SI 型実験住宅における壁構成要素の構造性能評価

SI 型実験住宅における壁構成要素の構造性能評価
建築材料学講座
B03C013 小瀬川 俊
荷を3サイクル繰り返し,最終回は構造上決定的な破壊
が生じるか,油圧ジャッキのストロークが限界に達する
まで加力した後,変位を0まで戻して実験終了とした。
ここでの見かけのせん断変形角とは(1)式によって求めた
値である。
θ = (δ − δ ) / H …(1)
ここで,
δH1:変位計H1 の水平変位
δH2:変位計H2 の水平変位
H:H1 と H2 の距離
H2
3. 結果及び考察
各試験体の荷重−見かけの変形角の包絡曲線を図 2 に
示す。
25
C0(軸組み)
20
C0-1
C0-2
C0-3
10
0.02
0.04
Evaluation of the structure performance of the composition
element of a wall.
C2(発砲プラスチック保温板120mm)
C2-1
C2-2
C2-3
15
荷重(kN)
荷重(kN)
0
0.00
0.14
10
0.02
0.04
0.06
0.08
見かけの変形角(rad)
0.10
0.12
0.14
25
C2'(発砲プラスチック保温板60mm)
20
C2'-1
C2'-2
C2'-3
15
10
5
0
0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
見かけの変形角(rad)
25
0.12
0
0.14
C3-1
C3-2
C3-3
20
15
10
5
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
見かけの変形角(rad)
25
C3(通気シート)
0.12
0.14
C4(リブ付ラス)
C4-1
C4-2
C4-3
20
荷重(kN)
実験装置と試験体の設置概要を図 1 に示す。実験は,
柱頭と柱脚にホールダウン金物を設置し,土台と梁を緊
結した無載荷式の水平面内せん断実験により実施した。
試験体は鋼製のフレームに土台を固定して,油圧ジャッ
キにより梁端部を加力するものとした。加力スケジュー
ルは C0 から C4 までは,見かけのせん断変形角 1/300,
1/150,1/100,1/60,1/40,1/30,の全 6 段階で,C5 はモ
ルタルのクラックを考慮し 1/450,1/200 を加えた全 8 段
階で漸次増大させた。段階ごとに正負繰り返しの交番載
0.12
5
荷重(kN)
3体
3体
3体
3体
3体
3体
0.06
0.08
0.1
見かけの変形角(rad)
20
15
10
5
0
0
0
荷重(kN)
一間
一間
一間
一間
一間
一間
3体
10
5
0
25
一間
C1-1
C1-2
C1-3
15
0
スパン 試験体数
C1(構造用合板)
20
荷重(kN)
15
25
5
表 1 試験体仕様表
試験体の仕様
壁軸組み(柱:120mm角、 梁:120×240mm、 間柱:120×45@455mm、 土台:120mm角)
C0+構造用合板(カラマツ12mm)(真壁仕様)
C0+発泡プラスチック保温板(120mm)充填 気密テープ押さえ
C0+発泡プラスチック保温板(60mm)充填 気密テープ・角材押さえ
C0+通気シート
C0+リブ付ラス
C3+ラスモルタル
H1
図 1 実験装置概略
荷重(kN)
壁面内せん断実験 壁倍率 初期剛性 靭性
1. はじめに
スケルトン−インフィル(以下 SI とする)型実験住宅の
インフィル部分の自由度を確保するためには,スケルト
ン部分をできるだけ開放的に構成することが望ましい。
本学に建設された SI 型実験住宅においては,昨年度実施
された実験により柱・梁の軸組みと限られた耐力壁によ
り必要な耐震性を確保できていることが確認されたが,
それ以外の壁の構成要素により,大幅に耐震性が向上し
ていることが明らかとなった。このことから,壁倍率評
価されている構造用合板以外にも,SI 型実験住宅に使用
されている壁の構成要素の中に耐力壁となり得る性能を
有するものがあるのではないかと考えられる。
本研究では, SI 型実験住宅に使用された壁のそれぞれ
の壁構成要素について壁面内せん断実験を実施し,構造
用合板以外の耐力要素がどの程度の耐震性を寄与してい
るかを実験的に検証し,SI 型実験住宅の構造解析のため
の基礎データとするとともに,それらの壁構成要素の耐
力壁としての可能性を検討した。
2. 壁面内せん断実験
建設された秋田スギと自然エネルギー活用実験住宅で
の仕様に従い,軸組みに付加された壁構成要素それぞれ
について面内せん断実験(無載荷式)を実施し,その構造特
性を評価した。
2.1 試験体及び実験方法
試験体のタイプを表 1 に示す。C0 は図 1 に示されるよ
うに軸組み(柱・土台:120mm 角,梁 120×240mm)に間柱
を付加したものである。C1∼C5 までの試験体は,表 1 に
示したそれぞれの壁の構成要素を C0 に付加したものであ
る。試験体は 7 タイプあり,1 タイプにつき 3 体,合計
21 体の試験体を作製した。
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
見かけの変形角(rad)
0.12
0.14
25
C5(ラスモルタル)
20
C5-1
C5-2
C5-3
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
見かけの変形角(rad)
0.12
0.14
15
10
5
0
0.00
0.02
0.04
0.06
0.08
見かけの変形角(rad)
0.10
0.12
0.14
図 2 荷重−見かけの変形角包絡曲線
KOSEGAWA Shun
実験結果について,枠組み壁工法建築構造物構造計算
指針に従った完全弾塑性モデル化を行い,降伏耐力Py,降
伏変位δy,終局耐力Pu,終局変位δu,剛性K,塑性率及
び構造特性係数Dsを算定した。壁倍率の評価は,(2)式に
よって行った。
壁倍率=P0×(α)×(1/1.96)×(1/L)…(2)
ここで,
P0:実験により求められた短期基準せん断耐力(kN)
1.96:壁倍率=1 を算定する数値(kN)
L:試験体の長さ(m)
α:考えられる耐力低減の要因を評価する係数
以下の結果を表 2 に示す。
試験体 C0,C2,C2’,C3 は,剛性・耐力は低いものの,
最大変形まで耐力が緩やかに上昇を続け,高い変形性能
を示した。
試験体 C1 は剛性・耐力共に高く,最終回において耐力
が低下したが,脆性的な破壊は生じなかった。耐力低下
の原因は写真 1 に示すように構造用合板が面外に浮き上
がったためと考えられる。今回の結果では,建築基準法
施行令で与えられている 2.5 倍の壁倍率に達していないが,
試験体 3 体のうち 1 体に材料の不良品,1 体に施工上の問
題が見られたためと考えられる。
試験体 C4 はやや高い耐力を示したが,柱に打ち付けた
ステップル周辺のリブラスが破断することにより耐力が
低下した。
試験体 C5 は非常に高い初期剛性を示し,C1の構造用
合板に迫る耐力が得られたが,変形角が 1/40rad 時に達し
た辺りから写真2に示すようにステップルが抜けるかあ
るいは破断され,ラスモルタルが面外に浮くことにより
耐力が低下した。その後もモルタルにはクラックは発生
せず,軸組みとの分離が進んだ。モルタルにはクラック
が生じていなかったため,ラスモルタルの留め方を考慮
することにより,耐力や靭性の向上が図られると考えら
れる。
試験体 C1 と C5 の包絡曲線を比べると,表2にも示す
ように初期剛性は試験体 C5 の方が高いことが分かる。ま
た,C1 は緩やかに破壊が進み,塑性域での変形によるエ
ネルギー吸収が高いことが分かる。一方,C5 は塑性域が
短く,破壊が脆性的である。
軸組みに発砲プラスチック保温板を付加した試験体 C2,
C2’は C1,C5 に比べると初期剛性は低く,終局耐力も低
い。しかし,包絡曲線が塑性域に入り一度傾きが水平に
なった後,また傾きが増え耐力が上がるという結果を示
した。このことより,発砲プラスチック保温板は,建物
が塑性域に入ってから剛性を増加させ,大変形時に効果
が得られるものと考えられる。
4.まとめ
今回の実験の結果では,ラスモルタルは 7 タイプの試
秋田県立大学 システム科学技術学部
建築環境システム学科 建築材料学講座
験体の中で最も初期剛性が高く SI 型実験住宅の剛性の向
上に大きく寄与していると考えられる。しかしながら,
塑性域が小さく壁倍率としての評価は構造用合板に劣る
ものとなった。また,現状のラスモルタルの破壊状況で
は大変形時には建物からラスモルタルが剥離する可能性
があるため,周囲への危険性なども考えられる。
試験体 C0,C2,C2’,C3 は建物の大変形時にある程度
の耐力を維持し,倒壊の危険を回避する可能性があると
考えられる。
5.今後の展望
今後,今回実施した壁面内せん断実験に加え,床の面
内せん断実験,軸組みの門型架構水平加力実験の結果を
用いて本学に建設された SI 型実験住宅の構造解析を行う。
構造解析の結果を昨年度実施した SI 型実験住宅の静的
加力実験の結果と照らし合わせ,検討・考察を行う予定
である。
写真 1 試験体 C1 の構造用合板
写真2 試験体 C5 のラスモルタル
の浮き上がり
の浮き上がり
表 2 壁の構造特性
Pmax
試験体名
(kN)
C0-1
2.60
C0-2
2.85
C0-3
3.30
C0-Ave
2.92
C1-1
23.65
C1-2
20.60
C1-3
22.90
C1-Ave
22.38
C2-1
5.50
C2-2
4.95
C2-3
6.45
C2-Ave
5.63
C2'-1
4.60
C2'-2
5.00
C2'-3
4.50
C2'-Ave
4.70
C3-1
6.65
C3-2
6.60
C3-3
6.60
C3-Ave
6.62
C4-1
9.30
C4-2
9.05
C4-3
8.85
C4-Ave
9.07
C5-1
21.10
C5-2
19.70
C5-3
21.65
C5-Ave
20.82
Pu
(kN)
2.23
2.57
2.67
2.49
22.36
18.80
20.90
20.69
5.39
3.91
4.76
4.69
3.58
3.55
3.22
3.45
5.74
5.66
5.63
5.68
8.33
7.96
7.56
7.95
19.32
17.89
19.65
18.95
δy
(rad)
0.0320
0.0310
0.0280
0.0303
0.0060
0.0078
0.0095
0.0078
0.0125
0.0100
0.0250
0.0158
0.0250
0.0180
0.0165
0.0198
0.0285
0.0335
0.0280
0.0300
0.0185
0.0200
0.0150
0.0178
0.0034
0.0041
0.0037
0.0037
δu
(rad)
0.0903
0.0995
0.1144
0.1014
0.0719
0.0611
0.0744
0.0691
0.0903
0.0995
0.1144
0.1014
0.1171
0.1110
0.1171
0.1151
0.1137
0.1189
0.1198
0.1175
0.0942
0.1228
0.1017
0.1062
0.0260
0.0258
0.0278
0.0265
δv
(rad)
0.0529
0.0577
0.0505
0.0537
0.0110
0.0137
0.0159
0.0135
0.0306
0.0197
0.0461
0.0321
0.0487
0.0320
0.0295
0.0367
0.0457
0.0561
0.0464
0.0494
0.0308
0.0312
0.0222
0.0281
0.0058
0.0066
0.0066
0.0063
μ
1.71
1.72
2.27
1.90
6.54
4.46
4.68
5.23
2.95
5.05
2.48
3.49
2.40
3.47
3.97
3.28
2.49
2.12
2.58
2.40
3.06
3.94
4.58
3.86
4.48
3.91
4.21
4.20
K
(kN/rad)
42.16
44.52
52.86
46.51
2041.67
1371.79
1315.79
1576.42
176.00
198.00
103.20
159.07
73.50
111.11
109.09
97.90
125.61
100.90
121.43
115.98
270.27
255.00
340.00
288.42
3323.53
2707.32
2989.13
3006.66
Ds 壁倍率
0.64
0.64
0.53
0.60
0.29
0.36
0.35
0.33
0.45
0.33
0.50
0.43
0.51
0.41
0.58
0.50
0.50
0.56
0.49
0.52
0.44
0.38
0.35
0.39
0.35
0.38
0.37
0.37
0.06
0.14
0.12
0.11
2.22
1.92
2.09
2.08
0.34
0.34
0.33
0.34
0.23
0.30
0.20
0.24
0.30
0.23
0.29
0.27
0.66
0.63
0.71
0.67
1.98
1.96
1.95
1.96
【参考文献】
・
平井卓郎・宮澤健二・小松幸平 共著/木質構造/東洋書店/2004.3
・
日本建築学会/木質構造の新しい耐震設計の考え方(2001)/2001.11
Faculty of Systems Science and Technology Akita Pref. Univ.
Department of Architecture and Environment Systems. Building materials Lab.