ティーチング・ポートフォリオ作成ワークショップの開催場所について ~校外と校内

ティーチング・ポートフォリオ作成ワークショップの開催場所について
~校外と校内の比較~
大阪府立大学工業高等専門学校 ○北野健一,金田忠裕,井上千鶴子,中谷敬子,早川潔,東田卓,鰺坂誠之
1.まえがき
大阪府立大学高専(以下,本校)では,FD 活動の
一環として 2008 年度よりティーチング・ポートフォ
リオ(以下,TP)の作成に取り組んでいる 1)2).TP
は作成者(メンティー)が自分一人で作成すること
も不可能ではないが,作成経験のある教員(メンタ
ー)の助言を得ながら,集中型ワークショップ(以
下,WS)で一気に書き上げる方法が有効であるため,
2009 年 1 月以降,9 回にわたり TP 作成 WS を校内で
開催してきた.2013 年 8 月,第 10 回を迎えるのを
機に初めて WS を校外で開催した.本講演では,校外
開催の準備と当日のスケジュールについて報告し,
事後に参加者に対して行ったアンケート結果より,
校外と校内における WS 開催の長所と短所について
まとめた結果について述べる.
2.ティーチング・ポートフォリオ
大学・短大・高専では,FD の努力義務化,義務化
に伴い,講演会や学生による授業評価,教員間での
授業参観などが導入されたが,どれも形式的なもの
にとどまっており,実質的な効果があがっていると
は言い難く,効果的・実質的な FD 活動を行うことが,
2008 年 12 月の中央教育審議会答申「学士課程教育
の構築に向けて」の中で求められた.
それに対するひとつの方法が「ティーチング・ポ
ートフォリオ(TP)」である.
TP とは「自らの教育活動について振り返り,その
自らの記述をエビデンスによって裏付けた厳選され
た記録」であり,通常は 3 日間程度の WS で,メンタ
ーの助言を受けながら,12~15 時間かけて A4 8~
10 枚程度の文書を作成する.WS の基本スケジュール
を表 1 に示す.特徴としては,内省,エビデンスに
よる裏づけ,柔軟性,厳選された情報の集積の 4 点
がある.2014 年 3 月末現在,日本国内で TP を作成
した教員は数百名と推定されている.2012 年 8 月の
中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学
教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に
考える力を育成する大学へ~」の「別添 3 学修成
果を重視した評価について」で TP が紹介されており,
今後はさらに増加するものと予想される.また,国
立高等専門学校機構が,2012 年 3 月に公開した「モ
デルコアカリキュラム(試案)」にも,「質保証機能
を担保するための取組み」の一つとして,TP が記載
されている 3).
表1
TP 作成ワークショップの基本スケジュール
1 日目
午
前
午
後
オリエンテー
ション
個人ミーティ
ング(1)
TP 作成作業
夜
間
夕食会
TP 作成作業
2 日目
個人ミーティ
ング(2)
TP 作成作業
TP 作成作業
個人ミーティ
ング(3)
3 日目
個人ミーティン
グ(4)
TP 作成作業
よりよいメンタ
ーになるために
TP 作成作業
プレゼン準備
TP プレゼンテー
ション
修了式
夕食会
TP 作成作業
3.準備
本校は第 9 回 WS まで校内で開催した.その理由の
第一は経費の問題である.当初は,本校の校長奨励
研究費を使って WS を企画・開催していたため,最低
限必要な消耗品・書籍の購入と,外部からメンター
兼スーパーバイザーを 1 名招へいするのが精一杯で
あった.幸い開催場所の比較を目的の一つに掲げた
科研費が獲得できたため,第 10 回を「ホテルコスモ
スクエア国際交流センター」で開催することとした.
WS 当日までに 2 回現地に赴き,下見と打ち合わせ
を行った.下見で撮影した写真は,校内の運営スタ
ッフの打ち合わせ会議でスライドショーとして提示
し情報共有を行った.WS の参加者は,HP で募集する
一方,個人的にも参加をお願いした.結果,メンテ
ィー・メンターあわせて 34 名を集めることができた.
4.当日
WSが開催された8月8日からの3日間,大阪は最高気
温が35.3, 36.0, 36.8℃という大変な猛暑であった.
その中で,会場のホテルからほぼ一歩も外に出るこ
となく,3日間過ごせたのは快適であった.
5.アンケート結果
本校では WS 改善のため,第3回以降,共通のフォ
ーマットでアンケート調査を行っている.アンケー
トは WS 終了後,電子メールに添付する形で参加者に
送付し,78 名からアンケートの回答を得た.このう
ち,校外開催の第 10 回参加者が 13 名,それ以外が
65 名である.設問は,自由記述も含め 27 項目あり,
この中には,事前課題のスタートアップシートや,
担当メンターに関すること等,質問項目は多岐にわ
【連絡先】〒572-8572 大阪府寝屋川市幸町 26-12 大阪府立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科
北野健一 TEL:072-821-6401 FAX:072-821-0134 e-mail:[email protected]
【キーワード】ティーチング・ポートフォリオ,ファカルティ・ディベロップメント
たっている.この中の「ワークショップ会場は快適
な環境だったか」という設問に対する回答を参考に
した.図 1 に校内開催 WS(第 3~9,11 回)参加者
の回答結果を記す.「快適だった」「どちらかといえ
ば快適だった」をあわせ,81%の参加者が肯定的な
回答であった.一方,図 2 に校外開催 WS(第 10 回)
参加者の回答結果を記す.「快適だった」「どちらか
といえば快適だった」をあわせ,92%の参加者が肯
定的な回答であったが,「快適であった」の割合が,
校内 44%,校外 77%と大きく異なっており,やはり
ホテルでの WS がかなり快適であったことが伺える.
次に「ワークショップの場所,開催時期,日程等
についてのご感想をお聞かせ下さい.
」という設問に
対する回答から,1つだけ抜粋して記す.
◆ホテルでの参加は初めてなので,実施する側とし
ての参考になりました.移動が少なくてすみ,集中
することができましたし,一緒に食事をする機会も
多く,人と接する機会が多く得られたと思います.
図 1 会場の快適さに対する回答(会場:校内)
表2
校
内
校
外
校内開催と校外開催の長所と短所
長所
短所
・通常業務の連絡が入る
・会場費がかからない
・エビデンス資料を研究 ため研修に集中できな
室等に探しに行くことが いことがある
・校内で宿泊できないた
できる
・突発的な準備不足にす め,ホテル(自宅)との
往復に時間がかかる
ぐ対応できる
・会場費がかかる
・研修に集中できる
・宿泊所と研修場所が近
く移動時間が節約できる
・参加者の一体感が高ま
る
・研修に必要な備品・消
耗品がそろっている
・研修に疲れた時のリラ
ックスも充実している
ことや,夜の意見交換会も校外の飲食店で開催する
ための移動時間のロスも挙げられる.校外開催の長
所としては,基本校内開催の短所の裏返しというこ
とになる.今回の会場では,宿泊室と研修会場が同
じ建物内にあり(レストランはもちろん,コンビニ
も同じ建物内にあった),移動時間がなく,TP の執
筆に集中できた.また,校内開催の場合,夜の夕食
会は任意参加であるが,今回の研修では,食事は朝
昼晩とも全員共通のものをとっていただいた.結果,
一緒に食事をする機会,イコール,人と接する機会
が多く得られ,高い満足度につながったのではない
かと考えられる.
7.あとがき
TP 作成 WS における開催場所について考察した.
校外が良いか,校内が良いかは,一長一短があり,
難しいところである.本校は今後も TP 作成 WS を年
2回,基本校内で開催していく予定である.他校で
WS を開催したいというご要望があれば,メンターの
派遣や WS のコーディネートなど,TP や WS に関する
ことはなんでも相談に応じている.TP は教員であれ
ば,どなたでも執筆することが可能なので,ぜひ参
加をご検討いただきたい.この原稿がこれから TP
を作成する諸氏の参考になれば幸いである.
謝辞
本研究は JSPS 科研費 23501044 による支援を受け
て実施した.関係各位に対し,ここに謝意を表する.
図 2 会場の快適さに対する回答(会場:校外)
6.考察
WS の校内開催と校外開催の長所と短所を表 2 にま
とめた.校内開催の長所としては,会場費がかから
ない,TP のエビデンスとなる資料を研究室等に探し
に行くことができる,突発的な事項に対応できる等
がある.短所としては通常業務の連絡が入るため研
修に集中できないことがある.また校内で宿泊でき
ないため,ホテル(自宅)との往復に時間がかかる
参考文献
1) 北野健一他:平成 25 年度全国高専教育フォーラ
ム教育研究活動発表会,発表番号 AP1_3_3 (2013)
2) 大阪府立大学高専ティーチング・ポートフォリ
オ研究会:「実践 ティーチング・ポートフォリ
オスターターブック ~実質的な教育改善活動
を目指して~」
,NTS(2011)
3) 独立行政法人 国立高等専門学校機構:モデル
コアカリキュラム(試案)
,p.104(2012)