●第 51 回日本人工臓器学会大会 論文賞(広領域)受賞レポート Effect of metal surface characteristics on the adhesion performance of the integrated low-level energies method of adhesion * 1 松江工業高等専門学校電子制御工学科,* 2 茨城大学工学部機械工学科, * 3 東京医科歯科大学生体材料工学研究所,* 4 札幌医科大学医学部心臓血管外科学講座 青代 敏行* 1,増澤 徹* 2,尾関 和秀* 2,岸田 晶夫* 3, 上 哲哉* 4 Toshiyuki AODAI, Toru MASUZAWA, Kazuhide OZEKI, Akio KISHIDA, Tetsuya HIGAMI また表面粗さ Ra は,0.06 ∼ 0.09μm であった。全試料片の はじめに 1. 表面粗さはオリンパス LEXT OLS4000 で測定した。 体内埋込み型人工臓器と生体の接続は重要な技術となっ 接合実験は,専用に開発した接合実験装置を用いた。金 ている。我々は,熱,振動,圧力の複合低エネルギを利用 属と生体組織は,2 つの試料片が重なった 1×4 mm の長方 した新しい生体組織接合を提案している 1) 。本接合方法は, 形部分で接合した。接合強度は,接合部の長手方向に対し 金属と生体組織を低損傷で接合可能であるため,ステント て垂直にせん断引張荷重を負荷し,接合部破断時荷重を接 グラフトのエンドリークや,補助人工心臓脱血管と心臓の 合面積で除して得た。 隙間から細菌が侵入する問題を改善できる。本研究は,生 体組織にブタ大動脈血管,金属にステンレスとチタンを使 3. 結 果 用し,本接合方法を用いた場合の金属表面エネルギ,表面 図 1 に表面粗さ Ra と接合強度の関係を示す。表面粗さ 粗さと接合強度の関係について検討した。また,複合低エ Ra 0.05μm 試料片の接合強度は 0.25 MPa であった。表面 ネルギ接合性能と金属表面性状の関係を明らかにした。 粗さ Ra 0.05μm と Ra 0.25μm の接合強度に顕著な差が見ら れた。表面を粗くした金属試料片の接合強度は,0.35 ∼ 実験方法 2. 0.45 MPa であった 2) 。 図 2 に表面エネルギと接合強度の関係を示す。未熱処理 金 属 試 料 片 は,20×10 mm,厚 さ 20μm の ス テ ン レ ス (SUS304) ,工業用純チタン(cpTi)とした。生体組織試料 SUS304,cpTi 試料片の接合強度は,それぞれ 0.32 MPa, 片は,20×8 mm,厚さ 0.5 ∼ 1 mm のブタ大動脈血管とし 0.16 MPa で あ っ た。 表 面 エ ネ ル ギ が 同 程 度 の 未 処 理 た。 SUS304,cpTi 試料片の接合強度に差が見られた。表面エ 表面粗さの影響を検討するため,SUS304 にサンドブラ スト処理を行い,表面を粗くした。表面粗さは算術平均粗 さ Ra として定義し,表面粗さ Ra 0.05 ∼ 0.80μm とした。 ネルギと接合強度の関係性は見られなかった 2) 。 4. 考 察 表面エネルギを変えるため,SUS304,cpTi を 500 ∼ 700℃ 複合低エネルギによる金属と生体組織の接合は,大動脈 で熱処理した。SUS304,cpTi 試料片の表面エネルギはそ 血管強度の 0.3 ∼ 0.8 MPa と同程度であり,良好な強度だっ れぞれ 41.1 ∼ 113.2 mJ/m2,39.3 ∼ 77.7 mJ/m2 であった。 本受賞レポートの対象論文は J Ar tif Organ 誌に掲載されて います。Aodai T, Masuzawa T, Ozeki K, et al. J Artif Organs 15: 386-94, 2012 た 3) 。汎用接着剤の接着強度は,接着物表面凹凸の大きさ に比例し,滑らかな表面より粗い表面の方が大きくなる。 複合低エネルギ接合においても,熱と振動によってゲル化 した生体組織内のコラーゲン繊維が金属表面凹凸に入り込 み,表面粗さ Ra 0.2μm 以上で接合性能が向上したと考え ■著者連絡先 松江工業高等専門学校電子制御工学科 (〒 690-8518 島根県松江市西生馬町 14-4) E-mail. [email protected] られる。また複合低エネルギ接合は,タンパク質変性をも とに行われるため,細胞培養の接着性質と異なり,表面エ ネルギの影響を受けなかったと考えられる。 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年 25 図 1 Relationship between sur face roughness and adhesive strength for the SUS304 specimen The dashed line shows the adhesive strength of blood vessels to each other. Reprinted from J Artif Organs 15: 386-94, 2012 with permission. 図 2 Relationship between surface energy of the metal specimen and adhesive strength The circles and squares show average adhesive strength and error bars show the standard error. Reprinted from J Artif Organs 15: 386-94, 2012 with permission. 図 3 Spectral plot of untreated and metal specimens heat treated at 500 and 700 ℃ (a)SUS304,(b)cpTi Reprinted from J Artif Organs 15: 386-94, 2012 with permission. 未熱処理 cpTi 試料片の接合強度は,同程度の表面粗さ 表面粗さ,表面エネルギの影響を評価検討した。金属表面 Ra,表面エネルギである未熱処理 SUS304 試料片より小さ を粗くすることで複合低エネルギ接合性能は改善した。金 かった。表面粗さ Ra に表れない微小な表面凹凸の形状, 属表面凹凸の大きさが接合性能に大きく影響を及ぼすこと 大きさが関係していると考えられる。そこで,レーザ顕微 を明らかにした。また金属表面エネルギは,複合低エネル 鏡で得た表面粗さ曲線のスペクトラム解析を行い,表面形 ギ接合性能に影響を及ぼさないことが明らかになった。 状について検討した。SUS304,cpTi 試料片の空間周波数 とパワースペクトル密度の関係を図 3 に示す。パワースペ クトル密度が大きいほど,表面に凹凸があることを示して いる。未処理 cpTi 試料片のパワースペクトル密度は,他試 料片よりピーク値が小さく,表面凹凸が最も小さかったこ とを示した。そのため未処理 cpTi 試料片は,他の試料片接 合強度より小さくなったと考えられる。複合低エネルギ接 合において,金属表面の凹凸形状が接合性能に大きく影響 を及ぼすことが明らかになった。 5. まとめ 本稿の全ての著者には規定された COI はない。 文 献 1) Katoh A, Masuzawa T, Ozeki K, et al: Development of tissue adhesion method using integrated low-level energies. Med Eng Phys 32: 304-11, 2010 2) Aodai T, Masuzawa T, Ozeki K, et al: Effect of metal surface characteristics on the adhesion per for mance of the integrated low-level energies method of adhesion. J Artif Organs 15: 386-94, 2012 3) Silver FH, Christiansen DL, Buntin CM: Mechanical properties of the aorta: a review. Crit Rev Biomed Eng 17: 323-58, 1989 複合低エネルギによる金属と生体組織接合に及ぼす金属 26 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年
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