琵琶湖湖辺域における湖岸保全施設によらない湖岸管理の 実現可能性

リバーフロント研究所報告 第18号 2007 年 9 月
琵琶湖湖辺域における湖岸保全施設によらない湖岸管理の
実現可能性に関する一考察
A study on feasibility of Lake Biwa shore management not dependent on shore-based
conservation facilities
研究第一部 主任研究員 瀧 健太郎
研究第一部 次 長 児玉 好史
研究第一部 主任研究員 都築 隆禎
㈱ 建 設 技 術 研 究 所 伊藤 禎和
い で あ 株 式 会 社 加藤 陽平
琵琶湖では平成4年頃から湖岸の侵食災害が頻発するようになり、滋賀県では面的防護(突堤、養浜、緩傾
斜護岸の3点セット)を基本とした湖岸保全施設を整備してきた。しかし、湖岸保全対策が実施された箇所で
は侵食を防ぐ効果はある一方で、汀線が鋸状に安定することによる景観の悪化や生態系への影響が懸念される
ようになり、湖岸保全施設によらない湖岸管理が望まれている。これまで、湖岸形状に変化を与える要因とし
て、琵琶湖の水位変動パターンや河川からの供給土砂量の変化などが指摘されてきたが、これらが具体的にど
れ程の影響を及ぼすのか明確にされていなかった。
そこで本研究では、山地から河川、湖岸域(流砂系から漂砂系)に至るまでの一連の土砂移動を追跡できる
数値解析モデルを構築し、各要因が湖岸形状に与える影響を定量的に評価することを試みた。さらに構築した
数値解析モデルを用いて、湖岸保全施設によらない湖岸管理の可能性を探り、①流入河川河口部の堆積土砂を
バイパスし沿岸漂砂として供給すること、②琵琶湖水位をB.S.L.+0.3m以下で管理することができれば、湖岸
保全施設なしでも動的平衡状態あるいは堆積傾向とすることが可能であることが確認できた。
キーワード:湖岸侵食、汀線、水位変動、供給土砂量、流砂系、漂砂系、動的平衡状態
Rapid shore erosion of Lake Biwa began to occur frequently around 1992, and the Shiga Prefectural
Government has been working on the development of lakeshore conservation facilities designed basically for
integrated shore protection (a combination of jetties, beach nourishment and gentle-slope revetments). However,
although lakeshore conservation measures are effective in preventing erosion only in the areas where they have
been implemented, there is concern about landscape degradation and adverse effects on the ecosystem caused
when the shoreline is stabilized in a saw-toothed shape. There is a need, therefore, for lakeshore management
that does not depend on lakeshore conservation facilities. It has been pointed out that patterns of water level
changes and changes in sediment supply from rivers are factors causing changes in Lake Biwa's shore
configuration, the degree to which these factors affect lakeshore configuration has not yet been elucidated.
In this study, a numerical analysis model capable of keeping track of the sediment transport process from
mountains to rivers and lakeshore areas (from a sediment flow system to a littoral drift system) was developed to
quantitatively evaluate the effect of each factor on lakeshore configuration. The newly developed numerical
analysis model was also used to explore possibilities of lakeshore management that is not dependent on lakeshore
conservation facilities. As a result, it was found that a dynamic equilibrium state or a deposition tendency
achieved by (1) supplying the sediment deposited at the mouths of tributary rivers by bypassing it in the form of
littoral drift and (2) keeping the water level of Lake Biwa at or below BSL+0.3m (BSL=Biwako Surface Level:
reference water level of Lake Biwa).
Key words : lakeshore erosion, shoreline, water level fluctuation, the rate of sediment supply, sediment
flow system, littoral drift system, the state of dynamic equilibrium
- 137 -
「自然をいかした川づくり」に関する研究報告
1.はじめに ~研究の背景~
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
汀線変化量(km2)
琵琶湖では平成4年頃から湖岸の侵食災害が頻発す
るようになり、滋賀県では面的防護(突堤、養浜、緩
傾斜護岸の3点セット)を基本とした湖岸保全施設の
整備による対策を講じてきた。しかし、湖岸保全施設
は侵食を防ぐ効果がある一方で、汀線を鋸状に安定さ
せるため、景観の悪化が指摘されている。さらに最近
人工造成
汀線前進
汀線後退
S57~H3
では、湖岸保全施設により砂の動きが制限されること
H3~H15
図- 2 琵琶湖北湖の汀線変化量
で、砂浜が撹乱されにくくなり、陸域性の植生が波打
(2)流入河川の河口周辺での傾向
ち際近くまで進出したとの指摘もある。
これまで、湖岸形状を変化させる要因として、琵琶
大きな汀線後退が河口掘削を実施した箇所周辺で多
湖の水位変動、流入河川からの供給土砂量の変化、湖
く見られる(図-1赤破線)。例えば、平成 2 年以降に
岸構造物による影響などが指摘されてきたが、これら
河道掘削をした日野川(写真-1)や犬上川の河口周
が具体的にどれ程の影響を及ぼすのか明確にされてこ
辺では、平成 3 年以降に大きく汀線が後退している。
なかった。
そこで本研究では、まず、水位変動パターンや供給
土砂量の変化、湖岸保全施設の有無などによる湖岸形
状の応答を再現できる数値解析モデルを構築し、湖岸
侵食の要因を定量的に把握することを試みる。さらに
その結果を踏まえ、湖岸保全施設による対症療法的な
日野川河口(昭和 59 年)
湖岸管理に変わり、湖岸保全施設によらない湖岸管理
の可能性を探る。以下にその概要を報告する。
2.琵琶湖湖岸の現状
2-1 湖岸形状の変遷
琵琶湖北湖における昭和 59 年から平成 15 年までの
汀線変化の状況を次頁図-1に示す。これは、昭和
日野川河口(平成3年)
59 年から平成 3 年までの 8 年間と平成 3 年から平成 15
:昭和 59 年
:平成 03 年
:平成 15 年
年までの 13 年間の汀線変化を航空写真から 100 mピッ
チで汀線の前進後退を判読し整理したものである。な
お、過去の航空写真のうち、昭和 59 年のものがカラー
で比較的鮮明であること、平成 15 年の写真が最新で
あることから、この間の変遷を比較することとした。
日野川河口(平成 15 年)
また、現行の琵琶湖水位管理の影響を把握するため、
写真- 1 日野川河口周辺での汀線変化
水位操作規則の運用開始時期に最も近い年代で航空写
真が存在する平成 3 年を中間年とした。さらに、沿岸 (3)湖岸保全施設周辺での傾向
漂砂の卓越方向、平成 3 年及び平成 15 年当時の河川改
図-1(次頁)で平成 3 年以降の宇曽川河口周辺の
修に伴う河口掘削の有無、湖岸状況(人工湖岸・ヨシ
汀線変化を見ると、湖岸保全施設(突堤及び養浜)が
帯等の区分)、湖岸保全施設の有無なども合わせて、 整備された箇所では、沿岸漂砂の方向から見て、施設
の下手側で汀線が後退し、施設の上手側で汀線が前進
図-1に示す。
しており、鋸型の地形となっていることが分かる。
(1)全体的な傾向
ここで図-1を作成したデータを用いて、汀線の
ここまでに、湖岸保全施設(突堤・養浜等)は、全
前進量と後退量を北湖全体で合計してみる(図-2)。 体としてはやや堆積傾向に転じさせたものの、不自然
ここから、北湖全体としては、平成 3 年以前は侵食傾
な鋸型の汀線形状を作り出していること、河口掘削に
向にあるが、平成 3 年以降はやや堆積傾向に転じてい
伴い大規模な侵食が生じやすいことが分かった。
ることが分かる。
- 138 -
リバーフロント研究所報告 第 18 号 2007 年 9 月
汀線変化 S59~H3
野
洲
川
南
流
80
60
野
洲
川
南
流
幸 野 江
津 洲 川
川 川
野
洲
川
北
流
廃 廃
川 川
家
棟
川
日
野
川
大 白八長
惣 鳥幡命
川 川川寺
川
大
同
川
①S59~H3は全体的に侵食傾
向(赤が多い)。H3~H15は全体
的に堆積傾向(青が多い)。
廃
川
40
愛
知
川
不
飲
川
室
戸
川
文
録
川
宇安
曾食
川川
江
面
川
犬 野平芦
上 瀬田川
川 川川
矢
倉
川
十
一
川
天
野
川
姉
川
余
呉
川
20
0
1
11
21
31
41
51
61
71
81
91
101
111
121
131
141
151
161
171
181
191
201
211
221
231
241
251
261
-20
-40
②河川改修が進んだ日野川など
では河口周辺で大きく侵食。
-60
-80
野洲川南流
野洲川北流
日野川
長命寺川
愛知川
犬上川
芹川
天野川
姉川左岸
姉川右岸
-100
昭和59年から平成3年の汀線変化量(北湖東岸)
(m)
100
汀線変化 H3~H15
琵琶湖北湖東岸
(m)
100
野
洲
川
南
流
80
60
野
洲
川
南
流
野
洲
川
北
流
幸 野 江
津 洲 川
川 川
廃 廃
川 川
家
棟
川
大 白八長
惣 鳥幡命
川 川川寺
川
日
野
川
大
同
川
愛
知
川
不
飲
川
20
0
11
21
31
41
51
文
録
川
宇安
曾食
川川
江
面
川
犬 野平芦
上 瀬田川
川 川川
矢
倉
川
天
野
川
長 十
浜 一
新 川
川
③湖岸保全施設が整備された箇
所では、施設の周辺で鋸型の地
形が発生。
廃
川
40
1
室
戸
川
61
71
81
91
101
111
2
131
121
141
151
161
171
181
191
201
211
姉
川
221
231
余
呉
川
241
251
261
-20
-40
-60
-80
野洲南流
野洲川北流
-100
日野川
長命寺川
愛知川
犬上川
-181m,-147m
芹川
天野川
姉川左岸
姉川右岸
-282m(河口掘削)
平成3年から平成15年の汀線変化量(北湖東岸)
<琵琶湖北湖西岸汀線変化量>
汀線変化 S59~H3
中
ノ
川
知 生 百 新堺
内 来 瀬 保川
川 川川川
今
津
川
石
田
川
80
庄 波
界 布
川 谷
川
今
林田
川
照井
寺川
川
針
江
大
川
南
川
神
奈
川
安
曇
川
北
流
安
曇
川
南
流
金
丸
川
青
井
川
鴨
川
鯰
川
鵜
川
和小 瀬
田田 戸
打川 川
川
北
川
滝
川
大 家
堂 棟
川 川
比
良
川
大
谷
川
大木
川戸
川
野
離
子
川
八
屋
戸
川
天 鎌 喜
川 田 撰
川 川
和
週
川
新
丹
出
川
真
野
川
60
40
20
写真無
0
333
338
343
349
353
358
363
368
373
378
383
388
393
398
403
408
413
418
423
429
433
438
443
448
453
458
463
468
473
478
484
488
493
498
503
508
513
518
523
528
533
-20
-40
-60
-80
百瀬川
石田川
安曇川右岸
安曇川左岸
鴨川
鵜川
比良川
滝川
和邇川
大谷川
真野川
-100
昭和59年から平成3年の汀線変化量(北湖西岸)
(m)
100
汀線変化 H3~H15
琵琶湖北湖西岸
(m)
100
中
ノ
川
知生
百新 堺
内来
瀬保 川
川川
川川
石
田
川
今
津
川
80
庄 波
界 布
川 谷
川
針
江
大
川
今林田
川照井
寺川
川
南
川
神
奈
川
安
曇
川
北
流
安
曇
川
南
流
金
丸
川
青
井
川
鴨
川
鯰
川
和小 瀬
田田 戸
打川 川
川
鵜
川
北
川
滝
川
大 家
堂 棟
川 川
比
良
川
大
谷
川
大木
川戸
川
野
離
子
川
八
屋
戸
川
天 鎌 喜
川 田 撰
川 川
和
週
川
新
丹
出
川
真
野
川
60
40
20
0
333
338
343
349
353
358
363
368
373
378
383
388
393
398
403
408
413
418
423
429
433
438
443
448
453
458
463
468
473
478
484
488
493
498
503
508
513
518
523
528
533
-20
-40
-60
-80
百瀬川
石田川
安曇川左岸
安曇川右岸
鴨川
鵜川
滝川
比良川
大谷川
和邇川
真野川
-100
平成3年から平成15年の汀線変化量(北湖西岸)
※ 昭和59年から平成3年までの8年間と平成3年から平成15年までの13年間の汀線の変化を航空写真から判読した。
過去の航空写真のうち,昭和59年の写真がカラーで比較的鮮明であることと,平成15年の写真が最新であることから汀線の比較にはこれらを使用した。
また,現行の琵琶湖水位管理の影響を把握するため,水位操作規則の運用開始時期に最も近い年代で航空写真が存在する平成3年を中間年とした。
:汀線前進
:汀線後退
:人工湖岸
:砂浜保全・再生実施箇所
:ヨシ原保全・再生実施箇所
:河口部掘削
:河口部掘削なし
:植生帯湖岸
:湖岸保全対策箇所
:漂砂の流れ
:漂砂系
図- 1 琵琶湖(北湖)汀線の変遷
- 139 -
リバーフロント研究所報告 第18号 2007 年 9 月
2-2 琵琶湖水位と湖岸侵食の関係
らの供給土砂量、琵琶湖水位、河口形状などから、河
前節で、平成 3 年から平成 15 年では北湖が全体的に
口砂州の形状変化と琵琶湖への土砂到達量、すなわち
堆積傾向であると示されたが、しかし一方で平成 4 年
沿岸漂砂の供給量を評価する。最後に、湖岸域モデル
以降、侵食災害(局所的な侵食が短時間に進行するケー
は、湖岸保全施設の有無、琵琶湖水位、沿岸漂砂量が
ス)が急増している。また、侵食災害の多くは、一年
湖岸形状に与える影響を評価する。そして、上流側か
のうちで琵琶湖水位が比較的高い 3 月から 5 月に集中
ら下流側のモデルに粒径ごとの土砂フラックスを受け
している(図-3)。
渡すことにより、流砂系から漂砂系までを統合的に評
ここで、平成 3 年から 12 までのデータを用いて、琵
価する。今回は紙面の都合上、湖岸域モデルの概要と
琶湖水位と彦根地方気象台の時間平均風速(日最大値) 評価結果についてのみ詳述することとする。
の分布図を作成し、さらに侵食災害が発生した日の
①山地~河道域モデル
データを黄色に着色し、
発生傾向を確認した
(図-4)
。
②河口域モデル
図-6から、琵琶湖水位がB.S.L.(琵琶湖基準水位)
③湖岸域モデル
+0.3mを超えるか、時間平均風速が 10m/sを超える場
侵食災害発生箇所数
合に、侵食災害が集中していることが分かる。
4
平成4年以降
平成3年以前
3
2
3
1
1
2
0
0
図- 5 解析モデルの適用範囲
0
1
1
0
0
1
1
0
0
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
図- 3 侵食災害の発生傾向
(1)モデルの概要
湖岸域モデルは、混合粒径を考慮した等深線変化モ
㪈㪌㪇
ℚℛḓᣣᐔဋ᳓૏䋨㪙㪅㪪㪅㪣㪅㪺㫄䋩
3-2 湖岸域モデル
デルを採用した。これは、芹沢ら 1)により提案された
䂥䋺ଚ㘩ἴኂ⊒↢ᣣ
㪈㪇㪇
海浜横断形の安定化機構を導入し、岸沖方向の漂砂の
㪌㪇
移動を考慮している。また、熊田ら 2)による粒度組成
㪇
に応じた平衡勾配の概念を適用し、混合粒径での再現
計算を可能としている。
㪄㪌㪇
以下に本モデルの基礎式を示す。
㪄㪈㪇㪇
㪄㪈㪌㪇
㪇
㪉
㪋
㪍
㪏
㪈㪇
㪈㪉
㪈㪋
㪈㪍
q x   z ( z )  K x  ( EC g ) b cos  b sin  b
䋨ᣣᦨᄢ䋩ᤨ㑆ᐔဋ㘑ㅦ㩷䋨㫄㪆㫊䋩
 cot 

 1
qz   z ( z )  K z  ( EC g ) b cos 2  b sin  c  
 cot  c

図- 4 侵食災害の発生条件(琵琶湖水位と風速)
3.湖岸侵食解析モデルの構築
ここに、
3-1 モデルの概要
qx:沿岸漂砂量(m3/s)、qz:岸沖漂砂量(m3/s)
ここで、湖岸保全施設の有無、河口掘削、琵琶湖水
位などが湖岸形状に影響を与えている影響を定量的に
評価するため、野洲川流域の流砂-漂砂系を対象に、
数値解析モデルを構築した。
εz(z):漂砂量の水深方向分布
Kx およびKz:漂砂量係数(m/N)
(ECg)b:波エネルギー逸散量(N・m2/s)
αb:等深線に対する波向角(rad)
このモデルは、山地~河道域、河口域、湖岸域の3
βc:安定勾配角(rad)、β:断面勾配(rad)
モデルで構成している。まず、山地~河道域モデルは、 (2)計算条件
山林の荒廃の程度、ダムや砂防堰堤などの横断工作物、
今回は、旧野洲川北流河口部周辺(図-6)での解
河川改修、アーマーコート等が河川の流下土砂量に与
析結果について紹介する。詳しい計算条件を表-1に
える影響を評価する。次に、河口域モデルは、上流か
示しておく。なお、この箇所では、平成 4 年以降に湖
- 141 -
「自然をいかした川づくり」に関する研究報告
4.解析モデルによる湖岸保全施設の影響評価
4 -1 計算条件
構築した湖岸域モデルを用いて、突堤などの湖岸保
全施設の有無が湖岸形状に与える影響を予測した。計
算期間は、実測地形がある平成 4 年から平成 24 年まで
NO.60
NO.40
NO.80
の 20 年間とした。琵琶湖水位、供給土砂量、波浪な
NO.100
どの計算条件を表-2に示す。なお、表中の春夏秋冬
NO.20
NO.120
NO.10
は、それぞれ 4 - 6 月、7 - 9 月、10 - 12 月、1 - 3 月
としている。
NO.133
図- 6 計算範囲(旧野洲川北流河口部周辺)
また、琵琶湖の水位変動パターンが湖岸形状に与え
る長期的な影響を確認するため、図-8に示すような
表- 1 計算条件(旧野洲川北流河口部周辺)
項
目
解析対象範囲
解析サイズ
初期地形
計算期間
入射波の条件
粒径・平衡勾配
河口流出土砂量
浚渫・投入土砂量
構造物
3つの水位変動パターンを作成し計算を実行した(計
計算条件(初期値等)
沿岸方向
L=3.0km
岸沖方向
L=約 500m
ΔX:20mピッチ、ΔZ:0.5m、
平成4年深浅測量より作成
平成 3 年~平成 15 年の 12 カ年
琵琶湖湖心の風向・風速観測地をもとに有義波法により季節別の
エネルギー平均波高を設定
季節
月
波高 Hb(m)
周期T(sec)
冬季
1~3
0.26
1.52
春季
4~6
0.18
夏季
7~9
0.19
秋季
10~12
0.25
平成6年底質材料調査(滋賀県河港課資料)
なし
工法
設置場所
延長(m)
養浜
No.85~No.107
452
養浜
No.44~No.51
146
導流堤
No.10
15
導流堤
No.35
70
突堤
9基
-
護岸
No.7~No.41
606
護岸
No.51~No.61
194
護岸
No.131~No.134
60
1.23
1.21
1.37
算上は、ひとつの水位変動パターンを計算期間中繰り
返し与える。)。以下にケース毎の考え方を示す。
ケース① 水位操作規則制定以前の平均的な水位変
動。昭和 57 年から平成 3 年までの琵琶湖平均日水位の
同日平均をとったパターン。
ケース② 水位操作規則制定以後の平均的な水位変
動。平成 4 年から平成 16 年までの同日平均をとったパ
ターン。ただし、他の年と比べて大きく傾向の異なる
実施年度
1994 年 8 月
1999 年 10 月
-
-
-
-
-
-
平成 7 年、8 年及び 12 年は除外した。
ケース③ コイ科魚類の産卵及び稚仔魚の成育に配慮
した運用操作開始後の平均的な水位変動。運用開始後
の平成 17 年と平成 18 年の琵琶湖平均日水位の同日平
均をとったパターン。
表- 2 等深線変化モデルの計算条件
岸侵食が深刻化し、河川管理者(滋賀県)により湖岸
保全施設が整備されている。
(3)再現性の確認
構築したモデルを用いて、平成 3 年から平成 15 年ま
での湖岸形状の変化量を計算した。再現性を確認する
波浪
波向
比較することとした。航空写真は平成 6 年、12 年、15
初期地形
年のものが存在するため、
この3つの年度で比較した。
計算期間
その結果、部分的に再現できない箇所もあったが、
の再現性を確認することができた。比較結果のうち、
平成 15 年のデータを図-7に示す。
計算
No.1
No.11
No.21
No.31
No.41
No.51
No.61
No.71
No.81
No.91
No.1 0 1
No.1 1 1
No.1 2 1
No.1 3 1
No.1 4 1
No.1 5 1
変 化 量 (m)
実測
琵琶湖水位(B.S.L.cm)
侵食・堆積の傾向については、十分把握できるレベル
図- 7 再現結果(H3 - H15, 等深線 B.S.L.+0.0m)
- 142 -
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
ケース②
H4-16 平均
0.0m3/ 年
ケース③
H17-18 平均
四季別平均(m)
春:0.18,夏:0.19,秋:0.25,冬:0.26
四季別卓越方向(N°E)
春:320.4、夏:326.2、秋:326.8、冬:322.8
平成 4 年実測地形(深浅測量)
(湖岸保全施設が設置される前の地形)
20 年間(平成 4 年から平成 24 年まで)
波高
ため、航空写真から実測した汀線変化量と計算値とを
75
50
25
0
-25
-50
ケース①
S57-H3 平均
琵琶湖水位
供給漂砂量
現行操作以後 約10~30cm上昇
現行操作以後 10~30cm低下
ケース①
ケース②
ケース③
洗堰操作規則
1
月
2
月
3
月
4
月
5
月
6
月
7
月
8
月
9
月
10
月
11
月
図- 8 数値計算で与えた水位変動パターン
12
月
リバーフロント研究所報告 第18号 2007 年 9 月
60
ケース①;S57からH3までの平均的な水位変動がくりかえされた場合
ケース②;H4からH16までの平均的な水位変動がくりかえされた場合
ケース③;H17からH18までの平均的な水位変動がくりかえされた場合
20
No.151
No.141
No.131
No.121
No.111
No.101
No.91
No.81
No.71
No.61
No.51
No.41
No.31
No.21
-40
No.11
0
-20
No.1
変動量(m)
40
旧野洲川河口
-60
湖岸施設
図- 9 湖岸保全施設がある場合の汀線変化(H14 - H24)
60
20
No.151
No.141
No.131
No.121
No.111
No.101
No.91
No.81
No.71
No.61
No.51
No.41
No.31
-40
No.21
-20
No.11
0
No.1
変動量(m)
40
旧野洲川河口
-60
図- 10 湖岸保全施設がない場合の汀線変化(H14 - H24)
4 -2 湖岸保全施設がある場合の汀線変化
砂紙面の都合上、計算結果のうち、No.61 測線におけ
湖岸保全施設がある場合の汀線変動量の計算結果を
る 1 月から 3 月の琵琶湖水位と土砂変動量の関係を図
図-9に示す。ここでは、紙面の都合上、20 年間の
- 11 に示す。このNo.61 測線は、湖岸保全施設がない
計算期間のうち、後半10年分(平成14年から24年まで) 場合に最も汀線後退が顕著と予測された箇所である。
の変動量のみ示す。解析の結果、湖岸保全施設が設置
ここから、琵琶湖水位がB.S.L.+0.3mを超えると、湖
され一旦(鋸状に)落ち着いた汀線は、その後はほと
岸侵食が一段と進行しやすくなることが確認できる。
んど変動しないと予測された。
この傾向は他の季節においても同様に見られた。また、
琵琶湖水位との関係をみると、琵琶湖水位について
滋賀県が同様の解析を愛知川河口部周辺で実施してお
は、ケース③で汀線の後退が最も少ないとの結果が得
り、ここでもほぼ同様の結果が得られている。この結
られた。ケース③は、コイ科魚類の産卵や稚仔魚の生
果は、琵琶湖水位がB.S.L.+0.3mを超えると侵食災害が
3)
育に配慮した運用 により、3月から5月の水位が最
発生しやすいとの定説を肯定するものであった。
も低く抑えられている水位変動パターンである。
表- 3 計算条件(琵琶湖水位と土砂変動量の関係)
4 -3 湖岸保全施設がない場合の汀線変化
湖岸施設
次に、湖岸保全施設がない場合の予測結果を図-
なし
B.S.L.- 1.0m → +1.0m
10 に示す。ここでも、20 年間の計算期間のうち後半
琵琶湖水位
(10cmピッチで一定値)
10 年分の変動量のみ示す。解析の結果、湖岸保全施
供給漂砂量
0.0m3/年
設がない場合は、旧野洲川北流河口部を中心に汀線が
波高・波向
四季別平均(m)・四季別卓越方向(N°E)
大きく後退し続けると予測されている。琵琶湖水位に
計算期間
3ヶ月毎(季節毎)
ついては各ケースによる差はほとんど見られなかった
線の後退がわずかに少ないとの結果が得られた。
5.湖岸保全施設によらない湖岸管理の検討
5 -1 琵琶湖水位管理
(1)琵琶湖水位と土砂変動量の関係
湖岸保全施設がない状態で、琵琶湖水位を変化させ
た場合の湖岸の侵食量(堆積量)を計算した。シミュ
1測線あたりの土砂変動量(m3/m)
が、湖岸保全施設がある場合と同様に、ケース③で汀
-20
レーションでは、季節(1 - 3 月、4 - 6 月、7 - 9 月、
10 - 12 月)別にB.S.L.- 1.0mからB.S.L.+1.0mまでの間
で 0.1mピッチに一定の水位を与え続け、3 ヶ月間の土
-18
-16
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-1.0 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2
0.4 0.6 0.8 1.0
琵琶湖水位(B.S.Lm)
図- 11 琵琶湖水位と土砂変動量(No.61 測線 ,1 ~ 3 月)
- 143 -
「自然をいかした川づくり」に関する研究報告
(2)湖岸侵食対策としての土砂管理
(2)湖岸侵食対策としての琵琶湖水位管理
4)
既往調査結果 から、琵琶湖岸の砂浜の天端高(バー
山地~河道域モデルによる解析結果では、現在、野
ム高)の平均値を求めると、湖東側、湖西側でそれぞれ、 洲川放水路の河口部に到達する流下土砂のうち、砂
B.S.L.+0.900 ±SE0.168 m、B.S.L.+0.763 ±SE0.186mと
浜 材 料 に 適 す る 粒 径(0.1 ~ 3.4mm)の も の は、 約
なっており、湖西側が 10 数cmほど低い。
9200m3/sとなっている。また、河口域モデルによる
砂浜天端高は、琵琶湖水位と波の打ちあげ高さで決
解析結果では、この流下土砂のほぼ全量が放水路河口
まることが知られている。波の打ちあげ高さは、波の
部で堆積し続けており、沿岸漂砂として湖岸に供給さ
形状(波形勾配)によっても異なるが、1/8 ~ 1/10 程
れていないとの結果が得られている。
度の斜面においては沖波波高の 0.5 ~ 4 倍程度で求め
5)
このことは、北流河口周辺に沿岸漂砂としてバイパ
られる 。年間の平均的な有義波高は湖西側では湖東
スすることができれば、湖岸保全施設無しでも、旧野
側に比べ 6cm程度低いため、波の打ちあげ高は 3cm
洲川北流河口部付近の湖岸侵食を止られる可能性を示
~ 24cm程度低くなる。ここから、湖東側に対する湖
唆している。
西側の砂浜天端高の差 20cmは、波による打ちあげ高
の差で生じたと推定できる。ただし、確実な推定では
ないため、湖西側の代表的な河川でも同様の数値解析
による検証を行うことが望ましい。
6.おわりに
これまでの琵琶湖では、次々と侵食災害が発生する
中、対症療法としての湖岸保全施設に頼らざるを得な
以上のことから、旧野洲川北流河口部周辺だけでな
い状況であった。このような中、本研究では湖岸保全
く、湖西側をも含む琵琶湖岸全体で、B.S.L.+0.3mを
施設がない状態で、堆積量と侵食量がバランスする動
閾値(湖岸侵食が急激に進み始める値)と考えられ、 的平衡状態が確保される条件を整理することができ
急激な湖岸侵食を抑えるためには、B.S.L.+0.3m以下
に琵琶湖水位を抑えておくことが望ましいと考えら
れる。この意味では、平成 17 年度以降に 3 月から 5 月
の琵琶湖水位をB.S.L.+0.1m程度に抑える運用操作は、
湖岸侵食対策としても有効と言える。
た。
本研究が、次世代の湖岸管理のあり方について考え
る一助になれば幸いである。
7.謝辞
近畿地方整備局琵琶湖河川事務所の佐久間河川環境
5 - 2 流入河川の総合的な土砂管理
課長をはじめとするスタッフの皆さまは、本研究の機
会を与えて下さり、終始力強く私たちを支えて下さい
(1)供給漂砂量と湖岸形状の関係
次に湖岸保全施設がない場合に、供給漂砂量と湖岸
形状の変化量の関係を調べた。計算条件を表-4、計
算結果を図- 12 に示す。計算の結果、およそ 4,600m3/
ました。滋賀県土木交通部河港課の皆さまは、研究に
必要な様々なデータを快く提供して下さいました。
皆さまに心から感謝いたします。
3
年のときに岸沖方向の土砂変動量の収支が± 0m /s
<参考文献>
(動的平衡状態)になると予測された。
1) 芹沢真澄・宇多高明他:海浜縦断形の安定化機構
表- 4 計算条件(供給漂砂量と湖岸形状の関係)
湖岸施設
琵琶湖水位
供給漂砂量
波高・波向
計算期間
を組み込んだ等深線変化モデル,海岸工学論文集,
なし
第 49 巻,pp496-500,2002
H4-H16 平均パターン
1,000m3/年ピッチで変化
2) 熊田貴之・小林昭男他:粒度組成の3次元変化を
四季別平均(m)・四季別卓越方向(N°E)
考慮した等深線変化モデル,海岸工学論文集,第
1年間
51 巻,pp441-445,2004
3)近畿地方整備局琵琶湖河川事務所:平成 18 年度瀬
土砂変動量(m3/m)
10
田川洗堰操作の課題と平成 19 年度操作の方針につ
5
0
いて,第9回水陸移行帯 WG 会議資料 -3.2,2007
-5
4)水資源機構:平成 16 年度琵琶湖湖岸侵食状況調査
-10
業務報告書,2005.3
-15
-20
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
供給土砂(m3/年)
5)Savage,R.P.:Laboratory Data on Wave Run-up
図- 12 供給土砂量と土砂変動量(No.61 測線 ,1 ~ 3 月)
- 144 -
on Roughed and Permeable Slopes, Proc. ASCE
Vol.84, WW3,1958.