2P01 TD DFT 法による分子内プロトン移動反応の理論的研究 ○新井 健文 1、寺前裕之 1、長岡伸一 2、長嶋雲兵 3 1 城西大学院理学部(〒350-0295 埼玉県坂戸市けやき台 1-1) 2 愛媛大学理学部化学科(〒790-8577 松山市文京町 2-5) 3 産業技術総合研究所(〒305-8562 つくば市梅園 1-1-1) 【序論】 o-hydroxybenzaldehyde(図 1、 OHBA)は、カルボニル基を含ん だ分子内水素結合を持つ最も単 純な芳香族分子である。OHBA は 分子内プロトン移動反応を起こ す最も簡単な分子の一つであり、 現在までに様々な研究がなされ ている [1]。 図 1 のように OHBA はケト型 とエノール型として存在するこ とができ、この二つの構造間の異 性化反応は、光反応によって起こ るとされている。基底状態でケト 型が吸光し、励起状態において分 子内プロトン移動反応が起こり、 励起状態でエノール型になり、そ こから発光して逆方向の分子内 プロトン移動反応が起こり、基底状態のケト型に戻ると考えられる。 我々は以前に図 2 に示したような OHBA およびカルボニル基の水素を様々な置換基に置き 換えた o-(substituted-formyl)phenol (オルト置換体)8 種類、およびベンゼン環の 5 の位 置に置換基のついた 5-substituted salicylaldehyde (5-置換体)7 種類の合計 16 種類につい て、基底状態は HF/6-31G**、励起状態は CIS/6-31G**により構造最適化を行った。さらに 計算対象分子 16 種類について B3LYP/6-31G**、MP2/6-31G**、TD B3LYP/6-31G** 、 LC-BLYP/6-31G**による構造最適化を試みた。しかし、5 置換体における発光エネルギーと ハメットのσ値との相関が実験値から考えられる相関と異なる結果となった[2,3]。 本研究では B3LYP、LC-BLYP 以外の汎関数による TD DFT 計算を行うことで、分子内プ ロトン移動反応をより正確に記述することができるのではないかと考え、様々な汎関数を用 いた TD DFT 計算を試みた。 【計算方法】 分子軌道計算には Gaussian09 プログラムを使用した。計算に用いた構造は HF/6-31G**、 CIS/6-31G**の構造を用いた。基底関数には 6-31G**基底を使用し基底状態、励起状態は汎 関数(B3LYP、B3P86、B3PW91、B1B95、mPW1pw91、mPW1LYP、mPW1PBE、mPW3PBE、 B98、B971、B972、PBE1PBE、B1LYP、O3LYP、BHandH、BHandLYP、BMK、M06、 M06HF、M062X、tHCTHhyb、HSEh1PBE、HSE2PBE、HSEHPBE、PBEh1PBE、wB97XD、 wB97X、TPSSH、X3LYP、LC-wPBE、CAM-B3LYP)を各々用いた DFT および TD DFT 計算を行った。 【結果】 各々の汎関数を用いて計算し吸光エネルギー値を比較した結果、O3LYP が最も実験結果に 近く、次に TPSSH が近かった。図 3 に実験値、B3LYP、O3LYP、のオルト置換体と 5-置 換体のハメットのσπに対する吸光・発光のエネルギー値を示した。このとき各置換体に対す る、ハメットのσπの値に対して吸光・発光のエネルギーをプロットすると、オルト置換体で は電子供与性であるほど発光のエネルギーは減少するが、5-置換体では電子供与性であるほ ど吸光のエネルギーは増加し、発光のエネルギーは減少するという、全く逆の傾向になって いる。 図 3 のように計算されたすべての分子についての吸光とオルト置換体での発光では実験結 果から予想されるそれと合致している。5-置換体の発光では実験結果は発光のエネルギー値 がハメットのσπの値に対し負の相関を持っていることが期待されるが、計算結果では負の相 関を持つものは見つからなかった。 今後は各分子の基底状態、励起状態についてケト型、エノール型の TD O3LYP/6-31G**、 TD TPSSH/6-31G**レベルでの構造最適化計算および振動数計算を行って、負の相関が得ら れないか検討していく予定である。 (a) (b) (c) 図3 (d) 実験値と B3LYP/6-31G**、O3LYP/6-31G**レベルでの(a)オルト置換体のハメッ トのσπに対する吸光エネルギー値(b)5-置換体のハメットのσπに対する吸光エネル ギー値、B3LYP/6-31G**、O3LYP/6-31G**レベルでの(c)オルト置換体のハメッ トのσπに対する発光エネルギー値(d)5-置換体のハメットのσπに対する発光エネル ギー値 参考文献 [1] S. Nagaoka, U. Nagashima, Chem. Phys., 136, 153 (1989) [2] S. Nagaoka, H. Teramae, U. Nagashima, Bull. Chem. Soc. Jpn., 82 , 5 (2009) [3] H. Teramae, S. Nagaoka, U. Nagashima, Intern. J. Chem. Model , 4 , 269 (2012)
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