 分間にわたって観察、録画した。この画像をもとに 1.ショパール関節部、2.リ
スフラン関節部、3.第 1 足趾中足骨の 3 部位別に解析した。定量的指標としては、ICG
最大輝度(Imax)、ICG 蛍光開始から最大輝度までの到達時間(Tmax)、最大輝度と到達
時間の傾き(Imax/Tmax = S)、ICG 蛍光開始から 10 秒後の輝度(PDE 10)、最大輝度の
半分までに ICG が蛍光するまでの時間(T1/2)を設定した。これらの定量的指標は従来
の末梢循環の指標である ABI、TBI および TP と比較検討した。各種解析結果はマンホ
イットニーの U 検定およびスピアマンの順位相関係数を用いて統計学的解析を加え
た。
<結果>
23 肢に対する血行再建術の内訳は、外科的血行再建術:3 肢、血管内治療:18 肢、
外科的血行再建術と血管内治療を組み合わせたハイブリッド治療:2 肢をそれぞれ施
行した。対象患者の平均年齢は 72 歳で、男性:17 例、女性:4 例であった。ROI の
部位別に各定量的指標を計測すると、すべての指標が治療前後で有意差に改善した。
従来の指標も同様に治療前後で有意な改善を認めた。次に ICGA の各定量的指標と従
来の指標とを比較すると、ABI は ROI 1 における Tmax、S、T1/2、PDE 10 と、ROI 2
における Imax、Tmax、S、T1/2、PDE 10 と、ROI 3 における Imax、Tmax、S、T1/2、
PDE 10 相関を認めた。TBI、TP はすべての ROI における各指標と高い相関関係を示し
た。最も高い相関示す ROI を検討したところ、ROI 3 が ROI 1, 2 と比べて従来の指
標とより高い相関関係を示し、さらに ROI 3 の T1/2 と TP が最も高い相関関係を示し
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た。よって ROI 3 の T1/2 と TP とを比較すると、T1/2 の 20 秒をカットオフ値として
設定した時に、重症下肢虚血の診断基準である TP 50mmHg を感度 77%、特異度 80%で
診断することができた。
<考察>
末梢循環検査として解剖学的評価と機能的評価を兼ね併せた方法はこれまでにな
く、CT 検査は解剖学的異常を評価するためには有用であるものの、機能的評価、末
梢の血流評価は不可能である。一方機能評価としては TP や経皮的酸素分圧があるが、
いずれも接触型プロブを使用することから、潰瘍・壊疽を有する症例では施行困難で
ある。
今回われわれが施行した ICGA では末梢循環評価が可能であり、かつ以前より報告
されているように解剖学的評価も可能である。しかしながら、これまでに末梢循環に
おける定量的指標に関する報告はなかったため、患者間での相互評価ができなかっ
た。Braun らは定量的指標として ICG の最大輝度が有用ではないかと示唆したものの、
個人間での評価には至らず、さらに ICG の輝度は環境要因や ICG の投与量、さらには
観察部位からカメラまでの距離で変化することについて言及しておらず、測定のプロ
トコルも確立していない。他方、ICG が蛍光してからの時間は環境要因の影響を受け
ないことより、最も有用な指標であることを証明し、かつ T1/2 が従来の指標、特に
TP と高い相関関係を認めた。
これまで報告された ICGA では ROI の設定に関して言及した報告がなく、測定プロト
コルが定まっていないという欠点を内包していた。よって ROI を 3 箇所設定し検討し
たところ、ROI 3 が TP と最も高い相関関係を示した。これは TP は第 1 足趾において
計測した血圧であり、測定部位が ROI 3 に近接することから最も相関が高い結果とな
ったと推定している。また重症下肢虚血の指標である TP 50mmHg を推定すべく ROI 3
の最も相関関係が高かった T1/2 を用いてカットオフ値を 20 秒と設定すると、感度
77%、特異度 80%であり、ROI 3 において T1/2 が重症下肢虚血の診断に有用であるこ
とが判明した。
<結論>
ICGA は新たな末梢循環評価法として有用であることが証明され、また ROI 3 にお
ける T1/2 を用いてカットオフ値を設定することにより重症下肢虚血の診断に有用で
あることが判明した。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第 4 5 8 8
論文審査担当者
猪狩
号
主
査
岡﨑
睦
副
査
下門
顕太郎、大橋
公宏
勇
(論文審査の要旨)
重症虚血肢の血流評価には様々な非侵襲的検査法が行われているが、現在行われている検査法
(経皮的酸素分圧、足関節上腕血圧比など)では、潰瘍形成など様々な要因で客観的測定・評価
が不可能であるため、より多くの症例で評価可能な方法の導入と、重症下肢虚血の診断基準の確
立が求められていた。
申請者らは、古くから肝機能評価に用いられてきたインドシアニングリーン(ICG)に着目し、
ICG 血管撮影検査(ICGA)を末梢動脈疾患に対して施行し、従来法の各種指標と比較検討すること
により、ICGA の有用性を検証した。末梢動脈疾患症例 21 例に対し血行再建術前後に ICGA を施行
した。定量的指標として ICG の最大輝度(Imax)、ICG が蛍光を発してから最大輝度に到達するま
での時間(Tmax)、また最大輝度の半分に到達するまでの時間(T1/2)などを用い、これらを従来の
末梢循環評価方法である足関節上腕血圧比(ankle brachial pressure index; ABI)、足趾上腕血
圧比(toe brachial pressure index; TBI)および足趾血圧(toe pressure; TP)と比較検討した。
さらに ICG 蛍光を測定する範囲として関心領域(region of interest; ROI)を設定し、従来の指標
との相関について検討した。定量的指標としては、T1/2 が TP との相関が最も高く、ICGA で最も
信頼たる指標であった。また ROI の部位に関しては ROI 3(第 1 足趾中足骨レベル)が、従来の指
標と比較すると、他の ROI と比較してより高い相関関係を示した。さらに TP < 50mmHg が重症下
肢虚血の診断基準であり、ROI 3 における T1/2:20 秒以上が TP:50mmHg 未満に相当した (感度;77%、
特異度;80%)。
以上の研究結果より、ICGA は虚血肢の末梢循環評価に有用であり、ROI 3 の T1/2:20 秒以上が
重症下肢虚血の診断基準となり得ることが示された。本研究は、重症虚血肢の重症度の評価にお
いて、従来からの検査法で評価不能であった症例においても広く適応のある信頼性の高い評価が
可能となったという点で、この分野に多大な貢献をもたらすことが期待される。
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